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【クロス・オーバー・ポイント】
『メディカルセンター』5 部分鬼畜A×X+邪眼の原点回帰・暗黒設定有り

もう格納する気力もなくて、ダラリと垂れ下がる翼も血塗れだ
結界の媒介に使っていたそれも、強引に引き摺り出され、切り裂かれてしまった…空間の破壊の為に
毟り取られた黒い羽根が辺りに拡散して、それからもポタポタと血が滴っていた

身じろぐ余力も有りはしない、ただ相手に好きにさせ、その昂ぶりを受け止めるだけ

滅茶苦茶に犯されて、嬲られて、身体の方も、反抗する気は失せてしまった様だ
何度も中に出されている分、抵抗はなくなり、揺さぶられる度に、グチャグチャと水溶性の音はするけど…
傷ついて、すっかり緩んだソコを犯したところで、さほど楽しくは無いだろう?
血を流しすぎているせいか、コチラももう感覚なんて殆ど無い、ただ酷く寒い
強度の高い鬼の肉体の僕は、この程度で死にはしないけど
反応が殆ど無い僕をいたぶっても、さして面白くは無いだろうに…

ただ現実から目を反らし、嵐が通り過ぎるのを、無気力に待っている…
そんな態度が気に入らないとでも言うのか?相手が、苛立っているのが解る
伸びてきた手が、乱暴に僕の角を掴み取り、そのまま爪をたて握り絞めてくる
行為は予測出来たけど、体勢が悪くて逃げ切れなくて震える僕に、赤髪はニヤリと嫌な笑みを零す

「………やっぱり、ココは最後まで感覚が残るのか?」

言うや否や、更に指先に力を込められる…頭を振り逃れようとすれば、全くの逆効果だ
折り取るワケではなく、絶妙な力加減で圧迫されるそれに、骨がミシミシと悲鳴をあげ、激痛が脊髄にまで走る
我慢仕切れずに漏れる声と、溢れ出す涙を見て相手は、酷く嬉しそうだ
苦痛に呻き藻掻く僕を押さえつけ、中を抉るソレがグンと大きくなるのが解る

「ふん…やる気を出せば、まだよく締まるじゃないか?」

狂った患者を外に出せないんだろ?じゃあもっと気を入れてつきあってくれよ…
この昂ぶりが、センセイの言う「安全なレベル」に収まってしまうまで

「うぁっああぁ……ひっ……あああっあああっ」

弱点をギリギリと締め上げながら、中を乱暴に掻き回される
痛みで収縮するソコを、更に凶悪になったソレが無茶苦茶に突き上げてくる
その激痛と息苦しさに、苦しむ僕の様子に赤髪は、興奮しているのだろう、息遣いが荒い
コチラの都合も考えずに、好き勝手なゴタクを並べられも、僕はもうとっくに限界だ
圧迫感で吐き気が止まらない、もう意識も保てない

ああ…駄目だ、もう抑えきれない…

甲高い金属質の音と共に結界全体が綻んで、一気にヒビが広がってゆくのが嫌でも解る
割れた鏡の様に、バラバラと飛び散る結界の破片が、辺りに降り積もる
粉々になり仄かな光りを放ちながら、崩れてゆくその光景を、赤髪は笑って見上げている
繋がったままの僕を、傷つきボロボロの術者を、強く抱き締めながら

「………ほら、お迎えがちゃんと待ってるみたいだぜ」

朦朧とする視界に映るのは、巨大の戦鉞を構えた見慣れたシルエット
崩壊した壁の向こうで、ゾッドはずっと待っていたのだろう、僕の結界が崩れ落ちるのを、
無残な傷を負っている筈の僕を、誰よりも早く回収する為に

「おい…いい加減にゼノンを離せ、もう充分だろ…いくら相手がお前でも、ソレ以上は勘弁出来ねえ………」

低いその声は怒気を含み、前髪の下の双眸は、薄暗くギラギラと光っている
普段の彼からは、想像も出来ない程の厳しい表情で、彼は僕と赤髪を交互に睨み据える
同じ上級悪魔と言っても、魔力レベルが全く違うのだ
破壊者の赤髪がその気になれば…ゾッドだってひとたまりもないのだが
言わずには居られないのだろう、僕も親友も彼にとっては大事だから
絡み合う両者の視線は、明確な殺気が籠もり、間合いを保ったまま互いを鋭く睨む

威嚇などと言う生やさしいモノではなく、剥き出しのソレは雄のプライドだ

僕を抱き込んだままの赤い魔物は、相手を完全に見下した様な笑みを零すと
ぐったりと項垂れる僕を、わざわざ引き摺り上げると、強引に両脚を開かせる
ズタズタに切り裂かれた全身の傷口と、浸食されたままのソコを、態々相手に見せつける様に

「………ッ、やっやめっ……」

当たり前の羞恥心から、必死に両脚を閉じようとする僕を器用に押さえつけると
先程までは、ただ苦痛しか与えなかった手が、今度は性感帯だけを執拗に嬲りはじめる
今迄ワザと外され、少しも触って貰えなかった、内側の良い部分を重点的に弄られ
同時に色情魔神と言われる程の手管で、前も扱きあげられては堪らない
与えられ続けた苦痛で過敏になった分、正反対の快楽を、身体が反射的に貪ってしまうのは…仕方が無い事なのか?
ソレを上手く余所に逃がす事も、我慢する事も出来ずに、吐息が濡れ始めるのは
我ながら情けないとは思うよ…僕の為に怒り狂っているあの子の目の前なら尚更だよ
背を丸めて「もう嫌だ」と悲鳴をあげながらも喘ぎ、結局は追い込まれてしまうのだ浅ましい程に

「…………」

赤髪がぽつりと何かを呟いたけど、僕の耳にソレはよく聞こえない、でもゾッドにはソレが聞こえていたのだろうか?
激高した彼が投げつけた斧は、僕の髪を掠めて、その背後の男に真っ直ぐに飛んでゆくのだが
赤髪は笑いながら、ソレを軽やかに躱すと、ようやく僕を突き飛ばし解放する
拘束されたままでは、上手く受け身が採れなくて、二の腕と肩を床に打ち付けてしまったけれど
ようやく終わったソレに、安堵している自分もいる
乱れた髪越しに赤髪を見上げれば、
妙に挑発的だけど複雑な表情と目つきで、僕を見下ろし一瞥すると、あっと言う間に踵を返してしまう
最早意味を持たなくなった、僕の結界の残骸をつきやぶり、部屋の外に飛び去っいった

「………大丈夫か?………また、酷くされたもんだな」

駆け寄ってきたゾッドは、床に投げ出された僕を助け起こす
携帯用のナイフで、僕の手首に食い込んでいるケーブルを切り取ってくれるのだが
ようやく自由になった両腕は痺れて上手く動かない、ソレをそっと僕の腹部に乗せると
預けてある何時ものケープで、手早く僕の身体を包み、無残な傷跡を覆い隠してしまう、職員達が戻ってくる前に

事情は他の職員にも理解はされていても、他魔にはあまり見せたくはない傷だから
治療は自分で施し、このままプライベートエリアに籠もってしまうのも何時もの事だけど
流石に直後に自分で動くのは、酷く苦労するからね、自室まで運んでくれるのも、ゾッドの役目なのだ

いくら気心が知れて居るとは言っても、
ゾッドに、この傷を見せて平気…と言うワケでは無いのだけれど
ある程度面識のある彼じゃなければ、赤髪の凶暴性の方が勝る危険性もある事と
他の奴にこの為体を晒すくらいなら、彼の方がマシで気が楽だから…ただそれだけだ

以前は…赤髪が立ち去った後も、彼は結果的には何も出来ない自分を責め
収まらない怒りの矛先を、僕に向けてきたりもしたけれど
今はそんな事は無いから、彼も余計な事は一切言わない
中途半端な同情は、僕のプライドを余計に傷つけると解っているから

だから他者の目から僕を全力で護ってくれる、少し頑なすぎる程に

納得は出来なくても…僕が決めた事なら、それ以上の口は挟まない
そんな大人の反応が、今は心地が良いから、こんな時にはつい甘えてしまうけど
僕が傷付く事に、僕以上の痛みを感じるらしい彼に対しては、きっと残酷な事をしているのかもしれないけれどね

「……今回は、僕の方は、そうでも無いよ、処置室の壊滅の方が大損害だよ」

もう指を動かす事すら億劫なので、僕もゾッドに頭を預けてされるがままだ
壊れ物の様に丁寧に抱き上げてもらいながらも、縋り付く事すら出来ない
密着した彼の肌の温もりが、冷え切った身体には妙に心地良くて
そのまま意識が遠のいてしまいそうになるけど…
まだ事後処置が残っているから、まだ堕ちてしまうワケにはいかない、後で泣きを見ない為にも
そんな事情も解ってくれているから、後からやってきた職員達にその場を任せると
彼は足早に崩壊した処置室を後ににする、僕の研究室に向かう為に

運ばれながら僕はゾッドに聴く「ところで閣下の方は大丈夫なの?」と、すると

「ああ…どっかの大馬鹿野郎が、艦隊からの集中砲撃の直撃を身代わりで受けやがったからな
見た目は派手な傷だったが、もうがっちり復活してピンシャンしてるぞ
すっ飛んでいったアイツに、ご自慢の子守歌を披露するにも、困らない程度にはな…」

と、ぶっきらぼうな返事が返ってくるのを見れば…時間稼ぎは充分に出来た様だ
しかし…閣下の方にも捨て身の攻撃は、自重して貰わないとね、後で嫌味の一つでも言わせてもらうよ
いくらお説教をした所で、効果は無いのは解っているけどね

将軍クラス同士の一騎打ちは、戦場の華とは言え、相手が何時も正々堂々とは限らない
騙し討ちに近い攻撃を繰り出して来る事だって有る、勿論天界側だけではなく魔界側も
そんな事は解りきった事なのに、あの副大魔王は、サシの勝負を求められれば、必ず矢面に立ってしまう困った癖がある
ソレが軍全体の戦意高揚になる事も、兵士の損害を抑える意味も有る事は理解するが
キングが自らが前線に出るのは頂けない、僕から見ればね…彼程の地位なら、非効率な挑発に乗る必要は無い
大魔王家と同様に、陣営の奥で指揮を取って貰う方が、遙かに助かるだろうに

それでも、理屈では解っていても、戦上手の名将が多い魔界の古くからの豪族だからね
戦闘民族の悪魔らしい好戦的な昂ぶりが、抑えられないのだろうけど
しかし、せめてエースがキレない程度に、自重して貰わねば、敵諸共に味方の被害にまで拡大してしまう
コチラにもとばっちりが来てしまえば、身体が持たない…最近は暴走の回数自体が減っていたとしてもね

まぁ…ゾッド自身が、既に閣下の側を離れている所を見れば
司令官の負傷と赤髪の出現で、混乱した最前線も、持ち直しては居るのだろう
彼を護る剣は、あの赤い愛魔だけではない、有能な参謀もついているのだから
最も今回の一件で、怒り狂ってはいるだろうね
敵味方に関係無く、無駄な殺戮が大嫌いな、あのお優しい水妖の君は

「さて損害の請求は情報局にするべきか?無茶をした閣下に被ってもらうか?どちらにすべきだろうね?」

ボソリと呟く僕の顔を、困った瞳が見下ろしている、「そんな事を俺に聴かれても困る」と言った風に
ああ…お前を困らせるつもりは無いから、そんな目で見なくていいから
どうせどちらも言い値で払ってはくれるからね、精々前より良い機材を揃えさせてもらうさ

※※※※※※※※※※※※※※

廃屋の同然の屋敷の中を進み、案内された場所は…かつての処理室なのだろうか?
古めかしい医療器具の並ぶその場所は、荒れ果てた酷い有様だ
ここに踏み込んだ治安部隊?あるいは技術を盗みに来たモノ達に荒らされたままなのか?
無機質な室内には滅茶苦茶だ、色あせた手書きのカルテが床に散らばり
棚の標本や薬品も乱暴に抜き取られて、割れた薬瓶が転がり、
乾ききった溶剤が、乾きこびりついているのだが、変色した跡すらそのままだ

僕達の先を進む女性達は、ソレ等のモノには目もくれず、そのままその奥に進んでゆく
部屋の最奥には医術を目指す者、生業とする者にはさして珍しくもない
【ケーリュケイオン】の紋様、属に言う【ヘルメスの杖】が描かれた壁が見えるのだが
おや?良く見れば、これも少し変わっているね…
普通は杖に巻き付いた二匹の蛇は、互いに向かい合っているモノなのだが
その壁に刻印されているソレは、互いに目線を合わさぬ蛇が別々の方向を向いていた

「Befreiung」

車椅子の女性が手を翳してそう唱えると、壁と見せかけていた残像が乱れて、小さな隠し扉が出現する

「どうぞ…コチラに…」

振り返って、僕等を招くその顔は、酷く疲れていながらも、ふっきれた安堵感を感じる
背負い込んでいた、厄介な重荷を、ようやく下ろす事が出来るといった風に見える
だからだろうか?特に警戒する事もなく、彼女の求めに応じる僕を
真後ろの大男は、「信じられない…」とでも言いたげな顔をしているのだが
それでも、おっかなびっくりしながらも、ついて来るのが滑稽でもあり奇妙な感じだ

小さな入口を潜れば、予想していた通りだね
その先には本物の研究施設が、息を潜める様に隠されていた

棚に整理された膨大なカルテに加えて、バスケットボール大のフラスコが幾つも立ち並んでいる所を見れば
ココはクローン技術が発達する前に流行った、ホムンクルスの合成魔族の生成施設の様だ

生殖を伴わずに誕生する小型の合成生物、ホムンクルスは、
片親の生殖細胞に、特殊な施術を加える事により誕生する擬似生命体だ
人間界のソレとは違う、魔族の細胞を使った合成生物は、もっと容易に作れるからね

後付けユニットの【邪眼】の元になっていたのも、ホムンクルスの部分的パーツだ
殺処分された被験者から取り出した、サンプルの解析調書で、それは解ってはいたが
パーツ使用されたのは、フラスコの外でも生きられる、小型の原始生物タイプの方で
知性どころか自己意識も無く、もっと簡単な設備・条件でも培養量産する事は可能な代物の方だ

しかし…どうやらココは、もっと大がかりな施設の様だ
それこそ生まれながらに、成体の魔族レベルの知性と知識を持ち、
自己意識と虚ろな魂を備えた、高度なホムンクルスを作り出す事も出来た筈だ
しかし高度なホムンクルスには欠点が有る、その虚ろな魂が問題なのか?
彼等はフラスコから出てしまえば、途端に身体が崩れてしまうのだ、泡の様に
歪んだ発生から生まれた高度生命体には、外で生きる力は無いとでも言わぬばかりに

故に体細胞からオリジナルと同じ身体、部品が作る事が可能なクローン技術が確立されると
等身大に引き延ばす事も難しい、ホムンクルスの作成技術は急速に廃れてゆく
今では…ソレを使用するのは、違法な邪眼手術を生業とするモノだけだろう

今は骨董品と成りはてた実験設備を、興味深げに眺める僕に、白髪の老女は唐突に言った

「学者様は…ホムンクルスの原型について考えられた事はありませんか?」

ホムンクルスの原型?そう言われてみれば、考えた事はなかった…
簡易的な分身、肉体のパーツを作る意外の目的では無かったと言うのか?
人間や他の魔族のソレとは違う目的だった?少なくとも、彼女の一族の中では?

「見た所、貴女も研究者の様ですが、パラケルスス殿の御遺族ですか?
学者様は辞めて頂きたい、年上の貴女にそう言われるのは、何やら歯がゆいですから
申し遅れました…文化局のゼノンです、コチラは護衛についてきてくれたゾッド
盗賊の類いでは無いと認めて頂き、感謝いたしますよ…」

問いに答える前に、まずは絶対的な、距離感を縮めないとね
カリティや他の年嵩の魔女達に、躾けられたワケでは無いけれど…
かつては朴念仁と言われていた僕も、女性の扱いには慣れてきたモノだ

その手を取り、車椅子に乗った彼女と、同じ目線にまで腰を落として挨拶をするのだが
相手は上級悪魔の僕が、犯罪者扱いをされている身内に敬意をはらった上に
下級悪魔の自分に、ソコまで謙った態度を取るとは、考えていなかったのだろう
気恥ずかし気に視線を逸らす仕草が、年嵩の女性であっても妙に可愛らしい
しかし、その横で黒髪の少女の方は、相変わらず鋭い目で睨み付けているので
彼女にも同じ様に挨拶はしたのだが、コチラはそっぽを向かれてしまった
まぁ…ここの警備的な役割を担っているのだから、そう簡単には警戒心は解けないか…

「………ナーサティア、お客様にお茶を用意してくれるかしら?」

それでも白い女性にそう言われれば、もうソレ以上は、異議を唱える事を諦めたのか?
少女は、不満そうな顔をしつつも、別の隠し扉から何処かに消えていった

「………話の腰が折れましたね、先程のお話ですが、考えた事が無かったかもしれません、
若輩の僕にとっては、クローン技術の前段階の古い技法としか…
ただ、貴女達と広間の肖像画を拝見する限り、
貴女の一族は、双子ないし多胎児が多い血統で有る事だけは確信いたしました
であれば…ここからは僕の推論でしかありませんが、奇形嚢腫も潜在的に多かったのではありませんか?」

それが…もしかしたら、貴女の一族の医療・ホムンクルス研究の原点であり
【邪眼】は、その副産物だったのではないか?と考えているのですが…
と静かに答えれば、彼女は深い深い溜息をつく

「あの肖像画だけでソコまで気づかれた方は、貴方がはじめてですわ…
確かにおっしゃる通りに、多胎児で生まれない者の方が、少ないのは事実…
同時に連結双生児と、嚢腫も多い事もご指摘通りです、今席を外している姉も、私と一つの身体でしたのよ
私達が互いの肉体を分離出来たのは、生まれ落ちてから随分経った後ですが…」

二つの身体に生まれる事が出来なかった、哀れな子供達を、後天的に分離する為の技術
スペアの、魂を持たない肉体を作り出す為のホムンクルス研究
最初の出発点は間違って居なかったはずなのに、何処で道を踏み外したのでしょうね…

そう言って自嘲気味に笑う彼女に、僕の推論の裏付けを感じる、困った方のね
先天的な【邪眼】は…脳の部分的な機能でも、多重魔格でもなかったのだ
この世に生まれ落ちる前に淘汰された、もう一名の個体…一卵性双生児の片割れだ

※※※※※※※※※※※※※※

「………おい、俺にも解る様に、ちゃんと説明してくれよ」

彼女との会話を、資料として全て録音・録画しようと準備する僕の腕を引き
専門用語ばかりで、話の内容のついてゆけないと、説明を求めるゾッドに、僕は話を噛み砕く

「解りやすく言えば、悪魔に双子はあまり居ないでしょう?何故だと思う?」
「そりゃ…双子は魔力が低くなるから?ちゃんと生まれてくる力が少ないから?」

ふぅん…一応そういう常識は解っているんだね

有精卵と同時に、ダミーの無精卵を産むタイプも確かに居るが、魔族は多胎児の子を儲ける事は少ない
基本一度の出産で誕生するのは、一名なのが原則だ、胎生・卵生に関係なく
多胎児が仮に無事に生まれてきても、栄養と魔力不足からくる発育不全で、魔力も体力も低い出来損ないになつてしまうからだ
それ以前に…生まれ落ちる前に、腹の中でも生存競争は始まっているんだ、本能的にね
先に成長した方が、早い段階で、成長の遅い片割れを取り込んでしまうのだ
魔力の分散を避け、せめて片方だけは、普通の肉体と魔力で生まれる為に

それが当たり前の自浄作用なんだけど、どうやら彼女の一族は違うらしい
多胎児がそのまま…もしくは不安定な状態で生まれ落ちる、そういうDNAの持ち主なのだろう…珍しい事だけれどね

「普通だったら、取り込まれた方の肉体なんて欠片も残らない…片割れが成長する養分になってしまって
でも彼女達の一族の場合、中途半端に身体の中に残ってしまうらしいね、おそらく自己意識も持って
ソレがあの女性と少女の関係だよ、少女の方が寄生するカタチになっていたんだろうね」

そこまで説明されて、ようやく事態が納得出来たらしいゾッドは、マジマジと目の前の女性を見る
きっとその視線は、普通だったら、かなり不躾なモノだったのかもしれないが
彼のソレには、他者のソレから感じる嫌悪感が感じられないから不思議だ

女性は書棚から古ぼけたアルバムを取り出すと、僕等に中身を見せてくれる
色あせた写真の中に映る幼女は、彼女…いや正確に言えば彼女達
当時のこの屋敷の財力には、余程余裕があったのだろう、
実用的な子供の衣装とは思えない程に、ふんだんなレースとストーンを散りばめられた、ドレスを着てはいるのだが
その小さな胸元には…やや小さいもう一つの顔が、人間で言う所の人面瘡の様に張り付いていた
そして彼女達を抱き上げる、白衣姿の男性も何処かが奇妙だ
特に余分な部分は無さそうに見えるのだが、その額には斜めに並んだ二つ目が…
やはり小さめの一対の目が、ギョロリとコチラを向いている、その顔にある両眼とは別にだ

「パラケルススと名乗っていた博士が、本当に祖父だったのか…今でも解らないのです」

「パラケルスス」と等と言う通り名の方ばかりが、今は一人歩きしておりますが
祖父が親からもらった本当の名前は「パラケル」ですから
「パラケルを越える者」と言う意味の、「パラケルスス」と名乗り始めたのは
あの【邪眼】の手術で、巨万の富を得たあたりからだったと記憶しています

私と姉は…同じ身体を共有いていても、脳も内臓も分かれている部分も多かったのですが
祖父…いや祖父達の場合は、外見上は殆ど融合していたのも同じでしたから
時折変わる魔格も、多重魔格では無いか?と思っておりました、一族の者でも

少なくとも「パラケル」と名乗っていた頃の祖父は、聡明な方でした
不完全な状態で生まれて来る一族に、一般市井並の生活をさせてやりたいと
ホムンクルスと、サイボーグ手術の研究に明け暮れておりました
身体を二つに分ければ…双子のどちらも不幸には成らない、そう考えていたのでしょう

「だけど…その研究には莫大な費用が掛かる、
チンケな町医者が、貧乏人を相手に稼ぐ小銭じゃ間に合わない…
そう考えたんだろうね、あの爺さんの中のもう一名の奴はね」

不意に口を挟んで来たのは、席を外していたはずの少女だ
乱雑にモノが置かれたテーブルに、強引に場所をつくると、持って来た茶器を乱暴に置く
カチャカチャと陶器が音を立てるが、セイロン茶の優しい香りが室内にたちこめる

「………アイツは…寄生される側じゃなくて、寄生する側だったクセに、
あんな酷い手術を開発しやがったんだ…自分が自由になる為に
いや違うか…だからこそ思いついた、アイディアだったのかもしれないけれど
いずれにしても最低な野郎だよ、あんな奴…あんな奴の血が流れてると思うと反吐が出る
だからアタシ達は、ココを護っている、コレ以上犠牲者を増やさない為にも………」

語尾は恨み言どころか、殆ど呪詛に近い、他魔事ながらそう感じた…
ポットを持つ小さな手、がカタカタと震えていた
車椅子に乗ったままの女性は、そんな彼女にスッと近づくと、その腰に手を回す
少女のはそれに答えるかの様に、女性の肩にすがりつくのだが、それでも震えは止められない様だ

「オリジナルの邪眼手術に使われていたのは…ただのホムンクルスではありません………」

自己意識の有る奇形嚢腫を、擬似的に作る為に開発された技術だったのだ

眼球のカタチだったのは、脳に直結しやすかった事と、そのおぞましさを隠蔽するため
後天的に作成された、被験者のDNA情報と魂の一部コピーした不完全な双子なのだ
言うなれば…手足を切り落とした状態で、宿主に移植された哀れな兄弟、肉体に閉じ込められた永遠の虜
だからこそこの世の全てを憎み、宿主すらをも強く憎む、憎む事しか出来ない
その憎しみが、宿主の肉体の限界を超えた魔力を引き出し、暴発させる
己の生きる意味と運命を呪い、生けるモノを全て皆殺しにせずには居られない、自らの生命線でも有る、宿主も自分自身すらも

「こんな技術は有ってはならない…広まっちゃ駄目なんだ…」

確かにその通りだと思うよ…不用意に同じ個体を増やす事は、秩序を乱すだけではない
今は主流のクローン技術ですら、オリジナル以外の魂を宿す事は認められてはいない
いや魔族の場合は【個】が強すぎる為か、クローン体であっても、オリジナル以外の魂は受け付けないのだが
古い時代の合成生物に、自己の一部を部分的に移植する【邪眼】の手法は
その【理】にギリギリ触れるか?触れないか?のグレーゾーンなのかもしれない
だが…おそらくその研究開発が凍結された背景には、そういった倫理的な理由もあったのだろうね

「じゃぁ…何か?アイツは、赤髪は、黒髪の方の双子の片割れって事なのか?」
「彼の血縁が過去に受けた邪眼手術の影響が出ているなら、その可能性は高いかもしれないね」

それが身体だけでなく、魂さえも一つのソレから分割された双子なら
霊体としての差を外部から感じる事も難しい…急ごしらえの施設では見抜ききれなかった
魔族に多胎児が珍しいからと言って、可能性として考えなかったのは失態だ

だが…意図的に作られたホムンクルスではなく、先天的な双子が変異したモノだ
吸収されてしまった方の弱い個体に、ソレ程までに強い自我が残ったりするのだろうか?
少なくとも…エースには額の三つ目以外に、結合双生児や嚢腫の特徴や痕跡は無かった
となれば…赤髪の方の彼は、かなり早い段階で黒髪に取り込まれた筈なのだが

「貴女方も、僕のアクセスを逆にハッキングされたのですよね?ご指摘通りに
今現在、極秘状態で、とある先天性邪眼の患者を治療しております………」

ここから先は【邪眼】の事よりも、貴女方がまだ一つの身体であった頃のお話を伺いたい
おそらくは…患者の今の状態は、貴女方の以前の状態に近いモノだと思われますので
寄生するカタチになっていたのは、お話から推測すると貴女の方の様だが
分かれる前は、どの様な状態だったのか、詳しくお聞かせ願えませんか?

丁寧に頭を下げる僕に、面食らった様な顔をした少女は、困った表情で女性の顔を見る
彼女に変わって、紅茶の用意をしていた女性は、ただ黙って頷いた

「………どうって…ぶしつけにそんな事を聴かれても、家族間でも差があったわ
私は比較的、何時でも目が覚めている方だったから、アシュヴィンとも口喧嘩が絶えなくて…
彼女が完全に眠ってしまった時は、よく身体を乗っ取って大暴れしてやったモノよ
アシュヴィンだけが、好きな様に動けるのが、幸せになるのが許せなくて………」

私は外に露出する部分も多くて、身体の奥底に閉じ込められていたワケじゃないけれど
まるで出来物の様に、ただ寄生するだけの自分に我慢出来なくて…
アシュヴィンを道連れに、死んでやろうとすら思ったわ、脆弱な人間でもあるまいに

「………寄生している側が、肉体の主導権を乗っ取る事が出来たのですか?」

僕の問いかけに、彼女等は更に続ける

「そう…主格はアシュヴィンだけれど、彼女が眠ってしまえば、意識を失えば
寄生している側が、身体主導権と神経系統を乗っ取る事が出来るの、みんなそうだったわ」
「融合した時期や、状態の差は確かにありますが、我が一族の殆どがそうでしたわ」

問題は…寄生している側の脳が、何処まで出来上がった状態で、二名が融合したか?と言う事だそうだ
彼女等の様に互いが別の存在と、完全に自己認識出来る程に、
別々の脳髄に発達している場合は、魔格交代後も知的行動を継続出来るのだが
胎児の状態がもっと原始的なレベルで、成長が止まってしまっている場合は…
ただ己の置かれた状況に困惑して、暴れ回るだけなのだ、癇癪を起こした幼子の様に
その場合は、もう一名も薬物で眠らせるしかないのだ、
成体と同じ力と体躯を持ちながら、話の通じない赤子を説得するのは、不可能だからだ

「ナーサティア、貴女も何度か、鎮静剤で眠らせた事もあったわね…」
「よしてよ…昔の事じゃないの、もう…昔の………」

互いに一つしかない身体を、常に奪われる不安感を持ち続ける為か?
分離前の双子の仲は、険悪な事が殆どだ、寄生側に明確な自己意識が有る無しに関係無く
だから…双子は別れなけばならない、二つの肉体に…
しかし分離手術にもリスクは付きまとう、片方をクローン体に移植すれば良いと言う単純な問題では無いそうだ

「クローン技術で出来る身体は、元通りの融合したままの身体ですから
二名揃った状態でなければ、魂を新しい身体に移植出来なかったのですよ…」

【邪眼】の技術で得た巨万の富で、何体も高価な全身クローンを製作しても
片方だけの魂では移植出来ない、その事実に気がついた時の絶望感はいかばかりか?
結局は部分的にソレを再利用した機械の身体に、一つの身体のパーツを分け合いながら移住するしかなかった
その手術によって、当たり前の双子と同じく、魔力も体力も半減してしまう事を前提として…
場合によっては…自己意識の薄い方、分離した場合は生存出来ない片割れを
再び抹殺しなければ成らない事も有ったと考えるのが、自然だろう

「私達は…脳幹は二つあったけれど、大脳は二名で共有してましたからね…」

大脳の運動機能に司る部分の殆どを、今迄動けなかったナーサティアに渡して、サイボーグ体に移植
私は記憶や思考を司る部分を少し多めに、引き継ぐ事になりました…元の肉体と一緒に
その分離手術の結果、私達の魔力は以前の半分以下になり、私は半身の自由を失いましたが
それでも…私達は上手く分離が出来た方なのですよ…他の者に比べれば…

そう言って女性は、傍らの少女を抱き寄せると、その膝の上に収めてしまう
抱きすくめられた少女は、照れくさそうに抵抗をするが、結局はされるがままだ

「不思議なものでしてね…肉体の分離前は、あれほど互いを憎みあっていたのに
こうして分かれてしまうと、何故か離れられないのですよ…私達は
自由になったこの子が、好きな事を始めるだけの資金と、何処にでも行ける、肉体と旅支度を準備したのに…
結局は私とココに残って、膨大な医療データーの管理と守護を手伝ってくれているのですよ…
彼女はもう、ココに縛り付けられる必要なんて無いのに………」

抱き人形の様に撫でられていた少女は、幾分怒った様に自分の片割れを振り返る

「馬鹿…多少出来が良くて魔術が使えても、車椅子に乗らなきゃ動けなくなったアンタを
こんな場所に一名で置いていけないでしょう?戦えないアンタを誰が護ってやるのさ?
アタシもあのジジイの孫には違いないのだから、責任をアンタだけに負わせたりしない…
アンタに全てを押しつけて、出て行った他の血縁とは違うんだから」

多少口は悪くとも、そう捲し立てる少女のその膨れた頬に、女性は目を細めてキスをする
成る程…彼女等はデーターの保管者と言うよりも、墓守の様な存在なのだろう
被験者と血縁の双子達が、まだ存命している以上、全てを抹消するワケにはいかない
万が一の事態に備えて、忘れられた過去のデータを護る為に、ただココに存在し続ける…
その役目を買って出たのだろう、自分達の肉体の事情も加味して

しかし状況は最悪最低だ…コレが先天的な邪眼の真相なら
僕とカリティは、とんでもない見込み違いをした事になる
急いでこの事実を王都に知らせないと、帰らないと大変な事になる
即座に緊急用に持って来た通信機で、あの書斎に何度もコールを入れるのだが
応答が無い…まさかもう最悪な事態になっているのか

僕は唇を噛みしめると、立ち上がり大慌てで身支度を始める
同席していた三名は驚いた様に、僕を見上げるていた


続く

また字数制限いっぱいで申し訳無い、詳細は次回に
掲載場所を変更しました〜迷わず続きに来られましたか?不具合があったら、お知らせくださいm(_ _)m

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あきゅろす。
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