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ノアは付き合っていられないと言わんばかりに苦い顔をしてトレーに煙草を押し付ける。
ノアの含みを持たせた物言いに眉をひそめる俺を見て、ノアは愉快そうに鼻を鳴らした。
「お前ら血が繋がってねぇんだろ?」
何の躊躇いもなく吐き出されたノアのその言葉にベリーズとゼロは顔を上げ驚きを隠せていない表情で俺の顔を見つめてくる。
「どうりで似てねぇ訳だ。弟がコレで兄貴がソレだもんなぁ。神様ってのは時に残酷な事をしやがる。同情するぜ?」
俺の顔を見ながらあざ笑う白髪の男に向かって次の瞬間プラスチックのコップが飛んで行った。
ある意味聞きほれる程にいい音をさせて男の額に当たった空っぽのコップはそのまま音を立てて床へと落下する。
「…ハイジ」
名前を呼び目で咎める俺にハイジは肩をすくめて見せた。
「あれ?おっかしーなぁしっかり握ってた筈なのに。小百合が兄ちゃんの悪口言ったから天罰がくだったんじゃないの?」
白々しい口調でそう言ってすっきりした顔でフォークをテーブルの上で回し始めるハイジに俺は目元を抑える。
「…今すぐ犯すぞてめぇっ?!」
「小百合…そんなに欲求不満なの…?」
不思議そうな顔でそう聞き返すハイジにベリーズが吹き出した。
ベリーズが慌てて手で口元を覆うも時すでに遅く、男の顔は再び怒りで歪み始める。
…話が進まねぇ。
もしかすると交渉が成功するとかしないとかではなく、…それ以前の問題だったのかもしれねぇ。
ハイジが純粋に俺の為に怒ったのだと言う事がわかる分複雑だ。
どうやってこの場を落ち着かせるかを考え頭を痛めていると予期せぬ所から助け船が出る。
「今のはお前が悪い。ハイジが怒るのは当然だ。ノアさんが話をしてんだ、喧嘩売るのは終わってからにしろよ」
呆れたようにそうぼやき、男の腕を掴み椅子に座らせるシン・アベルに視線を送っていると露骨に顔をしかめられた。
「シンは俺の味方してくれるんだ。嬉しいなぁ」
嬉しそうにふんわりとした柔らかい笑みを向けるハイジにシン・アベルの顔が赤くなっていくのがわかった。
…これはどう解釈したらいいんだろうな。
ここへ来てから疑問が泉のように湧き上がってくる。
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