21
アオイさんの胸に耳を当てて聞いてみる。
暖かな鼓動。
トクン、トクン、
あの優しさはいつでもここにしまってあるんだね、とまた涙が溢れた。
ずっとずっと変わらない、変わることのないメロディー。
「アオイさん………お願いです…私の…名前を…呼んで、ください…っ」
涙声が入り交じって、じぶんでも何を言っているのか分からなかった。
「私のなま………っを呼んで下さ……い……っ!」
アオイさんは最初は驚いた顔をしていたけれど、察してくれたのか私の肩を掴んで一旦引き離すと、私の目を見つめそして距離を狭めた。
「……っ!」
触れ合う唇。
彼の温もりが確かに私の唇へと宿る。
驚いて黙ってしまった私に構わず、アオイさんは耳元で甘く切なく名前を紡いだ。
「チアキ……」
「っ……」
綺麗な蒼空がその瞳に宿ってる。
なんて優しい目をしているんだろうか、記憶の扉がまたひとつ開いていくことがわかった。
『私が千の空を羽ばたく白い鶴なら、あんたは誰よりも澄んでいる誰よりも純粋でいる誰よりも広さを知っている゛花゛なんだね。
あんたが見守ってくれるから私がきっと何処までも羽ばたけるんだと思う。
あんたが見上げてくれるから空は笑ってくれるんだと思う。
あんたが知ってくれるから世界はあんたに微笑んでくれてるんだと思う。
ね、そう思わない?
――――――……知空?』
私は誰よりも彼の事を知っている………
「……ほら、泣くんじゃねえよチアキ」
「……っひっ……く…ぃっく…」
微笑みながら頭を優しく撫でてくれるアオイさん。
優しくて暖かくて大きな手。
「…っ…く……ぅ…うぅ…」
でも、でもね、この涙は止まらないんだ。
幸せで心の泉が溢れていくんだ。
嬉しくて嬉しくて、この世界の嫌な事が全部溶けて消えていくようで、この瞬間だけは私は世界で一番の幸福者になれるんだ。
「う…ぅ……うあああああぁっっん!」
貴方が私の名前を呼んでくれるだけで、なんだってがんばれる気がするの。
不思議だよね。
不思議なんだよ。
ずっとずっと、この時が、続けばいいのに。
《知空》
「うあああああっあぁぁっ…、く……ぅうあああっ……っ!」
《ね、そう思わない?知空?》
我儘な私はそう祈った。
そうだ、この時間がずっと続けばいいのに。
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