…13。 「ほら、座って前向けよー!」 同時に前から入った無限に、嬉しそうな黄色い声と不満げな野太い声が上がった。 一気に黒板に意識が集中する中、極力目立たないようにと気配を消して壁に寄り添うと、 「無限先生、カッコイイ!」 「おっせぇよ、無限!」 「待ちくたびれたぁ。」 …凄っ、 職員室でも思ったが、なんでこんなにカラフルなんだ。いや、声じゃなくて頭が。 勿論黒髪もある。 けど、全体の半分いるかいないかだ。 茶色ってこんなにあるんだ…なんて思うほど、色んな種類の赤や黄色がかかった茶髪に、金、赤、青、プラチナ、さらにメッシュ。 どこから見ても不良。 よく見て、どこのビジュアル系バンドですか?とか聞いてみたい。マジで。 すっかり委縮してしまった俺は、自分でも前の扉から入らないで良かったと考えながら、持っていたファイルを顔に当てた。 涙目になったから、とかじゃないよ。うん。 なかなか静まらない騒ぎ声が、一瞬で大人しくなったのはそんな時だ。 「?」 不思議に思ってファイルをずらした俺が見たのは、立てた人差し指を口に当てた無限。 少しだけ唇が弧を描き、ただ黙っているだけ。 それな のに、なんという威力だろう。 ピタっと、全員が動きを止めて無限を見つめていた。 勿論、俺も。 「…はい。じゃあ、クラス替えもあったわけだし、とりあえず自己紹介でもするか。 俺は、担任の古川無限だ。 去年は一年B組を担任してた。科目は数学、改めてよろしく。」 「よろしくー!」なんて声が飛び交い、和やかな空気が人気の高さを物語っている。 ただの俺様ドSだと思っていたが、何気に凄い。 ちょっと尊敬しそうだ。 「んで、後ろにいるのが副担の…、ほら、挨拶。」 無限の言葉に、一気に生徒達が振り返った。 少し意識を飛ばしていた俺は、突然注目を浴びて肩に力が入れると、 静まり返った教室内の空気がやけに重く感じて、今度こそ本当に緊張してしまった。 まるで一時停止ボタンでも押されてしまったみたいに。 [*前へ][次へ#] [戻る] |