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【クロス・オーバー・ポイント】
『メディカルセンター』6 R-18 XZ初デート強制終了+Aモブとの絡み有り+モブ主体暗黒昔話有り

「貴重なお話を聞かせて頂き感謝いたします、大変参考になりました
失礼ながら、貴女方だけでココを護るのも、限界があるでしょう
もし、コチラの施設で、コレ以上【邪眼】機密が護り切れないと言う事でしたら…
文化局が責任を持ってデータの封印致します、貴女方の生活も補償致しましょう
王都に文化局まで来て頂けるのであれば、勿論、特殊技能の職員扱いで…」

今一度お二人で御相談ください、直ぐに結論を出す必要はございませんから
今は取り急ぎ王都に戻る必要が御座います、後日お返事を聞きにくる時は
状況は報告致しますので、今日は失礼させて頂きます

年嵩の二名に丁寧に礼を取りながらも、手早く身支度を始める僕を、ゾッドが見上げる

「どうしたんだよ、先生?何を焦っているんだよ?」

キョトンと見上げる彼に、僕は苛立ちも含んだ声で、手短に返事をする

「催眠療法を掛けるって言ったでしょう?患者さんに?開始する前に止めなきゃ
患者さんが、多重魔格だと想定していたから…ソレなら脳の活動を抑えれば
どちらの魔格も同時に寝ぼけてしまうから、危険は無いけれど
魂が別の個であるなら…それは逆効果だよ、主格の黒髪の方が眠ってしまったら
赤髪がそれだけ活動しやすくなる、ソレも…多分寝ぼけ眼なんかじゃ無い
仮に彼のアレも、さっきのあの女性と少女と同じ状態だったら、どうなると思う?」

「おい…それって………」

ようやく事態を把握した彼の顔色が、真っ青になる
不可抗力で、暴走した魔格が目覚めれば、すぐ側に居るのは無防備な中級悪魔の女性だ
人間界では戦女神とは言っても、魔界での彼女は、極一般的な二本角の鬼に過ぎない
しかも頭脳タイプで有る分、普通の鬼よりも、肉体の強度は落ちる上に、
彼女は魔力の源の角を切り落としている
ランクが全く違う上級悪魔の、その中でも最強クラスの直撃の攻撃を食らえば
その存在すら簡単に消し飛んでしまうだろう、コレは一大事だ

「……ッ何で誰も出ないッ、通信手段が使え無いッ」

足早に階段を降り、ホールを駆け抜けながら、必死にその事実を伝えようとするのだが
あの書斎に直通の端末にはやはり応答がない、通信機が何故か使え無いのだ
やむおえず、屋敷の他の場所にも同時に連絡を入れているのだが、こちらも繋がらない
本当にもう、最悪の事態になって居ると言うのか????

「おい…先生、アンタは自分でもゲートを開けるんだよな?
俺が何とかしてやるから、今すぐデーモンの館の側に、
路が貫通が可能な場所なら、何処でもいい、ゲートを開いてくれ…」

ゾッドは低くそう言うと、右手に気を集中して力を込める
彼の周囲の空気がパキパキと振動して、急激に上昇してゆくのは、その魔力だ
何も無かった筈のその空間が歪み仄かに光ると、その場所に現れるのは巨大な戦斧
先程までの優しげな目とは打って変わった、鋭い双眸が、僕を見下ろしていた

そして、大きく息を吸う彼の口から、響き渡る獣の咆吼
それに答えるかの様に、外のバイクが自走してコチラに向かってくる
ゾッドは斧を携えたままソレに跨がると、僕を自分の前に乗せてハンドルを握らせる

「王都に到着と同時に、結界をぶち破って最短距離の道を開く
アンタは振り落とされない様に、コイツにしがみついて居ればいい
運転はコイツ自身がやってくれるからな…さぁ早くゲートを開いてくれ」

ちょっと…結界をぶち破るとは、一体どういう事なの?
それ以前に僕にコレを運転しろと言うのか?今日初めて乗ったのに???
自走機能があるにしてもだ、バランスすらキチンと取れるかどうかすら危うい
どうしていいか解らずに、困惑する僕の耳に、甲高い声が降ってくる

「待ちなっ!学者の坊やに、そんな化け物マシンが、乗りこなせるワケないだろっ
アタシに任せな…王都まで一緒についてってやるよ!!!」

バサバサと派手な羽音と共に、追いかけて来たのは、あの少女だ
僕等の側にふわりと舞い降りると、返事も待たずに、僕とバイクの間にスルリと滑り込んでくる

「緊急事態なんだ!!!ガキはすっこんでなっ!危ないだろうっっ」

ゾッドが叫ぶが、少女も黙ってはいない

「だからガキじゃないって言ってるだろっっ!アタシとアシュヴィンは同い年だ!!!
若い頃は良く単車を転がして、そこらを走り回ったものさ…身体を乗っ取ってね
ハンドルを握った事も無い若造に任せるより、よっぽど安全運転に決まってるでしょ!
ゼノン?だったかしら?運転はアタシがしてやるから、アンタはゲートを開く事だけに集中しなっ!!!」

そう言うと彼女の両手足が、金属の主軸とケーブル、他の内部構造を剥き出しにしながら
成体のソレの様に長く伸びる、人間界のマジックハンドの様に、ガチャガチャと音を立てて
体格的に手も脚も届かなかった筈のハンドルを握り絞め、軽々とステップ踏む

「ナーサティアっっ!!!何してるの!!!危ない事は辞めてっっ」

少し遅れてこの場に到着した女性が、絶叫するのだが、彼女は笑って答える

「心配しないでアシュヴィン、もしかしたら、引っ越すかもしれない場所でしょう?
アタシが自分の眼で、私達に相応しい場所か確かめてくるから
アンタの脚の治療の件も含めて…何時もよりセキュリティの段階を上げるのよ
アタシが戻って来るまで、誰も中に入れたりしちゃ駄目だからね!!!」

明かに手慣れた様子で、マシンのエンジンを噴かせる少女の様子に
流石のゾッドも折れたのだろう、困った表情を浮かべながらも、ヒューと口笛を吹く
ズブの素人の僕に任せるよりも、安全運行なのは目に見えていた
僕は僕で、実際に助かっていた、直接副大魔王邸内にゲートは開けなくても
その手前20kmくらいの地点に、行政地区と市井の居住区の境界線あたりに
多少無理をすれば、狭間をこじ開け、ゲートを開くポイントを見つける事が出来た
短時間でソレが出来たのは、術に集中させてくれた、彼女のおかげではあった

ゲート開放の呪文の詠唱が終わると同時に、深紅の魔法陣とルーン文字が、染み出す様に床に広がってゆく
赤い光りに包まれながら、乗ったバイクごと、位相転位に入る僕等を
泣きそうな顔をしている女性が、ただおろおろとしながら見下ろしていた

「行ってくるよ、アシュヴィン、泣かないで、必ず戻って来るから待っていて」

もう一度大きな声で少女が叫ぶのと同時に、僕等は魔方陣の上から掻き消える
空間と時間軸を歪めて、繋がった空間を走り抜ける道中、
狭い隙間で窮屈そうにバイクを操る少女は、前を見据えたまま、ポツリと言った

「この姿は…アシュヴィンの悪趣味よ、サイボーグ体をわざと幼く作っているのよ
せめてアタシだけは、新しい魔生を送って欲しいだなんて、本当に馬鹿よね
いくら見かけだけを若くしたって、残された時間は同じなのに
あの子だって、あの屋敷から殆ど出た事が無いのに、出られなかったのに
胸元に常に悪態を放つデキモノが居たら、女らしい恋も出来なかった筈なのに
オマケに無理矢理身体を分離したモノだから、自分は半身不随になるなんて……」

文化局の資料庫の奥深くに、誰にも触れる事の出来ない場所に
アタシ達の負の遺産が隔離されるなら、それでももう構わない
だけど一つだけ条件が有る、アシュヴィンの身体を何とかしてやって
呪われた運命からようやく解放されるなら、せめて残りの時間くらい、楽しく暮らせるように

ハンドルを握り絞める彼女の手の横に、添え物の様に自分の手を置きながらも
身体の下で密着する小さな体からは、キチンと心臓の鼓動を感じる
完全な機械とは違う、部分的に生身のサイボーグ体だけが持つ、特別な温もりがある
実際、彼女の身体の殆どは、作りモノなのだろうけど
その根幹には、確実に生身が宿っている、血の通った魂と一緒に

この双子の確執が、どれほどのモノであったのか?
他悪魔の僕には、完全には理解出来ないけど…
肉親の情を越えた、深い繋がりがある事は感じる
迂闊に片方が滅んでしまえば、片割れの生存すら危うくなりかねない程の

ならば…本来は、双子を分離する必要は、無かったのかもしれない
彼女達の様に、やや結合双生児に近い場合なら話は別だが
エースの様に、完全に一つの肉体しか持たない場合は、分離する事が必ずしも良いとも言えない
両者で上手く妥協して共存する道を、模索する事は出来ないのだろうか?
魔力を半減さるだけでなく、寿命をも著しく削ってしまうより、その方がずっといい

少なくても、目の前の少女とあの女性の、今現在の穏やかな関係を見る限り
「共存」と言う方法も、充分に可能な様思えた、その時の僕にはね

「彼女の身体の状態を検査しないと、確実な事は言えないけれど…
情報提供と、邪眼の確実な封印の見返りは必ず払うよ、文化局の名にかけて」

バイクのエンジン音にかき消されない様に、彼女の耳元ではっきりとそう答えると
運転中の少女はコチラを振り返らなかったけれど、その言葉を承諾と取ったのか
それまでのギスギスとした不信感と壁が、ほんの少し和らいだ様に感じる

「………じきに出口に抜けるよ、でっかいのっ、後はアンタが何とかするんだろっ!!!」
「俺は【でかいの】で終わりかよ、全く口の悪いガキ…じゃなかった、一応レディか???
出口を抜けたら、俺に言われた通りにブッ飛ばせ、障害物は全て俺が破壊するから遠慮するなっ」

今、後ろのゾッドが、とんでもない事を言った様に思えるけど
事は緊急を要する分、早く帰れるなら、今は手段を選んでいる場合では無い
やがて前方に見えて来るのは、ゲートの出口の光りと反転した魔方陣だ
強引に開いたソレは不安定に揺れ、パリパリと魔術の歪みが放電している

「ゲートを抜けるよっ、無理に開いた扉だから、二名とも衝撃に備えてっっ」

僕の注意と共に、僕等は再び赤い光りに包まれる………

※※※※※※※※※※※※※※

催眠療法に入るなら、弱味を見せられない相手は、敢えて遠ざけた方がよい
二名の医者の言い分は、最もかもしれない…とエースは思っていた
いくら相手が最愛の愛魔でも、コレ以上はみっともない様を見せたくは無い
そう考えたからこそ、治療に応じる気にはなったが
ソレとは違うと解っていても、尋問をされる側になるのは、どうにも落ち着かない

照明を落とした室内で、焚かれているのは、事前に選んだアロマオイルだ
女医は少し離れた場所で、コチラに背を向けて何かを準備している
リラックス効果があるからと、ハーブ茶も渡されてはいるのだが、口は付けていない
当たり前だが、今回は患者である自分は、手持ち不沙汰なのだ…
我慢が出来なくて、ポケットから取り出した煙草を咥え、指先で火を着けようとすると

「ソレよりも、こっちを吸ってみない?」

腰掛けているソファの脇に置かれたのは、エキゾチックな飾りが施された、大型のシーシャで、
差し出されたのは、その水煙管の吸い口の管の様だ
音も無く近づいてきた女医が、ニッコリとコチラを見下ろしている

「………巻き煙草派で、コッチには馴染みが無いんだが…」
「大丈夫、シーシャもそう変わらないわ、コレの方が長時間楽しめるから、
飲み薬も注射も嫌でしょう?きっとコッチの方が、リラックス出来ると思うの」

そう言うと、彼女はその吸い口に、口を付けると、煙管の中の煙を軽く吸い込む
膨らんだボディーの中に、フィルター替わりに入れられた水が、コポコポと空気の泡を立てた

成る程…意識レベルを落とす薬剤は、ソレに仕込まれて居ると言う事か
ソレもゆっくり少しずつ摂取する事により、緩く長時間効く様に調整してあるようだ
拷問用のソレとは違うと事を証明する為に、まずは医者自らが、目の前で試してくれる
そのさり気ない気配りが、今回ばかりは少し嬉しかった

「お気遣い感謝しますよ…薬物の効き目が出るのに、時間が掛かりそうだが…」

減らず口を叩きつつも、彼女のルージュがホンノリと残る金属製の吸い口を、をそのまま受け取る
水煙草の方が、巻き煙草よりも優しいとは聴いていたが…そうでも無い様だ
口の中に広がる香りはマイルドだが、後頭部に穴が空いた様な感覚は
巻き煙草のソレよりもガツンと来る、中に仕込まれた薬剤の作用かどうかは解らないが

「フレーバーの調合具合は、どうかしら?」

俺と同じソファに、すぐ側に腰掛けた女医の問いかけに、エースは笑って答える

「想像していたより効く、単純に煙草としてはね…それに悪く無い…」

自白剤の方は…こんなレベルでは、まだまだ効かないが…
そう思いながらも、あえてソレは口には出さない
焦る事は無い、ゆっくり落ちて吸い込めばいい、その方がきっと安心出来るから

「俺が眠ってしまうまで、貴女の話を聞かせてくださいよ」

少し甘えた口調で、突然そう切り出したエースに、カリティは意外そうな顔をする

「なぁに?藪から棒に?私の身元調査ぐらい、情報局で把握しているでしょうに?」」
「表面上の経歴は確かに…でも良いじゃ無いですか…疑って居るワケじゃない
貴女方、魔女の言葉を借りれば、【答えられる範囲】で充分ですから
コレから俺だけが、貴女に弱い部分を晒らけ出すなんて、何だか悔しいじゃないですか?
俺も貴女の事をもっと知りたい…貴女自身の口から、それでおあいこでしょう?」

ともすれば思春期の子供の様な言い分に、年嵩の魔女は苦笑する

「まるで『千一夜物語』ね、寝物語を聞かせるシャハラザードと言った所かしら?
いいわよ一介の魔女の経歴に、貴方が興味を持つ程の事が、そう有るとも思えないけれど」

コロコロと笑う彼女を前に、エースは更に尋ねる

「………あの学者との、貴女の弟子との関係を詳しくお聞きしたい所だが、
その前に文化局の堕天使の、あの頸だけの男と貴女の関わりを知りたい………」

「あら、やっぱり疑われていたかしら?まぁ…情報局の諜報員なら当然かしらね?
大丈夫よ、私からもゼノンからも、貴方の邪眼の事は、彼には漏れていないわ
天使だった頃の彼の千里眼で見られたら、ひとたまりも無かったかもしれないけれどね
私と彼の関係?単純な古い愛魔の一名よ、人間界で出会ったのはもう随分前の事だけど…」

そんな昔の話を聞いて、貴方は楽しいのかしら?と聞き返す魔女に
エースは是非知りたいと聞き返す、薬物が効き始めているのか?少し目蓋の落ちた眠そうな目つきで

「まぁいいわ、少し長くなるけれど、時間を置くには丁度良いかもしれないわね…」

少し遠い場所を見上げながら、古い記憶とその出来事を語り始める彼女の唇を、緑色の目がじっと見つめる

※※※※※※※※※※※※※※

「そんな弱すぎる男共を喰い散らしても、お前の望みは叶わないだろうに?
なぁ…荒ぶる戦の女神よ?いや迷える鬼女よ?どうせなら私の肉を喰らってみるかね?
お前の望む様な、強い子供が作れるやもしれないぞ?」

お前が産み落としたのにも関わらず、その腕に抱く事すら出来なかった
最初の子供達に匹敵するくらいの、強い子供がね………

それは…何時もの式典の終焉に起こった出来事だった
より強い子供を産む為のパートナーを、強い男を捜し出す為の武闘会
私を倒した者を配偶者とする、婿選びと言いながら、
求婚者達を一方的に殺戮する事にしかならない、血みどろの祭りの会場に
その男は突然舞い降りてきたのだ

求婚者達の殆どは、人間界に長く棲み着いている、名だたる魔族や魔物であり
時には…人間の男の挑戦もあったのだが、どれの魔力も戦闘能力も、私には遠く及ばなかった
何故なら…二本角の市井であり、鬼特有の肉体的強度もやや劣る頭脳タイプであっても
当時の私はただ荒れ狂っていたから、深い哀しみのあまりに、興奮状態の角のカタチは長期間元に戻らず
半ば八つ当たりに近いカタチで、常に衝動を暴発させていたからだ

私が人間界で生活する様になったのは、契約通りの人数の子を成した後
ソレまで養われていた、五本角の貴族の館からの独立を選択、暇を出された後だった
単純に魔界には留まりたくなかったのだ、心の穴を埋めたかったのだ

それは…特別養子として、貴族の屋敷に入った時から解って居た事だ
私は頭脳タイプの血と遺伝子を、その一族に補填する為だけの存在で有る事は
貴族と交わり生まれた子供は、その家の実子として育てられる
市井の仮母の、私の腕に抱かれる事はない…母親と名乗る事は許されない…
許容出来ると思っていたのだ、高等教育と貴族並みの暮らしと引き替えに
子供を成す事も、その子を養い親に渡す事も………でも実際は違っていた

男鬼の特別養子は、契約の人数の子を成せば…
手切れ金と、何らかのコネクションで官吏になり、養い親から独立するのが常だが
女鬼の場合は違う、男鬼の様に充分な資金を貰い、屋敷を離れる者も居るが
そこは女親だ、我が子の行く末が気になる者も多い為、そのまま屋敷に残る者も多い
子供の混乱を避ける為、同居する事も、母と名乗る事は許されず
用意された別宅から、モニター越しにその成長を見守るだけ
その後も生まれた子を全て提供する事を条件に、それまでの同等レベル生活を保障される
表には出ない飼い殺しの妾として、ひっそりと生涯を終える者も少なくはない

でも…そんな結末も耐えられなかった、例え一生涯、何不自由の無い優雅な生活が出来ても
だから…最初の契約通りの人数の子を成した直後に、養い親から独立した、自らの本当の魔生を始める為に…

独立して直ぐに、同レベルの市井と火炎系悪魔と良い仲になり、子供も出来た
同族の男鬼は、最初から選択肢にはなかった
生まれた子供が、純血の鬼の子が、頭脳タイプなら…また貴族に取り上げられてしまうから
初めての恋愛と、抱いた我が子に感動を覚えながらも、それでも心の隙間が埋まらない
貴族の館に残した子供達の事が、忘れられないのだ…
そんな行き違いから、最初の男とは早々に別れる事になる

生涯同じ相手と添い遂げる等と言う観念は、そもそも魔族には無い、それに傷ついたりはしないのだが
ただ…魔界には居たくなかった、顔も見せられない子供達と同じ地に居たくはなかった
だから…末の息子ピンガーラを連れて人間界に移り住んだ、それだけの話だった

人間に化けて、呪い師の真似事をしながら、ひっそりと穏やかに暮らすつもりだった
しかし身体の内側の鬼の衝動が、より強い血を欲する欲望が抑えられなくなる
人間界にも魔族は潜んで居る、魔界で生活出来ない弱者から、
他の何らかの事情でコチラに居を構える者も、その種族も魔力レベルも様々だが
長く人間界で生活する者は、特に力の強い者は、荒ぶる神として恐れられ、奉られている者も多かった

収まらない衝動と渇望は、ほぼ八つ当たりに近いカタチで、ソレ等の先住の者達に向いた
魔力の強い者の話を聞けば、手当たり次第に勝負を挑んだ…その力を確かめる為に
気がつけば…私自身が、異教の神として、戦の女神として奉られる様になっていた
邪気を払う守り神として神殿が建ち、偶像が崇拝される
そして、血を好む私の為に祭が開かれる様になる、荒ぶる神を慰める「婿選び」の名の下に

人間の信徒達のソレは、最初は迷惑なものでしかなかったが
人間の信仰心と言うモノは不思議なモノで、その思いが強ければ強い程に
その対象である私の魔力を、少しずつではあるが、補填してゆくのだ
コレは神の子である人間の、何度も転生が可能な強い魂故の独特な力、能力なのだろうか?
信徒を増やし、貴族の館で飼われていた時とは、比べ物にならない魔力を持った私は、有頂天になっていたのだろう
人間達の信仰心に見合う対価は支払いながらも、その見返りとして、定期的に提供される男達を切り裂き
血祭りの生け贄の鮮血を浴びながら、常に乾き満たされない欲望を、歪んだカタチで慰めていた

そんな私の前に現れたのが、あの老賢者だったのよ…あの頃は今の姿とは違う
もっと天界寄りの優男な感じだったかしら?人間界での名前はサンジェルマン…

※※※※※※※※※※※※※※

「………あの男の本来の姿は、貴女も見た事が無いのか?」

不意に口を挟んできた赤い悪魔に、カリティは笑って答える

「そうね、言われて見れば見た事は無いわ…
外見がどう変わっても、力の波動で、彼と解るから問題は無いけど
人間界に降臨する時は、何時も人間の身体を借りているわね
実体の時も…その時の役目に合った姿に化けている事が多いかもしれないわね
私の憶測だけれど…彼、本当の姿は、あまり好きじゃないみたいよ
多分だけど、彼のオリジナルに…似ているのかもしれないわ」

老賢者のオリジナルであり、別離した本体、すなわち悪魔の宿敵である天界の「神」
目の前の悪魔がピクリと反応したのは、その事実の為だと彼女は思った

「それで…地上の戦神だった貴女は、強さを求めるあまりに、天界の者でも受け入れたと…」

水煙草の煙をさらに吸い込みながら尋ねる相手に、彼女は更に続ける

「………まさか、闇の生き物は、光の生き物には、惹かれるワケがないじゃない?
犯して殺す、陵辱する方ならともかく、コチラから抱かれたいなんて有り得ないでしょ?
勿論断ったわよ、馬鹿にされたと思ったから、挨拶代わりの破壊魔法を繰り出しながらね
そうしたら、彼はどうしたと思う?そんじょそこらの悪魔よりも遙かにタチが悪かったわ
多分…貴方よりも、情報局そのものよりも、最悪だったかもしれないわね………」

※※※※※※※※※※※※※※

渾身の力を込めて繰り出した破壊魔法を、片手で易々と受け止めた男は
爆風で逆巻く金髪を靡かせながら、ニヤニヤと笑いコチラを見下ろしている
見た目だけならば、女の私と大差の無い、小柄で華奢な体躯ではあるのだが
天使にとっては、力の増幅器官である筈の翼を、体内に格納したままで有るにも関わらず
天井知らずに上昇してゆくソレに、ただ唖然とするばかりだった

次第に強く感じるのは、生命の危機と恐怖…逃げなきゃこの男の攻撃の射程距離から
単純な恐怖心から震え始める身体を自ら抱き締め、間合いを取ろうとしたその時

男の異国情緒溢れる衣装の下から見え隠れする、小さな影に気がついた
角の有る幼子…見間違える筈もない、私の末の息子、何故息子が天界の者の手に?
私を奉る神殿の奥深くに、安全な結界に護られた宮殿に、侍女達と共に隠していたはずなのに…どうして???

狭苦しい捕獲用の結界に閉じ込められた息子は、眠らされているのか?
胎児の様な姿勢でその中に浮かび、ピクリとも動かない
半狂乱になった私は、恐怖心も何も有ったモノではない、闇雲に攻撃を仕掛けるが
男はひらりひらりと、その全てを笑いながら躱しながら
両手でジワジワと息子の入った結界を縮めてゆく、やがてビー玉大の大きさになったソレを
わざわざ私に見せつける様に、ゲロリと飲み下してしまったのだ

戦女神である前に母親であった私は、金切り声を上げ、ただ絶叫する
結界ごと飲み込まれたのであれば、即それが死には結びつかない
だが…目の前の男を倒し、その腹を切り裂かねば、我が子を二度と腕には抱けない
既に変形している私の角は、更に大きく禍々しいカタチに変化する

絶対的な力の差のあるこの男に、到底勝てるとは思ってはいない
例え自己の生命維持を無視した力を暴発させたとしても
パリパリと放電しながら魔力を限界まで上げる私を、頬まで裂けた口と鬼面を見ても
天界の男は冷ややかな顔で言い放った

「信徒には見せられぬ姿になっても、立ち向かって来るか?哀れな鬼女よ…
だがココでは駄目だ、地上の子羊達が巻沿いになるだろう?
我が子を返して欲しくば付いて来るがいい、次元の果てまで…さぁ来い……」

男が芝居がかった身振りで、上空に向けて手を翳せば
空間に巨大なヒビが走り、その向こう側には時間軸のねじ曲がった、為体の知れない空間が広がっている
充分に口を開けたその入口に、背面から倒れ込む様に男が消えれば
怒り狂った女神は、何の躊躇も無くその後を追いかけ飛び込んでゆく
次元の隙間が、二名を飲み込んでしまうと、広がった裂け目は逆再生の様に修復され
まるで何事も無かったかの様な、何時も通りの夕闇の空がそこには有った

血塗れの闘技場で、女神の信徒達も、命拾いをした求婚者達も
ただ狐にでも化かされた様に、何もなくなった空を見上げる事しか出来なかった
祭の主役は、彼等のあがめる神は、跡形も無く消えてしまったのだから

※※※※※※※※※※※※※※

「それで?その後は………」
「ええ、もうボロカスに叩きのめされたわ、次元の隙間は、彼が普段から暗躍する、テリトリーの様なモノだもの…」

どちらが上か下かも解らない空間の時空は歪み、生き物の影は見当たらない
朽ちかけた船や戦艦、飛行機等の大物から、ガラクタに至まで、時代はバラバラの物質が、無秩序に漂っている
人間界・魔界・天界その他異界にて、神隠しと呼ばれる現象で突然消滅した物質は
全てこの場所に流れ着いているのでは?そんな印象すら受ける有様だ
上級悪魔が位相転位に使用する空間とは、また異なる次元であり空間なのだろう

先にココに滑り込んだ天使を追いかけて、何も考えずに飛び込んできたものの
ただ相手を探し飛び回っているだけでも、魔力を著しく消耗する、まるで空間に吸い取られているかの様に

それでも…必死に子供の名前を呼びながら、辺りの浮遊物を破壊しつくした
何処かに私の子を飲み込んだままの男が隠れている…その姿を目視で確認したくて

「やれやれ…お気に入りのインテリアを、壊さないでもらいたいね」

すぐ側で声がしたと感じた時には、真後ろの至近距離にあの天使が居て、ニヤリと嫌な笑みを零す

「これから私のモノになる身体に、余計な傷は付けたくは無いんだよ…」

そう言いながらも、右手に込められた光りは渦になり、私に襲いかかってくる
至近距離から衝撃波と共に、情け容赦なく私の身体を貫いた
コレは…天使がよく使用する【光槍】…その威力を損なう事なく、光矢のサイズにまで小型化した無数の刃
そのまま難破船の甲板に叩きつけられ、その床面に縫い付けられたカタチで、藻掻き呻く私を見下ろし、天界の男は笑った

「君との勝負に勝った男は、その身体を好きに出来るんだろ?約束は果たしてもらうよ…」

傷付き血を流す私を、身体を貫く武器ごとその場から引きはがすと、そのまま抱き上げる
連れ込まれた場所は、大航海時代の海賊船と言った所か?比較的手の入っている、別の難破船の一室だった
船尾に設えられた、豪華な調度品に囲まれた部屋は、おそらくはこの船の船長室か?
キングサイズのベッドに、丁寧とは言いがたい状態で下ろされると
抵抗する暇も与えられずに、いきなり組み敷かれ、肌を弄られる…

身体に刺さったままの光槍を、一本づつ抜き取られ、儀式用の華美な甲冑を順番に剥ぎ取られる
それでも藻掻き、何とか逃げだそうとする私を、男は器用に押さえつけながら
血が溢れ出す傷口に唇を寄せると、直接治癒魔法を流し込んでくる
敵に良いようにされるダケでは無い、情けを掛けられる惨めさに涙を流す私の耳元に
背後から抱き締めるてくる男が、耳を舐め上げながら囁いてくる

「………息子を返して欲しいんだろう?だったら、大人しく言う事を聴くがいい
可愛いカリティ…君の事は前から知っているんだ、気に入っているんだよ………」

天界人に目を付けられる理由なんて解らない、それに何故、本当の名前を知っているの?
それ以前の問題で、天使は無性生物の筈なのに、何故この天使は男性体なの?
禁忌を犯しているはずなのに堕天しないの???何なの?何者なのこの男は?
混乱する頭では思考が上手く纏まらない、けど…息子はまだこの男に飲み込まれたままだ
今のレベルでは、この男には勝てない、私はどうなっても構わないけど…息子はどうなってしまうの

もう、どうする事も出来なくて…ボロボロ泣き濡れながらも、身体の力を抜き抵抗を諦めた私を
今度は正面から抱きすくめると、男は満足気にキスを落とす

「イイコだ…3日間だけ我慢したまえ…そうしたら子供は君に返してあげよう」

剥き出しにされた乳房を舌で嬲られて、股を割り下に伸びてきた指が内側を弄り始めれば
何もかもがどうでも良くなってしまった、そうだ…たった3日…3日間の我慢だ
それで息子が無事に戻ってくるなら、今はソレで構わない…
この辱めの復讐は何時でも出来る、何なら睦事の間に寝首をかく事だって出来る
こういう時の男程、無防備なモノは無いのだから…逆に貪り喰ってやる鬼の名にかけて

甘ったるいそれらしい声を上げてやれば、単純な男は直ぐにいい気になる
深紺の目を細めて、更に私を強く抱き締める男の肌が熱い…
脚を持ち上げられ、宛がわれるソレの質量を感じながらも、私は男の腰に脚を絡める

せいぜい刹那的な快楽を貪ればいい…この報いは必ず受けてもらう

組み敷いた鬼女の薄暗い気持と企みを、知ってか?知らずか?
天界の男は意味深な笑みを零すと、興奮しきったソレで一気にその身体を貫いた
人間界に来てからは、殺戮の衝動に身を任せるばかりで、ロクに男と寝てはいない…
久しぶりに抱かれるには、凶悪すぎる質量のソレに、悲鳴を上げる私に構わず
悪魔よりも極悪な白の男は、欲望をねじ込み、震える身体を貪り尽くす骨の髄まで

悔し涙を流しながらも…息子を質に取られてはどうしようもない
最悪の3日間のはじまりだった…


続く

ちょっとした昔話の出演なのに、極悪天使ヨカナーン(サンジェルマン)相変わらずです
コイツを出すと、好き勝手に暴走しまくる…筆者の手すら離れて?何故だろう???
まぁ…このサイトにおける?奴の初期設定と大活躍?を知らない方、知りたい方は
【RX+師弟悪魔】ページの『ソレが二つある理由』をどうぞ→説明が超投げやり???
サンジェルマン時代の見た目は、実物の肖像画通りの外見でも可?カリオストロ伯爵でも
為体の知れ無さでは…石ノ森章太郎版のサンジェルマン伯爵のイメージが良いかも?

◆ アシュヴィンとナーサティア マッドサイエンティストの子孫

アシュヴィンが本体の方で、ナーサティアの方が奇形嚢腫の方です
分離前は、殆ど結合双生児の様な感じでしたが…一応二名とも実年齢は初老の女性
ナーサティアはサイボーグ体の為、若干?若作りですが
ナーサティアのモデルは勿論『ブラックジャック』のピノコに、内面的な部分は少しキリコも入ってます 
外見は…映画版の『アシュラ』のアシュラを身綺麗にして、女の子にした感じ?
アシュヴィンは…内面的には狭間黒男かな???多分外見の方は、コチラこそキリコに近いだろうけど?
一応お医者様です 名前はインドの双子神から拝借しています

◆パラケルとパラケルスス マッドサイエンティスト【邪眼】手術の開発者

パラケルススは、人間界で唯一ホムンクルスの製作に成功したとされる人物
古代の医師パラケルを尊敬するあまり、「パラケルを越える者」を名乗っていたそうですが…随分歪んだ愛情だこと
本作品ではパラケルが本体・パラケルススが奇形嚢腫と言うカタチで出てきます
最終的にパラケルはパラケルススに乗っ取られたのか?どうか?は謎のまま
見た目は『リヴァイアサン』の四つ目・国管理局の坂上武をそのまま老けさせた感じ
中身は…『バジリスク 甲賀忍法帖』の薬師寺天膳系列かな???

以上…興味がある方は、是非検索してみてください

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