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【クロス・オーバー・ポイント】
『黒森の獣は砂糖菓子の夢を見る』3 α×Xの予兆?+モブ子守Z表現有り(汗)

その日は、デーモン邸に寄ってから文化局に顔を出した為 、ゼノンの部屋に行くのが、少し遅れてしまったのだが
どうやら先客が居る様だ、ソレも酷くやかましい感じの奴が…聞き覚えの有る声だ
だから部屋に入る事は躊躇は無いが、何を喚いているのやら?

ゼノンの調子が良くなって来るのはいいのだが、ソレに比例して、彼の病棟を訪れるモノが多くなるのには複雑な心境だ

エースの邪眼治療の一件だけじゃない、彼が抱えている研究とやらは多岐にわたる様で
その途中経過とやらが大量に持ち込まれる為、部屋は半分資料置き場の様になっている
勿論その内容は、軍魔の俺には、ちんぷんかんぷんなのだが…
どうにも学者と言う奴は、整理整頓が苦手な奴が多いのか?
読み終わった文書や書籍をそこら中に積み上げるクセには、辟易としてしまう
気がつくとゼノン自身が、ソレ等に埋もれてしまっている状態で、しかも本魔は少しもソレを気に留めないのが厄介だ

「そんな事ぐらいで、悪魔は死にはしないでしょう?」

ってそんな問題じゃないだろう?まったく…ブツブツ言いながら毎日片づけるのだが
面会時間を終えて俺が帰宅すると、殆ど元の木阿弥だ、翌朝にはまた似た様な惨状になっている
「ソレでも僕だけの時よりかはずっとマシだよ」等とのほほんとした顔で言われてもなぁ

片づけるのは別にいい…実は整理整頓は嫌いでは無いのだが
一晩で部屋が元に戻ってしまう程に、研究とやらに根を詰めている事に問題を感じている
確かに体調は徐々に戻りつつあるとは言え、まだまだ病室から出られない
本調子では無いのだから、俺としてはあまり無理はして欲しくないのだ

そんなゼノンの病室で、騒いでる奴にガツンと言いたくて、少し乱暴に扉を開ければ
部屋の中には、見知った顔の少女と、初めて見る面だな?誰だコイツ?長髪の中年?
白衣を着たひょろりと背の高い男が、備えつけの椅子にドッカリと腰を下ろしていた

「あっ!でっかいのっ!アンタもココに居たの?」

顔を真っ赤に紅潮させ、フーフーと息を吐く少女は、ケラレイヤーから共に王都に帰還したあのガキなのだが
ん???何だか雰囲気が、少し変わった様に見えるのはどうしてだ???
「重傷者の部屋で騒ぐんじゃねぇよ」と注意する前に、ガキはけたたましく叫んだ

「調度良かったっっ!!!アンタからも、コイツ等に何とか言ってよ!!!」

言うや否やバサリと広げられるのは、漆黒の羽根の生えた8枚の翼なのだが
ん???コイツの翼はたしか?蝙蝠型のデカイ奴じゃなかったか???
ああ…そう言えば、エースに焼き払われて損傷してたよな、新しい奴に付け替えたのか?

「こんなに極端にカタチが変わったら、何かあった事が、アシュヴィンにバレるじゃないっっ!!!
オマケに何なのよっっ!このファンシーすぎる見た目はっ!アタシの実年歳も考えてよっ!」

確かに良く見れば…色こそは悪魔らしく黒くても、寸を詰められたその翼は、少々幼い印象だ
サイボーグ体の見た目には合っていても、あの車椅子の女性と同じ年齢の者が背負うには、気恥ずかしいのも解らなくもない

「………実年齢を考えなきゃ、俺はイケてると思うが???」

相手のあまりの剣幕に、俺はつい絞り出す様な声でそう答えるのだが
少女はそんな俺の反応が気に入らないのか?甲高い声で、キンキンと叫び続ける

「いいじゃないか?見た目の違和感なんて直ぐ慣れるさ…」

ニヤニヤと笑いながら呟いたのは、白衣の男だ、ゼノンはガックリと額を抑えながら、その様子を見ている

「蝙蝠型や昆虫型の比翼はね、少し損傷しただけで、直ぐに飛べなくなるだろう?
魔力じゃなくて、翼そのモノに飛行能力を頼って居る者程、鳥類型の翼の方が望ましいんだよ
部分的に羽毛を犠牲にしても、残ったモノで飛行を続けられるからね
前の翼のイメージも、ゼノンに見せてもらったが、アレでは背後に視覚も出来やすかっただろう?
今のソレの方が小回りも効くはずだよ、それに可愛いし、似合ってるからいいじゃないか?」

「そう言う問題じゃないでしょ!!!このロリコン変態親父!!!ああ…アシュヴィンに何て言い訳をしたらいいのよっっ!!!」

そう説明されれば、この男の言い分にも一理はあるのだが…どちらの肩も持つ事は出来ず
ぽかんと成り行き見ている俺の目の前で、ゼノンは呻く様に言った

「ナーサティア、直ぐに再手術をするのは、貴女の身体に負担が掛かるんです
それにヨカナーンの言い分にも、合理性は有ると思いますよ…彼のサイボーグ技術は僕より上ですから
当面はその義肢を使用して頂く方向で、納得して頂けませんか?」

それよりまずは、妹君に連絡を入れないと、姿を見せるのがどうしても嫌なら
音声だけでの通信でも構わないから、連絡を入れないと、心配されてると思いますよ
等と何とか少女を宥めようとしているのだが、なかなかに手を焼いているらしい

そんな二名の不毛なやりとりを眺めていた男が、突然クルリとコチラを向く

何だか嫌な感じの笑みを浮かべているのだが、その奥の眼光は妙に鋭くて
上手く隠しているのだが、その男の発する強い魔力波動に、本能的な怯えがゾクリと背中を駆け上がった、一体何者だコイツ?

「………ふぅん、君が噂に聞くゾッドかい?」
「おっおぅ…アンタは?ココの学者さんか???」
「まぁ学者の様な?居候の様な?そんな様なモノさ…今の通り名はヨカナーンだが、好きに呼んだらいいさ………」

何だか良く解らない答えを返してきたその男は、それこそ舐める様な視線で、じっとりと俺を見る、頭の先から爪先まで余さずにねっとりと

「局内には居ないタイプだな、まぁゼノンの悪趣味も、今始まったワケではないか…」

小声で俺に聞こえない様に?言ったつもりらしいが、しっかり聞こえてるぞオッサン…
感じの悪い奴だなぁと思いながらも、ソレを口に出すべきでは無いと黙っていると、ゼノンは困った様にコチラを向いて言った

「貴女の再手術の件も含めて、これからヨカナーンと話し合いますから、少し時間をください、ナーサティア
ゾッド、そういうワケだから、今日はレッスンは出来そうにないよ、せっかく来てもらったのに悪かったね………」
「いいって、気にしないでくれよ、アンタもあんまり無茶をするなよ」

暗にゼノンがオッサンとサシで話したい、と言う事くらいは、俺にだって解ったので
軽くそう答えると、俺はベルトから下げていたシザーバックを軽く叩く、時間が空いたなら調度良い
雲隠れしやがったダミアンとデーモンを探して、異空間に侵入する為に、破壊した愛車のガワが出来た
と言う連絡が昨晩入ったから、今からソレを取りに行ってくるよと言えば…

「愛車って、ココに来た時のあのバイク?何?壊れてたの?カスタマイズしたの???
取りにいくならアタシも見たいっ!!!ねぇ一緒に行っていいでしょ?でっかいの?」

突然食いついてくるなよなお前、びっくりするじゃないか?

しかし…ココに来た時のあのマシン裁きを思い出せば、相当な単車好きである事は間違いないので、悪い気はしない
何よりも、困り果てているゼノンに助け船も出してやりたかったから、俺はゼノンに目配せをしてから言った

「いい加減に俺の名前も覚えろよ、俺は【でっかいの】じゃなくてゾッドだ
あまり五月蠅くしないなら、連れていってやるよ、バイクに興味があるんだろ???」
「ホントにいいの?嬉しいな、王都のバイク屋なんて初めてだわ!」

本当に実年齢は…なのか?と疑いたくなる程のはしゃぎ様で、嬉しそうに飛びついてくる少女を、片腕に抱き上げると、
ゾッドはそのまま病室を後にしようとするのだが、ゼノンに呼び止められる

「待ってゾッド…例の【魂入れ】もするんでしょ?だったら、もう一名連れていって欲しい者が居るんだけど、今後の勉強の為に」

振り返った俺が「構わない」と言えば、ゼノンは直ぐさま誰かを呼び出した

殆ど時間を置かずに病室の壁に出現した、ゲートの魔方陣の中央に炎が集まると
その中央から出現するのは、魔道院の制服を着たあの小さな坊主だ
不機嫌そうな面は相変わらずだが、同席している男に驚いた様に目を見開き
剥き出しの敵意を露わにするのだが、男は少年のそんな様子も全く意に介さない

「なんでヨカナーンがこんな所に???まぁ僕には、関係ないからいいけど
何か用?ゼノン兄?まだ喧嘩の決着は、付いてないんだけど?」

「その件に関しては、後日ちゃんと勝負は受けるよ、今日呼んだのは他の理由だよ
今から彼が、私的に【魂入れ】に行くんだけどね、ちょっと特殊で特別な奴なんだ
本当は僕が見に行きたいくらいだけど、こんな調子では行けないだろう?
だから君に代理で行って欲しいんだ、君の勉強にも成ると思うんだけどね」

工場の悪魔に了承が取れるなら、映像資料も取って欲しいけど
不可能なら、君の目と耳で習得したモノを僕に教えてよ…と依頼すれば
少年は少し戸惑いながらも、ゼノンの手から記録媒体を受け取る

「ゼノン兄が、それだけ興味を持つくらいだから、相当変わった術なんだろうね
解った…記録は取ってくるけど…まだ兄の事を許したワケじゃないからね………」

おいおい…よりによってソイツかよ…と内心思いながらも
初対面の印象の悪さをお互いに解消する為には、よい機会かもしれないと俺も諦める

女先生を挟んで複雑な関係らしいが、術者としては良き先輩と後輩と言う所なのか?
その時の俺の認識はその程度で、少しバツが悪そうながらもコチラを見る坊主に
俺の方から手招きをすると、少し距離を置きながらも付いてくる

気分的には難しいタイプの子守を、一気に任された感じもするが…まぁ仕方がないかな
済まなそうな顔をするゼノンに「気にするな」と言うと、俺は二名を連れて部屋を出た

※※※※※※※※※※※※※※

「ケラレイヤーとは全然違う、やっぱり王都は華やかねぇ〜」

三名連れで歩いているのは、何て事の無いダウンタウンの市場で、何処にでも有る街並みなのだが
行きつけのバイクショップに行くまでの道中も大変だ、田舎育ちの少女には何もかもが、珍しいのだろう
寄り道に次ぐ寄り道で、なかなか目的地に到着しないのだが
まぁ目的は、部屋に残してきた二名の【話し合いの時間】を確保する事だ
時間が掛かる事に、俺はさほど苛ついたりはしないのだが、坊主の方は相当苛々しているらしい

「ナーサティアさんまたですか?もうっ…寄り道は後にしてくださいっっ」

急な呼び出しに無理に時間を取って、魔道院から抜け出してきたらしい坊主には
少女の気紛れショッピングに付き合う理由も、余裕も無いのかもしれないが

「ゾッドさん、まだ目的地は先なのでしょうか?」

疲れ切った坊主の表情は、ガキの様な見た目でも、しっかりとした大人のソレで
何だか可笑しくなってしまった俺は、笑いながら少し先の建物を指さす

「心配要らねぇよ、もうすぐソコだから、用事が済んだら、お前さんは先に帰ってもいいからな」

到着した店は…市場の外れの小さな店だ、店頭には中古の単車が並んでいるのだが
カモフラージュとして置かれているソレ等は、駆け込みの客に売り込む商品で
原付に毛が生えた程度の品だ、何れも普段使いが上等の大した物ではない
ソレ等を見て少女は、幾分がっかりとした表情をするのだが、その耳に俺は耳打ちする

「表の店は防犯用だ、裏の店はアンタも気に入ると思うぜ…」

備え付けられた呼び鈴を鳴らすと、奥から身長1m程の小さい影が走り出してくる

「いらっしゃいませ……ああっ!!ゾッドさん!!お待ちしてましたよ!!!」

素っ頓狂な声を上げたのは、大きな黒縁メガネをかけたゴブリンだった、特徴的な大きな耳がピクピクと震える
ブルーの繋ぎの作業服には、機械油に塗れてしまって真っ黒なのだが
店名の一部なのだろうか?BGと巨大なロゴマークのワッペンが、誇らしげに縫い付けられていた

「遅くなって悪かったな、シゲ、予定外の連れが出来たからな、おやっさんは奥か?」
「ええ…首を長くしてゾッドさんをお待ちですよ、どうぞコチラへ、裏口を直ぐに開けますから」

そう言った彼が、その小さな背をめいいっぱい伸ばして、壁に設えられたレバーを引けば
何の変哲も無い煉瓦造りの壁の煉瓦が、パズルの様にガタガタと移動する
唐突にポカリと空いた入口と、秘密の通路の出現に、少女と少年は驚いた様に顔を見合わせる

「裏の本店に入れるのは、特注のカスタムを頼んだ奴だけだからな…ついてこい」

大きな図体には少し手狭なその入口に、ずかずかと入ってゆくゾッドの後を、慌てて二名は追いかける
その後に続く様に、ゴブリンがその入口を潜れば、煉瓦はひとりでにその穴を塞いでしまう、まるで最初から何もなかった様に

クネクネと長く続く狭い階段を下ってゆくと、ソコは巨大な地下室であり、天井の高いホールの様な場所に辿り着いた
排気ダクトはしっかり備えられては居るが、噎せ返るような機械油の臭いから、ソコが彼等の作業場である事は、容易に想像がついた
フロアには、先程対応に出てくれた者と、全く同じスタイルのゴブリン達が、せわしなく走り回っているのだが
彼等に降りかかる怒号の恐ろしさに、少女と少年は震え上がった

「もたもたしてると、全員溶解炉にたたっ込むぞッ!」

「大丈夫だ、ホントにたたき込んでる所なんて、見た事ねぇから」

ゾッドは笑いながら言うのだが、戸惑う二名を余所に、ずんずん奥の方に行ってしまう
置いていかれてはたまらない、見た事も無い工業機械の隙間を、せわしなく動くゴブリン達のを避けながら、慌ててその後に続く
場違いな場所に来てしまったのではないか?と彼等が不安に思うのもまた当然の反応だった

「随分と遅かったじゃねぇか?アンタらしくねぇな…珍しい?」

不意に少し高い位置のステップの上から、威圧的な声がした、見上げればソコは…この工場の司令塔の様な場所なのか?
古めかしい製図台の上に、ハトロン紙が幾枚も貼り付けられ、スタンドの光が妙に明るい
逆光に浮かび上がるのは、ゴブリン達とは明らかに違う種族の大きな影だ
ひょろりと長く伸びた六本の腕を持つ初老の男は、神経質そうな口をへ字に結んだまま、一番手前の腕を組んで、コチラを見下ろしている
男もまた同じデザインの作業服を着用しているのだが、彼のソレもまた機械油まみれだ
大きめのサングラスをしている為、その表情は読む事が出来ないが、この男がココの責任者なのは間違いないだろう

※※※※※※※※※※※※※※

「注文の品は出来てるぜ、最終確認はアンタ等がしてくれ…」

ステップを降りてきた工場長の姿は、まるで蜘蛛の様だった、彼に案内されて別室に入れば
そこには納品を待つばかりのマシンが、所狭しとズラリと並べられている
皆その上に半透明のシートを、丁寧に掛けられてはいるが、そのままでも、その全容を見るのは容易で、少女は目を輝かせた

「わぁ…SL350K1だ、TS250IIIにRA125もRX-7も有るなんて凄い!!!」

魔道士の少年には馴染みがなく、ピンと来ない文字の羅列に、キョトンとしているのだが
嬉しそうにはしゃぎ、走り回る少女の姿を見て、工場長は豪快に笑った

「ゾッドが、女連れなんざ珍しいと思ったが、なかなか物知りじゃないか?お嬢ちゃん?単車は好きか?」
「うん…大好き、勿論乗せてもらうのじゃなくて、自分で転がす方だけどね」
「ソイツは傑作だ、ますます気に入ったぜ、お嬢ちゃん」
「………乗れないと思ってるでしょ?まぁ手と足は、伸ばさないと無理だけどね…
これだから小さな義肢は嫌なのよ、やっぱり成体の身体じゃないと、サマにならないのよね…」

少しだけ拗ねた様な顔をする少女の頭を、ゾッドはワシワシと少し乱暴に撫でると
工場長に耳打ちをする、ボソボソと伝えられるその内容に、彼は俄には信じられないと言う様な表情で、少女を見下ろすのだが
彼が日常的に部下にそうする様に、低い目線を合わせて屈み込むと、少女の顔を覗き込んで言った

「こりゃ失礼な事を言っちまったな、謝るよ、初乗りでオロチを転がすとは大したものだ
何ならソノ身体に合わせたサイズのマシンを、俺が作ってやってもいいぜ」

ウチの連中のサイズに合わせた、レーベルもあるぜ、王都は小さい種族も多いからな…
そうフォローを入れてきたメカニックに、少女は驚いた様だが、同時に困った様にゾッドと工場長を見比べる

「ソレも嬉しいけど、出来れば成体の義肢に移りたいのよね、アタシは…
そっちの決着がついてから、ココでバイクのカスタムをしてもらってもいい?」

はにかんだ様な少女のその表情に、工場長が笑い返したのは、口の表情だけでも解る
既にくしゃくしゃになってしまった頭を、更に本数の有る腕にも代わる代わる撫でられ
「もうっっ!わしゃわしゃにしないでよっ!」と、悲鳴を上げながらも何処か嬉しそうだ

そのまま立ちあがった工場長は、部屋の中央に置かれた単車に近づくと、被せられた銀色のシートをバサリと取り払う

「新型の【オロチ】も、前のマシンと同じFLSTCシリーズをベースを使ったが…
デザイン主任をシゲに任せた分、前より厳つくなってるが、重さは変わらない筈だ
サポート封印の拘束力も調整したから、奴の肉体に掛かる負担は軽減した筈だがな…」

薄暗い部屋に佇む、燻し銀の姿は、前のソレと同じくドラゴンの骨格を思わせる車体
小型の竜とバイクが融合した様なその姿は、やはり過剰な程に厳めしく、新たに追加された角が鈍く光っていた

※※※※※※※※※※※※※※

「確かに格好いいけど、前アタシが乗った時とは、違うじゃない???」

そうケラレイヤーからココに飛ばしてきた時、そのバイクは火を吐き吠えていた
今目の前にあるこのマシンは、カタチこそ似ているが完全なマテリアルだ、命が宿っている様には感じられない…

「勿論コレで終わりじゃないさ、来る前に言ったろ?【ガワ】が出来たって?
コイツに中身を詰めてやらないと、本当の意味での俺の愛車に、相棒にはならない寸法だな…」

しゃがみこんだゾッドは、一通りバイクとしての機能構造を確認すると
調整の必要な箇所は、その場で工場長と手直しして、テキパキと微調整してしまう
単車の知識が豊富らしい少女は、その作業を覗き込み談笑しているのだが
先程から三名の会話に全くついて行けず、置いてきぼりを喰らっている少年は
少々居心地が悪そうに、ソワソワとするばかりなのだが、そんな彼にゾッドは振り返って言った

「こっから先は、アンタ等、魔道士の領域にもなるから、よく見ておけよ坊主」

そう言われて我に返った少年は、調整の終わったマシンを押して、保管庫を出る大男の後を慌てて追いかけるのだが
保管庫で確認作業をしている間に、大急ぎで場所を空けたのだろうか?
大きく場所を確保された空間には、巨大な魔方陣と、標準サイズの同じ物が既に開されている
その中央では、何時の間にか着替えたのか?先程店頭で対応に出てくれたメガネのゴブリンが
魔道士のローブを羽織り、儀式用の杖を持って、上司と客を待ち構えていた

「新しいマシンの出来は、如何ですか?ゾッドさん?」
「奴の【依代】としては問題無ぇよ、お前のクールなデザインも気に入った
後は【魂入れ】した後の微調整によるけどな…何時も通りにアシストを宜しく頼むよ、シゲ」

と俺がポンと肩を叩けば、彼は嬉しそうに頷いた
標準サイズの魔方陣の上に、新車のバイクを固定してしまうと
ゾッドはシザーバッグの中から、小さめの水晶球を取り出し、巨大な魔方陣の中央に投げつける

「出てこいオロチッ!息苦しい思いをさせて悪かったな…新しい身体が出来たぜっ!!!」

ゾッドの叫び声と同時に、魔方陣の内部にもうもうと白煙が噴き上がる、
ソレが徐々に薄くなってゆくと、中からゆらりと現れるのは、予想外に巨大な魔獣の影だ、全長は20m近くあるのだろうか?
鋼鉄の金属質の鱗に覆われた、八つの首を持つ巨大なオロチは、全ての口から火を吐き主に答えるのだが
同時にその身体は何故か小刻みに震え、苦し気な咆吼を上げていた

「なっ…なんですかっっコレはっっ!!!」

思わず叫び声を上げる鬼の少年に、手近に居たゴブリンの作業員が答える

「何だ?見た事無いのか?坊主?ヒドラだよ、かなり歳はとってるけどな」
「そんな事は見れば解ります!!!何で?何であのヒドラは、あんなに傷ついてボロボロなんですか???」

そう…歳を取った蛇が進化、特に魔力が強い個体の頭が増えたヒドラは、珍しくはない
魔界はおろか人間界でも頻繁に目撃される様な、ごくありふれた魔物なのだが
ここまで巨大になり、強大な力を持つ様になった個体は珍しいだろう
おそらく人間界では、神としてして、奉られていたレベルである事は間違いない

なのに…このヒドラはボロボロなのだ、身体の彼方此方が崩れ、骨と肉が露出している
元が立派な身体なだけに、余計に痛々しく見えるのだが、アンデット化していると言うワケでもなさそうだ
命に関わる傷を負いながらも、まだ半死半生で生きているそんな状態だ、傷口は生々しく、噴き出す血の色も濃い…

まさか生体魔法具の材料とする為に、あの大男がヒドラを痛めつけ、捕らえてきたと言うのか?

「ああ…状況だけ見ればそうだよな、ゾッドさんが、あのヒドラを捕って来たと思ってるだろ?ソレは大きな間違いだぜ、坊主」
「詳しい事情は知らないけど、アイツはゾッドさんの古くからの知り合いで、手下だからな」
「俺が聴いた話じゃ、神に半殺しにされて、くたばり掛けていたアイツに、新しい肉体をって与えたのが、ウチのバイクで【依代】の代用品だったらしいぜ」
「まぁ…動力としてはこれ以上なく物騒だけどよ、無理矢理封印するんじゃなくて、納得済の生体魔法具なんて、何度見ても珍しい光景だよなぁ」

作業員達の口から出る、信じられない言葉の数々に、年若い鬼は驚愕する
そんな…そんなカタチの【生体魔法具】など、彼の常識の中では考えられなかった
その多くは力の有る魔物を、生かしたまま強引に魔法具に閉じ込めて使役するモノなのに
あれだけの力を持つヒドラが、何故あんな狭いモノに自ら閉じ込められるのか?良い様に使われているのか?ソレに何の得が有ると言うのか?

「よ〜し、待ってろよオロチ、傷が痛いか?痛くてももう少し我慢するんだ…
入る前に、お前にも納得して貰わないと具合悪いからな、ソコの上のマシンが見えるか?」

優しく話しかけるゾッドの声に反応した全ての首が、キロリと魔方陣の上のバイクを見る
うねうねとゆっくりと、ソレの回りを取り巻き、その舌先でマシンを確認すると
一番大きく太い中央の首が、差し出された主の手に鼻先を擦りつけ、巨大な舌がチロリとその指先を舐め上げる
その様子を見て、ゾッドは目を細めて豪快に笑った

「また…無駄に派手すぎるな…だってか?良いじゃ無いか、地味な身体なんて、お前に似合わないだろう?
よーし!本魔の確認も出来た、OKが出たぜ、【魂入れ】作業に入ってくれっっ!!!」

言うや否や、ゾッドは自らの掌の内側を爪で切り裂き、そのままオロチの眉間に押しつける
傷のカタチが特殊なルーン文字になっているのか?赤く浮かんだ血文字は、オロチの鱗の上で光り始めるのを確認すると
その掌をそのままバイクにも押しつける、寸分違わぬ血文字が、オロチとマシンの上に浮かび上がると
大小の二つの魔方陣もまた、ギラギラと発光しはじめる

「ゾッドさんっっ!!魔方陣の外に引いて下さい!!!融合作業に入ります!!!」

魔方陣の外でゴブリンが呼んで居る、ゾッドは素早く陣の外に退避した
杖を構え融合の為の呪文を詠唱する、シゲの顔が苦し気に歪む、ぱりぱりと細かい稲妻が、彼のを取り巻く様に発生する
結界に護られているはずの術者のフードまでもが、バサリとはだけるのは、身に過ぎた術の強い波動反発を感じているからだ
彼も又、正式な魔道士の修行も教育も受けている様だが、所詮はゴブリン、魔力レベルの低い下級悪魔だ
自分より魔力のある相手に術を掛けるのは、普通なら困難な話なのだ
それでも術が進行するのは、封印される側であるヒドラの協力があってこそなのだろう

やがて真っ赤な光のカーテンが、オロチとマシンを包み込むと、ドーンと言う破壊音と共に、閃光が走り一瞬何も見えなくなった
そして…ソレが収まってしまうと、巨大なオロチの姿は場から消え失せ、その中央にバイクだけが、取り残された様にぽつんと残っていた

「無事に融合出来たのか???」

誰もが口々にソレを呟き、残されたバイクを遠巻きに伺うのだが
派手派手しい融合魔法の迫力に圧倒され、確認作業に出る事を躊躇するばかりだ
だが静まりかえったその場所で、ユーザーより先にマシンに駆け寄った者が居た様だ、今回は
プスプスと音を立てて、フロアの表面の温度も、まだ充分に冷却しない内に
翼を広げふわりとバイクの側に降りると、少女はそのままバイクの頭を撫でる
髑髏のカタチを模した両目の黒い眼孔に、ギンと赤い炎が宿り少女を見下ろすと、嬉し気に頭を彼女に擦りつけた

「良かった…間違いなくアンタだよ、アタシを王都まで連れてきてくれたのは…」

再生した愛機とじゃれ合う少女を見て、ゾッドはぼやいた

「おい…ソレは俺の役目だろ?まぁ今回はいいけどよ………」

正常な融合にホッと胸を撫で下ろしたのは、マシンのオーナーだけではない、その場に居た作業員全員だった
はぁはぁと息を吐き、杖を握り絞めたまま両手をついて、へたり込むゴブリンの背を、ゾッドはその大きな手で摩ってやってる

「御苦労だったな、シゲ…上手く融合出来たみたいだぜ」
「御注文通りの完全カスタムでの納品が、我がGBモーター社のモットーですからね
こんな馬鹿でかいモノの【魂入れ】は、ゾッドさんくらいですから…緊張はしますが…」

整わない息のまま、ゆっくりと立ちあがる術者の顔色はかなり悪かった
彼のレベルで融合魔法を行うのは、いくらアシストがあっても、本来は無謀で
精神力も魔力も、限界まで消耗している事は容易に想像がつくのだが
ソレでも誇らしげに見えるのが、鬼の少年には酷く印象的だった

「代金は何時もの口座で頼むぜ、その前にひとっ走りしてこい、調整カ所は治してやるから」

工場長がそう言って壁を叩けば、ココに来た時と同じ様に煉瓦がモザイクの様に動き
あっ言う間にバイクが駆け上り、地上に出る為のスロープが構築されてしまう
主が跨がるのよりも先に、上がるエンジン音が妙に心地良く、喜んでいる様にも感じる

「じゃぁ…遠慮なくそうさせて貰う、嬢ちゃんお前も乗るか???」
「乗らないワケないでしょ?当たり前の事を聴かないでよねっっ」

新車に跨がるゾッドの前のスペースに、少女がちんまりと得意気に乗ったのは、また運転させろと言う意思表示なのだろうか?
ふぅと溜息を吐いたゾッドは、少女のつむじを見下ろし、頭をかきながらも、ただ唖然と成り行きを見る少年にも手を伸ばした

「いい機会だからお前も来いよ、まだ後ろが空いてるからよ」
「いや…僕は別に………」
「大丈夫だって、落としたりしねぇよ、ゼノンも最初はそうやって躊躇してたけど、結局乗ったぜ?」

それとも魔道院の学生さんは、この程度のモノに乗るのも怖いのか?
意味深にゾッドがニヤリと笑うと、流石にカチンと来たのだろう
少年は何も言わずにズカズカと近づいて来ると、ゾッドの後ろに飛び乗ってくる
その小さめの手が、キチンと腹に回ってくるのを確認してから、ゾッドは思い切りアクセルを吹かした

「一時間程で戻るから、工場を開けて待っていてくれっっ」

一気にスロープを駆け上がる、バイクのエンジン音と共に聞こえてくるのは
少女のけたたましい歓声と、少年の絹を裂くような悲鳴なのだが
工場の作業員達はゲラゲラと笑いながら、走り去る三名を見送っていた



続く

モブのどうでもいい話が、長くなりがちなのは、何時もの事と諦めてください(T_T)
オカシイな…ちょこっと前置き書いたら、すぐにエロ展開にする予定だったのに
何でこうなった??? 多分【モブ好き】なんですね管理人は…
そう言えば、ジブリ映画も主役じゃなくてモブの方が好きですから、困ったモノだ

ヨカナーン(サンジェルマン)さん、猫型じゃなく人間型のアンドロイドに乗ってます
多分ヤる気満々です、どうせ…カリティとも?ここぞとばかりに?いちゃつきまくったクセに
まぁ…次回は、そちらの描写ががっつり出てきますから、苦手な方は御注意くださいませ

ナーサティアとピンガーラについては、前項で散々触れたからまぁいいかな
オロチ(八岐大蛇)さんに関しては、また後日SSで書くかも???

GBモーター社→ブラック・ゴーストなのかな?多分???
イメージとしては『パトレイバー』の整備班、特車二課整備班のイメージ
にちょっぴり『紅の豚』のピッコロ工房を足した感じ?かな????

◆工場長(おやっさん) =『パトレイバー』榊清太郎+『千と千尋の神隠し』釜爺な感じ
姿は釜爺みたいな感じなのですが、榊氏のダンディーさが+されてるといいなぁ

◆シゲ(ゴブリンの魔道士)=『パトレイバー』のシバシゲオをそのままゴブリン化
多分ヨーダがそのまま若くなって、黒縁メガネを掛けているそんな感じ
メカニック兼プログラマーの天才としてではなく、他の作業員とは特化した魔道士として書いてます


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