409 そう言えば前にもシンを上から見下ろしたことがあったっけ。 あの時は楽しむことが出来たけど、今は楽しむことが出来ない。 目を固く閉じ、動く気配のないシンに、何故だか黒い感情が芽生えてくる。 「何だか歓迎パーティーみたいだねシン。 そう言えばあの時の続きをする約束だったよね。 今やったらどっちが勝つかな。 まともにナイフで戦ったら俺負けちゃうかもね。 ナイフの扱いではシンに勝てる気がしないし。 どう思うシン? 俺が負けたら何してほしい? シン、何とか言ってよ。 ねぇ、…どうして俺の顔を見てくれないの?」 俺の問いに何も答えてくれないシンに、俺は耐えることが出来なくて腕を振り上げてしまう。 心の底でシンを傷つけたくない、殺したくない、シンは大好きな友達、誰か俺を止めて、と叫ぶけど。 もう一人の俺が、これ以上傷つく前に殺してしまえ、何もかもなかったことにしてしまえ。お前はこいつを殺さずに、この恐怖に堪えられるのか?と、俺を誘惑する。 怖い。 怖いよ。 誰よりも俺が怖い。 恐怖にのまれてしまいそうになったそんな時。 俺が心から望んでいた、俺が一番助けを求めていた、俺を暗闇からいつも引き上げてくれる、眩しいくらいの温もりが俺を包み込んだ。 俺を襲う恐怖を一瞬で吹き飛ばすその温もりに、堪えていた涙が溢れ出した。 「ハイジ」 耳元で聞こえた、俺が世界一大好きな、世界一安心する優しい声に頭が痺れる。 「兄…ちゃん」 声に出してしまえば、後は溢れていくばかりだった。 壊れたように泣き喚く俺を兄ちゃんはしっかりと抱きしめて、優しく頭を撫でてくれる。 「…何がお前をそんなに怖がらせたんだ」 静かに俺にそう尋ねてくる兄ちゃんに、俺は泣きながら起こったこと、苦しんでいること、ぐちゃぐちゃしていることを思いつくままに吐き出した。 BackNext [戻る] |