…20。
「…………」
出来れば口に出したくなくて口を閉ざしていると、
「…じゃあ、さ。」
「?」
「俺の言った事、覚えてるか?」
…朝比奈が、言った事?
「???」
何か言われただろうか。
何をされたか訊かれた事は覚えてる。
それに、途切れ途切れだけど答えた事も。
だけど、そんな改めて「覚えてるか」なんて訊かれるような事を言われた記憶が俺には無い。
「…ごめ…わかんな…」
その瞬間、ギュッと俺を包み込む腕が更にキツくなったと思うと、スルリとすぐに解放された。
「…そっか…」
「?」
「…だよな、」
俯いた朝比奈が少し寂しそうに見えた気がした。
「朝比奈?」
「なんでもねぇ。忘れろ。」
「えぇっ?」
…んな無茶な。
「いや、でも…」
「いいから忘れろ。…また、言うから。」
「……」
…また言うなら、今言えばいいのにって、ツッコんじゃ駄目なんだよね?
なんなの、一体。
なんとも腑に落ちない気持ちになったけど、顔を上げた朝比奈がどこかやる気に満ちて見えたから、まあいいか。
「翔汰。」
「ん?」
名前を呼ばれて返事をした俺の手を、今度はさっきみたく引っ張るわけじゃなくて、優しく握った朝比奈は、
「…さっさと行くぞ。」
まるでこれが当たり前のように、手を繋いで歩き出した。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!