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【クロス・オーバー・ポイント】
『黒森の獣は砂糖菓子の夢を見る』4 R-18 α×X有ります Zが少し可哀想かも?

「全く…君の悪趣味も相当なモノだな…ゼノン」

ガヤガヤと部屋の外に出て行く、大男と子供の背中を見送りながら、ヨカナーンはボソリと呟くのだが
そんな相手をキッと睨み据えると、ゼノンは不機嫌そうに言った

「僕の交友関係まで、貴方にとやかく言われる筋合いは無いですよ………
それよりどう言う事ですか?何故、貴方が彼女の改造手術をしているんですか?」
「ふ〜ん交友関係ねぇ…他者の事には変に聡いクセに、自分の事となると相変わらず鈍い」

意味深な男のボヤキさえも、何だか勘に障って…ゼノンは、更に強い口調で続けようとするのだが
相手にとっては、そんな事はどうでも良いのだろう
するりと席を立ちあがり、直ぐ側に寄ってきたヨカナーンに、顎を持ち上げられ覗き込まれれば、上手く二の句が出てこない
そうだ…何時もの獣の義肢姿ならともかく、人間界に居た頃と同じ角度で見下ろされると、単純に怖いのだ

あの時の…何の覚悟も無いままに【神】の一部と対峙してしまった時の言いしれぬ恐怖
植え付けられた恐怖心は、今回のソレとは全く異質で比べ物にならないから…

「………何時までも起き上がれなくて、彼女の処置が出来なかった君が悪いのだろう?」

あんな若造に、自ら進んで喰い散らかされてるなんて…全くどうかしてる
相変わらず、鬼の再生力に頼りすぎなんだよ君は…
その身体を大事にしろって?前も言ったよねぇ?私は?どうして忠告を聞かないんだい?
あの娘だってそうだ、いくらカプセル内で休眠中でも、あんな状態で放置するのも可哀想だったからねぇ…

物憂げにそう言うヨカナーンの気は、柔らかい口調とは裏腹に不機嫌で
僕に対する怒りが、まだ収まっていないのは明白で、不覚にも震え上がってしまう
圧倒的な力の差や、それに伴う手酷い仕打ちを、本能的に恐れているからだけではない
勿論冷静に考えれば、彼の言い分が正論だからでもない

怒気を含み、突き放されたその口調に、どうしようもない不安感を感じていた
何時もなら鬱陶しいくらいに、絡みつてくるソレとは違うから

「貴方と戦いを挑んだ時とは、事情が違います、ああしなければ破壊者を外に………」

「言い訳は聞かないよ、自分を粗末にするその姿勢を改めろ、私の【契約者】なら尚更に
その破壊者を恐れるワリには、結果を求めるのも急ぎすぎたな、慎重さも足りない
その迂闊さが、カーリーを傷つけて、君も死にかける状況を作り出した、ソレだけだろう?」

返事に詰まり、震える僕の喉元をさわさわと、撫で上げていたヨカナーンの指先が
頬をゆっくりと伝い移動すると、切り取られた角の断面に触れる
肉体の損傷も激しすぎる分、新たな角に生え替わるには、まだまだ時間が掛かるだろう
熱をもったソコを刺激されビクリと震える僕を見て、ヨカナーンは薄く笑った

「先日は勿体無くも皇太子殿下が、コレの治療を申し出てくれたそうじゃないか…
どうしてそのまま再生して頂かなかった?悪魔であれば誉れだろうに???」

「………勝手に再生治療を受ければ、もっと貴方の機嫌を損ねる事になるのでしょう?」

貴方との関係を放棄する事も、悪化させるワケにもいきませんからね
あの【義眼】を引き続き使用させて頂く為には…ソレ以下でもソレ以上でもありませんよ

今回ばかりは、文化局の運び込まれた時の様に、謝罪する気持にもなれない上に
彼の顔を直視できなくて、横を向き視線を外す僕の態度は、かなり悪い筈なのだが、相手はそれも気にはならないのだろう
不意に刺々しい威圧感は消え失せ、空気が替わってゆくのを肌で感じる
どうせ元天使様とは思えない凶悪な顔で笑ってるのだろう、至近距離で…そんなの見なくても解る
大方の予想通りではあるけけれど、そのまま角に唇を寄せられ舌を這わされても、僕は抵抗はしなかった

今は…触れられるだけでも鈍痛の走るその場所を、ワザと音を立てられ
ゆっくりと舐め上げられるその感触に、背筋がゾワゾワと震えるのだが
処置室で激高していたヨカナーンの姿を思えば、コレで機嫌を治してくれるなら、このまま好きにされて良いとすら思った

「随分と可愛らしい事を言う様になったじゃないか、魔女達の教育のたまものかね?」

久しぶりにちゃんと抱いてあげようか?もどかしい獣の尻尾などではなくこの身体で?

結界も張らない無防備な状態で、抱きすくめられ、館内着の前をはだけられても
公共の場でソレを要求される、羞恥心や嫌悪感よりも先に
彼に拒絶され、突き放されなかった事に、安堵しているのは何故なのか?
その理由も解らないままに、マットの上に押し倒されてしまう

剥き出しの首筋をねっとりと愛撫され、無精髭のチクチクとした刺激を感じる頃には
自分でもびっくりする程の、甘ったるい吐息が、僕の口から漏れはじめた

一般的な鬼の【制御薬】が完成をして普及した後は、
僕自身も【衝動】のコントロールが可能になり、発情期の暴走も起こさなくなった
同時にヨカナーンに抱かれる事も、強引に搾り取られる事も無くなって久しい
契約者とは名ばかりで…殆ど脅迫に近いカタチで弄ばれているだけだ…
そんな彼との関係を苦々しく思っていた筈なのに
いざ久しぶりに抱かれてみればどうだ?殆ど作りモノのヨカナーンの肌を感じて解った
その手管に教え込まれた【別の快楽】を身体が覚えている…
自分で考えていた以上に、この感覚に飢えていた事を思い知らされる

口惜しいが…コレは抱く側だけでは満たされない感覚だ
快楽だけに溺れて、全面的に相手に任せてしまえる安心感を、感じる相手は極限られているから

「………待ってください、せめてドアに鍵を、タブレットだけ飲ませ………」

僅かばかりに残った理性から出た懇願は、深々と重ねられたヨカナーンの口に吸い込まれる

逃げうつ舌を柔らかく舐め取れ、出し入れする様に刺激されると、ソレだけでもその先を思い出す…
身体の奥が火照った様に熱くなり、欲情を上手く抑える事も出来なくて
上昇する体温と共にくったり身体を任せ、柔らかくなる僕の様子を、彼は目を細めて見下ろしているのが解る
脚をこじ開けられて直で探られた前は、触られてもいないのに反応しはじめていた
震えるソコは待ちわびていたとばかりに、金属質のその冷たい手に縋り付く

「制御剤なんて必要ないだろう?私が相手なら、衝動が起こった所で問題はない…
恥ずかしいかい?声が漏れるのが?他の局員に知られるのが? まぁいいだろう
今回だけは、皇太子より私を優先した君の可愛らしさに免じて、私が鍵を掛けてあげるよ」

弱った君が構築する【壁】よりも、ずっと安心度は高いだろう?だから安心したまえ…
久しぶりに良い声を聴かせてもらおうか?初めて抱いたあの時の様にね

彼のその言葉に嘘は無いのだろう、部屋の空気が振動すると、目には見えない壁が
立方体型のソレが、そのまま巨大化する様に広がってゆくのを感じる

コレで外からは何者も干渉出来ない、内部の様子を知る事も出来ないはず…

少しだけ安心した僕は、小さく吐息を吐くと、何も言わずに男の肩に手を回す
滅多に見せない、ゼノンの積極的な反応に満足したヨカナーンは、ニヤリと笑みを零した

※※※※※※※※※※※※※※

一方でダウンタウンの工場を走り出したバイクの一行は
王都の城門を超えると、岩だらけ荒野の真ん中を、蛇行しながら走っていた
性能を試す為だろうか?整備された街道ではなく、ワザと荒れ果てた悪路を選ぶ為
重量の有る車体は大きく揺れて、さながら跳ね飛び暴れ馬の様な状態だ

このバイクのオーナーと少女は、ソレを楽しんで居る様だが、背中にしがみつく鬼の少年にその余裕はない
ギャーギャーと騒ぐ彼の腰に、ゾッドはしっかりと尻尾を巻き付け、振り落とさない様に配慮はしているのだが
少年がその気遣いに気がつく気配は、残念ながら無いようだ

それでも「降ろしてくれ!」と言わないのは、彼なり意地の様なモノだろうか?
ソレが同乗している少女に対するモノなのか?ゼノンに対するモノかは解らないが

あくまでも新車の試運転だ、そう長い距離でも時間でも無かった筈なのだが
鬼の少年には…何時終わるか解らない恐怖の一時だった事は間違いない

暫くすると悪路から乗り上げ、整備されたハイウェイに乗り上げたゾッドは
やはりソコも彼の行きつけなのだろうか?道沿いの店の前でバイクをとめた
荒野の真ん中で、人の目でも1km先からでも、確認出来そうな程の派手派手しい看板を掲げ
その足下にポツンと立つその店は、長距離移動者用の店である事は明かだ

「先に行って、座席を確保してくれ、何か適当に頼んでいいからよ」
「んっ…解った!!!」

ぴょんと飛び降りた少女は、そのままスウィングドアを模した店の入口に駆け込んでゆくのだが
少年の方は硬直したまま動けない、ようやくこの物騒な乗り物から、降りられると言うのに
少女が視界から完全に消えるを待ってから、少年を抱き上げて降ろしてやったのは、ゾッドなりの気配りだったのだろうか?
ようやく地面に降ろされた少年が、そのままヘナヘナと崩れ落ちるのを、彼は苦笑しながら見下ろしていた

「学者さんには、ちょっと刺激が強すぎたか?」
「………そんな事っ、無いっっ……です」

意地になって叫んではいるが、相当怖かったのだろう、膝がガクガクと震えて立てない
「落ち着くまで待ってやるから無理すんなよ…」少しばかり済まなそうな目をして、ゾッドはそう言うと
乱暴な試験走行の道中に、車体に跳ね上げたドロのを綺麗に拭いている、サスペションなどの構造部品のチェックも兼ねて

「………そのヒドラは、どうしてこんな状態に???」

相手の出方を探る様な沈黙の末、先に口火を切ったのは少年の方だった
病室内で負傷者のゼノンを相手に、荒れ狂う第一印象が悪かったせいか?
てっきり?慣れないバイクに乗せた「恨み言」でも吐くだろうと踏んでいたゾッドは
少し意外そうな顔をしたが、作業の手を止めないままに、彼の問いかけに答えた

「工場で見ただろう?アレが本来の姿だな…もうどれくらいになるか?
腐れ縁の古いダチみたいなモノだな、コイツがちっぽけな蛇だった頃から
デカくなったコイツが、人間界の小島で神気取りで、調子に乗りすぎたのがマズかったんだろう?
若造の荒神に退治されちまってな…コイツのSOSを聴いて、慌てて助けに行ったんだが
もうバラバラに引き千切られた後でな…コアも酷く損傷していて肉体も維持できない
だからこのバイクを【依代】にしているんだが、中で休ませても調子がもどらなくてな」

ガワであるこのバイクの中に居れば、比較的安定した状態を保てるのだが…
本来の魔力を全解放してバイクを破壊、内部から長時間外に出てしまうと
封印された時のままの傷が開いてしまう、ソレがどうにも気の毒だからな、どうにかならないか?

聴かれた内容に少年は驚く、傷が癒えてしまえば…あのヒドラは逃げ出してしまうだろう
ソレなのに、この悪魔は問題の解決を望んでいるのだから、本当に生体魔法具の中身と心を通じ合わせていると言うのか?

「それでは…中のヒドラは、逃げ出して居なくなってしまうのでは?」
「ソレならソレで構わねぇよ、ちょっと外に出る度に、コイツが血を流すのを見たくない
そうするしか無いから、バイクの中に入れてるが…ずっと閉じ込める気なんてねぇから」

当たり前の様にそう言い切ってしまうこの男は、悪魔としては、やはり変わっているのだろう
すっかり毒気を抜かれてしまった少年は、何時の間にか、身体の震えが止まっている事に気がつく
地面に直接腰を下ろしていた為、付いてしまった土埃を払うと、彼はゆっくりと立ち上がりバイクとゾットに近づいた

「失礼します…先程は少し驚いてしまって、良く見る事が出来きなかったので」

以外な程に、穏やか口調と態度になった少年は、その手を車体ボディーの中央、タンクの上に翳す
火炎系悪魔特有の赤色の闘気ではなく、薄緑色の土属性の癒しの光がその手を包み込み
その柔らかな光が照射されると、内側の内部構造がレントゲンの様に映し出され
オロチの脈打つ心臓と、その奥の破損した魂とコアを映し出す

「コレは酷い…この状態で生きている事が、奇跡に近いですね…」

真っ二つどころか、半分粉々になっているオロチのコアは、
どう見ても再生不能にしか見えないのだが…ソレでもギラギラと光り輝いていた

「しぶといのが、コイツの良い所なんだがな?何とかならないのか?」

何とかなるも何も無い…その強靱な生命力だけで現状を保っているだけだ
偶然にも依代になった、そのバイクの内部が安定していると言うのなら
例え不都合があろうとも、残りの寿命をコノ中で過ごす事が、最善の様に思えるのだが

己の損得よりも、ヒドラの都合を優先する男の、愚直な視線と問いかけに
魔道士とは呆れても、何故だか同情もしてしまうのだ
仮に使い魔扱いだとしても…そこまで思い入れを持つ上級悪魔等そうは居ないだろう

オロチの為ではなく、彼自身の為にも何か良い方法はないかと考えてしまう

「………もし、貴方に不都合を我慢して頂けるなら…方法は皆無では無いですね」

少年のその言葉にゾッドは顔を上げる、彼は更に続けた

メカニックの方は…僕は詳しくは無いので、バイクを単純な封印具として考えますと
オロチの肉体は機体の方に封印、分離した魂とコアだけを、別ユニットの隔離・再生治療を施す方法は、可能と考えます
そのユニットを極力小型化してこのバイクに組み込む…幸い電源も確保出来ますからね
実際にやってみないと解りませんが、コアが肉体と同じ場所にあれば、バイクはそのまま動くとは思うのですが
封印が二重構造になってしまう分、今の出力は保てないかもしれません…ゾッドさんがソレでもいいのなら………

全てを言い終わらない内に、ゾッドは「それでも構わない」と実にあっさりと答えたので、慌てた鬼の少年は更に付け加えた

「しかし…コアがあそこまで破壊されていては、確実に補修出来る保証なんてありませんよ
ソレに使い勝手が悪くなってしまっては、意味がないのでは?」

重ねて尋ねるのだが、結局彼の優先順位が変わらないのが、何だか心地良く感じた

そのままの勢いで「その治療ユニットが作れるか?」と詰め寄られてしまえば
少年も首を縦に振らざるおえなくなったのも仕方が無かった

「ちょっと!!!何やってるのっ!!!アンタ達遅いのよっ!!!」

甲高い声が店の戸口から聞こえる、どうやらコチラの立ち話が過ぎて、待ちくたびれたのだろう
頬を膨らませた少女が、出された料理が冷めるとぼやいている

「解った、解った、直ぐに行くからキンキン言うなよ…じゃぁ詰めた話は中でしようぜ」

困った様な顔をして、店内に急ぐ悪魔の背を見ながら、鬼の少年は思った
成る程…誰よりも個人主義で、あの気難しいゼノンが、彼を病室に入れて親しくしている理由が漠然とながら解ったと

※※※※※※※※※※※※※※

結局その店で軽食を取った後、三名連れはすぐに王都の工場に帰る事になった

帰路はちゃんとした舗装道路を走行した為、少年も少しはツーリングを楽しめた様だが
スピード狂気味の少女には「こんなんじゃ刺激が足りない」と終始ぼやいていた

工場に戻ると…少年は、すぐに治療用ユニットについて、工場長とシゲに相談を持ちかける
普通なら…彼等の仕事に後からケチを付ける様なモノだ
突然後からしゃしゃり出てきた魔術師に、良い感情は持たれないと考えていたが

意外にも二名のメカニックは、少年の実験的な意見も取り入れ、賛同してくれる
オロチの詳細図面も見せてくれた上に、ソレを組み込むスペースの製作改造にも協力してると言うのだ
「バイクとして安定させる技術はあっても、中身の治療までは自分達の管轄外だ」と言って

ゾッドが上手く取りなしてくれたから?ではないのだが、間接的には同じ事なのだろう

彼等もまた、本来であれば生体魔法具の中身の事など、気には留めないだろう
自社製品のバイクとしての使い心地の方が、数段大切なのは当たり前だからだ
ところが…このオーナーが相手の場合は違うのだ
この工場に居る限り、何度か目にしたであろうオロチとの親密な関係を見れば
普通とは違う【価値観】の方に揺らいでしまうのも又、必然なのかもしれない

傍目から見れば?【馬鹿馬鹿しい感情】に流されてしまったのは…自分だけでは無かった

少しだけ安心した少年は、深夜遅くまで作業員達と話し込んだ末、可能な限りの資料を転写して譲り受けると
ようやく魔道院に戻るつもりになった様だ、依頼された治療ユニットの製作に取りかかる為に

律儀なゾッドは、再び少年をバイクに乗せると、魔道院の門前まで送ってくれる
勿論、全寮制の学園の門限はとうに過ぎていたが、文化局からの呼び出しは【特例】と言う事になっているのか?
難しい顔をした門番が、直ぐに扉を開けてはくれるのだが…
時間が時間な事と、見慣れない悪魔と乗り物には、不信感がかなり有る様で、探る様な鋭い視線でコチラを見ていた

「少し時間は掛かるかもしれませんが、試作品が出来たら、直ぐに連絡を入れさせていただきます
連絡は…ゼノン兄を通せばよいでしょうか?」
「何なら直の連絡先も渡しておくぜ、その方がスマートだろ?」

抱えきれない程に持ち込んだ資料の端に、サラサラと連絡先を書いているゾッドを見ながら、少年は尋ねた

「それで…ゾッドさんは、今夜これからどうなさるのですか?」
「どうもこうも無ぇだろ?とりあえずコイツを文化局に置いてこないと」

ゾッドの腕の中では、少女がだらりと身体を預けて、クークーと寝息を立てている
魔法具・魔術の話になってしまうと、彼女にはよく解らなかったのだろう
プラス再生手術を受けたばかりの身体だ、通常より消耗も早く疲れやすいのも当たり前
居眠りを初めてしまった彼女を、注意するどころか、起こしもしない
いくら小さめとは言え、ずっと小脇に抱えているこの男も、相当なオヒトヨシなのだろう

「まぁ…そうですよね、彼女の身体のメンテナンスも、まだ完全ではなさそうですからね」

喧しさがナリを潜め、無防備な寝顔を晒す彼女は、妙に頼りなくてあどけなく見える
ふにふにのほっぺを撫でながら、少年は少し声を潜める様にゾッドに忠告する

「余計なお世話かもしれませんが、彼女を局員に預けたら今日は帰った方がいいですよ
もう面会時間はとおに過ぎていますし、ゼノン兄の部屋には寄らずに………」
「文化局まで行って、挨拶もせずに帰るのもどうなんだ?まぁ寝てるなら構わないが
また書類の山を作って、埋もれているかもしれないだろ?」

特に他意も疑問も無くそう答えるゾッドに、少年は深い深い溜息をつく

「そうですよね…ゾッドさんは御存知ないですよね、病棟に居たあの男を」
「???ああ、出かける前に逢った、あのオッサンか?アイツがどうした?」
「とてもそうは見えないので、信じられないかもしれませんが、アレは堕天使ですよ
ゼノン兄が、眼球の強奪の為に人間界で誑かしてきた、文化局預かりの【賢者】ですよ」

オマケに母上のオトコの一名でもありますがね………転魔する前からずっと、忌々しい事ですが………
苦虫を押しつぶした様な声で語られる、その情報に驚きながらも
本能的に感じた恐怖の正体に気がつき納得もする、成る程【賢者】クラスならあの威圧感も当然かもしれない

しかし…アレは、どう見ても天使には見えないぞ???いや堕天使にすら見えない???

「そう言う事ですから、今頃何をしてるかは…解ったモノではありませんから
今夜は部屋には行かない方がいいですよ、それと手を診せて頂けますか?」

新事実を上手く消化出来ない状態で、唐突にそう言われてしまう
意味も解らないままに、その手を差し出せば
出血は既に止まってはいるが、掌に残る傷痕、オロチとバイクの融合魔法の際に作ったソレに、少年はそっと唇を寄せる
その仕草が…少しだけゼノンに似ていて、意味もなくドギマギとするのだが
吹きかけられた治癒魔法で、刻まれたルーン文字は跡形も無く消えてしまった

「母上に聴きましたよ、最近一緒にベースを楽しんでいるらしいって…」

ゼノン兄が、誰かにレッスンをするなんて…とっても珍しいんですよ
でも…その分、絶対に怒ると思うんですよ、貴方が手に傷を付けてくるとね
コレは今日のお礼と、この間の失礼のお詫びですよ
今日は本当にありがとうございます、貴重なモノを見せて頂いて、おやすみなさい

身内なのだから、ある程度話が漏れていても仕方が無いのだが
何だかこそばゆくなったゾッドが、何か答えようとするのだが
その返事も待たずに、少年は丁寧にお辞儀をすると、そのまま門の中に消えて行った

取り残されたゾッドは、むにゃむにゃと寝こける少女を抱えたまま
これからどうしたモノか解らず、ただその場に佇んでいた

※※※※※※※※※※※※※※

「はぅ…うあっ…あああん」

誰にも見られない安心感からだろうか…打算的すぎるよね我ながら
抱かれ与えられる強い快楽に溺れ、喘ぐ僕は、きっと浅ましいのだろうね
無理矢理に身体を開かれて、食い殺されかけたアレとは全然違う
内側の良い部分を探られ、ネチネチと嬲られればば、嫌でも身体は熱くなり溶けてゆく
悔しいけれど、中を抉る質量の大きさと強さに、良い様に翻弄されてしまう

最初からそのつもりだったのか、白衣のポケットからチューブ式の潤滑剤を出されても、僕は見ないふりをした
封を切られたソレに塗れた指が、するりと中に入ってきても、僕の身体はソレを拒絶しない…慣れた相手だから、慣れた手だから
僕の意思に関係無く、身体が勝手にその先を期待して居る、快楽をねだりくねる様は、さながら盛りの付いた雌の様だろうに
ぬちゃぬちゃと掻き回されるソコは、物欲しげに相手の指にからみついて卑猥な音をたてはじめる
その恥ずかしさに顔を背けながらも、みっともない程に上ずった声が止められ無い

「そんなに気持がいいかい?ご無沙汰だったのに感度も変わらないねぇ…多淫の悪魔の特権かな?」

そうやって、あの若造に嬲られて喜んだのかい?意地悪くそう問いかけてくるが
そんなワケ無い事くらい解っているクセに、何故聴くのだろうか…悪趣味なのは相変わらずですね
ココに来る前に、僕のカルテも初見も目を通して、おそらく勝手に記憶の方も覗いているクセに
酷い裂傷になっていたソコに快楽など有る筈もない、生憎、僕にはソチラ側の趣味はない

キチンと答える気にもなれなくて、そっぽを向く僕を、彼は薄く笑うと
長い指が、泣き所をぎゅるりとつまみ上げて刺激してくる
堪らずに悲鳴をあげて跳ね上がる身体を、やんわりと押さえつけられ、更に本数を追加された指の圧迫感に息を飲む
揃えられた指を彼自身の様に出し入れされ、中途半端に入口だけを、執拗責め上げられてしまうと
もう恥も外聞もどうでも良くなってきてしまう

もう焦らさないで、もっと奥まで触って…中まで一杯にしてください

経験値が薄くてガチガチだった頃とは違う…霰も無い声を上げその先をねだるのだが
底意地の悪い相手は、決定的なモノはなかなか与えてはくれない
解剖学的に理論的でも、基本的には自分本位で、性急な何時ものヤリ方とは、また少し趣向が違う様だ

まるで「他の奴に身体を触らせた罰だ」とでも言わぬばかりに、緩慢な焦らしと中断がもどかしくて気が狂いそうだ

「お願いです…もう………」

息も絶え絶えに絞り出す様な声で、そうねだるのだが、許してくれる気配は無い
見下ろす視線にからは欲情を感じるけれど、何処か突き放されたこの感じは…あの時と一緒だ
人間界の牢獄で薄ら笑いを浮かべながら、僕を組み敷いたあの時の様に

「………欲しかったら、どうすれば良いかぐらい、解ってるよね?」

ニヤリと笑うその顔に突き動かされる様に、僕はゆるゆると身体を起こすと、布の上から彼の前に触れる
本来は頸だけのヨカナーンの身体には、必要が無い器官のはずだが…
サイボーグ体のソコにはしっかりとアレがついている
頸から下の肉体を失う前と寸分違わぬ大きさ?いや…少し大きくなったくらいか?

機械で出来ている筈のソレは、脈打ち既に半分勃ちあがっている上に、じんわりとした温かさもある…
実用もOKで、相手への配慮もされて居ると言う事なのだろうか?

全く…いくら転魔してたとは言え呆れるよ、元高位天使とは思えない思考回路だ、相変わらずにね
しかしソレについて、嫌味や悪態を放つ余裕すら、もう僕には有りはしなかった

はぁはぁと高熱にうなされている様な、短い息を吐きながら
探り出したソレにしゃぶりつく僕は、さぞかし滑稽に見えるのだろうね、彼にとっては…

即物的な行為とは裏腹に、腰を上げたままの自分の格好が頭を過ぎるが、思考の隅に追いやってしまう
当たり前の羞恥心よりも、ソレが欲しくて我慢できなくて…がむしゃらに舐め回す自分が情けない
ソレだけでは満足出来なくて、自分で自分の前も慰みはじめている事も…

解らない…何でこんなに興奮しているのか?身体が火照って熱くてたまらない
興奮剤か何かの薬物でも入れられたのだろうか?気がつかない内に?

「………随分上手になったじゃないか、イイコだソコをもっと吸い上げてごらん」

彼に頭を撫でられるのが、心地良く感じるなんて、本当にどうかしているよ
ちょっと死にかけたくらいで、こんなにも他者の肌が恋しかったのだろうか?僕は?

※※※※※※※※※※※※※※

結局、眠ったままの少女を起こさない用に、そのまま文化局の職員に預けたのだが…
あんな話を聞いた後では、余計に気になって仕方がないじゃないかっっ
病棟の入口でウロウロしながら、俺はこのまま帰るべきか?顔を出すべきか?まだ悩んでいた

面会時間は過ぎているから…と言っても、あまりにも足繁く通いすぎたせいか?
ここの所は、看護職員も超過を大目に見てくれる為、殆どフリーパスに近い状態になっていた

ココまで来たのに報告をしないどころか、顔を見ずに帰るのも…水くさい感じもするし
かと言って今部屋がどうなってるかを、受付に聴くのも…おかしな話じゃないか???どうしたものか???

それ以前にオッサンは一応ココの局員みたいなモノだ
入退室も履歴には書かれておらず、ココでは確認のしようが無いのだ

そんな理由から、薄暗い廊下で一名で悶々としているゾッドの耳に、微かに弦をつま弾く音が聞こえる

えっ?こんなに遅い時間なのにゼノンが弾いてる???

オカシイと思いながらも…何かあったのだろうか?とも心配になる
でなければ…騒音を気にする彼が、こんな時間にベースを弾いたりしないだろうから
ただ…弾いてるって事は、もう部屋で一名なのは、間違いないだろうな
知っている限り、俺以外の奴が部屋に居る時は、ベースを持ち出したりしないから

ココの職員・医療スタッフの前では、流石に気が引けるらしく?
レッスン中でも、他の誰かが部屋を訪れようモノなら、慌てて隠してしまうのだ
まるで不味いモノを見つけられた…と言う感じの、子供の様なその仕草が
何時もの落ち着いた彼とは全く違うので、実は密かにそのハプニングを期待している、ゼノンには内緒ではあるけれど

「とりあえず…ちょっと顔だけ見せてから帰るか………」

ゾッドは自分に言い聞かせる様に、ボソリと呟くと
その音に誘われる様に、廊下の先の部屋に向かって歩き出す
その足下では、強力すぎてその存在すら関知させない結界が渦巻いている事に、彼は気がつかなかった
彼だけに限定して【路】が開かれている事も………



続く


えっ…【覗き見事件】って仕組まれてたの?うわっ…極悪天使相変わらず性格悪すぎ
長くなっちゃったから、一時中断…次回ももう少し続きます(T_T)(T_T)(T_T)
和尚様の発生日近くに、一体何を書いているよやら…X宗の方申し訳ございません


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あきゅろす。
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