3 * 「ん……」 ふと目が覚める。 長い時間に渡り寝ていたはずなのに、余計に疲れてしまった。 リアルすぎる夢が、壊れたビデオテープのように、巻き返し巻き返し悲しい映像を流すせいだ。 顔を上げる。 やはり、世界が絵の具を溶き混ぜたように歪んで見えた。 そうか、 私はまた泣いてしまったんだ。 随分とこの世界に来てから感情を上手くコントロール出来なくなった事を自覚した。 愛しいものに思わず泣きたくなる衝動、愛しいものを全て壊したくなる衝動が体の自由を奪うのだ。 わかっている。それなのに急ブレーキを掛けられない。 どうしたんだろう。 本当に私はどうしたんだろう。 「よ、目覚めたかおチビ」 ベッドの背骨に背中を預けるのは、紺色のさらさらとした髪がよく似合う彼だ。 アオイさんだ。 ニヒルに笑う彼に少しびくついてしまったけど、すぐに肩を下ろし、胸を落ち着かせた。 「安心しろ。もう手はださねえよ」 ぶっきらぼうに言う彼の言葉に安堵と罪悪感を感じた。 「だ、大丈夫です。もう平気…だから…」 「こんなにおびえてるのに?」 「…っ!」 つんと触れた指先だけで体が飛び上がりそうになった。 そう、心で構えていてもチアキの体はよく覚えていた。 拷問に近い日々、そして売り飛ばされて、身を投げ出したことも。 「……無理すんなよ」 「ち、ちがう!ちがうちがう!」 私は必死になってアオイさんの手を掴んだ。 離さない。もう絶対に離さないから。 「だって、私は本当に!」 誰かを失うのはもう嫌だ。 痛い想いも悲しい想いも全部捨ててしまいたくなるけど、だからって貴方がいなくちゃ私は本当に生きていけないのに! 「行かないで……行かないで下さいっ!」 この手の力を緩めた瞬間、風になって消えてしまいそうで怖い。 自分を痛めつけられるよりも怖いの。 チアキは腕にきつくきつくしがみついた。 「アオイさんと一緒にいたいです!…わがままだけど、わがままだけど…!お願い、嫌いにならないでっ」 泣きじゃくるチアキの顔に、アオイは引き離すことは出来なかった。 「そのセリフ、俺が言うはずだろ普通…」 アオイはあきれ半分、愛しさ半分で思わずくすりと笑いを漏らした。 「バカだな」 「…嫌いにならないでっ…!」 [*前][次#] [戻る] |