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SS置場3
バイト4 L

以前のバンキャスの続き。今回バンさんは登場しません。










「・・・っト、・・・・っ!」
名前を叫びかけたキャスケットは慌てて言葉を切った
バイトに来た先の、いつもの部屋で自分を迎えたのは見慣れた相手ではなくて、でも、確かに自分の見慣れた人物だったから。
「バンがちょっとドジ踏んで、しばらく入院だ。俺はその代役。」
ご主人様とでも呼ぶか? と自分の胸を指してにやにやと笑う相手は、同じ大学の知り合いだ
(いやですよ、そんなの!)
「それじゃ、今日は俺かえ「んなの、通用するわけないだろ」・・・・・。」
ぐっと詰まったキャスケットの顔を にっと笑って見ている相手はどこまで事情を知っているのか分からないが
余裕の表情で口を開いた
「ご主人様が嫌なら"先輩"と呼べ。"先輩"だから、それなりに敬語を使えよ?」
「・・・分かり、ました」
すんなりと出てきた敬語は普段から使っているので違和感はない
そもそも大学でも先輩後輩の関係だから、源氏名(?)を先輩としてもらったのは 名前を呼び間違える恐れを
考えると有り難いといえば有り難い。
(でも!バイトの内容が問題だろ!そもそもなんで先輩がバンと知り合いなんだ)
有り難がってる場合か!ここでのバイトなんて俺がヤられてなんぼだろ?そんなバイト相手が顔見知りなんて――
無理だよ、と泣きそうな思いで佇むキャスケットの腕を"先輩"の手が掴む
「人見知りする方か? いや、緊張してるだけか・・・・バンからよろしく頼まれてるから、最初っから無茶はしねぇよ」
「それ、そのうち無茶するって宣言に聞こえるけど」
「敬語使えって」
ぼそりと呟いた独り言はしっかり先輩の耳に届いてしまったらしい
独り言にまで敬語の責任は持てないよ、と肩を竦めるキャスケットの手を引く腕の強さに従って 結局いつもどおり
部屋にあがってしまう
逆らうわけにもいかないから後をついてリビングに進むものの、同じ学校の先輩と寝るだなんてどう考えても
無理だとしか思えなくて キャスケットの足も躊躇いがちになる
「いきなり押し倒したりなんてしないから そう警戒するな。別に必ずヤんなきゃ駄目って決まりもないんだろう?」
・・・確かに そうだ。
でも、毎回なんにもしないなんて商売的にも許されるはずがないのも、重々知っている
「バンって、どれくらいこれないの?」
「さぁ? 1ヶ月か2週間か。治りの早さなんか個人差だろ」
滑らかな動作でキャスケットに座るようすすめて、ソファに腰を落ち着けたのを見定めてから、
先輩はアルコールの並ぶ棚へと足を向ける
「手っとり早く親しくなるには丁度いいだろ」
適当に見繕って持ってきたらしい酒を注いだグラスを差し出された
「アルコールが2人の親密度を上げてくれるかもしれない。気分が良ければそんな気になるかもしれない。
・・・別に俺はどっちでも構わないんだ。まずは初顔合わせに乾杯しようぜ」
流暢な口調は普段キャスケットの知っている先輩そのままで、言われるまま素直にグラスを受け取る
先輩とベッドインする事になるのかは分からないが、どちらにしても今の状況に戸惑っているキャスケットには
アルコールの力を借りる方がいいように思えた。
頭の回る先輩に口で勝てるとも思えないし、これは彼なりの気遣いかもしれない
「乾杯」
「・・・乾杯。」
そう考えて、グラスを合わせたキャスケットは ぐい、と中身を喉の奥に流し込んだ








「・・・っえ。 何・・・?」
髪を撫でていた手が首の方へと降りる
するりと滑って背中の方へと回っていく手が キャスケットの着るシャツの首元を開いていく
「あぁ。別に、何もしねぇよ。初顔合わせだろ? ちょっと、あんたの事を知りたいだけだ」
言いながら ぷちぷちとボタンが外されていく
(知りたいって言ったって、もともと知り合いじゃないか)
お酒が回って ほどよく回転の鈍った頭でぼんやり考える
先輩は あくまでもバイトで初めて会った、という状況を演じてくれているらしい。

「・・・へぇ。かなり白いな。アルコールでほんのり赤くなってる肌ってのも、結構そそる」
キャスケットを自分に凭れさせるようにしながら、先輩の手が はだけたシャツの片方を落として肩を露出させた
アルコールで火照っているとはいえ、急に触れた室内の空気にキャスケットが ぷるりと震える
大人しくされるままになっているのを良いことに、先輩の手がどんどんとボタンを外していくのを ぼんやりと見つめていると
肩越しに覗き込んでいた先輩の ふ、と笑う吐息が微かに聞こえた
「乳首、ぴんく色だな」
片側だけ外気に晒されたそこを、先輩の視線が不躾になぞる
「・・・っ、も、着ていい、ですか」
意識して鈍らせていた羞恥心が蘇ってきそうで キャスケットは服を直したいと控えめに意思表示してみた
「もうちょっと点検させろって」
「てん、けん?」
飲み始める前に、先輩は "最初だし抱かない"というようなことを言った
そして、"あんたの事を知りたい"とも言った
(まさか?)
キャスケットの目が見開かれる
思い至った懸念を確認するのが怖い。
「せんぱい・・・?」
呼びかけるキャスケットの声が心配そうなのを聞きつけたのだろう。
「代わりに、今日はおまえの身体を調べさせてもらう。」
ローという名前の同じ大学の先輩は、キャスケットの耳に唇を押しつけるようにして囁いた
(・・・客の目も、少しは楽しませてやんねぇとな)
「っ先輩!」
いやだという抗議を含ませた声はあっさり聞き流された
「別に弄ったりしねぇし。ちょっとじっくり見せて貰うだけだ」
「嫌ですよ!こんな明るいとこでっ」
どこまで見るつもりなんですか、と逃げようとしたキャスケットは後ろから抱きすくめられて身じろぎしただけにとどまった
「あぁ、俺言ってなかったかもだけど、嫌がられると却って燃えるから。」
ヤんなくたって全然構わねぇ。あんたの嫌がる顔見てるだけで十分愉しいし。
とんでもない宣言をされたキャスケットは驚きすぎて声も出せずに固まる
(そりゃ、学校でも先輩には からかわれまくってるけど!)
そこにセクハラ要素が絡んだだけでこんなに怪しい雰囲気になるなんて!
「セ、セクハラっ、する気ですか」
「愚問だな。 それを期待されているんだろう、俺は?」
セクハラ上司とその部下プレイでもするか?と問われて ぶんぶんと顔を横に振る
断ったところで自分の立場は先輩にセクハラされる後輩なのだから大した違いはないのだけど。
そもそも、断る権利なんて この部屋ではキャスケットには無いのだから
「手加減してやるから、我慢しな」
(でもやっぱり知り合いにセクハラされるのなんて嫌だ。)
バン相手の時以上に嫌がるキャスケットの表情が 視ている観客には堪らないのだと、その表情を初めて見るローでさえも
気付いたのに そんな状況の自分を客観的に知る事のないキャスケットは惜しみなくその貌をカメラにさらけ出す
「ちょっとの間だ」 というローの言葉に、キャスケットは唇を噛んで俯くしかなかった








"腹筋、それなりに付いてるのに全体的に薄いよな、おまえの体"

「ひゃっ?!」
腹に触れた手の感触に声を上げる
体温が低いのか ローの手はひやりと冷たくて勝手に体が硬直する

「あ・・・、あんまり 触らないって、」
「弄ってねぇだろ、筋肉確かめてるだけだ」
遠慮がちな抗議の声はあっさりと躱される
観察する視線に ひくりと体を震わせるキャスケットを、先輩がにやにやと見るのが居心地悪い
片肌脱いだキャスケットのシャツはローの手で前を大きくはだけられ、暖房の利いた室内で一人しどけない格好を晒しているというのに、
ベルトにまで手が掛かって 慌てて先輩の手を押さえた
「も、もう、いいでしょう先輩」
勘弁して・・・と訴えるキャスケットはローと目を合わさないよう必死で、これ以上 相手のペースに呑まれてしまったら
どうなるかと恐れているのが窺えた
「冗談だろう。 まだ脚だって見ちゃいないのに」
するすると脱がしていく手つきにはブレがなく 一つしか違わないくせに慣れているらしい相手に丸め込まれてキャスケットは
うまく逆らえないでいる

ぱさっ・・・と、足から抜かれたジーンズが床に放られ、 あぁ、と目をつむった。
下を隠すものは薄い下着一枚で、これでは兆し始めている自分をローに気付かれてしまう
うっすらと頬を染めて顔を背けるキャスケットに掛けられる"先輩"の言葉は容赦ない
「この状況に興奮してんのか?反応――しかけてるな」
"顔赤いぞ。・・・弄らなくても感じるか?"
追い打ちを掛けられてキャスケットは思わず叫び声を上げた
「こ、言葉攻め反対!」
「なら 触って攻めてやろうか?」
(とんでもない!)
間髪入れずの切り返しに ぶんぶんと首を横に振る
余裕のある相手は キャスケットのあがきなんて こともなく流して
「じゃあ大人しく観察されとけよ」と笑って また視線を肌に這わせた
(このままじゃ、先輩の視線にすら感じてしまいそうだ)
昂ってしまいそうな体を諫めようと ふるふると頭を振って熱を逃がす
室内に立ちこめていく淫靡な空気に逆らおうとするその様子は、さぞかし見ている者を楽しませることだろうというローの思惑に
嵌っているとも知らずに、キャスケットは少しでも先輩の視線から逃れようと首を竦めて俯いた
彼の手は遠慮という言葉とはほど遠く、気付けばキャスケットは下着にはだけたシャツを引っかけただけという姿なのに、
観察者であるローはこの部屋に足を踏み入れた時のままだ。

(だいたい、俺だけ脱がされてくのなんて不公平だ)
そう漏らした文句を聞き付けたローに「俺も脱げって?そりゃその先に進めって言ってるようなもんだろ」と笑われて
慌てて前言撤回すると、はは、と小さく笑う声が聞こえて、
突然、ぐい と引き上げられた。

ちゅ、と触れるだけのキスが唇を掠めて離れていく

「初日だし、ここまでにしといてやるよ」
そう言って笑ったローは、さっきまでのいやらしい笑いじゃなく 普段大学で見かける時のような顔をしていた



もう しまいだ、と それまでの雰囲気を払拭したローがスタスタと部屋を出ていく。
部屋に残されたキャスケットは 唖然とした顔で見送った後、
先輩とキスしてしまった事に気付いて、ぼっ、と顔を真っ赤に染め上げた







 たったひとつのキス


それが その日一番自分を動揺させた


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