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SS置場8
太陽と月3(吸血鬼パロ) P
書くと言っていた太陽と月のキャス視点です。書いてる途中で気分が重くなって、その反動で書いたのが
前回のロキャスでした!雰囲気全然違う!(つまり今回のは暗いですよと)やっぱり以前のハーフとは展開が
違ってしまいましたね。このキャスなら食事も受け入れそう。ハーフキャスと違って"人間である"ことに
拘ってないからペンギンから「献血と同じだ」って説得されたら納得しそうですね。あと、このペンギンは
シャチの呪縛以前にキャスに一目惚れしてますよね、絶対!w











自分を太陽に例えた彼は その率直な性格とは異なることに月のようだとキャスケットは思っていた

キャスケットと違って決断も早く、割り切るところはきっぱりと割り切り冷静な判断を下すくせに、本当は誰よりも優しい。
なのにシャチが殊更 現実を突き付けるような事を言うのは、キャスケットと逆に振る舞い 少しでも傷つくことのないように
自分が盾となり守ろうとしているからだ
(少しばかり素直になれないシャチの性格がそうさせているっていうのもあるんだけど)
気が強く、弱った顔を見せるのが大嫌いなシャチは甘えるのが下手だ。
双子の兄弟であるキャスケットには素の顔を見せてくれていたけど、ひとつだけ、キャスケットには気になる事があった。
"文句も褒める時も何でもハキハキと口に出すシャチが、隠し事をしている"
何を隠しているのかは分からない。
意思の強いシャチがキャスケットには話さないと決めたのなら、どれだけ手を尽くしても彼の口から聞き出す事は無理だ。
(シャチの都合で話したくないだけなら無理に知りたいとは思わない。だけど、)
キャスケットには話してくれないソレがシャチを酷く苦しめているように思えるのだ

苦しいなら 俺に話して。
1人で苦しまずに、その荷物を俺にも分けてよ。

そう言って聞き出してしまえばよかったのかもしれない

多分、陽気で強気なシャチの笑顔に薄いが消えない影が差すのは彼が隠している何かのせいなのだ。
シャチの様子からキャスケットにだけは知らせまいとしているのが感じられて、だからこそ無理に詮索しようとはしなかった。
それが、いけなかったのかもしれない。
結局 シャチは何も告げないままキャスケットの前から消えた

(最後まで 彼生来の笑顔を見せないまま、シャチは戻って来なくなった)

ずっと離れることはないと信じていた兄弟の喪失はキャスケットを打ちのめし、そのショックはキャスケットからも笑みを奪った








食事に行くと出ていったきり、もう何年も帰ってこない兄を思って夜空を見上げていたキャスケットは陰る月の姿を求めて
ふらふらと外へ出た
帰ってこない彼を思って ずっと屋敷に籠もりきっていたキャスケットには久しぶりの外の空気は冷たく、シャチみたいだと
眺めた月は雲に隠れてその姿を見せてくれない。
(でも、厚い雲に隠れてはいても、月はそこにあるんだ)
だったら、シャチだって。
帰ってこないだけで本当はすぐ近くに隠れてキャスケットの様子を見ているかもしれないじゃないか。

月が姿を現せばシャチも帰ってくるかもしれない

どうしてそんなことを思ってしまったのか、キャスケットは月がよく見えた深い森の奥にある泉を目指して歩き始める。
それまでの人間と同じ食事を摂る気力すらなくなったキャスケットはその時手元にあった食糧すら腐るに任せて駄目にした。
・・・食べなくなってどれくらい経つだろう。
シャチが居ればキャスケットを叱り飛ばし、口に詰め込んででも食べさせたことだろう
そのシャチが居ない事が 全ての気力を奪い去っていた




昼は水場として小さな動物達が集まり、夜はその静けさを湛えた清廉な水鏡に冴え冴えと光る美しい月を映し出す。
そんな泉の畔に来るのも、籠もっていたキャスケットには久しぶりだった

夜ほど俊敏な動きはなくても昼間に活動するのには十分な体力のある2人はピクニックと称してよくこの場所まで歩いた。
キラキラと光を反射する水縁で見るシャチの笑顔はいつも見せる影も薄れた明るい顔で、キャスケットはそれが嬉しくて
何度もこの泉までの散歩をせがんだ。

夜に見る泉の景色も好きだった。
でも、ひとりで眺めるにはこの風景は淋しすぎる

体力が落ち、ここまで歩いてくるだけでやっとだったキャスケットは雲に隠れた月の姿を、それでも水面に居ないかと近寄り、
肩で息をして膝を着いた


映るはずがないと分かっていながら 何かを期待して水面を覗く。
黒々と深い泉の中には、月の姿も、星の姿もなく、当然ながら キャスケットの求める姿も見えない。
くらり、と・・・目眩を感じる
弱った体に無理をさせたことで残った力を使い果たしてしまったのかもしれない

疲れたような吐息をはいて顔を伏せる。その視線の先にある真っ黒な水の底に誘われるように身を乗り出した。
体の重さに引き摺られるように垂れた頭上で サァ・・・っと、雲が流れる
月が顔を出したことで、それまで飲み込まれそうな黒しか見せなかった水面が 月明かりの照らす姿を淡く映し出した

「シャチ…?」

泉に映る白いおもては自分の姿に他ならない。
なのに くたびれきったキャスケットには そう判断するだけの理性の力も残っていなかった


そんなところに居たの、と薄く微笑んで手を伸ばす

それは、太陽のようだと言われたキャスケットの笑みからは程遠い、脆く今にも崩れ落ちそうな細い微笑みだった









どれだけ手を伸ばしても届かない
浮かぶ影を掬う手には冷たい水が掛かるだけで、探していた人物に届かずに ただ、水面を歪ませるだけだ。
冷えた水の温度が 少しだけ理性を呼び起こし、馬鹿な事をしているという自覚を促す。
それでも、キャスケットは懐かしい彼を求めて何度も影に向かって手を伸ばした

元来た道を屋敷まで戻る体力は もう無いのだ
泉に触れた手から体温が奪われていく
それでも、キャスケットは手を止める気になれなくて、また ぱしゃっと水を弾く

ああ。自分は 死ぬんだなと、一部分だけ冷えた頭の隅で思った

それも構わない。
シャチの居ない今、片翼どころか両の翼をもがれたようなキャスケットは 生きる気力は自分の中のどこを探しても残っていなかった。
水面に映る影は見たこともないほどの頼りない笑みを浮かべている
今の自分のていたらくを シャチが嘆いているようにも思えた――だけど、

(笑えない・・・ シャチが居ないのに、どうやって笑えばいいのさ)

自分の笑顔が大好きだと言ってくれた片割れは、もう、どこにもいないのだと身を切る痛みが現実を突きつける

待っていた。
今日まで ずっと、シャチの帰りを待っていたけれど、本当は 彼がもうこの世に居ないのはキャスケットも知っていたのだ。

兄が そろそろ戻ってくるという予感にティーポットを温めていたキャスケットは、突如 襲った衝撃に手にした茶器を取り落とした

『シャチ?』

震える唇から 頼りない声で呼んだ名前は 酷く空虚な響きに聞こえ、喉を押さえたキャスケットは がくがくと震える膝を床につく

――どこにも、シャチの気配がしない

仲の良い双子の自分達は、どれだけ離れていても互いの存在を感じとれた。
例え世界の裏側に居たとしても、シャチの気配なら間違わない

その兄の気配が、先程の身を貫く衝撃を境にキャスケットの周りから消えた

「・・・っシャチ!!」

天を仰いで叫んだ声は、応える者のないまま空中へと吸い込まれていく

「嘘だ、シャチ!嘘だ、消えないで!!」

頭を抱えての悲鳴が屋敷に木霊する

「シャチ!いや!行かないで、シャチ!」

叫べば叫ぶほどに相手の不在を感じるだけなのに 繰り返す名前は止まらない
「シャチぃ・・・ッ」
力の限り叫んで手を伸ばす
その差し出されたキャスケットの手を ふわりと掠めた風が一瞬だけ 柔らかく包んだかと思うと、それきり、静寂が降り注ぐ

頬を流れる涙を拭ってくれる手は もう、どこにも無いのだ
理解し難いその事実を受け入れたくなくて、キャスケットは糸が切れたようにその場に崩れ落ち 限界を越えた悲しみを
抱えきれずに意識を手放した





どのくらいそうしていたのか、一心に水面を掬っていたキャスケットは風が運ぶ匂いに気が付いた。
(時々、シャチが身に纏っていたニオイだ)
キャスケットが "食事"を嫌っているのを知っていたシャチは 出来る限りその形跡を消して戻って来たはずだ。
だけど、本来の主食である為 シャチがどれだけ気をつけても キャスケットの嗅覚は食事を終えた彼の肌から香る
僅かな名残をも嗅ぎ取ってしまう
その、匂いがどこからか漂ってくる・・・


シャチの姿を期待して振り返った視線の先にはキャスケットの兄弟とは全く似もしない人物の姿があった

やっぱり、と 本当は分かっていた事実をキャスケットは認める
"もう、シャチは居ないのに"
自分はいつまで彼を探しているんだろう

繁った木の間から姿を見せた青年が驚いた顔を見せる
それを知覚するかしないかのうちに 認めた事実が急速にキャスケットの体から残った力を奪い去った

暗転した視界に意識が沈むままに瞼が降りる

――もう、いい。

このまま目を閉じたら二度と開く事はないだろうと考えながら、キャスケットは懐かしい兄弟の元へと旅だった、はずだった






口内に広がる甘い味に舌が動いた
芳醇な果物にも似た、柔らかな味に促されて食欲などもう何年も感じなかったキャスケットが無意識に歯を立てる。
この味は知っている気がする
味わった事はないはずなのに、それが体に必要なものだと、本能が"飲め"と命じた

睫ひとつ震わせる力も残っていなかったキャスケットは 覚醒し、浮上する意識の中で、重い体にずっと纏わっていた乾きが
満たされていくのを感じてうっすらと瞼を開く
そこには 心配そうな顔で自分を見下ろす青年の姿があり、力強い腕が自分を抱きかかえていた

(誰だろう・・・)
ぼんやりとした頭で考えた
この、心配そうに自分を見る目には覚えがある気がして、つらつらと考える
(ああ、さっき、見た顔だ)
考える力を無くしていたはずの頭が動き始め、泉にやってきた記憶が蘇った。
目を瞑る前に見た顔だと思い出したところで 自分が口に咥えているものが 彼の手だと気が付いた

(人の、手・・・? それが、なんで俺の口に・・・)
そこまで考えた時点で ハッと目を見開く
口の中にあるのは彼の手だ。 では、自分の口内に広がる甘いものは――

"いや!!"

どうしても嫌だと言ってシャチを困らせた"食事"
今、自分の口に入ってくるのは、目の前の青年の血液なのだ。
頭を振り、口を離そうとするキャスケットに驚いた様子の青年は、それなのに暴れるキャスケットを押さえ付けて
無理矢理自分の手を口に含ませる
いやだ、と蜿いても 弱り切っていたキャスケットの力では 相手はただの人間なのに振り払えない。
"どうして人間と友達になっちゃいけないの"
"友達を餌になんかしたくないでしょう?"
何度となく、シャチと喧嘩になった時の事が思い出される。
(でも、この人は 自分から俺に血をくれてる・・・)
どうして、と考えるには 青年の事をあまりにも知らなさすぎてキャスケットには答えを見つける事が出来なかった
(どうして?何故? 貴方は なんでこんな事をしているの?)
混乱の中、キャスケットは 彼の腕を振り払える体力が回復するまで与えられた血液を飲み下していく。
キャスケットを抱える青年の腕は 回復するまで離さないという意思に満ちた力強いものだった




「あなた、誰っ・・・ 」
彼の腕を押し退け、慣れない吸血行為に息を乱すキャスケットは、それでも なんでこんな事をするのかと問い詰めた。
だが 青年は 抵抗する力を回復したキャスケットの事を 安堵したように穏やかな態度で様子を窺うと、最初の質問にだけ
笑顔で答え、今度は逆に質問してくる
「ペンギンというんだ。 名前を聞いていいか?」
その事にも、彼が自分を吸血鬼だと知っても態度を変えないことにもキャスケットは戸惑った。
今まで 自分が付き合いのあった人間達はキャスケットを同じ人間だと思っていたからこそ、親しく受け入れてくれたのだ
(俺の事を知っているのに、名前を聞くの? それって・・・)
異種族、それも 彼等人間から忌み嫌われる存在である自分と、付き合いを持つ・・・という事だろうか
(どうして?)
戸惑いながら 質問に答えて名を告げると、彼はキャスケットの体調を気遣い送っていくと言う
「あ・・・。 ううん、俺は平気。でも、多分 貴方の方が貧血になってるんじゃないかな」
「そうかな。 自分じゃ分からないんだが」
それは多分 相手を殺さなかった場合も直ぐに騒ぎにならないように一種の神経を麻痺させる力が働いているからだ。
この人は 自分が何を相手にしているのか 分かっているのだろうか・・・?

「気付いてないだけで動いたらふらつくと思う。貴方こそ、そのまま1人で帰るのは危ないよ。あの、もし、だけど。
よければ、うちに来る?」
森を抜ける前に少し休んでいった方がいいと躊躇いながら提案する

キャスケットの申し出を ペンギンと名乗ったその青年は頷いて受け入れた。
頷くその顔に喜色が浮かんでいる理由は分からないまま、貧血を起こしている彼を支える為に手を差し出す
「ああ。ありがとう」
ペンギンは 笑顔でキャスケットの手をとった

久しぶりに触れた人の手は 懐かしい大切な人のそれと同じように温かいと思いながら、もう戻ることはないと
思っていた我が家への道を案内する

その温かさに ひどく心を慰められながら帰るキャスケットを、姿を現した月が柔らかく照らしていた








 月 の 面

生きてほしい、その願いを 彼に届けて。
それは 刻まれた祈りを伝える手




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あきゅろす。
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