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モノクロなる恋模様
五話:思考回路


翌日から、コイツは俺に付きまとうようになった。
…本当に迷惑。同じ寮生でクラスメイトなせいで、俺の行動は把握できるようで、四六時中付きまとってくる。
今も、いつものように学校を散策する俺の隣でやたら煩く話しかけてくる。
あぁ…

蹴り飛ばしてぇ。


「ねぇ藍人さぁ、趣味とか教えてよしゅーみー」

「…ねぇよ」

「いや、ないとか嘘でしょ〜あ、学校歩き回るのが趣味なの?」

「…ちげぇ、暇潰し。…つーかウルセェ黙れついてくんな」

「喋るのも動くのも自由でしょ〜あ、こここんな風になってるんだー」


今まで歩き回る度に聞こえていた土を踏みしめる音や、草木の匂い、風の音も、コイツの声によってかき消されていく。惜しい感覚と共に、あまりの鬱陶しさに殴りたい衝動に駆られている。もともと、中学時代に忍耐力は身につけたはずだが、コイツの前では効果はない。
もし殴ったら、風紀委員から指導を受ける。そしたらいろいろと行動が制限される。俺は単に一人でいたいだけだ、そこら辺は普通の不良とはちげぇ。まぁ暴力は好きだけど。
だから、風紀委員とは顔を会わせたくない。コイツ自身風紀委員だし、口封じには殺すしかなさそうだし。


「…てゆーかさぁ…授業受けなくていいの?成績良くないと進級できないんだよ?いくら一学期だからってさぁ…」

「…誰が授業なんか受けるか、受けなくても点なんていくらでもとれんだよ…鬱陶しいから離れろいい加減殴んぞ」

さらに距離を近づけて、顔を覗き込んできたところを睨み付ける。

「え、マジ!?もしかして普通に受験して入ってきたの?ビックリだわ…あと殴る殴るってまだ一回も殴ってなw、ゲボォッ!」


ウッセェから、軽く腹に一発いれておいた。
この程度なら、罰則対象にはならないだろう。


「しばらくそこで這いつくばってろ。そんで二度と俺に近寄んな」

地面に倒れて踞ったソイツを背に、俺はいつもの場所に足を進めた。
これで懲りればいいのだが。


後ろから、

「…ねぇ…ホントに痛いんだけど…うぇ、ちょ…置いてかないでよ…うぇ…」

って聞こえてきたのを無視した。
ザマァみろ。




「はァ…」


思わずため息が溢れた。いつもの場所、即ちあの大理石のある庭園の芝生に、俺は座り込んだ。柔らかい芝生だから座り心地がいいし、今日は暖かいから寝るのもいいかもな。後ろに体重をかけて、ドサッと仰向けになった。このなんとも言えない土と草の香りは嫌いじゃない。


アイツが俺に付きまとうようになって、今日で五日だ。休日も入れれば実質七日。
毎日毎日、俺が寮から出てくるタイミングまで待ち伏せして、ついてくる。ダッシュで逃げるのも癪で、一度目の蹴りを入れてから適当に歩く。やはり地面に倒れるが、小走りでついてくるのを見ると、幽霊にでも呪われている気分になる。
そこからは、自由気ままに動く俺の隣をひたすらキープし続けて、会話を振ってくる。もちろん無視がほとんどだ。拳で返事することもある。

当初、アイツは退屈しなさそうだからと俺に付きまとい始めた。だが、ろくに会話もできず、学校中歩き回って、何が楽しいのだろうか。普通に学校に通えばいいだろうに。時たま、機嫌がいい時になんで付きまとって来るのか聞いた。すると、大体、お前に興味があるから、と返ってきた。なんかイラッときてその度に蹴飛ばすが、懲りずについてくるのだ。
…アイツの思考回路がわからない。俺に興味があるとは、どういうことなのか。毎日同じ行動をする俺の、何に興味を持ち何に惹かれているのか。わざわざ殴られてまでする意味がある行動なのか。人と関わるのを拒絶してきた俺には、わからない。
思い返してみれば、人間関係で思い悩む筈の思春期はずっと孤独に過ごしてきた。人付き合いをしてこなかった分、あんなタイプの人間は知らなかった。別に後悔などしていないが。

色々と思考を巡らすうちに、だんだんと眠気が増してきた。暖かな陽気にずっと当たっていたからだ。我ながら猫かと言いたくなるが、子供の頃からこの体質だった。

あぁ…ダメだ、頭まわんねぇ…。


柔らかい芝生のベッドで俺は眠りについた。




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