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ひそやかなる会話
 雲一つない、絵の具をぶちまけたような青い空。
 ひゅうと吹きぬけ、私の頬を冷たく撫でる風。

 昼休み、学校の屋上。
 そして、私の膝に頭を乗せるオトコが一人。

「……ちょっと、本当に寝ないでよ」

 微かな声で呟けば、寝転ぶ彼は薄っすらと目を開ける。
 とたん、耳朶を打つ低い声。
 最小限に唇を動かす。

「寝るか。こんなに眩しいのに」
「眩しいから目ぇ瞑ってるんでしょ。何、膝の柔らかさ堪能してるわけ?」

 くすりと笑いながら問いかけたら、彼もまた小さく笑う。
 二人の間、ひそひそと交わされる言葉達。
 きっと周りの人には絶対に聞こえない。

「まっさか」

 口元に軽薄な笑みを浮かべ、瞳は私だけを映している。
 こっそりと、誰にも分からないようにささやいてやろうか。

 貴方がだいっきらいです、と。
 そうしたら、なんて反応してくれる?

「はい、終了!」

 声とともに、鳴り続けていたフラッシュの音が止む。
 向けられていたカメラから、顔を出して私達にピース。
 OKのサイン。

 周りを取り囲んでいた大人達は一斉にバラバラになって、むくりと彼が起き上がった。

「お疲れサマ」
「そっちもね」

 衣装を叩きながら交わされる、短い会話。
 急激に冷めていく甘ったるい空気。
 いつものことだ。

「あぁ、そうそう」

 振り返り、彼は私の耳に口をよせる。鼓膜に直接ひびく、低い声。
「結構良かったよ」と。

 ……これだから、このオトコがきらいだ。


【終】


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あきゅろす。
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