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【クロス・オーバー・ポイント】
『黒森の獣は砂糖菓子の夢を見る』5 R-18 α×X+純情Zの片想い?

ココの廊下は、こんなに長かっただろうか???ゾッドは首をかしげながらも先を急ぐ

無機質で似た様な扉が並ぶこの場所は、確かに距離感を掴みにくい
考え事をしながら歩いていると、うっかり目的の部屋を通り過ぎてしまう…なんて事は実際にあるのだが
歩けども歩けども目的の場所に到達しない、なんて事は今迄無かったはずだ
何処までも続く廊下は、永遠に続いているのか?と思う程に長く遠い…
何かが変だ…曲がりくねっているワケでも無いのに、迷宮に迷い込んだ?そんな気持になるのはどうしてだ?

それに…変に静かすぎるのも薄気味悪いのだ、初めてココに来た時とは別の意味で
他の部屋も、入院患者及び何某かが居る為、それらの気配や息づかいを感じる筈なのに
今はソレすらも感じない、いくら深夜で寝入っていたとしても…静かすぎるのだ

まるで耳に水滴でも入ってしまったか?と錯覚する程に音の無い状態で
それなのにソレだけは、鮮明に響くゼノンのつま弾きは、やはり何か不自然なのだ

「引き返した方が良いのだろうか?」一瞬そんな事も考えるのだが…

踵を返そうとすれば、音が耳に絡みついてくる、俺をやんわりと引き留める様に
デーモンの言霊でもあるまいし、強制的に誘われるている…とまでは行かないのだが
間違い無く聞き慣れたゼノンのソレなだけに、どうしても気になってしまうのだ

一目なりとゼノンの顔を見てからではないと、何だか安心して帰れない気がする

「ふん…見た目よりも勘は良かったみたいだねぇ」

ボソリとヨカナーンが呟くのだが、彼の腕の中で行為に夢中な鬼にはソレは届かない

残った片角も完全に変形している、とろんとした目は半分意識を失って混濁しているのだが…
抑制剤を服用していない分、抑えきれない血の衝動が、チロチロとその奥で燻っている

当魔がソレを、意図的にソレを抑制しようと努力しても、無駄なのは解っている
発作的にコチラに牙を剥き、爪をたてても、私は力尽くでソレを押さえ込む事が出来るからね
抵抗を許さないままに、当たり前の快楽を刻みつけてやるのが、鬼族との交わりの醍醐味だねぇ…

狂気と正気の間に揺れながらも、必死に自己を抑制しようとする、慎ましさがイイんだよ
相手を傷付け、時には殺してしまう、自己の衝動に強い自己嫌悪を感じながらも
結局は魔族だ…自制心よりも、即物的な欲望と快楽には、勝てはしないから
いくら行為を拒絶しても、コチラから的確に刺激してやれば、ゆるゆると溶けてしまう
恐れ、躊躇いながらも、コノ手に堕ちてくる様が堪らなくいい…

特ににカーリーやゼノンの様な頭脳タイプは、本能のままに暴走しがちな戦闘タイプのソレよりも繊細でずっといい

何時までも挿れてやらないもどかしさから、楔を欲しがる腰が浅ましく揺れている
再び中を弄くる私の指を、良い場所に導きたくて仕方が無いのだろう
内側が別の生き物の様に、必死に絡みつき、しがみついてくるのが可愛らしいねぇ

満たされず、半泣きの吐息が酷く辛そうだが…焦らされるのも嫌いじゃないだろう?
もう少しだけ我慢するんだ、一番気持の良い状態で犯してあげよう
あんな若造に滅茶苦茶にされた記憶など、綺麗さっぱり忘れてしまうくらいに良くしてやろうね

「ふぁ…あああっ…んっんんっっ」

おやおや…こんなにもグズグズになって居るクセに、まだ羞恥心は残っているのかい?
枕の顔を埋めて、何とか声を抑えようとする、君の恥じらいも、悪くないのだが
そんな事は逆効果だよゼノン、もっともっと虐めてやりたくなるじゃないか

涙の溜まった目尻を舐め上げ、その痴態を覗き込みながら、ヨカナーンはただニタニタと嫌な笑みを浮かべる

※※※※※※※※※※※※※※

「どうなってるんだ???こりゃ???」

唐突に周囲の空気の臭いが変わった、張り詰めていた「何か」が一気に解除されると
音の無い世界から、別の次元に放り出された様に感じる?何がどうなっているのか?
と同時に、さっきまで耳に纏わり付いていた、つま弾きの音も消え失せてしまう

替わりに聞こえてくるのは…切なげな息づかいと、押し殺した細い啼き声

直ぐ先にゼノンの部屋の扉が見える、突然ソコに出現したかの様に
いや違う?今迄、俺が別の次元に居たのか?今立っているこの廊下が本物なのか?
ワケが解らないのだが…暗い廊下で唯一半開きのそのドアの向こうからは、リアルな気配を感じる

「………ああ…お願いです、もう焦らさないで…もう許してください……」

さっきまでのつま弾きが、何だったか?なんて最早どうでもいい…考える事も出来ない
いくら色事に疎い俺でも、中で何をしているかぐらいは解る、多分コッチが現実だ
あの坊主の「忠告」は正しかったのだから、俺は速やかにこの場を立ち去るべきなのだ

だけど…上ずったその声が、思っていた以上に艶っぽくて…悩ましくて

無粋で非礼と解っていても…中の様子が気になって仕方がない
廊下に伸びる光りの先の光景を想像するだけで、身体の芯がドクリと疼く
フラフラと誘われる様に戸口に近づく俺は、一体何をやっているのだろうか?

※※※※※※※※※※※※※※

ようやくギャラリーも到着した様だねぇ…迷宮の攻略時間は、まずまずと言った所か?

ああコチラの事だから、ゼノン、君は何も考えなくてい、余計な事はどうでもいいから
挿れて欲しいんだろう?コレを奥まで?じゃあ、自分で脚を開いてごらん
いやらしく溶けきったソコを広げて、私に見せておくれ………そうイイコだ
ほら…私が挿れてあげやすい様に、両脚を自分で抱えておねだりするんだ、出来るだろう?

わざとらしく、入口に触れて掠めるソレは、完全に臨戦態勢なクセに
何時までも与えてはくれない状態に、気が狂いそうなほどにもどかしくて
正気なら到底出来そうも無い行為を強要されても、簡単に従ってしまう自分がみじめで堪らない…
それでも、生粋の悪魔よりも、凶悪な笑みで笑う堕天使の目に、安堵感を覚えている自分にも自己嫌悪しか感じない

ああ…ようやく、この生殺しの生き地獄から解放してもらえる………

ようやく宛がわれる熱い塊に息を飲む、ああ…早く挿れて、奥まで無茶苦茶にして
物欲しげなソコは、相手を直ぐにでも受け入れようと、ビクビクとヒクついているのに
先日の酷い手傷の後遺症とでも言うのだろうか?言いしれぬ恐怖感も感じていた
何処かで行為に怯え震えている…弱いソコを貫かれ、嬲られ抉られるのが怖い

そんな僅かな変化も、肌を合わせて居る相手には伝わってしまうのか?
ヨカナーンはもう一度僕を正面から強く抱き締めると、その耳に囁いてくる

「………そんなに怖かったかい?あの若造が?良く見たまえ、私はあの男とは違う…
【眼球の契約者】を、同じ【絶望】を分かち合った相手を傷付ける事は、決して無い…」

朦朧とする意識下で、投げかけられた言葉の意味を反芻する前に
内側に昂ぶりを穿たれた僕は、甲高い嬌声を上げ、大きく背を反らして仰け反る
恐怖感を感じたのは一瞬だけだ、それよりも遙かに強い、物理的な快楽が背筋を駆け抜ける

熱い…作りモノの筈のソレの熱さと質量が、弾力と力強さが変に心地良い
以前味わった生身のソレとは確かに違うのだが、だからと言って今のソレは遜色が無い程に作り込まれている様だ
その上、発情期の度に彼に弄られ、内側の良い部分は知り尽くされているのだ
先程までの焦らしプレイとは一転した、弱点ばかりを重点的に責め上げてくる行為が
一瞬息の仕方を忘れてしまいそうな程に良くて
ゼノンは霰も無い声を上げて、泣き喚くのだが、浮き上がる肩を押さえ込まれて、更に中を抉られる

その不自然な姿勢のまま、身体を折り曲げられ犯され、嬲られれば
必然的に臓器を圧迫されて、当たり前の様に感じる筈の息苦しさすらも、今は感じない
時間をかけて解され、たっぷりと潤滑剤を塗り込められたソコは
まるで女性のソレの様に、卑猥な音を上げると、美味そうに彼を飲み込んで離そうとはしない

止められ無い声だけでも、せめて抑えたくて、突差に口を塞ごうとした手を
ヨカナーンは強引に退かせると、奇妙な程に優しくその手の甲と指に唇を這わし、そのままソレを自分の肩に宛がう

「誰も見ていないし、聴いてもいない…だから声を聴かせてくれと言ったじゃないか?
縋り付くならコッチにしたまえ、少しくらい爪をたててもいいから」

角だけでは無い…興奮しきった僕の両手と両脚の爪は、猫の様に変形して鋭く伸びているのだが、それでも構わないのだろう
思っていたより簡単に、僕の爪が、ヨカナーンの肩に食い込み肌を破る
サイボーグ体と言っても、合成物の皮膚の感触と弾力は本物と似ていて、指先には溢れ出す血液の温かさを感じる
恐らくは…今僕を貫いているモノと同様に、痛みだって同様に感じる様に出来ているだろうに、ヨカナーンは顔色一つ変えない

そのまま僕の太腿を押し広げて、脚を抱え上げると、最早遠慮は無用とばかりに、ガツガツと中を掻き回してくる
同時に前も丁寧に扱き上げられれば、頭が真っ白になりそうな程気持が良くて
処理しきれない快楽を貪り、鼻に掛かった声で啼き続ける僕は、完全に盛りのついた雌の様だ
浅ましさを自覚しながらも、ようやく与えられたその刺激に、ただ酔いしれてしまう

僅かばかりに残った理性が、どれだけ、この行為を否定しようとも
身体は確実に欲していた、この理不尽な支配者を…お決まり通りの悪態を吐きながらも
腰はその先を欲してくねって悶える、貪欲に彼のソレを味わいつくすだけだ

「ふぁ…あああっん、嫌っ…嫌…うぁっあああん、ひっうんああ……」
「嫌?嫌じゃないだろう?こんなにグズグズにしておいて…」

いいよ…可愛いよゼノン…もっと淫らに乱れておくれ、私の為に…覗いて居る彼の為に
君が【誰のモノ】だかきっちり認識してもらわないと、今後色々不都合があるからねぇ

通常なら神経質で聡いこの子の事だ、いくら情事の最中であっても、その場に近づく他者の気配には敏感なのだが
よっぽど私に突き放されるのが怖かったのか?今はこの行為に溺れすぎているのか?
直ぐ側に居る「友達」の気配にはまるで気がついていない
或いは【私の結界】を、絶対的なモノと、信じすぎているのか?

まったくらしくないね、何時ものこまっしゃくれた君らしくない

だが…他者には決して見せない、きっとカーリーやダイタリアンにすら見せない
その弱さと迂闊さが、愛おしくて堪らないよ…誰が何と言おうともね

さて【新しい友達】とやらが、この後どういう行為に走るか?今から楽しみだねぇ

すっかり聞き分けの良くなったソコを、お望み通りに無茶苦茶に突き上げてやりながら
髪を振り乱して、よがるゼノンを、更に追い込んでやる、
誘ったのは君だ…完全に何も考えられなくなるまで、許してやるつもりは無い
理知的な仮面など、脱ぎ捨ててしまうがいい、淫らな君も魅力的だからね

もう何度目か解らない彼の劣情が、私の手を濡らす、同時に私もその内側にたっぷりと吐き出してしまう
例え今は生身でなくとも…この機能は付けておいて正解だったよ、合成物でも温かいだろう?気持がいいだろう?
女達のソレと同じ様に、ゼノンの内壁も嬉し気に私にからみつき、吐き出したモノを啜ってしまう

魔族や人間との交わりは、これだから辞められない、私にとってはまるで麻薬の様だ
ちゃんと刺激してやれば、コチラが考えている以上に、素直に答えてくる、享楽的で正直だからねぇ

生命体として無理の有りすぎる、理想主義を掲げ、互いを監視し合いだけ
価値観を押しつけ合う天界の者達よりも、解りやすくてずっといいよ………

※※※※※※※※※※※※※※

想像していた以上に濃厚な濡れ場に、俺は息を飲み、その場で硬直してしまった
野郎同士のソレを見たのは…別に初めてじゃない
女戦闘員の少ない最前線では、野郎ばかりの部隊では比較的よく有る事だ

それ以前に、エースとデーモンのソレなら、何度か目撃してしまっている
鍵替わりに張られた結界を気がつかずに、破壊してしまう俺自身の不注意で

最初こそは…親友同士のその関係に驚いたモノで、今の同じ様に固まった事もあるが
学生時代からの友として、個悪魔的に両名の事をよく知り、その難しい立場を考えれば…
気持を許せるモノが、極限られて居る事も、充分に承知している

何よりも両者の事が大好きな自分は、友としてその関係に口を出したくは無かった

その想いを知ってか?知らずか?副大魔王の方は、からかい半分に、よく自分にもモーションを掛けてくる
共通の知り合いで、顔馴染みの俺なら、流石のエースも焼却処分をしたりしないだろう?
そう思っているのか、単純に【過剰な反応】を楽しまれているのか?解らないが

エースの事を想えば…とても手を出す気にはなれない…何だか気まずくて

外面で見せる彼の顔とはまるで違う、親友の自分にすら見せない、安心しきった顔を
デーモンにだけは、見せている事実を知ってしまえば…尚更に手を出す事は憚られる

例えそれが、相手から望まれた誘惑で、据え膳であったとしてもだ

付き合いが長い分、俺はデーモンの強烈な媚態から、逃げる耐性も有る
他者であれば絶対的な筈の、その言霊にすら、ある程度の免疫を持っているが
ソレは…エースを気遣い、気を張っている忍耐力からで、効力が完全に無効と言うワケではない
そんなシチュエーションになれば、ただ逃げ回るくらいしか、有効な方法を思いつかず
色事が苦手な悪魔らしからぬオコサマでオクテで初心すぎる奴と、思われているのだが…

俺だって…悪魔だ…そういう感情は無いワケではない
特に気にかけて、意識している相手なら、尚更に抱きたい、欲しくなって当たり前だ

それに本来の獣王族は…鬼族以上に、自分の子孫を残そうとする本能が強い
故に男女の区別なく、ソチラの方は、色事に関しては、お盛んなのが属性的な特性だ
鬼族の様に行為の最中に、衝動で相手を嬲り殺す凶暴性は無くてもだ

確かに、ほんの少しだけ、他族の血は混じっていたとしても
ほぼ生粋の獣王族で、上級悪魔の自分が、ソチラの方がまるで駄目なのが希有だ
本能のままに相手を犯して、貪りつくせばいいのに、ソレが出来ないのは…
持ち前の優しさからなのか?ソレとも…その「混ざった血」に対する恐れからなのか?

組み敷かれたゼノンの表情は殆ど見えない、角度が悪くて男の背に隠れているのだが
その背に絡みつく両脚は生白く、まだエースに切り裂かれた傷が、うっすらと残っていて、妙に浮き上がって見えた
普段は隠されていて、見えないパーツだから?それとも覗き見の罪悪感だろうか?
艶やかなソレに猛烈な色香を感じるのが、同時に強いやるせなさが、心を締め付ける

口では嫌だと泣き喚き、悪態を放ち…カタチばかりの抵抗はしていても
欲情しきったその吐息は湿り気を帯び、快楽に溺れ、確実に喜んでいる事くらい俺にも解る

興奮しきった両脚の爪は鋭く伸び、男の肩に回ってきた両手のソレも猫の様だ
肩口に爪が肌に食い込んでも、男は全く気にも留めていない様だ
大きくスライドされる腰の動きに合わせて、ベッドはギシギシ軋み、水溶性の卑猥な音が耳につく

「ひぅっっあああんっっ、待ってっ待って下さいっっ嫌ぁ………あん」

俺が覗いて居る事にすら気がつかない程に、行為に溺れているゼノンとその声は
酷く淫らである以上に、何処か頼りなくて弱々しくて…俺の知ってる何時もの彼とは違って

先日エースに強姦された時も…こんな感じで、喘ぎ泣き喚いていたのか…と思えば
今、目の前で彼を好き勝手に犯している男以上に、何故だかココに居ない親友の方が、腹立たしく感じて
上手く処理しきれない、嫉妬にも似た感情すら、どうしたら良いか解らない上に
やはり目の前の相手だって、当然の如く気に入らないのだ

絶対的な魔力の差からか?【主人】と【契約者】の本来の立場は、まるっきり逆転しているいみたいだが…
濃密な関係でデキているらしい二名の関係に、強い違和感と『疎外感』しか感じない
こんな事を考えるのは理不尽と解っていても、下僕である筈の【堕天使】に抱かれてよがるゼノンにも、納得が出来なかった

それでも行為を止める事も出来ずに、傍観者の様に、その光景を食い入る様に見ている自分が、情けなくて、やるせなくて
もう見ていられなくて、動かない自分の脚を、何とか動かそうと努力するのだが…上手く動いてくれない

ソレどころか…今、ドクリと脈打つのは、意識した事の無い場所なのだから

当たり前の性的な興奮や昂ぶりなら、まだ許容出来る…俺だって一人前の成体なのだから
ところが…今強く反応しているのは、解りやすいソコでは無い
もっと精神と密接な根幹的な部分の方だった…今迄一度も感じた事の無い感覚だ

ズキズキと痛い程に疼くソレは、ソレが気のせいなどでは無く、現実である事を突きつける
初めての反応に、おののき、驚愕する自分の気持ちが抑えられない

そして…ソレを予言していた、祖母の言葉を反芻する
優しかった祖母は、俺を膝に抱き、まだ幼かった俺にも解りやすい様に『その事』を説明してくれた
他族とのハーフであり、生粋の獣王族では無かった彼女には、他の親族には無い特別な器官と習性があった事も
彼女の形質を多く引き継いだらしい俺にも、その影響が出る可能性がある事も

まずい…このままココに居たら駄目だ、俺が俺でなくなってしまうかもしれない

はぁはぁと荒い息を吐きながら、低く呻いたゾッドは、痛むその場所を掻きむしり、抑えながらも…苦労してその場を離れる
皮肉な事だが…その【疼き】と【痛み】が彼を現実に正気に縫い付ける
性的興奮ではない【別の感情】に支配されない様に、逃げる様にその場を離れる事しか出来なかった、その時の彼には

遠のいてゆくゾッドの足音を確認しながら、溜息を吐いたヨカナーンは
弾む息の下で少しだけ怪訝な顔をして、見上げるゼノンの髪を掻き上げてやると、緩んだ口にもう一度深く口づけてやる

柔らかな舌はもう逃げない、夢中でしゃぶりつき、答えてくるその様に満足した私は
同じ優しさで、貪欲な下の口も愛してやるだけだ、未だに私を飲み込んだ、まま離そうとしないソコを、突き上げてやりながら
その悲鳴すらも租借してしまおうね、外に漏らすのは勿体ないから
この淫らな身体が、ちゃんと満足するまで付き合ってあげるよ、今迄かみ殺していたであろう不安感が、完全になくなるまでね

覗かれた事に気がつきもしないまま、再び腕の中で喘ぎ始めた【主人】を見下ろし
男はネットリと笑う、薄暗い自己顕示欲と独占欲と共に

※※※※※※※※※※※※※※

その夜はそのままオロチと飛ばして、どうやって自宅まで帰ったかなんて覚えてない
いっその事その脚で、下町の花街まで出向いて、商売女と一夜を共にでもすれば…
即物的な欲求不満だけは、解消されたのかもしれないのだが

俺には無い筈のソレの【初めての疼き】に困惑した俺は、その後の展開がまるで読めなくて…
恐ろしくて、ただ一名で悶々とするしかなかった

寝酒代わりに、煽った酒に悪酔いしたのか?びっしょりとかいた寝汗は気持が悪く
久しぶりに二日酔いを起こしているらしい頭が、鈍く痛み重たいのだが
昨晩の【疼き】に伴う痛みの方だけは、既に収まって居るだけでもまだマシかもしれない

問題は…今日どんな面をして、ゼノンの部屋に行けば良いか?と言う事だ

何か理由をつけて暫くは行かない…なんてワケにも行かない
あまりにもわざとらしすぎる、今迄通いすぎな程に、入り浸っていたのに
それに昨日の遠出の事も考えれば、あの坊主とまたモメた?と誤解されかねない

いきなり理由も説明せずに、俺が病室に来なくなったら…彼は心配するだろし?悲しむだろう???
いや…心配してくれるのだろうか???飄々とした何時もの様子を思えば、まだソレすらも、明確な自信は持てないけれど

それにゼノンの方だって、今日ばかりは流石にゆっくり寝ていたいだろう

あの後も…恐らく行為を続行され、啼かされ続けたのだろう、下手をすれば朝まで
精も根も尽き果てて居るであろう状態なら、誰とも対面はしたくない筈だ
根本的に誰にも甘えない、弱った自分を見せる事を嫌う、ゼノンの頑なな気質を考えれば…

等と一名で頭を抱え、グルグルと堂々巡りの自問自答している内に、唐突にゾッドは、自分の【不満の根幹】に気がついた…

そうだ…アイツ等は、外面を保て無い程に【弱り切ったゼノン】を知っているからだ
苦痛にしろ快楽にしろ、組み敷かれ、泣き喚く顔を見ている…だからこそムカツクのだ

【契約者】として、脆い部分すらも、余さず見る権利を持つ、あのオヤジが気に入らないのは当然だが
常識では受け入れがたい嫉妬心で、ゼノンを半殺しにした上に、手酷く犯した赤髪に対してもだ

単純に日頃ゼノンが、必死に隠している【弱さ】を、強引に暴いた2名が恨めしいだけだ
自分には絶対に見せてくれない、見せようとしないソレを、見ているのが妬ましいのだ

そして更にムカツクのは…自分はゼノンに対して、そんな行為は到底出来ないからだ

魔力の差だけの問題ではない、今の居心地の良い穏やかな関係を壊したくないからだ
頭ではその関係を何よりも大切にしたいと思っているのに、解っているのに…
ゼノンを押し倒して、強く抱き締めたいと思う自分も居る…やっぱり俺も悪魔だからなのだろうか?

勿論アイツ等と違って、間違っても乱暴にする気は無いけれど…
精一杯の優しさで抱きたかった、犯したい…惚れた女にそうするのと同じ様に

同性でも構わない…そんな感情を抱いたのは、触れられない副大魔王くらいなのだ
他の野郎に対して、こんな事を考えるのは、実は初めて戸惑ってはいるが
その内側にこの昂ぶり叩き込んで、このもどかしい気持を、相手に認識して欲しかった

確かに女の肌とは違うけど、過度なスキンシップで知っている
そしてあの柔らかな肌の奥は…きっと温かいに違いないだろう、男を喜んで受け入れる柔軟さも持っている筈だよな?
昨晩のアレを見る限り、受け身の方の経験も…しっかりあるみたいだからな

なぁ…仮に俺が抱いても…アンタは、あんな色っぽくて、切なげな声を上げてくれるのか?
顔は見えなかったけど…悩ましい視線で見上げてくれるのだろうか?
気持ちよさそうにベースを弾いている時の様な、あのエロチックな仕草と目つきで???

見たのは絡みつく脚だけ…その悩ましい声だけなのに、甘ったるい妄想が止まらない
ぶるりと背筋を駆け上がる感触に、俺は思わず小さく息を吐き自嘲する

深酒で何とか欲情を押さえ込んだのだが…悶々としたまま寝たのが良く無かったのか
酷く淫らな夢を見ていた様な気がする…内容までは覚えていないが
起き上がってみれば、全身が気怠くて重くて、何よりも仕官学校のガキ共じゃあるまいし、何だよコレは………

そのまま冷たいシャワーでも浴びて、さっぱりした方がマシな状況に、我ながら呆れてしまう

大体勝手に盛り上がった所で、空しさが募るばかりじゃないか、
俺が、この【想い】を告白した所で、ゼノンが受け入れてくれるワケも無い………

良くも悪くも…地獄は弱肉強食、強者の支配がモノを言う世界…
魔力の強さと、ソレに付随比例する権力の強さが全てだ
魔力の低い弱者が、自分より強い相手の力を利用する為に
或いはその庇護を得る為に、媚びへつらう事はあっても、その反対は有り得ない

ソレが可能なのは、現世を生きている人間だけ
魂を売却して、悪魔召喚が出来る人間以外に、その【権利】はないのだ

魔族は、自己より弱い個体に、進んで抱かれたいとは思わないのだ、男も女もソコは関係無い
強者が弱者に惚れる、恋愛感情を持つ、等と言う事象がそもそも有り得ない、成立しない
相手がどうしても欲しいなら…その対象より強くなる事、ソレ以外に道は無いのだから

ゼノンと俺の魔力レベルの差は…考えるだけ空しい程に開きが有る、同じ上級悪魔であってもだ

気の置けない親友として、デーモンやエースと長くつるんで、皇太子であるダミアンとすら親しくして居るせいで
上級悪魔の中でも最高ランクで、特別な存在である彼等とは、レベルが違う事実を忘れてしまう事もあるのだが

惚れた腫れたの話になれば、状況は全く違ってくるのだ…

この【想い】は実らない…いやゼノンに気がつかれてはいけない、関係を悪くするだけだろうから
バレてしまえば最後、せっかく結んだ師弟関係までもが、ギクシャクとしたモノになってしまうかもしれない

だから…この気持は黙ったままにしよう…俺の中だけに止めておけばいい、密やかな片想いとして

デーモンに対する気持と同様だ、【友達以上の関係】なんて望まない方が良いのだ
ゼノンを困らせ、困惑させるからだけじゃない…失恋の痛手で俺自身が傷付かない為にも

一晩かけて散々考え、悩んではみたものの、結論が出てしまえば…答えは実にシンプルだった

そうだ…俺は何も見ていない、今後【そういう意味】で何も期待する事はない
今迄通りで充分じゃないか?ベースの指導、練習相手をしてもらうだけでも御の字だ

デーモンやエースとは、また意味が違うけれど、親友として長くつきあえればソレでいい
完全に身内の女先生程ではなくとも、きっと他の奴よりは、素を見せてくれている筈だから…
穏やかに笑いかけてくれるその顔を、曇らせたくないんだ

その為だったら…俺の【ちっぽけな想い】なんざ、スッパリ諦めてしまうのは簡単だ

それにゼノンだって、俺みたいなむさ苦しい野郎に惚れられるより、可愛らしい女に惚れられる方が嬉しいに違いない
入れ替わり立ち替わり見舞いにやってきた、顔馴染みらしい魔女達の数を考えれば、相手には全く困って居ない事は明白だ…
色恋沙汰だけの関係では無いにしても、まるでエースのソレの様な女関係の広さに
生真面目そうに見える学者さんの以外な一面?と驚きはしたが

例の抑制剤の開発の為とは言え、上級悪魔でありながら、魔女に弟子入りした挙げ句に
呪いが練り込まれた【ギルドの紋】までいれている?と言う噂も聞いている
ソコまでするからには…独自の文化を持った治外法権で、気難しい事で知られる彼女達とは
絶対的な信頼関係で結ばれて居るのだろう

何だ…はなっから…俺が入り込む隙間なんて存在しない、現状を考えれば考える程に

そう考えれば…何だか気持が楽になってきた、最初から無理だったと想えば、諦めもつきやすい
きっとゼノンの病室に行っても、昨日までと同じ顔をして居られるだろう
付き合いはまだ短くとも、気の置けない友として、ベースの弟子として

「とりあえず……ひとっ風呂浴びてから、顔だけでも見に行くか…」

誰も居ない自室でゾッドが呟いたのは、自分自身に言い聞かせる為だったのだろうか?

昨日の報告も兼ねて、取りあえずは顔を出そう
今日はそのまま長居出来ないかもしれないけれど、変に誤解されるよりかはずっといい…

あまり軽いとはい言えない足取りで、バスルームに向かう彼の尻尾は
何時ものソレより心なしか、元気が無さそうに見えた



続く

極悪堕天使・ヨカナーンは、相変わらず好き勝手に大暴れ
たまにはネコ役も悪く無いと楽しむ和尚は…相手の意地悪に気がついていないし
一番可哀想なのはやっぱり親分…何【ピクミン】みたいな事考えてるんだよ〜
そりゃちっとは魔力は落ちるかもしれないけど、消極的すぎるんじゃ〜
でも嫌いじゃないんですよね…気弱高校生みたいなウチの親分みたいな反応も

だって…こういう子の方が…調教しがいが有るじゃないですか………ふっふっふっふっふっ

さぁ次回はどうなる事やら???そう言うノリが許せる方のみ、【次へ】へお進みください


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あきゅろす。
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