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「…聞こえる」


薄暗い一室の中央で、大きな布に埋もれていた男は、ふとその場から抜け出し窓の方へと駆け寄った。

ここんところ、動こうとはしなかったせいか体が大分鈍っていて多少ゆらつくが。


「彼女だ。彼女の…歌声だ…」


男は愛おしそうに窓に耳を当て、かすかに聞こえるメロディーを聴きとっていた。


「やっぱり、生きているんだ。…死ぬはずがなかった。彼女は、生きている」


どこにいるのか彼には分らない。でも、彼女の歌を彼が見逃すはずがなかった。

例えこの世界の反対側で歌っていようとも、彼は彼女を見つける。そういうものだから。


「―――――きたか、」


いつの間にか、男の背後には何人かの黒いコートを纏う者たちが現れ、敬礼を払うべく一斉に腰を低くした。



「王君、呼びましたか」


絶対なる忠誠を誓った彼らは少しだけ顔をあげた。


「……そなたらに、ひとつ頼みたい事がある」

「はっ、なんなりと」



男はここではじめて振り返った。
長い髪を揺らし、目を細めて小さくつぶやく。




「彼女を連れてきてほしい」



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