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こいねがう
 私と恋に落ちたこと。
 貴方は後悔していますか?


 やわらかな月の光が、貴方を照らす。
 滑らかな白い頬。
 血色の良い、つややかに赤い唇。
 絹のような手触りの、さらさらの茶髪。

 美しい二重の目は、もう私を見ることはない。

「……起きてよ」

 無理だって分かっている。
 それを貴方が望んだということも。
 だからこそ、神はそれを叶えたのだから。

「起きてよ、笑ってよ」

 眠り続ける彼の瞼に、ぽたり、涙が落ちる。
 それでも、貴方は起きることはない。

 もう二度と、私に愛を告げることもない。

「……分かっているのよ。無理だって」

 横たわる貴方の隣に寝そべって、そっと頬にかかる髪を払いのけた。
 冷たい風が吹く。
 私を咎めるかのように肌に突き刺さり、私の頭を冷まそうとするかのように、大気がささやきかける。

「叶うわけないって、分かっていたのよ」

 分かっていたのに。知っていたのに、叶えたいと願ってしまった。 
 これがその代償。
 叶わない恋を叶えたことへの。

 私には永遠の悲しみを。
 貴方には永遠の眠りを。

 ……ねぇ、貴方は後悔している?

「女神さま、時間です」
「――はぁい」

 仕方ないわよね、ごめんなさい。
 貴方とともにいられる時間は、そうないのだから。
 それとも、もし私が。
 全ての役目を放り出して、夜が明けるまでずっと、貴方の所だけにいたら。

 貴方は喜んでくれるのかしら?
 それとも、悲しむのかしら?

 問いの答えは、聞くことすら出来ないわね。
 ――それが、悲しいわ。

 最後に一度、にこりと微笑みかけて。
 私は立ち上がった。小さく手を振る。

「また明日、ね」

 そして。
 やわらかな月の光が、貴方を照らした。


【終】


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あきゅろす。
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