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「ん……」


ふと目が覚める。

長い時間に渡り寝ていたはずなのに、余計に疲れてしまった。
リアルすぎる夢が、壊れたビデオテープのように、巻き返し巻き返し悲しい映像を流すせいだ。


顔を上げる。

やはり、世界が絵の具を溶き混ぜたように歪んで見えた。


そうか、
私はまた泣いてしまったんだ。


随分とこの世界に来てから感情を上手くコントロール出来なくなった事を自覚した。


愛しいものに思わず泣きたくなる衝動、愛しいものを全て壊したくなる衝動が体の自由を奪うのだ。

わかっている。それなのに急ブレーキを掛けられない。


どうしたんだろう。


本当に私はどうしたんだろう。



「よ、目覚めたかおチビ」


ベッドの背骨に背中を預けるのは、紺色のさらさらとした髪がよく似合う彼だ。


アオイさんだ。


ニヒルに笑う彼に少しびくついてしまったけど、すぐに肩を下ろし、胸を落ち着かせた。


「安心しろ。もう手はださねえよ」


ぶっきらぼうに言う彼の言葉に安堵と罪悪感を感じた。


「だ、大丈夫です。もう平気…だから…」

「こんなにおびえてるのに?」

「…っ!」


つんと触れた指先だけで体が飛び上がりそうになった。

そう、心で構えていてもチアキの体はよく覚えていた。

拷問に近い日々、そして売り飛ばされて、身を投げ出したことも。


「……無理すんなよ」

「ち、ちがう!ちがうちがう!」



私は必死になってアオイさんの手を掴んだ。


離さない。もう絶対に離さないから。


「だって、私は本当に!」


誰かを失うのはもう嫌だ。

痛い想いも悲しい想いも全部捨ててしまいたくなるけど、だからって貴方がいなくちゃ私は本当に生きていけないのに!


「行かないで……行かないで下さいっ!」


この手の力を緩めた瞬間、風になって消えてしまいそうで怖い。

自分を痛めつけられるよりも怖いの。


チアキは腕にきつくきつくしがみついた。


「アオイさんと一緒にいたいです!…わがままだけど、わがままだけど…!お願い、嫌いにならないでっ」


泣きじゃくるチアキの顔に、アオイは引き離すことは出来なかった。


「そのセリフ、俺が言うはずだろ普通…」


アオイはあきれ半分、愛しさ半分で思わずくすりと笑いを漏らした。


「バカだな」

「…嫌いにならないでっ…!」



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