…5。
「や、あの………睫毛がほっぺたに付いてるな、なんて…。」
もちろん嘘だ。
ごにょごにょと語尾をあやふやにしながら、架空の睫毛を指摘する自分は挙動不審だと思う。
「…どこ?」
それでも素直に聞いてくる無限は、きっと付いてない事なんかお見通しなんだろう。
ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべてて、合わせてくれてるのが丸分かりで。
それでも今更訂正する事も出来ない意地っ張りな自分に眉をさげると、
「取って?」
…くそー。
そんなに俺をからかうのは楽しいのか!?
仕方なくありもしない睫毛を払うべく手を伸ばした。
言い訳するなら、これは大人にイタズラが見つかった子供の心境に似てると思う。
ゆっくりと。
震える指に馬鹿みたいに心臓が煩い。
それでもなんとか近付いた指先が、触れるか触れないかの距離まで来ると、
「おはようございます。これより職員朝会を始めます。」
タイミング良く聞こえてきた声に肩を揺らして手を引っ込めた。
「おはようございます」なんて挨拶を返す他の先生達はいつの間に集まったのか。
全く気付いていなかった自分に、嫌な汗を掻きながら無限から顔を逸らす事しか出来ずにいると、
「…なんだ、慌ててる翔汰先生可愛かったのに。」
聞こえてきた言葉に今度は耳まで熱くなってしまった。
…からかわれた!
隣で聞こえるクスクス笑いがやけに大きく聞こえてきて、おかげで俺は、教頭の話もそこそこに配られたプリントに必死で目を走らせる事しか出来なかった。
…何かがヤバい。
その何かを、出来るだけ考えないようにしなくてはと、俺は本能的に感じていたんだ。
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