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【クロス・オーバー・ポイント】
『メディカルセンター』10 R-15 赤髪Avs鬼畜X終結?血塗れグロ描写注意

目を反らせなかった、娘の額に突然出現した邪眼から

網膜を直接射貫く閃光と共に、膨大な情報が強制的に脳に送り込まれてくる
怯んだ隙に腹にも何かを打ち込まれ、鈍痛は感じてはいたのだが
眼球の全てを太く長い針で突かれ、掻き回される様な鋭い痛みと、脳が焼け付く様な熱さと激痛に比べれば
取るに足るモノでは無い様に感じる…苦悶に歪む額と眉間に、ボタボタと汗が噴き出した

同時に脳内に再生されるのは、俺の記憶ではない、強制的にねじ込まれた誰かの記憶
映像が浮かんでは消える光景は…隠蔽された邪眼の秘密か?
それは、多胎児の多い家系に生まれた、ある下級悪魔の医者の苦悩に満ちた生涯
一つの身体に二つの魂を持ってしまった男の、呪われた生涯の歴史だ

同じ運命を背負う彼の一族の為の義肢として、製作した筈のホムンクルスが
些細な閃きから、本来の目的から離れ、兵器に転用されてゆく様が過程が見える

安易に魔力UPを願って改造手術を望み、自ら実験台になってしまった患者達
改造手術により得た巨万の富と名声、しかし…間もなく暴発事故が多発する様も
滑稽な程に凄惨で愚かしい、ソレ等の全ての光景が、頭の中を通り抜けてゆく

その中心で医者は狂ってゆく…いや医者だったモノと言った方が適切か?

二つの優れた頭脳があるならば、共に協力しあわない事の方が損失である
呪われた一族の者にしては珍しく、比較的関係が良好だった筈の二つの魂は
やがて研究目標の食い違いから、啀み合い憎しみ合う様になる
その果てに…狂気傾向の強い裏側の魔格が、表側の彼を食い殺してしまった時に
運命の歯車は崩壊してしまったのだろう、破滅に向かって
他の誰にも悟られない肉体の内側で、彼の常識と良識は抹殺されてしまったのだから

最後の歯止めを失った医者の狂気は加速する、身勝手な理論の裏付けの為には、どんな犠牲を惜しまなくなる
問題点が発覚しても尚、力を求め邪眼手術を望む者達と、潤沢な研究資金がソレを後押ししてしまうのだ
生体実験の犠牲になったのは患者だけではない…彼が慈しんでやまなかった家族・近親者すらも、毒牙にかけてしまう

誰にも彼を止められ無かった…力を求める者と、それを与える者の利害は一致していたから…
自分だけは、きっと大丈夫と過信して

何度逮捕され投獄されても、惨たらしい刑罰を受けても、彼は研究を止めない取り憑かれた様に
ただ技術確立だけを盲目的に求め、実験と検証を繰り返す事しかできなかった

そして…その最後は唐突に、自滅に近いカタチでやってくる
研究室の片隅で、彼はでひっそりと息を引き取るのだ…誰に看取られるもなく
危険な狂人として近親者にすら見放され、軟禁、幽閉場所となっていたその場所で
床に蹲り、震える小さな老人が、最後に呼んだのは、誰の名前だったのか?
動いてはいるが、音を発する事の無い口の動きに、傍観者は唖然とする

そして…場面は切り替わり、胸元にもう一つの顔を持つ少女が映し出される
最初の記憶の端々にも登場していた、哀れな男の直系の孫娘達なのだろう
主が死に、誰も居なくなった研究室を、二名だけで護ると決めた者達の悲哀が伝わってく

やがて時が満ち、二名の身体を分離する為の手術の光景すらも、生々しく再生される
すっかり年老いた女性の胸元から、抉り取られるもう一つの顔と神経組織と臓器
そのまま培養液の中で、培養され神経の欠損部分を補われる片割れをの様子を
彼女が抜け落ちた部分に、機械の義肢を填め込んだ女性がじっと見上げている
その傍らに用意された、少々古めかしい移植用のサイボーグ体は…
先程自分を見下ろしていた少女と同じで、あどけない顔をしていた

※※※※※※※※※※※※※※

「先程打ち込んだ薬物の組成は…個悪魔によって違うのですか?」

「残念、アタシはお勉強は大嫌いだったからね、小難しい事を聴いても解らないわよ、後でゆっくりアシュウィン聴いてよね
下級悪魔ならアンプル1本で、効く時は効くんだけど、
見た所?そんなんじゃ到底効きそうもないから、手持ちの弾は全部装填しちゃったけれどね」

「一体どれくらいの分量を?」と更に確認すれば、彼女は実にあっけらかんと
「一発につき込められる限界?1ダースを全部を突っ込んだ」と答えた
それは…軽く致死量を超えているのでは無いか?とも考えるのだが…
とりあえずは腹部のダメージより、目に受けた閃光と脳のダメージの方が遙かに強そうに見える

それでも、せっかく作って貰った好機だからね、彼が弱っている間に、暴れだす前に封印してしまおう…

詠唱と共に足下に魔法陣を広げると、普段はあまり呼ばない【召喚植物】呼び出す
僕もダメージを喰らうので、本当はあまり使いたくはないのだけれど…
相手は【ダグ・ガルド】を破壊するような怪物なのだから、一気にカタをつける為にも、ある程度の不都合は仕方が無い

伸ばした爪で、僕自身の腕の内側に少し大きめの傷を付けると、滴り落ちる血をそのま魔方陣に吸わせてやる
ボタボタと落ちる血が、中央の紋様に吸い込まれると、そのの輪郭がぐにゃりと崩れ、内側から何かが這い出してくる
ビキビキと音を立てて、地表から溢れ這い出してくるのは…鋭い棘を持つ黒い荊の蔓
最初のソレが鞭のようにしなり、僕の腕に巻き付く様は、何度見てもあまり気持の良いモノではないね

「おいで…フラゲルム、食事の時間だ、ココに来るんだ…腹が減っているんだろう?喉も渇いているんだろう?
極上の獲物だ、血も魔力もたっぷりと吸わせてあげるよ………だから僕の召喚に答えるんだ…」

肌の上を這い回り、嬉しげに僕の血を啜るソレは、漆黒から赤黒い血の色に、徐々に変色してゆく
そして荊の自体が、赤く仄かに発光しはじめれば…それが【契約の成立】の証だ…
少し遅れて、ドンッと音を立てて出現するのが、更に太くて強い無数の荊の蔓だ
大地を突き破る様に生えるソレは、そこいら中から沸き上がり、僕等を覆い尽くす

ソレが捕縛・封印魔法の中でも、かなりキツめで禁手の【フラゲルムの荊】だ

這い上がる荊が、無数の蛇の様に地を這いうねると、ジワジワと赤髪を包囲する
破壊された【ダグ・ガルド】よりも、対象者に掛かる負担と苦痛はかなり大きいけれど、
壊した君が悪いんだからね、我慢してもらうよ
きっと相当に嫌な顔をしていただろうね、この時の僕は、間違い無く…
振り上げられた戦斧が彼を指し示すと、
蔓を覆い尽くす無数の棘が、ジャキリと音をたてて倍の長さになと、一斉に彼に襲いかかった

噴き上がる血煙と鮮血の熱さを感じ、ぐもった悲鳴が確かに聞こえた

縦横無尽に巻き付いた荊が、容赦なく彼の身体を締め上げ、その肌を食い破ってゆく
それだけでは無い、フラゲルムは、捕縛対象者の血と共に魔力を吸い上げてしまうのだ
吸収したソレをそのまま大地に、土に戻してしまうのだ、降り注ぐ雨が再び大地に染みこむ様に
魔力を吸収する、その渇望は底なしだ…ソレを召喚した僕が制止しない限りはね…

そして僕の腕にも、巻き付いたままの荊を通して、獲物が悶え苦しみ震える振動が、ダイレクトに伝わってくる
理性である程度は自制出来ても、魔族であれば…それを快楽と感じてしまうのは本能であり、仕方の無い事だ

切り裂かれる肌と筋肉から噴き出す血の温かさが、開口部が腫れ上がり、熱を持ち、痙攣する手応えに心が躍る
その下の骨格が、ギシギシと軋む音と感触が、心地が良くて堪らない
反射的に生命維持を優先しようとする、彼の心臓の鼓動は酷く乱れ、
胸部を締め上げられ圧迫さた肺が上げる悲鳴すらも、残らず味わう

本当なら…こんな無粋な蔓を仲介せずに、僕自身の手で、直接的引き裂いてあげたかったくらいだね
フラゲルム達の食事の邪魔に成らない様に、翼を広げて飛び上がった僕は、
ギラギラとした片目で、その凄惨な光景を見下ろしていた

元々弱っていた事も有るのだろうけど、この責め苦に耐えられる者はそうは居ない
成す術もなく、絡め取られてしまった赤髪は、完全に荊の波にのまれてしまい、その魔力が急速に小さくなるのを感じる
項垂れ下を向く彼の表情は、確かめられなかったけど…これで事態は沈静化出来たはずだ
後はこのまま封印して、眠らせてしまえばいい、閣下が戻って来るまでね

「アンタ…案外えげつない魔法が使えるのね…」

眼孔の中の少女が、怯え震えている事を感じて「今回は仕方が無いですよ…」と言い訳はしたが
確かに少しやりすぎだな…その自覚も後悔もある、僕も感情的になりすぎていたのだろう

荊が生命維持の限界まで、魔力を吸い上げるのを待ちながら、一時的に彼を閉じ込める為の水晶を用意する
致命的な損傷にならない様に、臓器部分は避けているけれど、
ほぼ全身に刺傷を負わせてしまったからね、時間を止めて手傷を療養させないと…
ようやく大人しくなった彼の様子を伺いながら、ゆっくりと側に近づいてゆくのだが

「………じゃない」

ぼそりと小さく聞こえてくるのは、低い低い声…

「ふざけんな…この程度で終わりなんて、俺は絶対に認めないっっ」

断末魔にも近い様な叫び声と共に、深紅の赤髪が逆巻き、炎の渦が再び暴発する
そんな馬鹿な…ここ迄酷い手傷を負いながら、まだそんな魔力と体力が残っていたと言うのか?

フラゲルムは素早く反応して、更に強い力で、膨れ上がった魔力を回収しようとするのだが
物理的な痛みを伴う荊による拘束すらも、彼の行動を制限する事は出来ないのか?

魔力不足の状態で無理に抵抗した為に、新たな傷が広がり大量出血しているのに
身体は小刻みに震えて息は上がり、顔は苦痛に歪んでいても…
凍り付くような笑みを浮かべる彼は、上級悪魔どころか底の知れない怪物そのものだ
そのまま身体に食い込む蔓は引きつかまれ、力任せにブチブチと引き千切られてしまう
毟り取られた荊の残骸が、次々と炎に包まれ焼き尽くされてゆく様を、僕はもう呆然と見る事しかできない

「まさか…そんな………」

荊の全てを完全に振り切らないままに、真紅の悪魔は、ギンと僕を見上げ睨み付ける

「随分とどキツイ目覚ましだな、おかげで胸くその悪い悪夢から目が覚めたぜ…
だが…感謝もしてやるよ、俺が知りたかった事は全て解ったのだからな…」

地底から這い上がる様な声で、そう言い放つと、彼は更に荊をギリギリと手繰り寄せる
痛みも出血もどうでも良いのか?そもそも痛みなど感じているのか?
僕とフラゲルムを繋いでいる【最初の蔓】を強引に探り出すと、それを強く引っ張る

「こんなモノで終わりじゃないよなぁ…センセイ?まだまだ俺と遊んでくれるよなぁ?」

ジワジワと回復し始める魔力波動に煽られて、赤髪が逆巻く、その下で額の三つ目が獣の様にギラギラと光る
同時にその両手から噴き上がる炎が、荊を覆い尽くし、そのまま真っ直ぐにコチラに走ってくる
フラゲルム伝い旋回して、全てを焼き払いながら

強い…強すぎる、こんな化け物に立ち向かう事など、最初から無理な話だったのだろうか?

※※※※※※※※※※※※※※

「おいッ中はどうなってるんだッ!状況はどうなってるんだよッ!」
「申し訳ございませんっ、私達の魔力レベルでは、中の様子は少しも解りませんっっ」

開口一番にゾッドに詰め寄られた、副大魔王邸の使用魔は、ただそう言って困惑するのみだ

ようやく帰還した館の主の姿に安堵しながらも、その後に続く皇太子の姿に驚愕する
身分違いも甚だしい、慌てて距離を取り、跪こうとする彼等を、皇太子は一瞥して押しとどめる
「そんな形式的なモノはどうでもいい、状況を報告せよ」と
重傷を負った執事が不在の今、変わって場を指揮していた家令が、状況説明の為に進み出るが
その間も…肝心のデーモンは、ただ目の前の結界を見上げていた、泣き出しそうな目をして

魔力の弱い者は総員退避して、各々が安全な距離を取れと、中に残った鬼の医師は言い残したのだが…
結局は殆どの者がその場を離れがたく、遠巻きに結界の外側に残っていた
幾重にも重なる光りのカーテンの様な結界は、見た事の無い程強力で、まだ健在ではあるのだが…
外から見ても解る…内側からの衝撃に破壊され、綻び掛けている事は明白だ
所々に走った亀裂から、漏れ出す魔力波動の凄まじさに、
彼等はただ傍観する事しか出来なかったのだ、その余波だけであっても危険すぎて

屋敷の者であるならば、ある程度は慣れたエースのソレならば…まだ相殺は可能だが
最後に裂け目から溢れ出してきた、正体不明の黒い荊はまた別だ
不用意に触れた者が捕縛された挙げ句に絞め殺されかけた為、完全に手出しが出来なくなってしまったのだ

「【フラゲルムの荊】か…温厚そうに見えるゼノンも、中々えげつないねぇ……」

ピクピクと這い回るソレの正体に、皇太子は眉をひそめるのだが
その目の前で、唐突に荊の全てが炎に包まれ、焼き尽くされてゆく
苦し気にのたうち、崩れてゆく植物の断末魔に、その場に居合わせたモノ全てが息をのむ

「まずいな…コレは、ゾッド、今すぐこの結界を破れるかい?」
「あのエースを一名で押さえ込んでるんだぜ?かなり手強そうだなコリャ…了解、努力はしてみるが…」

ほんの少しの付き合いながら、鬼の医師の魔力の強さを認識しているゾッドは
自信の無さそうな顔をしながらも、再びその手に出現した戦斧を振り上げると
その広い背に向かって、翳される皇太子の手から、膨大な魔力が溢れ出し、彼の身体の中に流れ込んでゆく
強制的に追加される魔力の強さと熱さに、内側から身体が弾けてしまいそうな程だ

「おいっダミアンっっ!俺を【鉄砲玉】にするつもりかよっっ」

悲鳴混じりにゾッドが叫ぶが、皇太子は涼しい顔で答える

「人聞きが悪いね、協力しているだけだろう?お前に自信が無さそうだからね
ちゃんと調整してあげるから安心していい、お前は目の前のソレを破壊する事だけを考えるがいい」

更に追加された魔力の強制注入に、重力波が発生したのか?ゾッドの周囲の地面がボコリと丸く凹んだ
ゾッドも不平を口にするのは諦めたのか?乾いた唇をぺろりと舐めると、斧を構え、目の前の結界を睨み付ける
混じり合い上昇する魔力波動に、ウェーブのかかった髪が逆巻き、パリパリと小さな稲妻が発生する

「………殿下、ゾッド…」

自分に施した無理な治癒魔法による、ダミアンの消耗が解っているデーモンは
少しでも主の負担分を減らそうと、共同作業に参加しようとすれば、ダミアンは柔らかな口調でソレを止める

「デーモン、お前の魔力まで受け止めたら、ゾッドの器が持たないよ…
お前はそこで結界の崩壊を待つんだ、エースを眠らせる事だけに集中するんだ」

お前達もボヤボヤするな【ヒュプノス・コード】の発動に備えろ、
障壁の消滅後に負傷したゼノンを速やかに回収して、安全な場所に隔離するんだ
多分ゼノンには、お前達の様な【耐性】は無いからね…
皇太子に、続け様にそう指示を出された使用魔達は、慌てて救護の準備を始める

そう言い切られてしまっては、デーモンもその指示に従う他はない

自らの喉元を抑えながらも、両腕で自らの肩を抱きしめる
三つ目とは…赤髪とは、自分だけが正面から対峙して戦って居る
そんな風に考えていたが、ソレは間違っていたと改めて感じる

盟友でもある皇太子ダミアン、ゾッドだけではなく、今ココに居る全ての者が協力的であるからコソ
それが成り立って居ると言う当たり前の事実に、今更ながらにありがたみを感じる

その魔族らしからぬ、損得勘定を度外視したその思いに応える為にも
王都の中心部で暴走事故を起こすワケにはいかないのだ、何があっても断じて

※※※※※※※※※※※※※※

僕の血も吸わせる為とは言え、ソコを限定して防護結界を解除していたのが不味かった

荊の蔓を逆流する様に走ってきた炎は、容赦なく僕の手首を焼きはらった
咄嗟にフラゲルムとの契約を解除したのだが、間に合わなかった
見た目の肉体の火傷や損傷は、表面的なもので大した事は無い様に見えるのだが
狂っていても流石は軍属だ、魔道士の僕を叩くには、先に霊体をアタックした方が効率的と考えたのだろうか?

一時的なモノとは言え、魂に直接刻みつけられたソレが、術式の詠唱の妨げになる
やむおえず戦斧を本来の武器として構えるのだが、どちらにしても手首を損傷してしまったのは致命的だ
ズキズキと疼くソレに思わず眉をしかめる

そうしている間にも、彼は荊の拘束から脱出してしまった様だ、間もなく彼の全身から、薄く白煙が上がってくる
その様子から察するに、どうやら赤髪は、ある程度の治癒魔法が使える様だね
火炎系悪魔の常識からは、完全に外れているけれど

しかし…いかに常識から外れていようと、フラゲルムのダメージは相当に大きい様だ
表面上の傷は塞ぐ事が出来ても、消耗した魔力までは回復出来ない様だ
消費魔力が大きい遠隔操作の火炎攻撃を、再び仕掛けってくる様子は無い

その代わりに逆巻く炎は、彼の右手に集まり、今一度大きく噴き上がる
そして…その中から出現するのは、一振りの剣、波打つ刀身が特徴的な【フランベルジェの剣】
炎を纏ったソレを掴み取った赤髪は、コチラを見上げてニヤリと笑う

「さあ…続きをしようぜセンセイ、どちらかがくたばる迄な………」

言うやいなや、赤髪は炎の翼を広げて飛び上がり、会心の一撃を打ち込んでくる
実戦的な武器としては、剣より槍状の戦斧の方が、有利なはずなのだが、その重さに思わず蹌踉けてしまう

軍魔と学者の間だ、埋められない実戦経験値の差と、手首の火傷の影響も勿論あるのだろうけど
一番問題なのは僕自身の気迫だ、禁手のフラゲルムを、こうも易々と破られたダメージは計り知れない
単純に彼に対する恐怖心が払拭出来ない
だが…僕の左目の眼孔には、預かり者の女性が居る、ここで全てを諦めるワケにはいかない

続け様に繰り出される、刃の猛攻を何とか耐え凌ごうとするのだが
一度芽生えてしまった恐怖心を押さえ込むのは、例え魔族であろうとも難しい…
情けない話ではあるが、僕はジワジワと追い詰められてゆくのを感じる
防ぎきれなかった刃が肌を掠める回数が増して、切り裂かれる法服には血が滲む

更に彼は執拗に左側を攻撃してくるのだ、眼帯に覆われた左目は死角になるからか?
あるいはまだソコに【エンジェル・アイズ】が、填まっていると思い込んでいるのか?
中の女性を護る為には、この場所を損傷するワケにはいかない
不自然にソコを庇う僕の攻防は、徐々に乱れてゆき、隙だらけなモノになって行ったのだろう

「内官のワリには頑張った方だぜ、この俺を相手にな…だがコレで終わりだな…」

一気に払われる剣の切っ先が、僕の左目を掠め、髪の一部を切り落とし薙ぎ払う
ギリギリでかわしたのは良かったが、刃は別の場所に食い込みソレを切り離してしまった
まるで焼き鏝を押しつけられた様な痛みと、噴き上がる鮮血に…悲鳴も上げられなかった

血塗れの片角がボトリと大地に落ちる

耐えがたい激痛に怯んだ僕の喉元を、大きな手がガシリと掴み爪を立てる
片腕で僕を吊し上げる腕力で、締め上げられる息苦しさに、必死にその腕に爪をたてるのだが、上手く力が入らない…

「つかまえた…ここまで手古摺るとは思わなかったぜ」

やがて…形状を維持出来なくなった戦斧が、僕の手の中から消滅すると…
赤髪は僕の顔を覗き込み、これ以上ないくらい凶悪な笑みをこぼした

※※※※※※※※※※※※※※

そこから先は…もう思い出したくも無いくらいに酷い有様だった

完全に戦意が喪失している僕を引き掴んだまま、地表に降り立つと
赤髪は、いきなり地面に僕を投げ出して、起き上がる暇も与えずに、馬乗りになってきた
そのままその手の大剣で、滅多刺しにでもするつもりなのか?と覚悟していたが…状況は更に最悪な事になった

一瞬で、その大剣の形状をそのままに、二振りの細剣に練り直してしまうと
藻掻く僕の手首をガシリと押さえつけ、そのうちの一本を掌に突き立て、大地に縫い止めてしまう
噴き上がる血と悲鳴に興奮しているのか?彼は目をギラギラとさせたまま、口角を上げる
残った片腕も許してはもらえない、必死の抵抗も空しく、こちら側にも同様に刃が、あっという間に貫通してしまった

普通の刃の形状なら、僕も強引に剣を引き抜く事が、出来たかもしれない、だが…モノが悪すぎた
【フランベルジェ】の形状は装飾的な意味合いだけではない、相手の傷を効率良く広げ、殺傷力を上げる為のカタチだ
より苦痛を伴い治りにくい傷を作る為の剣…「死よりも惨い苦痛を与える剣」と言う二つ名は伊達ではない

更に魔界のソレは、エースの業火を纏っているのだ…僕の受けた苦痛は生半可なモノではなかった

何度か擦れ違った黒髪のエースが、佩刀していた武器は、普通の長剣だった筈だ
魔族にとっての武器は、己の魔力を効率良く放出する為の媒介にすぎないが
武官であれば高官である程に、実用的な武器はシンプルなデザインを好み、奇をてらう様なモノは使わないのが普通だ
ビジュアル的で威嚇な造詣は、弱さの表れとして、倦厭されると言う理由もあるが
接近戦で打ち合わせる事になったとしても、相手への敬意を忘れない為でもあるのだろう

だが…殺戮を好む赤髪にとっては、そんな常識も礼儀も関係ない、
炎を模した特殊な形だけではなく、実用性も有るフランベルジュは、これ以上なく、彼に相応しい剣という事なのだろう

まぁ僕自身も、フラゲルムを発動させた後なのだから、彼ばかりを非難する事は出来ないけどね

抵抗する術を完全に失い、激痛と恐怖に震える僕を、赤髪がニヤニヤと見下ろしていた

「いい様だなセンセイ…まさかこのまま楽に死ねるなんて、思ってないよな?」

血塗れの手が、法衣の胸元を引き千切ると、左胸に刻まれた魔女の印を探り出す

「へぇ…本当に紋を入れているのか?上級悪魔のクセに義理堅い事だな…」

それとも?なにか?大好きな師匠と、同じ紋章が嬉しかったりするのか?
等と勝手な事を言いながら、その手はサワサワと胸の上を撫で上げる
その感覚にザワザワと悪寒が走るのだが、磔られた僕は、されるがままで何も出来ない
やがて…外側からアレの位置を把握したのか、その大きな手が、ズブズブと胸の中に吸い込まれてゆく

「ーーーーっ」

肉体は傷付けられていない、魂を探られ掻き回される…そのコアを探られている
吐き気を伴うおぞましい感覚に、身体は痙攣して何度も浮き上がりかけるのだが、
赤髪はニヤニヤと笑うばかりで、更に中を捏ねくり回す

僕を苦しめる為に、意図的に時間を掛けている様にすら感じる…
その挙げ句に、乱暴に掴み取られ、身体の外に引き摺り出される僕のコア
ブチブチと細かい何かが、引き千切られる痛みに悶え苦しみ
しまいにはゴポリと血塊を吐き出す僕の無様な姿がよっぽど良かったのか
冷や汗に濡れ、張り付いた髪を掻き上げられ、無防備な首筋を舐め回されると、赤い唇が耳元に囁いてくる

「痛くて辛いよなぁ…センセイ、気の毒に…ツマラナイ依頼を受けなければ、こんな酷い目には遭わなかったのにな」

意識の半分飛びかけた僕の目の前に、わざわざ差し出されるのは、赤黒くギラギラと光る球体の物質
掌にちょうど収まってしまう程の大きさのソレが、僕のコアなのだろうか?
ぼんやりと光るコードの様なモノが、球体から僕の身体に繋がっているのが見える
僕にソレを確認させた赤髪は、ニヤリと笑うと、彼の手の中で震えているソレを強く握り絞め、爪を立てる
途端に全身に感じた激痛、強い電流が流された様なショックに、堪らず絶叫する僕を、彼は愉快そうに眺めて言った

「……気絶しなかったダケでも褒めてやるよ、まぁソレが良かったかどうかは、別としてな」

爪先でソレを弄びながら、呻き嗚咽する僕の顎を強引に持ち上げる

「………なぁ、考えたらお前も、相当に具合がいいんだろ?
何と言っても、最高位の天使様を誑かしてくるくらいだ、期待してもイイんだよなぁ?
くたばる前に楽しませろよ…上手く出来たら、少しは楽に殺してやるからよ…」

信じられない提案と言い草に、ゼノンの目が見開かれる、そんなの冗談じゃない

両手を無理に引き千切り、犠牲にしたとしても、クローン義肢で急場はしのげる
相手は本気だ、尊厳も何もかも無茶苦茶にされたまま、惨たらしく嬲り殺される前に、逃げなきゃ………
だが…当然、そんな僕の最後の足掻きは、彼に簡単に読まれていたのだろう
両手を貫く剣が再度大きく燃え上がり、引き出されたコアを限界まで握りつぶされる
再び血を吐き散らし、震える僕の喉元を引き掴み、赤髪はうっとりと目を細める

「これ以上痛い思いはしたく無いだろう?だったら素直に言う事を聴けよ…」

駄目だ逃げられない…このままココで縊り殺されるのか?
整わない自分の呼吸音だけが耳につき、絶望に近い感覚が僕の脳裏を過ぎる

のし掛かる相手を見上げれば、その緑の双眸に酷く惨めな自分の姿が、怯えきったその目が映っている
そして赤い魔物は酷く愉快そうな顔をして、コチラを覗きこんでいる、ゾッとする様な冷笑を浮かべたままで

明かに欲情の熱を帯びたその目…
何に対して興奮しているのかは解らないけど、僕にとってはロクでも無い事だけは確かだ



続く

血塗れお仕置きシーンが長くなりすぎたので、キリの良い所で中断(苦笑)
てか…まだ続くんかい?ええ続いてしまうんですよ…赤髪様は怖すぎるので
その前の和尚のブチ切れ攻撃、トゲトゲの【フラゲルム】も大概ですがね…
趣味の拷問機具のオンパレードになりそうでしたが、寸前で自制しましたよ…もう

残酷系攻撃ならいくらでも頭に浮かんでしまう?管理人が一番キチガイですが
S×Sってやっぱり怖い…殺伐としすぎる、コレでもかなりソフトにしたんですがね
御本家様は間違ってもココまで鬼畜では無いとは思いますが
とりあえずA宗の方とX宗の方には全力で土下座しておきます、すみません

まぁ…変なワザや、攻撃が意味不明だと思うので、補足説明もしておきましょう

◆和尚の戦斧 日記でも触れましたが

スモール版の斧は【BLACKLIST 本家極悪集大成盤】のジャケに載ってた斧
親分の斧と違って、直接アタックするタイプではなく、魔法使いの杖のイメージです
勿論実用の武器としても、使えるみたいですが…

◆ダグ・ガルド 予言者ヨナを飲み込んでいた【巨大な魚】=鯨さんの事です

本作では捕縛魔法が鯨のカタチをしているだけの設定で、生物ではありませんが、
何かを傷付けずに捕獲するなら理想的な形状かも?と思ってます
本物の鯨が、魚の群れを下からバクリと食べる様を見て
あんなのにやられたら逃げられないよな〜と勝手にイメージしました
名前の由来は、聖書の寓話に出てくる怪物です
「魚にのまれたヨナ」で検索すると、そのあたりのお話はお解りになると思います
イメージとしては、かすう工房の【水神部族大鯨指輪】をそのまま引き延ばした感じです

◆フラゲルムの荊 トゲトゲの召喚植物さんです

イメージ的には「ベルサイユのバラ」のOPのアレみたいな感じ?アレが100倍攻撃的になった感じと思ってください
召喚者の血を最初に吸わせる事により、契約が成立、手足となって働くみたいですが…
えげつないワザですな〜思いついておきながらアレですが
若干ですが「いばらの王」に出てくる為体の知れない荊さん達のイメージも混入しているかもしれません

名前の由来は【フラゲルムの鞭】=神の鞭、本来はヨーロッパを蹂躙した、遊牧民族フン族の事ですが…
あまりの強さに神が自分達にもたらした試練、災い、傲慢に対する鞭と解釈したともされます
それとは別に「神の鞭」と言う二つ名の為、転じて、キリストが磔刑の前に受けた拷問
棘のびっしりと生えた鞭で、滅多打ちにされる下りがあるのですが、その鞭の事も【神の鞭】と呼ばれ
その形状の鞭を【フラゲルム】と呼ぶ事もあります

キリストを打った鞭は、そのまま彼の【荊の冠】にされたともいいますから
結構由緒正しいかも…変態の間では?ゲフンゲフンゲフン
旧約聖書も新約聖書もえげつない話ばっかりやん?おかげ様でドSは大喜び?ゴホンゴホン
無理矢理の教会通い…人格矯正・更正になってないぜよ…

◆フランベルジェ 炎をイメージした剣・波打つような形状の刃を持つ剣の総称

本文に説明した通りの剣です、三国志ファンの方なら、【張飛の蛇矛】の様なカタチと言えばぴんと来るかな?
画像も沢山あるので、是非検索してみてください
変形ギターじゃなかった、【変形の剣】としては実用性がキチンとあり、カタチも美しい
銃器が発達する前は盛んに作られ、愛用者も多かったそうですが
「死よりも惨い苦痛を与える剣」と言う二つ名もまた本当です
抗生物質が無かった時代が、破傷風は致命的ですからね、
ソレを起こしやすい=塞がりにくい傷口を、効率良く作ってしまう武器だったんですよ
小さな力で効率良く相手の大怪我をさせる武器、拷問機具もそうですが…
武器の歴史もまたえげつないモノが多いです、見かけ倒しで実用性の無いモノも多いですが、
フランベルジュは実用性も兼ね備えた、惨い武器であった事は間違い無いそうです
赤髪の方なら喜んで使いそうですが、黒髪の方は多分使わないかな?武官の恥とか言って?
もっとも相手が虜囚で、拷問や尋問の時は、もっとえげつな〜い事を、いくらでもしそうですが(あくまでも妄想でございます)

で…次回はグロの上にエロ…ウチの和尚の受難は何処まで続くのやら
外の皆様〜早く助けてあげてよ〜因みに結界はウロボロス達が独自に構成しているので
和尚は外の様子が解らないんですよね、何と言っても非常手段ですから
親分…なるべく早く頑張れ〜と思いながらも、グロも希望の方のみ次回もお楽しみくださいませ と書き逃げる(T_T)



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