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「………」



チビ女はやっと安らかな眠りについた。俺に抱きついたまま無防備な寝顔をさらしだしている。



「馬ー鹿、泣き虫め……」



狂いっぱなしの俺の調子。


その原因であるこのチビになにか暴言を発したかったのに、言葉が見つからず随分と餓鬼染みたたわごとにしかならなかった。

それでも、俺の苛つきは消えて心はようやく安堵の場所にたどり着いた。




―――たとえ、それが残り数時間のタイムリミットだとしても。




でも、なぜだろう。




こんなにも余裕がない筈なのに。

こんな俺が無様で不格好で嫌な奴であるはずの俺が。



願ってしまうんだろう……?




他人であるはずのお前の笑顔が見たいって。


幸せになってほしいって。


似合わないとわかっているが何回でも何十回でもチアキのために祈ってやりたくなる。



世界中の幸せをチアキのために捧げてやりたいと思ってしまう。


あの時もそうだった。



『お願いです…私の…名前を…呼んで、ください』



子供のように涙でくしゃくしゃになった顔だったけれど、嬉しそうに涙を流すあいつに顔に俺は答えてあげたいと思った。

いや、俺は答えたかった。俺も望んでいた。



お前はいつも俺の名を呼んでくれる。


それはまるで清らかな何かを呼ぶように。


本当は忌み嫌われる名前となってしまったの筈なのに、お前に呼ばれる度自分の何かが変われる気がした。





俺もその名を呼んでやる。



お前が望むなら、また笑ってくれるなら、幸せになってくれるなら呼んでやる。


だからお前は変わらずに俺の名を呼び続けてほしい。





「馬鹿か俺は……」



期待してはいけないのに期待したくなる自分がいた。


このまま目が覚めるまで付き添ってやれば、チアキが起きたとき何もかも丸く収まるんではないかと考える自分がいた。



………だが、


どうしても離れなくてはと考える自分もいる。


いつ失うかわからない大切な記憶と心。


力を求め続ける限り、その鎖に縛られ続け、対価を払わなくてはいけない。


その度またチアキを傷付ける事になるとわかっている。



だから、大事なこの一時を忘れる前までにチアキから離れなくてはいけないと悟った。




自分の幸せさえも願う権利は…無い。


「風邪、引くなよおちび」




鼻で軽く笑いながら起こさぬようその場を離れようと立ち上がる。


もうすぐ夜明けだ。


山の間から今にも溢れそうな光がまだかまだかと出番を待っている。


「あ〜あ………寝そびれたな…」



俺はぼやきながらふらふらと歩き始める。







いいか、チアキ。


お前は幸せになれよな?









=第7章 君のためにできる事 END=

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