[携帯モード] [URL送信]

【クロス・オーバー・ポイント】
『メディカルセンター』9 R-18 鬼畜A&激高Xの大喧嘩 ダミ×D後編+お遣いZ?

今なら…まだかろうじて魔力は五分五分だけれど、将来的には解らないな…
派手に燃え上がる火炎の渦を、エースの攻撃を躱しながら、僕はそう思っていた

想定内とは言え、こんな調子で破壊魔法を暴発されては、結界がそう長くは持たない
僕側の攻撃魔法の威力をその分セーブしているのだが…相手も全力ではない、手加減している様だ
ひと思いに僕を戦闘不能にする事なく、より長く、殺し合いと戦闘を楽しむ為に、それが解るから、また気に入らない

他の暴走事故とは違って、邪眼の方の魔格にも、コンタクトが取れる事は、確認出来たけど…
狂っている事は間違いない様だ…悪魔なりの道徳観念も無ければ、倫理的な思考も無い
表側の魔格が持つ、過剰な迄の慎重さ神経質さも、自己保身の為の用心深さも無く
彼なりのアイデンティティーを保つ為の、美学どころか常識観念すら欠落している

強く表に出ているのは、理不尽な自分の立場に対する不満と、本能的な破壊衝動だけだ

強大すぎる力を持てあます、未熟な子供?ではない…純粋な欲望そのもの、本能しかないのだろう
表の魔格と違い、何も持たない替わりに、何にも縛られない故に
渇望する欲望を満たすためには、ありとあらゆる障壁を破壊しつくす、ただそれだけだ

コチラからの取引や説得に応じる様子は無い、力ずくで黙らせるしか方法は無さそうだ
それに…その身勝手な行動原理に、僕の方も完全に頭に血が上っている、
双方がマトモに話し合いが出来るとは到底思えない
魔王宮のでの小競り合いなどとは違う…勝者が明確に決まらない限り、最早収まりが付かなくなっていた

※※※※※※※※※※※※※※

「最初に確認しておきたいんだけどね、君は僕と話した事のあるエースかい?それとも別の誰かさんなのかな?」

結界空間が完全に隔離されると直ぐに、僕は目の前の男にそう尋ねた、
怒りから来る、刹那的な破壊衝動を、ギリギリのラインで何とか抑えながらね
それだけは確認しておく必要が有った、邪眼発動時の患者と話す事も、そのデータを取る機会も、そうは無い筈だから
すると赤髪は、少し苛ついた様に答えた

「俺はあのボンクラとは違うぞ、一緒にするなよ…
コイツは俺が表に出ている時の記憶が、殆ど無いらしいが、
俺は何時でも醒めてているからな…コイツ目を通してキッチリ外の情報は見ている」

コイツとアンタと派手な言い争いも、内側からちゃんと見ていたぜ…
そう言ってニヤニヤと笑う彼の表情は、同じ肉体でも、黒髪の方とは違う様に感じる
やはりあの双子の様に、別々の個体が一つの身体の中に存在するのか?
ビリビリと感じる魔力波動の差も考慮すれば、そう考えた方が良さそうだ

「だから俺はアンタの事もよく知ってるぜ、センセイ………」

そう言えば…以前、黒髪のエースに絡まれた時、そんな事を口走っていた様な気がする
学生時代にエースと個悪魔的な付き合いなど、一切無かった筈なのにどうして?
その時は、後の情報局員らしい状況把握と悪魔観察?と特に気にも止めていなかったけど

「君達が、僕に興味を持つ理由に、心当たりなんてないんだけど?」

将来的に軍属に、又は閣僚候補になりうる、ライバル達なら理解出来るが、僕は違う
軍部に属するつもりもなく、卒業後も研究職を望んでいた僕は、彼の興味の対象からは、最も遠い存在の筈なのだが…

「アンタ、思ったより自分の事は解ってないな?お前にそのつもりが無くても
変に捻くれて、突っ張っていやがった分、場から浮いて悪目立ちしてたんだよ
そういう奴には、他者の目が自然に向くんだよ、自覚が無いだろう?」

さも「僕の方に問題が有る」とでも言わぬばかりの屁理屈に、不満は感じるが、思い当たる節が無いワケでもない
面識も殆ど無い上に、大した理由もなく、絡んでくる輩は、多かった事も事実だ
あまりにも五月蠅い時は、それなりの手順を踏まえて、黙らせた事もあるのだが
まぁ…軍部に属さない僕は、学生時代から将来的な地盤を固める必要も無かったからね
養子とは言っても、一応は貴族の子弟として、惰性で通っていた様なモノだったから

「………それなりの魔力を持っているくせに、ソレをひた隠しにしてやがる、
そんな態度が、最初は気に入らないと思っていたが」

でも、あえて他者と交わろうとしないお前には、結構好感は持っていたんだぜ
強者と見れば、直ぐに尻尾を振って縋り付き、他力本願におこぼれに預かろうとする連中よりずっといい
何よりも雁字搦めな立場が…少しだけ俺と被ってな、コイツの肉体に閉じ込められている俺と同じ様に思えたからな
だから、お前のその後にも興味を持った、独立したお前が、何処まで登り詰めるのか?ずっと追跡していた…

「へぇ…それは光栄だね、閣僚候補様のお眼鏡にかなうとはね、知らなかったよ
一介の研究者の動向なんて、軍属の君には退屈だっただけじゃない?」
「ああ…表側のコイツにとってはな、だが俺の方は違った………」

俺が考えていたよりもずっと早くに、その頭角を示したお前に感心しながらも、反対に妬んでもいたよ…
俺が手に入れたいモノ全てを、お前は自分の手で掴んだのだからな
黒髪は、このまま俺の邪魔が入らなければ、順調に上に上がって行くだろうさ
だが…俺はどうだ?コイツの中から、その様子をただ傍観するだけの存在じゃないか
俺は誰からも認識されない、その手に何も掴めない、そして…忌まれるだけだからな

「その上【俺】を駆逐する役割を、よりによってお前に依頼されるとはな
俺の思いなんざ誰も知らない、デーモンも黒髪もだ、タダの偶然の一致にすぎないが…」

憎くて、悔しくて、たまらないよな、こんな不条理な事ってないよな………

徐々に感情が興奮して、昂ぶって来ているのか?
語尾が震え、息を荒げてゆく相手の様子を、僕はただジッと観察する
そんなに前から、彼にマークされていたなんて、全く気がつかなかった
仮にも情報局員に身元調査されていたのだ、普通だったら、嫌な気持ちになるのだろうけど
この件に関しては、それほど嫌悪感は沸かない…閉塞感に対する共感の様なモノか?

「………なら質問を変えるよ、どうしてカリティを、あそこまで傷付けたの?」

具体的な方法は解らないが、赤髪のは僕を調査している、黒髪の方よりずっと深く
当然、カリティを含めた、僕に関わる全関係者の事も、調べ上げていたに違い無い
僕の師匠であっても、彼にとっては接触すらなく、恨みなどあろう筈も無い女性だ
関わりがあり、経歴が似ているぐらいの理由では、あの加虐の理由には成らないだろう

「そうだな…小生意気にも、俺を制御してやるなんて、ヌかしたからか?
いや違うな…お前の女で、師匠だからか?昼行灯のお前に用はないからな
お前を本気で怒らせるには、丁度良い存在だったからか?」

実際治療とやらを受けて解ったよ、かなりイイ女じゃないか、餌として上等だ
優しくしてもらった礼に、燃やすのダケは勘弁してやったろ?
お前の目の前で、あの女を犯して肉を引き裂いたら、流石に躱しきれないよな?何時もの様にのらりくらりとは?
本気で俺を殺しに来るだろう?鬼の力と魔道士のワザを駆使して全力で?
俺は、殺し合いがしたいんだよ…歯ごたえのある奴と、気に入っている奴と…
その血を浴びて、俺自身の存在を確かめたいだけだ、ソレ以上でもソレ以下でもない

そう言い切る男の目は酷く楽しそうで、ゾクリと悪寒が走る、話は出来る様だが、やはり狂っているのか?
少なくとも黒髪の方の彼なら、こんな真似はしない筈だ…常識的な誇りと自己保身を持って
しかし赤髪は違う、自らの欲望を果たす為なら、敵意の無い非戦闘員でも、平気で踏みつけて踏み台にする

そんな…そんな理由で、あそこまで彼女を傷つけ、滅茶苦茶にしたと言うのか?
一方的で、勝手な思い入れでも憤りでも、僕自身に文句があるなら、直接僕にぶつけたら良いではないか?

一度は冷静になりかけた怒りと衝動が、再び堰をきって溢れ出してくる
バキバキと音を立てて僕の角が膨れ上がる様を、緑色の三つ目がねっとりと見ている

「最後にもう一つだけ聴いていいかな?君を切除しても、黒髪のエースは存在出来るの?」
「さぁ…俺にも解らんな…確かめたいならセンセイが、やってみればいいさ」

自身の事すら、まるで他人事の様に言い放つその態度に苛々する

「そう…なら、君の方だけを切除してあげるよ、その身体から引き摺り出してあげるよ、お望み通りにね………」

本気で僕を怒らせた君が悪いんだよ、覚悟は出来ているんだろうね?
翳された僕の両手の中に出現するのは、燻し銀の槍に似た武器
いや槍と斧の両方の機能を備えた戦斧だ、その煌めきに、エースは満足気に笑った

「嬉しいね…そうでなくちゃ、楽しい殺し合いにしようぜ、センセイ………」

赤い唇がうっとりとそう呟くと、同時に紅蓮の炎が一気に溢れ出す
ぶつかり合う魔力波動に、ギシギシと苦し気に軋むウロボロス達には、申し訳ないけど、もう少しだけ耐えてくれ
この男の横っ面を張り倒さない限りは、僕の気持ちも収まらないからね

※※※※※※※※※※※※※※

「ひぅ…ああっ………」

感情的になっていたとは言え、負傷者に無理強いをしすぎた、強く抱きすぎ様だ
ぐったりと身体を投げ出すデーモンを、助け起こす様に背中から抱き締めると
ようやく前を堰き止めていた機具を外してやり、優しく刺激してやる
短い悲鳴をあげて、ガクガクと震える彼は、あっという間に果ててしまう
生温かいソレが溢れ出して、私の手を濡らす…ああ辛かったね、こんなにも我慢していたんだね
すっかり勢いは無くなってはいるが、後から後から溢れるソレは、まるで泣いているようだね
開放感に崩れ落ちそうになる身体を支え、抱き締めてながら、その頬を伝う涙も舌で丁寧に拭ってやるのだが
目を伏せたままのデーモンは、こちらを見ようとはしない、私も無理には覗き込まない

肌を確認すれば、肝心の傷の方は…半分程は消えたようだが、まだ完治とは言いがたい状況だ
だが…これ以上無理に前を押さえ込めば、一時的な機能不全を起こす
加えて私の体力消耗も激しい、過度なヒーリングの供給は、加減を間違えると、コチラも参ってしまうからね

乱れた息がまだ整わない彼を、そっと横にしてやるのだが、当然まだ許してやるつもりはない
その意思表示も兼ねて、彼の頸のチョーカーの上に首輪を、ベッドの支柱に鎖で繋がれているソレを手早く巻き付けてしまう

通常なら…献上されてくる下級天使や愛玩用の妖魔を、繋ぎ止め躾ける為の代物だ
さっきのアレと違って、上級悪魔を行動を抑制する様な、強い封印は施してはいない
いくら相手が私でも、有力者がペットと同じ様な不当な扱いを受けているのだ
お得意の減らず口で、不平不満の一言くらい、言い返してくればいいのに

一瞬だけ、捨てられた小犬の様な目をコチラに向けると、哀しいのか?気恥ずかしいのか?
すぐに目を反らして、ブランケットの下に潜り込んでしまうと、背中を丸めて小さくなってしまう、コチラに背を向けて
汗をかいた身体を冷やさない様に、直ぐにソレを掛けてやったのも私ではあるが
全くもって何時もとは違う態度に調子が狂う、こんな時くらいしか見られない姿だと思えば腹はたたないが
もっと虐めたくなると言うか…閉じ込めて、独占したくなるじゃないか
私を挑発して誘っているつもりなど、本悪魔には全く無いだろうから、更にタチが悪いな

お互いの体力温存の為の小休憩とは言え、あまり時間も取れないからねぇ
傷心気味のデーモンを、休ませて、そっとして置ける時間も無いのが本当に惜しいよ
ローブを羽織った私も、長煙管の煙草に火を付ける、ほんの少し興奮剤の入った奴をね
外からの干渉が無いと、本当に静かなモノだな…等と考え、紫煙を見上げるていたのだが

不意に、巨大な何かが外側に衝突した音が轟くと、地震の様な衝撃が部屋全体を揺らす
加えてミシミシと聞こえるのは、その何かが、外壁を締め付け、移動している音の様だ
流石に驚いたのだろう、デーモンが、慌てて身体を起こすのだが
閉ざされたままの扉の外側を、何者かがもの凄い勢いでノックしはじめる
覚えず戦闘態勢に入る二名の目の前で、殆ど体当たりでぶち破られるカタチで、その扉が開け放たれた
歪んだ亜空間の外側、扉に切り取られた外側には、幾重にも巻き付いた鋼色の巨大な蛇の胴体と頭が見える
そして転がり込む様に、部屋の中に飛び込んで来た大柄の男には、見慣れた尻尾が付いていた

「ゾッド!!お前どうやってココに???」

意外すぎる侵入者に、デーモンは思わず呆れた声を上げるのだが
少々体当たりの勢いが余ったのか、床を滑った上に、壁に背中を強打した彼は
したたかに打ち付けたであろう、後頭部を抑えつつもようやく身体を起こすのだが

「どうやってもクソもあるかっっ!!!二名とも揃って勝手に雲隠れする奴がっ………
どわわぁぁぁ〜ッッ!!!何てカッコをしてやがるんだっ!!!お前はっっ!!!」

起き上がるや否や、ボンッと尻尾を膨らませ、顔面を真っ赤にして後ずさる、ゾッドの叫び声がこだまする
主を護る為に咄嗟に前に出た金色の悪魔は、自身のあられも無い姿をようやく思い出す
その後ろで煙管を握ったままの皇太子が、優雅に額を抱えていた

悪魔のくせにオクテすぎる、この程度の事で大騒ぎしすぎなんだよ、お前は…
ソコが、先鋒部隊の暴れ者と名高いゾッドの、隠れた可愛いらしさでもあるのだが
ついさっきまで、この場にあったムードも悲壮感も、消し飛んでしまったじゃないか

皇太子が指を鳴らすと、デーモンの頸に巻き付いていた首輪が外れて、鎖ごとゴトリと床に落ちる
急に軽くなった頸をさすりながら、主を振り返る彼は、すぐに主に礼を取ると、手早く身支度を始める
その間に、未だに尻尾と髪を膨らませて、動揺を隠せないゾッドに近づくダミアンは、ほんの少し威圧的に話しかけた

「全くお前の鼻の良さと、ノックの乱暴さには呆れるよ、一体何事かな?ちゃんと報告してもらおうか…」

ギラリと光る皇太子の緑色の双眸に、一瞬全身をブルリと震わせた彼ではあったが
飛び上がる様に、慌てて体勢を立て直すと、皇太子の足下に膝をつき跪くのだが
精神的な昂ぶりと焦りが、完全には収まらなかったのだろう
礼儀作法などあったモノではない、王族の前である事など完全に忘れた様に叫んだ

「今すぐ屋敷に帰ってくれ!デーモン!エースがまた…ゼピュロスも女先生も負傷してる
鬼の先生が一名で押さえ込んでるけど、魔力の差を考えれば、そう長くは持たないっ」
「何だってっ………」

身支度もソコソコにゾッドに詰め寄った、デーモンの表情がみるみる内に強ばる
暴走事故を起こしたばかりだから…そうたて続けに邪眼が目覚める筈がないと思っていた
魔力と体力消耗が激しい為、ある程度時間を置かないと発動はしなかった、今迄は
だからコソ、エースの側を離れる事にも同意したと言うのに、よりによって王都の真ん中で暴発してしまうだなんて

「申し訳ございません…今すぐに失礼させて頂きます」

慌てて扉の向こう側に、飛び出して行こうとするデーモンを、ダミアンは制止する

「お待ち…ゲートなら私が開いてあげるから、一緒に行こう…ゾッドがこじ開けたコレより安全で確実だからね」

そう…コレはゾッドの異能が成せるワザだ、結界を無効化する能力が、強引に道を開いている
どうやら、本来は彼の魔力レベルでは、侵入出来ない亜空間ですら問題が無かったらしい
そして無限空間を漂っていた私の部屋を、的確に探り出し捕まえたモノは、八岐大蛇
通常はゾッドの単車の姿を取り、彼に付き従っている、巨大な妖魔だ
この主従が揃う事によって、不安定ながらも道を構築しているのだ、無理矢理に
彼には野心が無い為に、野放しにはなっているが、考え方によっては恐ろしい能力だ

それに何だろう?ゾッドからも大蛇からも、ごく僅かだが、感じた事の無い魔力波動の残香を感じる、これは…

「お前…何処かに出かけていたね、鬼の学者と言う事は、相手は文化局のゼノンかい?
それに…出先で何か新しい事を知ったろう?ソレも残らず報告するんだ………」
「殿下っ今はそんな、時間はございませんっっ!!!」

可哀想な程に取り乱すデーモンを、強引に抱き寄せると、
その手を取り、跪くゾットの頭に置き、その上にダミアンは自身の手を重ねた

「ゾッド、緊急事態だ、皇太子ダミアンの名において命じる、精神ガードの全てを解け…お前の心を直接読ませてもらう
見聞きした事を、出来るだけ正確に思い出すんだ、解決の糸口もあったのだろう?」

例え王族でも、通常なら相手の心を不用意に読んだり、触れたりはしない
本悪魔の同意があっても、他者が直接魂に接触する事は、相手の自我を損傷する危険性があるからだ

ところが…ゾッドは二名を見上げて、ニヤリと笑うと、少しの躊躇も無くガードを解いてしまう

途端ににバチバチと上がる皇太子の魔力波動が、彼の記憶を吸い上げる
走馬燈の様に早送りで流れこんでくるのは、ケラレイヤーで彼が見聞きしたモノ、感じたモノのの全てだ
その手を重ね、同じモノを間接的に見せられている、副大魔王の目が見開かれる

「………そんな、そんな事が……では…」

震える声は誰を思ったモノだったのか、危険な術式に集中する二名には知る由もなかった

※※※※※※※※※※※※※※

生き物の様にうねり、吹き上がる炎の渦を、僕は次々と斧で薙ぎ払い受け流す
本来の僕の武器は、更に巨大なモノなのだが、
何時もの半分の大きさに練り上げたのは、狭い空間では、コチラの方が使い勝手は良い事と
最大出力にしてしまうと、破壊力が強すぎて、結界の壁も破壊してしまうからだ
対象物を直接アタックするのが専門の、ゾッドの斧とは違うけれど、勿論物理的な武器としての使用も可能だが
僕の戦斧は、魔道士の杖の意味合いの方が強い、
鬼の戦士としてではなく、術者としての僕の力を、効率良く込める為の魔法具の様なモノだ

槍術の要領で、火炎放射を全て受け流してはいるのだが、弾かれた火炎が、炸裂して結界内の温度が急上昇してゆく
僕の方もただ避けているワケでは無い、小手調べに繰り出した衝撃派を繰り出すのだが
その全てを、素手で受け止めてしまうエースの様子には、正直呆れかえった
僕だって上級悪魔の中では決して弱い方ではない…元々の魔力レベルの差はあるけれど
赤髪の魔力も防御力も、黒髪の時のソレより、間違い無く上がっている様だね

『Cetacea』

不完全なウロボロスの状態の事を考えれば、あまり時間を掛けるのは得策ではない
そう判断した僕は、暴れる患者及び標本対象者を、生け捕る為の捕縛魔法を展開する
大きく振り上げられた僕の戦斧と、その呼びかけに呼応して
大きな口を開けたまま、大地から垂直に生える様に出現するのは、半透明の巨大なクジラ「ダグ・ガルド」
クジラの姿をしてはいるが、生き物ではない、
対象者を傷つけずに捕まえる為に、捕縛魔法そのものが、そういう形態を取っているだけだ
巨大な擬似生命体の体表面には、強力な封印のルーン文字がきらめく、まるで深海のクラゲのように七色に光る
唄うような高い声を上げ、地面から跳ね上がるクジラは、バクリと彼をひとのみにしてしまうのだが…

閣僚レベルの上級悪魔はおろか、大魔王家の血筋の悪魔でも、脱出には手間取る筈の捕縛魔法も、彼の前では足止めにはならないのか?
クジラが再び地表に戻る前に、炸裂する炎が口から溢れ出し、その腹を突き破ってしまう
たちまち粉々に四散してしまう海獣の影が消えると、その残骸の下から、不適に笑う三つ目がコチラを見ている

強い…ケタ違いに、彼よりも魔力が強い筈の閣下が、過剰な程に、赤髪を恐れる理由を今更ながら噛みしめる
それでも、僕に勝ち目が無いワケではない、属性間の特質を逆手に取ればね…

他属性に比べると、攻撃魔法の破壊力がケタ外れで、
見た目にも派手な攻防を得意とする火炎系悪魔ではあるが、それ故に弱点もある
魔力回復の速度、自身のヒーリング能力に、やや難点がある所だ…
魔力消耗の激しい攻撃魔法を、暴発させれば、あっという間にスタミナ切れを起こす
だから彼等は、ペース配分を忘れる事は出来ないのだ、操る力が強ければ強い程に
しかし三つ目が発動している今の彼に、その気配りを持続する気があるとは思えない

対して土属性の僕等は…水妖系悪魔とは違った意味で、彼等とは真逆の位置の存在になる
魔力は同レベルでも、他の属性に比べれば、先天的に使える攻撃魔法は力任せなモノに限られている
変幻自在な複雑な魔法は使えない、魔力レベルの一番高い鬼族ですらそうだ
後天的に習得した魔術師・魔道士としての術式がなければ、その攻撃はパターン的なモノになってしまう
その替わり、僕等の再生力の強さは、他属性とは比べ物にならない程強い
仮に相手の攻撃を受けても、すぐに回復してしまう、時にはその攻撃速度を超える程に

簡単に言えば、極端に撃たれ強くて、スタミナ切れを起こしにくいのだ

「大地に愛されている…」と他属性の悪魔は言うけれど、ソレとは少し違う
「土属性の者は大地の一部」と言った方が適切だろうね、闇も光も関係無く
大地から常に分け与えられるエナジーを、効率良く昇華出来るからね僕等は
だからこそ、蛮族と言われる、その猛々しい性質とは裏腹に、他者に対する治癒魔法にも長ける者も多く
自己再生力を越えるスピードと、質量で攻撃しなければ、完全に殺す事は出来ない

全てを焼き尽くし破壊する炎の力と、再生を司る大地の力とのぶつかり合いとは
何やら因縁めいたモノを感じるねぇ…人間くさい思考だけれど…

僕に勝算があるとすれば、あえて相手の魔力暴発を誘発して、その攻撃を躱しきる事
彼にスタミナ切れが起こり始めた所を、温存した魔力で、一気に叩くしか無いのだろう
それが起こるまで、この危険極まり無い火遊びに付き合うのは、不本意だけど仕方がない

本当だったら、僕も全力の攻撃魔法を叩きつけてやりたいよ、最初からね
カリティに負わせてくれた傷と、そっくり同じモノを、赤髪の身体にも、刻みつけてやりたい心境だったけれど…
彼はまだ僕の患者だからね、最大出力の大斧で、感情任せにバッサリと言うワケにもいかないからね

※※※※※※※※※※※※※※

ふん、限界まで怒らせたつもりなのに、案外冷静じゃないか…ソレが気に入らない
自分で張り巡らした結界空間とは言え、決して充分な広さは無いこの場所で
随分効率良く俺の攻撃を躱すモノだ、内勤の学者のクセに思ったよりやるじゃないか
さっきの化け物の出現には少し驚いた…医者にもあんな術が使えるとはな
だが時には対象者の生死も厭わない、情報局員が使う捕縛魔法とは違うからな
あんなお優しい方法じゃ、俺を押さえ込む事など出来はしないけどな

ちょこまかと逃げずに躱すな、もっと正面から攻撃してこい、噛みついてこいよ

大方?俺の魔力切れを待っているのだろう?邪眼が出現している分尚更に?
だがな…俺のスタミナ切れまで持つのか?土属性の鬼と言えど、実戦経験の薄いお前の魔力と体力が?
普の火炎系悪魔とは格が違う、魔力の備蓄量も違う事くらい解っているんだろう?

だがそれでもいい…久しぶりの骨のある相手だ…
一方的な殺戮にはもう飽きた、手応えの有る、殺しがいのある奴に飢えている
常に戦闘状態の天界側の敵はともかく、魔族で俺に挑む奴は、減る一方でツマラナイ
魔族側の同レベルの相手との殺し合いは、久しぶりで、昂ぶる気持が抑えられない

なぁ…少しは手加減してやるから、もっと俺を楽しませろ、俺の破壊衝動を満たしてくれよ
解るだろう?お前も、最も闇に近く血に飢えた鬼なら…
沸き上がる衝動を持てあまし、抑圧し続ける渇望が、思うままにソレを楽しめない辛さが?
全てを吐き出して、俺に叩きつけて来いよ…目を反らすな、お前も同じだ、解っている筈だ
その為の女の血、お前の【殺しの衝動】を解放する為の【宣戦布告】のつもりだったのに
あんなモノだけでは足りないのか?不満なのか?だったら嫌でも本気にしてやるまでだ

破壊衝動と殺意が止められないんだよ、噴き出す血が見たい、生きてる奴の肉と骨を切り裂きたいんだよ俺は
殺したい・殺したい・殺したい・殺シタイ・コロシタイ……………
黒髪の中に閉じ込められている時は、この破壊衝動も渇望も凪の様に静まるのに
こうして俺が外に出ると、主導権を握ると、何時もそうだ…ドス黒い感情が、湧き出すソレが抑えられなくなる
全てを破壊し尽くしたくなる、何もかも、俺を否定するこの世界の全てを抹殺したくなる
そうする事でしか、己の自己確認が出来ないから、生きている実感を感じないから

そうだ…例え全てを破壊した所で、この身体は完全には俺のモノにはならないだろう
黒髪を飲み込んでしまっても、アレはきっと悲しむばかりで、俺を憎むだけだろう
俺だけのモノになんて、絶対にならないだろうから、解っているから、悔しくて堪らない
俺と言う「あやふやな存在」を生み出した、その全てが憎くてたまらない
だから、同じ様な存在だった筈のお前までもが、着実に【自己】を手に入れている事が許せないんだよ

溢れ出す憎悪が、魔力の上昇を加速させてゆく、更に膨れ上がる炎の渦が、結界内部一杯に広がり荒れ狂う
全てを焼き尽くす、喰らいつくしてやる…駆逐してやる、殺す、殺す、殺す、コロス…
この行き場の無い怒りと、空しさが、すこしでも癒されるのなら、何を犠牲にしても構わない、自らの肉体さえも

荒れ狂う狂喜とその笑い声の下の苦悩を、理解するモノなど、何処にも居ないのだから

※※※※※※※※※※※※※※

拮抗している力は、ほぼ互角であった為、戦闘はどちらかの魔力が尽きるまで続くモノと考えていたのだが…

「きゃぁっっ」

突然上がった女性の悲鳴に、睨み合う二名は振り返れば、戦場には似つかわしくない小さな影が…
爆風に吹き飛ばされた瓦礫の影から、放り出されたのは黒髪の少女
僕とゾッドを王都まで送り届けてくれた、あのサイボーグ体の少女だ
使用魔が退避した時に、一緒に避難したのでは無かったのか???

自らを隠す楯を失った事に気がついた彼女は、慌てて物陰に隠れ様とするが、間に合わない
身を翻した赤髪が、あっと言う間に彼女を捕まえると、その幼い身体を吊し上げ、メキメキと頸を締め上げる

「何処から紛れ込んだ?見慣れないガキだな…まぁいい…
身体は作りモノでも実体だろう?それでも血は流れているんだろ?さっきの化け物と違ってよ…」

凶悪な顔でそう言って笑うと、赤髪は、一気にその細い頸をへし折ろうとするのだが
吊しあげられている彼女の方は、それでも強い口調で悪態を放った

「……コレは驚いた、殆どあの爺と同じじゃないの……しかもこんな上級悪魔とはね
何も知らないガキはどっちよっ、この若造のハナタレがっっ
よ〜く目を開いて、コレを見なっ、己が何者でどういう存在なのか、知るがいいっっ」

彼女がそう叫ぶと、その額が不自然にボコリと盛り上がる、ギョロリと開眼するのは三つ目の目
真正面からソレを見た赤髪の顔が、引きつったのは、当然の反応だろう…
しかも…彼女の三つ目は、どうやら普通の邪眼ではなかった様だ

フラッシュの様な強い閃光が、辺りを覆いつくし、赤髪の網膜に直接突き刺さる
同時に発せられた銃声は二発分、彼女の所持していた魔弾銃が、至近距離から赤髪の腹部に打ち込まれ、ヒットした様だ
二重の苦痛と衝撃に、堪らず彼女を離してしまった赤髪は、何故か出血の伴う腹部の傷には全く触れ様ともしない
それよりも痛むのは、眼球と頭痛の方なのだろうか?
頭を抱え込み、苦しげに呻きはじめる、髪を振り乱す様子は尋常ではない

何だ…何があったんだ、今の閃光に何か意味があるのか?目くらまし等ではないのか?
そして打ち込まれた弾丸には、一体何が詰まっていたのか

彼の手から解放された少女が、翼を広げる力もなく、そのまま下に落ちるのを見て、僕は慌てて受け止める
避難指示に従わなかった、彼女を責めるよりも、今何が起こっているのか問い詰めれば、
彼女は三つの目でニヤリと笑って答えた

「アイツに、自分が何者か教えてやっただけよ、アイツの邪眼から脳に直接ね…
打ち込んだのは、アシュウィン特製の鎮静剤、主格の意識の方を強く覚醒させる薬物よ
アイツに合わせて作ったモノじゃないから、ちゃんと効くかどうか解らないけど………」

この邪眼もホムンクルスじゃない、私の脳神経とサイボーグの義眼から作った、見かけだけの紛いモノ
だから無理な魔力を引き出す力は無いけど、【邪眼持ち】には効果が有る、自分と同じモノから、目を反らせるワケがない
だから簡単に情報を叩き込む事が出来る、その無防備な邪眼そのものからね

荒れ狂う【寄生体】を鎮めるためには、まずは己が、何者かを自覚させない事には何も始まらない…
理不尽な運命に怒り哀しみ、迷える心も救えない…かつてアシュウィンの中に居たアタシの様に

あの屋敷を護っていればね、やって来るのは【技術】の略奪者だけじゃないのよ
アンタ等の様に、邪眼の治療法を求めるモノ、邪眼の運命から逃れたいモノも、当然の様にやってくる
勝手に押しかけて来て、暴れ回るアイツ等に、いちいち説明なんて出来ないから
だから何時もこうやって、全てを伝えてやっていたの、効率的でしょ?

その後に、どういう結論を出すかは、個悪魔次第だけれどね

いとも簡単に淡々と彼女は語るが、だからと言って、勝手にこんな無茶をされては堪らない
もし彼女に何かあったら、僕とエースの戦闘に巻き込まれて消滅したとあっては
屋敷に残してきたあの女性に、詫びの入れようが無いではないか

締め上げられた頸の損傷をざっと確かめると、有無を言わさずに小型の防護結界の中に彼女を閉じ込める
「これ以上は危険ですから、全てが済むまで、申し訳ありませんがココに居てください」と言い利かせて
少女は不服そうな顔はしたが、状況的にそうするしかない事は、解っているのだろう
特に抵抗する事もなく素直に従ってくれたので、そのままソレを小さく小さく縮めると、
義眼を抜いたままで、今は何も入っていない眼帯の下の眼孔に、そのまま収めてしまった
これで一蓮托生だ、彼女を無事に帰す為にも、僕は必ず生きてココを出るしかない

しかし、そんな僕等のやりとりの間も、赤髪はいっこうにコチラを見ようともしない
余程、脳随に負担のかかるカタチで、情報の強制注入をされたのか?
背中を丸めるて苦しむ彼の息づかいは荒く、頭を抱えたまま膝をつき動こうとしない
一体どんなモノを見せられているのか?興味はあれど、今はただ見守るしか無いのか?


続く

あかん…ワンコな親分のせいで、一気にギャグテイストになってしまった(責任転嫁)
一瞬書き直そうと思ったけど……思いの外可愛い、消すには惜しいので残す方向で


[*前へ][次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!