12 * 「…聞こえる」 薄暗い一室の中央で、大きな布に埋もれていた男は、ふとその場から抜け出し窓の方へと駆け寄った。 ここんところ、動こうとはしなかったせいか体が大分鈍っていて多少ゆらつくが。 「彼女だ。彼女の…歌声だ…」 男は愛おしそうに窓に耳を当て、かすかに聞こえるメロディーを聴きとっていた。 「やっぱり、生きているんだ。…死ぬはずがなかった。彼女は、生きている」 どこにいるのか彼には分らない。でも、彼女の歌を彼が見逃すはずがなかった。 例えこの世界の反対側で歌っていようとも、彼は彼女を見つける。そういうものだから。 「―――――きたか、」 いつの間にか、男の背後には何人かの黒いコートを纏う者たちが現れ、敬礼を払うべく一斉に腰を低くした。 「王君、呼びましたか」 絶対なる忠誠を誓った彼らは少しだけ顔をあげた。 「……そなたらに、ひとつ頼みたい事がある」 「はっ、なんなりと」 男はここではじめて振り返った。 長い髪を揺らし、目を細めて小さくつぶやく。 「彼女を連れてきてほしい」 [*前][次#] [戻る] |