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戦国BASARA
【小政】電話じゃ収まりきらない、
(現パロ)(会社員×大学生)

「Uh……ah……」

もうかれこれ10分は経っただろうか。
政宗は携帯片手に、小さな声で唸っていた。
時計の針は、そろそろ明日へ足を踏み入れようとしている。

「……はぁ、どうすっかなぁ」

携帯のディスプレイに映し出される『こじゅ』の携帯番号。
そう、政宗は心底悩んでいた。

「……声、聞きてェだなんて、」

女々しいよなぁ、と小さく一人ごちる政宗。
政宗は今、小十郎に電話するかどうかを悩んでいた。
そもそも小十郎と政宗は、社会人と大学生という身分である。
しかしながら恋人同士でもあり、幾度となく身体を重ねた仲でもあった。
そんな仲睦まじいカップルであるのだが、いかんせん最近は、

「……こじゅ、今日も忙しかったんだろうなぁ」

随分とご無沙汰なわけなのである。
それもこれも、小十郎が出来る男であることが原因だった。
何でも並み以上にこなす優秀な人材を、積極的に活用しない会社などあるものか。
頭ではそう分かっていても、政宗は大きくため息をつかずにはいられなかった。
……メールも返してくんねェし、電話も出るわけないか。
握りすぎて湿った携帯を、枕のすぐ横に投げつける。
そうして自分も、不貞腐れるようにベッドの上で丸くなった。

「……こじゅ、」

会いたい、せめて声だけでも聞かせてほしいのに……。
喉を突いた言葉を飲み込み、政宗は静かに目蓋を閉じた。

「…………やっぱ、無理だ」

目を閉じれば、さらに小十郎の姿が鮮明に甦ってしまう。
今は会えないと思えば思うほど、政宗は人恋しさに潰れてしまいそうだった。
もうどうでもいい、話の内容なんてかけてから考えろ……!
半ば衝動的に携帯の通話ボタンを押して、自らの耳にそれを押しつける。

《プルルルル…プルルルル…》

待っている時間と比例するように、政宗の胸の鼓動が高鳴っていく。
出なくてもいい、むしろ出ない方がいい……いやけれど。
複雑な気持ちのまま、ただひたすらに愛しい恋人を待つ。

《プルルルル……プツッ》

回線が繋がった瞬間、政宗はドキリと肩を跳ね上げた。
電話越しに、不機嫌そうな小十郎の声が聞こえる。

『……もしもし』

如何にも寝起きです、と言うような掠れた男の声。
久しぶりに聞くその声に、政宗はどうしようもなく安心させられた。

『……誰だ、悪戯か?』

しかし浮かれ気分も束の間、政宗はまた困窮し始める。
声を聞きたかっただけなので、何を話したらいいのかまだ分からないのだ。
二人の間に、しばしの間沈黙が流れる。
やがて痺れを切らした小十郎が、苛立ち混じりに言った。

『……用がねェなら切るぞ』

政宗の隻眼が大きく見開いて、唇から言葉が飛び出た。
震えたその声は、まるで幼い子犬か何かのようだった。

「っこ、じゅうろ……?」

『ま、政宗ッ…!?っどうかしたのか!』

間髪入れずに返ってくる小十郎の声は、ひどく焦りを含んでいた。
政宗は切れずに済んだ電波に、ほぅと小さく息をつく。
さっきは悪かったと慌てて謝る恋人が、少し可笑しくて政宗は微笑んだ。
……小十郎、

「会いたい……」

自然と口をついた言葉に、ハッと我に返り口許を押さえる。
ヤバい、ヤバい……っ。
小十郎の体を労ることもなく、こんな我が儘……餓鬼みたいで笑えない。

「こじゅ、っごめん!……い、今の嘘だからっ…その、」

忘れて、と消え入りそうな声で呟く政宗。
緊張やら焦りやらで染み出た汗で、携帯がひどく滑る。
再び、二人の間を静寂が包み込んだ。
呆れたんだろうな、と政宗が自嘲する。
こんなことなら、電話なんかしなければよかった。

『……政宗、』

小十郎の低い声が、電話越しに政宗の鼓膜をくすぐる。
それと同時に、小十郎に対する申し訳なさで泣きそうになった。

「こじゅ、っ……」

《プツッ…ツーツーツー…》

……通話が切れた。
小十郎との繋がりが、全て途切れてしまったような気がした。
いや、きっとそうなのだろう。
小十郎は、こんな身勝手な餓鬼に呆れたに違いない。
ゴトリと鈍い音がして、携帯電話が床に滑り落ちる。
そのとき、見知った温かな腕に政宗は後ろから抱きすくめられた。

「政宗、……寂しかった、のか?」

「……っこじゅ、」

小十郎の胸に抱かれた背中が、異様に熱が上がっていくのを感じる。
久々に感じた恋人の体温に、政宗は涙腺が緩んでいく。
小十郎は後ろから政宗を抱き上げ、そっとその身体をベッドに横たえた。
潤んだ政宗の瞳が、何とも扇情的に小十郎を煽る。

「……こじゅ、ごめんな」

「こっちの台詞だ、悪かったな……政宗」

謝罪と口づけとを交互にしながら、ゆったりと時が過ぎていく。
一人は寂しいのに、二人はこんなに温かくて泣きたくなった。

「ん……っふ、ぅ……」

角度を変えながら口付けてくる小十郎に、政宗は唇から甘ったるい吐息を漏らす。
それを見て目を細めながら、小十郎はそっと政宗の胸に手を触れた。
トクリ、と高鳴る政宗の心音が、誰より何より心地よい。
すると不意に、政宗が小十郎に声をかけた。

「なぁ、……疲れてないか?」

今日も忙しかったんだろ、と不安そうに隻眼を揺らす政宗。
そんな愛らしい恋人を、小十郎はさも可笑しげに笑んだ。
政宗が欲してやまなかった、大好きな優しい顔と声だった。

「政宗が、一番の薬だからな」

だから覚悟して俺を癒してくれよ、……低い声音に耳を犯され、政宗の肩がビクリと震えた。
嗚呼、それが何でこんなにも愛しいんだろう。
己の肢体に滑らかに指を這わせる恋人を横目に、政宗は柔らかな笑みを浮かべ囁いた。

「I'm not lonely any longer」

電話なんかじゃ伝わらないぐらい、大きな大きな愛で。








お粗末様でした。

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あきゅろす。
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