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【クロス・オーバー・ポイント】
『メディカルセンター』8 R-18 ダミ×D 鬼畜Aの大暴れ残酷表現あり注意

「ああ…殿下…どうかお慈悲を、もう許して…お許しください…」

切羽詰まった啼き声も、溢れ出す涙も、今日ばかりは本物の様だね…でも…少しも嬉しくはないな…
皇太子は険しい目つきで、自身の下で悶える相手を見下ろしていた
デーモンの瞳の色はまだ変わってはいないが、止めどなく流れる涙でグシャグシャだ
駆け引きめいた何時もの睦み合いとは、まるで違う声だ、私に対する気遣いなどではない

まぁそれも当然だね、治癒魔法の効力を上げる為とは言え
前を括られたまま嬲られ、犯され、責め立てられは
快楽主義が本分の悪魔と言えど、辛くて苦しいだろうね、可哀想に…
だが今回に限っては、まだ許してはやれない
注ぎ込んだ精と魔力を、直ぐに吐き出してしまっては意味が無いのだ

この期に及んでも、まだ逃げだそうとする相手を、押さえつけると
包帯姿がまだ痛々しい身体を、強く抱き締め、逃げうつ腰を引き寄せる
許しを請う声を黙殺すると、強引に身体を開いて、息も付かせずに中の弱点ばかりを突き上げてやれば
金色の髪が振り乱れ、快楽よりも強い苦痛を訴えてくるのだが
コレは治療行為だと、無理に自分を納得させる、啜り泣く腹心が例え哀れであっても

根元をやんわりと締め上げている、射精管理用の金環細工は、こういう時の為のモノ
彼専用に作らせた特注品で、私自身が掛けた、強力な封印が練り込まれているからね
いくら自分で外そうと藻掻いた所で、無駄な事くらい解っているのだろう?
普通の手傷なら…こんな惨い事をしなくていい、辛い思いなどさせはしない
ほんの少し熱を分かち合うだけで、簡単に塞いでしまう事が出来るのだが
今回の手傷は特殊だからね、回復が極端に遅れてしまう分、荒療治はやむおえないのだ

邪眼の暴走事件以来だ、ようやく大魔王宮に登庁してきた、副大魔王の姿を見て、私は愕然とする
未だに塞がらない傷と、酷い顔色…立場上、外見だけは何とか取り繕っているが、魔力波動ですら、ガタガタじゃないか
それなのに、父上と私の召喚を断らない……無理強いなど、する筈も無いのに

少しは自らを労ると言う言葉を知らないのか?この男は?

おまけにコチラの心配など、どうでも良いのか?
自らの休養を、ただ詫びるばかりで、肝心の邪眼治療の進行状況の説明は無い
悪意などではない、これ以上、エースの立場を悪くしたくはない…そう考えたのは解るが
他の者にならともかく、事情をよく知る私にまでソレを隠す必要はない

そのくせ、自分が休んだ分を取り戻すと、無理に執務をこなそうとする態度に、カチンと来る

殆ど職権乱用の状態で、デーモンの予定の全てをキャンセルさせると
戸惑い気味の彼の腕を引きつかみ、寝室に連れ込んだのは、ほんの半時程前の事だ
嫌がる彼の服を剥ぎ取り、宮中用の正装の下に隠された傷を見た時は、流石に堪忍袋の緒が切れてしまった
無言で引き出しから出された枷を、滅多に使わないソレが、収められた箱を見た瞬間
デーモンは酷く狼狽して、その顔色は真っ青になる
私の手を振り解き、必死に部屋から逃げだそうとしたけど、逃がしてやるワケがない…

少し乱暴だとは思うけど、咄嗟に空間をねじ曲げて、部屋ごと次元の隙間に飛ばして、隔離してしまったからね
コレで外には逃げられない、外からもココには入ってこれない…誰も干渉も出来ない
咄嗟の判断で、適当に選択した座標軸だった為、外の侍従には伝えていない、そう簡単にはこの場所も解らないはずだ

何…お互い忙しい身分だ、そう長くは時間は取らせないよ、だからお前も協力するんだ
その肌の傷が、全て消えてしまうまで許さない、ココから出してはあげないからね

「お許しください…殿下、今日は…どうしても屋敷に帰らねば………」

涙目で懇願して、何とか上手く私を言いくるめようとする、その態度にも腹がたつ
開かない扉に縋り付く彼を、少し乱暴にその場から引きはがすと
有無を言わさず、ベッドに突き飛ばして、震える身体を強引に組み敷く
弱々しく藻掻く彼を押さえつけながら、強く思うのは、嫉妬にも似た薄暗い感情だ…

可愛いデーモンに、こんなにも強く想われているくせに、あの男は、エースは何をやっているんだ…

※※※※※※※※※※※※※※

泣き濡れる顔を覗き込み、苦渋の声が入り交じった、吐息を楽しみながらも
私もただ、薄暗い征服欲をばかりを満たしているワケではない
軽い脳震盪を起こしそうな程に、ありったけのヒーリングを流し込んでいるのだが、
血が滲み、未だに口を開いたままの、傷跡はなかなか癒えない…大魔王家のソレでもだ

それ以前の問題だ…特に風伯系悪魔は、魔族の中では、治癒魔法に長けた種族だ
大地から愛され、直接エナジーを分け与えられている、土属性には及ばないとしてもだ
普通の手傷なら…自身の自然治癒だけでも、とっくに回復している筈なのだ…
彼の回復の遅れは、予想していた通りの展開とは言え…やはり苛つく事には変わりは無い
デーモン自身の哀しみの深さが、メンタル面のダメージが、ココまで露骨だと尚更に

コレは物理的な傷ではない、彼自身の「心の傷」「行き場の無い嘆き」だから…

そうだ…私だって解っているよ、今、私の腕の中で、流しているこの涙と啼き声ですら
与えている行為によるモノだけでは無い事くらい…だからこそ、余計に勘に障るのだ…

この酷い手傷を負わせた張本魔を、想う気持と、哀しみが、止まらない涙を流し
エースに傷付けられた事実が、受け入れられなくて、塞がりきらない手傷…
そして肝心のその男の前では、見せられない、見せようとしない深い慟哭…何もかもが気に入らない

自分で治せないと言うなら、私が全部塞いでやるだけだ、跡形もなく
相手の意思も哀しみも関係無い、強引に完治させてやる…いや変質させてやるまでだ

根本的に魔族は、属性や魔力の差はあっても、肉体の自己修復能力と再生率は高い
上級悪魔であれば、仮に腕を一本吹き飛ばす程の手傷を負っても、
殆ど自身の治癒能力で回復してしまう、時間はある程度掛かるが

しかしソレは、魂に傷がなければ、そのコアを損傷していなければの話だ

皮肉な話だが…回復力の高い肉体に反して、その魂の方に傷を負ってしまうと、脆いのだ
手傷と同時に、メンタル部分にも傷を負ってしまうと、治癒・回復速度にも、ダイレクトに影響を及ぼしてしまうのだ
もっと酷い時には…ずっと以前に負った傷であっても…何度も何度もぶりかえす
そのトラウマを思い返す度に、傷が抉れて・血を流す…心が流す涙の様に

例えは適切では無いかもしれないが、まるで人間の狂信者のスティグマの様に

最も…魔族の場合は、その要因になるのは、自身のプライドや自尊心が殆どだ
自分以外の他者に対して、強い執着心を持ったりしない事の方が普通だから
特定の相手との関係に、その様な事は起きない事が、常識的ではあるのだが

よりによって魔族の中枢のツートップの間で、闇と恐怖の枢軸と呼ばれる者達の間で
人間の様なソレが起こってしまうとは…前代未聞であるばかりか、皮肉以外の何者でも無いのかもしれない

地獄の皇太子としては、天界に付け込まれかねない、その「弱さ」を叱責するのが筋なのだろう
だがその「弱さ」が憎くらしくもあり、どうしようもなく愛おしくもあるのだ…強く咎める事など出来はしない
両名ともただの側近ではない、王族と家臣と言う枠を越えて、近しい関係であれば尚更に

両名が精神的に負ったダメージと、痛みを知りながら、私はその成り行きを傍観するしか術を持たない
時にはこうして、無理に力を分け与える事くらいしか出来ないのだ
魔族を統べる王と言いながら、その心までは支配する出来ない…刹那的な快楽で忘れさせてやる事も…

魔界の勢力分布のバランスを考えれば、どちらかを幽閉して引き離す事すらも出来ない

だからせめて…誰も見て居ない異空間では、ちゃんと泣けばいい、体裁ぶる必要も無い…
甘えても構わないと、こうやって、お膳立てを用意してやっても
頑なに、臣下としての立場を通そうとするのだ、この男は、何時も何時も

それがどうしようもなく、腹立たしくて、哀しいよ…私は

お前が傷ついている時くらい、折れてしまいそうな時くらい、素直に私を受け入れろ頼むから
それとも、そんなにも頼りないのかい?私は?あの男に比べるとどうしても?
結局は、どれほど肌を重ねようと、私の及ぶ力など、微々たるものにすぎないと、
無力感を感じるだけなのだ…こんな時は何時もね

皇太子である私を、ここまで愚弄して、怒らせる側近は他には居ない…
それでも尚愛おしくて堪らないのは、お前だけだよデーモン

※※※※※※※※※※※※※※

自らの迂闊な行動が、殿下の逆鱗に触れた事くらい解っている
おそらくお目に掛かれなかった陛下も、要らぬ御心配を掛けているのだろう
出来うれば、お二方と顔を合わせない内に、累積してしまった、職務を果たそうとしたのだが…
執務室に押しかけてこられた殿下に、無様なこの姿を見られては、咄嗟に上手い言い訳も出来なかった

いや…何時もなら何かしらの屁理屈で、うまく切り抜けられたのかもしれないが…
今日は流石に勝手が違った、屋敷に残してきたエースの事が気になって
親しいからこそ、言いだしにくい事もある………時には突き放す事も肝心………
医者達の言い分は、最もだと思うのだが、その距離感がどうしようもなく寂しかった

せめて職務に忙殺されてしまえば…その間だけでも、離れる事が出来るから
エースの治療行為の邪魔にならないと考えて、魔王宮の執務室に出向いたのだが
目に届く範囲にエースが居ないからこそ、余計に気になってしまうのだ
ロクに仕事に集中出来なかったどころか、殿下に余計な御心配をかけてしまった

何をやっているのだ…吾輩は、全くらしくない…何時もの自分ではない

いくら邪眼の発動後だと言っても、とっくに衝動は収まっているのだ、エースだって子供ではない
ただ吾輩がへばりつき、甘やかした所で、状況が良くなるワケでは無い事くらい解ってはいる

それでも傷付いている彼の側を離れたくなかった、自分もその温もり離したくなかった
何時か…エースが赤髪の破壊者に、完全に飲み込まれてしまうと言うなら…
その命を絶つ役目が、自分であるならば、それが運命だと言うなら…
穏やかな彼と共有出来る時間を、出来うる限り伸ばしたかった、一分でも一秒でも

だから…今日だけは、もう許してください、彼の側に居させてください殿下

涙を流すのは、劣情を堰き止められ、惨い扱いを受けているからでは無い…
肉体の痛みも辛さも凌駕出来る、このやりきれない想いと閉塞感に比べれば
口惜しいのは、主の怒りの矛先を解っていながらも、それを受け入れきれない自分の弱さ
ココまで深く愛されても…尚、心は屋敷に置いて来た男に向いてしまう不誠実さ
自身の不忠ぶりと、軽薄さに我ながら呆れる、自己嫌悪と言うカタチでも

ダミアン殿下、哀れと思ってくださるなら、どうか捨て置いてください、もう無理を為さらないでください

傷が全て消えるまで解放しない…と宣言しながらも
頸のチョーカーの下の、【最初の傷】には、触れようとしない主
他の傷は、癒す事が出来ても、ソレは消せないと解っているから
あえて触れてこない、その優しさが苦しくてたまらない

今の自分には、貴方の慈愛を、受け取る資格すら有りはしない…
そう思えばこそ、流す涙もある事は、おそらく主には届いていないのだろう
どうあっても逃がすまいと、抱き締めてくる腕の力を感じながら
金色の悪魔はただ涙を流し、一方的に翻弄される事しか出来なかった

※※※※※※※※※※※※※※

そうだ…悪魔としては、この感情は間違った感覚なのだろう
将来的に後継者を望める番の相手ならともかく
同性の上に属性の異なるエースに、どうしてココまで執着を持ってしまったのか?自分でも良く解らないのだ…

幼少の頃から、敵が多すぎた事もある、その強大な魔力と権力を持つ身分から
だから…迂闊に大切なモノは作れなかった、
吾輩を狙う刃が、その大切な相手に向いてしまう事もあるから
その点においては、エースは最も安心出来る相手だったのかもしれない

相手の存在すら脅かす程に強大すぎる、吾輩の魔力発動の余波を受けても問題はなく
吾輩を狙う政敵・暗殺者からの攻撃を受けても、ビクともしない相手ではある

安心して背中も身体も預けられるのは、魔力のレベルが近い彼だけだったから?

いや…そんな理論的な理由ではない、ただ側に居て欲しかった、それだけで良かった
単純に好きなのだ、彼が他の悪魔には見せない、脆くて弱い部分も含めて
同時に誰にも寄り掛かる事が出来ない、甘え下手な自分が、唯一弱味を見せて良い相手
愛魔として、兄貴分として、一番安心出来る相手なのだろう

そう…あの時までは、何時も当たり前の様に側に居てくれたから、
エースの方から居なくなるなんて、考えた事も無かった

だから…彼の三つ目が初めて発動した時は、本気で殺されかけた時はショックだった
コレが彼の本心だったら?両想いだと思っていたのは、勘違いだったのだろうか?
自分は他の犠牲者達と同じなのか、エースにとって取るに足らないモノなのか?

そう思えばこそ…哀しくて、最初に傷つけられた頸は、締め付けられたソコは痕が残った
あの惨劇を思い出す度に、同じ場所に浮き上がってくる、忌々しい痣が何時までも残ってしまうのだ

おかげで今も、その痣を隠す為の、呪符付きのチョーカーを手放す事が出来ない
表向きは、強すぎる言霊を封印するモノと偽っているが、本当は違う
軍属のトップとしての威厳を保つ為とは言え、我ながら情けない話だ

あの時も…正気に戻った時の、エースの動揺も取り乱し方も、尋常ではなかった
街一つを滅ぼしてしまった事よりも、吾輩を傷つけた事に、深く傷付き、嘆く様を見て
ほんの少しだけ安堵はした…彼にとっても、自分は大切なのだと実感出来たから
あまたの命が失われた事など、どうでも良くなる程に嬉しかった
黒髪の方のエースは間違い無く、吾輩を特別視していると思えたから

それでも、頸に残った痣は、完全には消えなかった…魂に残った傷を消せなかった
赤髪に対する絶対的な恐怖心と、生存本能からの警告からだろう、
自身ではどうにも出来ないレベルの、ほんの僅かな疑心暗鬼と共に

それ以来だ…些細な心の乱れで、浮き上がる痣を見ては、黒髪エースは苦しむ
赤髪の自分を憎悪して、自分を傷つける、見ているコチラが、辛く苦しく成る程に嘆き悲しむ
「己のしでかした罪を忘れるな…」とでも彼に言わぬばかりのこの痣が、吾輩も忌々しくてたまらない、
傷付いた彼を、更に追い詰めるつもりなど、本心から無いのに

痣を消してしまおうと、何かにつけて無理な治癒魔法を施してくる、殿下もそうだ
その御心遣いが、逆に申し訳無くて…苦しくなるのだ
心理的にソレを消す事の出来ない、自分の弱さが、ふがいなくて、情けなくなる

チョーカーとのコーディネートを優先する着替えの度に、その痕を撫で上げる執事もだ
幼かった当主を守り切れなかった事を、後悔するゼピュロスの態度も苦手だ
彼を責めるつもりなど、欠片も有りはしない、むしろその忠誠心には感謝しているのに…
お前のその背の火傷の方が、遙かに酷いではないか?

本当はもう忘れたい…あの出来事そのモノを…悪い夢だったと思いたい

しかし浮き上がる痣と、突発的な赤髪の出現が、ソレが現実である事を突きつけてくる
まるで全ての関係者の古傷を抉り、嘲笑うかの様に、自己の存在を誇示するかの様に

勿論アレが、あんなモノが、エースの本分だ等とは思ってはいないのだが
では?赤髪は何なのだろうか?吾輩にとっても、エース本悪魔にとっても…

赤髪の出現の要因に吾輩が絡んでいるのは、疑い様のない事実ではある

赤髪は憎んでいるのか?世界などではなく、黒髪の自分を?そして吾輩も?
出現するのは何時も短時間で、荒れ狂った挙げ句に、辺りを焼き尽くしてしまうから
乱暴で強引な手法でも、鎮める事しか考えられなかった、今迄は
彼の自由を阻む吾輩もまた、恨まれて当然とは考えているのだが

それにしては、何かがオカシイとも感じ始めているのもまた事実だ

憎んでいるなら、何故最初に吾輩を殺さない?何故吾輩の危機の時に現れる?
当たり前の邪眼と同じなら、黒髪の隙をついて、その身体を我が物にしたいのなら
もっと容易な機会はいくらでもある、例えば、負傷等で黒髪が弱っている時の方が遙かに効率はいい筈だ

………彼は本当に忌むべき破壊者なのだろうか?本当に狂っているのだろうか?
最初の出会いが、あまりもショッキングだったから、とても容認できなかったから
まるで黒髪のエースを、彼に奪われる様にすら感じて、ただ怖かったから
闇雲に赤髪を否定して、避け続けてはいたが、ソレが正しかったのか?

解らない…何時も側に居たはずの吾輩ですら………アレは一体何なのだろうか?

だから、鬼の医師達の催眠療法とやらの結果が、知りたかった
ただ抑制するだけではない、何かしらの解決の糸口になってくれるのならば…
この閉塞感から解放されたかった…誰も傷付かなくてすむ、確実な手段を手に入れたい
そんな方法が、本当にあるのだとすれば…

※※※※※※※※※※※※※※

ゾッドが無理矢理切り開いた道を走り抜け、副大魔王邸に到着するまでは、そう時間はかからなかった筈だ

更にデーモン邸の敷地内に入ってしまえば、もうゾッドが破壊行動をする必要がなかった
彼の気配を感じると、結界も壁も勝手に開き、木々さえも向こうの方が避けてくれるのだ
それに不思議なのは、今迄当たり前の様に感じていた、向かい風を殆ど感じない
僕等の回りに旋回する、何か見えないモノが、空気抵抗すらも遮断しているようで
周囲の音もよく聞こえない…まるで耳に水滴が入ってしまった時の様に
恐らくは僕等を擁護している筈の、その空間が、頼もしくはあるのだが、何処か不気味で
つい後ろのゾッドを振り返れば、彼にも良く解ってはいなかったが
歴代当主及び、魔力レベルの高かったデーモン族の残留思念?だとか…
魂とは別の何かが、死後も館に留まり、ココと当主を護っているとか?いないとか?

そうか…コレが初めてこの場に来た時、執事が言っていた、この屋敷を護るモノなのだろうか

それにしても、火柱は確かに派手派手しいが、何故かその場からは、移動してはいない
あの部屋の強力な封印が効いているのか?この炎の中心部に居る悪魔に動く意思がないのか?
現状ではどちらなのか、解らないけど…

僕等が現場に到着すると、その場には、屋敷中の使用魔達が集結していた
一名一名の魔力は弱いながらも、部屋の結界の外側に、更に別の結界を共同で張り
中心部から外に漏れる魔力波動を、全力で押しとどめていた
拡散する余波を相殺するだけで、精一杯の状態なのは致し方がない事だろう
何しろ相手は、火炎系悪魔のトップの実力と魔力の持ち主なのだから
中級・下級悪魔の彼等に太刀打ちの出来る相手ではない

それでも、この様な事態を日頃から想定しているのか、緊急事態にも混乱する事はなく
統率の取れた対応は、流石としか言いようがないのだが
その中心部に居るべき執事の姿は、何処にも見当たらなかった
当然…患者のすぐ側で治療に当たっていた筈の、魔女の姿も
使用魔達が異変に気がついた時には、既に火柱が上がっていたと言うから
二名とも、まだこの中に居るのは間違い無いだろう…
暴発するエースの魔力が強すぎて、二名の生体反応を上手く探れない

その上、彼を鎮める鍵になる、この館の主に、どういうわけか連絡がつかないと言うではないか…
その到着を待ってなど居られない、二名の無事を確保するには、一体どうしたらいいのだ…

頭で考えるより行動が先のゾッドが、有無を言わさずに、
その火柱を薙ぎ払おうとするのだが、ソレに気がついた使用魔達が止める
「ゾッド様に破壊されては、もう修復が効かない、中の破壊者を逃がす事になる」と…
でも手段を選んでいる場合ではない、逆巻く炎を見上げ、睨み付けるゼノンの手には
炎の壁を結界ごとたたき割るつもりなのか?巨大な武器が形勢されようとしていた

「………そんな物騒なモノは、必要ないぜ…アンタを待っていたんだ」

僕の耳だけに、不意に聞こえてきたのは、妙に落ち着いたミドルトーンの声
同時に逆巻く炎が、突然割れて、誰も寄せ付けなかったソレが、消滅するのだが
その中心部の強力な魔力波動はまだ健在で、特徴的な赤髪がうねるのが見えた
僕等より少し高い位置に居る彼は、そのギラギラと光る三つ目に薄笑いを浮かべ
コチラを見下ろしているのだ、ニヤニヤと嫌な目つきで

そしてその片腕に、抱きかかえられているのは、ぐったりと項垂れる女性…
切り裂かれ、半分剥ぎ取られた衣類の下の肌からは、無数の傷が覗き
中途半端に残った白衣は、彼女の流す血で、真っ赤に染まっていた…
そして、彼等の足下には、戦闘で築かれたであろう書斎の残骸
その瓦礫の下からはみだしているのは、見慣れた手袋を填めた片腕であり
致死量にも等しい量の血溜まりに、使用魔達は悲鳴を上げる

「カリティ………執事殿……」

一瞬…それ以上言葉が紡げない、そんな僕よりも先に、攻撃態勢に入るのはゾッドの方だ
脚力だけで、その場に飛び上がった彼は、使用魔達の結界と、かろうじて残っていた書斎の結界を一気に薙ぎ払う
そのまま、全体重を掛けた渾身の一撃を、そのまま赤い悪魔に叩きつけるのだが
目に見えない壁に、防護結界に、その巨大な戦斧と衝撃派は阻まれ、派手な火花を散らす
戦闘用の防護結界は、エースのソレは、簡単には破壊できないのか?
力任せにソレを破ろうとする彼の咆吼を、赤髪はネットリとした笑みで見上げる

「ゾッド、本当にお前の攻撃は通り一辺倒だな、そんな事じゃ長生き出来ないぜ」

完全に相手を見下したその言葉と共に、三つ目が更にギラリと光ると
一度は消滅した炎の渦が出現、意思を持つ生き物の様にうねり、両者を取り巻く様に再び展開する
容赦の無いソレが、ゾッドを吹き飛ばし、瓦礫の上に叩きつける
しかし彼も負けてはいない、吹き飛ばされながらも、その衝撃波を上手く逃がて、体勢を立て直してしまうのだ
魔力の差など関係ない、普通だったら、そのまま消滅してもおかしくない直撃を受けながら
立ちあがってくるタフさ、撃たれ強さにも呆れかえる程だ

「お前の相手は、後でゆっくりしてやるよ、今用事があるのは、センセイの方だ」

尚も興奮状態のゾッドを、軽くあしらいながらも、三つ目がニヤリとコチラを見る
ゾクリと寒気の走るその冷たい笑みに、僕は慌てて、彼の攻撃射程距離内に飛び込むのだが、間に合わなかった

瞬時に爪を伸ばされた右手が、その手刀が、一気にカリティの胸元を貫き、その背まで貫通する
特殊官吏が、捕縛した相手の魔力を封印する目的で、
魂のコアを抜き取る為のソレではない…肉体は傷付けない【摘出】ではない
実体の腕と掌が直接に、その肌と肉を骨を貫き、引き千切る
大きく痙攣する彼女の身体…悲鳴を上げる事すら出来なかったのだろう、口元からゴポリと血塊が溢れ出す
悪夢の様な光景は、それだけに留まらない、背中側に貫通したその腕をワザとねじる、あっと間にソレを抜き取れば…
口を開けた巨大な傷から、噴水の様に、一気に鮮血が噴き出すのは当然だ
この小さな身体の何処にソレだけの血が流れていたのか?と思う程の勢いで

生温かいソレが、僕の上に雨の様に降りかかり、エースの胸元と頬を濡らした

「そら…返してやるよ、アンタにとっては大事なお師匠様なんだろう?」

無造作に放り出された、彼女の身体が目の前に落ちてくるのを見た僕は、無我夢中で受け止める
衝撃が最小限で済む様に、格納したままだった黒翼を広げ、血塗れの彼女を抱き締める

カリティの身体は既に冷たく、意識の殆ど無い身体は、何時もよりもズシリと重みを感じるのだが
それでも…まだかろうじて生きている、身体はボロボロだが魂とコアの方には損傷は無い
他の種族に比べれば、頑丈な鬼族の肉体に感謝はするが、直ぐに手当をしなければ命に関わる事には違い無い

理性が千切れる音がする、医者が、治療中の患者に恨まれる事は、よくある事だけれど
明らかに自分より魔力の弱い相手に、ここまで執拗な加虐を加える必要はない
ましてや彼女は、苦痛や痛みを伴う治療はしていなかった筈だ

そう思えばこそ、沸々と沸き上がる怒りを、上手く抑え込めない
バキバキと音を立てて、僕の角は禍々しいカタチに変化する
比例するように、上昇する魔力波動の強さに、腕の中の彼女が薄く目を開いて身じろいだ
滅多に見せない鬼面の険しさも、視界の狭まった彼女の目には、どう映っていたのか解らないけど
骨折していない方の手が、弱々しく僕の胸元を掴む、密着している僕にしか解らない声で、何かを訴えてくる

その声に、怒りの衝動に飲み込まれれそうだった僕の理性が、かろうじてコチラに縫い止められる

そんな彼女をもう一度強く抱き締めると
見下ろしている男を今一度睨み返した僕は、そのまま踵を返すと地上に降り立つ
地上では別働隊による、執事を救出する作業が進んでいた
彼も酷い傷は負っているが、まだかろうじて息はあるようだ、楽観できる状況ではないが

「彼女と彼を文化局の医務班に…僕の名前を出せば、直ぐに対応してくれるから」

負傷者二名の応急処置と搬送を、屋敷の使用魔達に託すと
僕は胸元に下げたペンダントの鎖を引き千切る

【ウロボロスの蛇】絡み合う二匹の蛇はモチーフのペンダントトップは
魔道士が常に身につける事により、己の魔力を備蓄する為の魔法具だ

以前、僕が地上に行った時、ダイタリアン老師から贈られたモノと同じモノだ
真似事では無いが、緊急時に便利な道具である事は、既に体験済みのため
あれ以来、僕も身につける様にはしているけど…こんなに早く使う羽目になるとは
まだ魔力の備蓄量が足りているとは言えないが、仕方が無い…

持ち主である僕の生命的危機、又は鎖を引き千切る事が、力の解放の合図になる
二匹の金色の蛇の瞳が、真っ赤に燃え上がると、一気に巨大な霊体に膨れ上がる
バチバチと上昇した僕の魔力に呼応する様に、巨大化した蛇達は鎌首を上げると
そのまま地上の使用魔達を護る楯となり、上空の敵を威嚇はするのだが

他の使用魔達には一切興味がないのか?未だに薄笑いを浮かべている赤い魔物は、攻撃を仕掛けてはこない…

顔見知りも魔力レベルの差も関係無い
部屋に残っていた二名を、あれだけ惨い目に遭わせながら、仕掛けて来ないのは、目的が僕だからなのだろうか?

やはり…ただの制御不能な凶暴性とは、狂った個体とは違う感じがする

非戦闘員が、その場から完全に退避するのを見計らうと
二匹の蛇は、竜の様に上空に高くに飛び上がり、互いの尾に噛みつくと、水平に旋回しはじめる
その輪郭が崩れ、光りのカーテンの様に降り注ぐ様を見て
それがその場に再び張られ様とする、僕の結界である事気がついたのだろう
負傷者の搬出を手伝っていたゾッドが叫ぶ

「おいっ正気かっっ先生!!!アンタ一名で、ソイツの相手をするだなんてっっ」

慌てて閉じようとする結界をくぐり抜け、コチラに戻って来ようとする彼に僕は一喝する

「どうやら彼が、用事があるのは君じゃなくて、僕みたいだからね…この先は僕だけで充分だよ
それよりも、閣下が帰って来ない事の方が気になる、君は彼を探してくるんだ
出来るだけ迅速に見つけて、この状況を知らせて連れてかえってきて………」

二名を頼むよ、他の使用魔の避難と、逃げ遅れが居ないかも確認してね

急速に閉じてゆく結界の壁に、僕の声は最後まで聞こえたかどうかは解らないけど
尻尾の生えたその姿が、あの厳めしいバイクに再び跨がり、走り去ってゆく姿が見えた様な気がした

「ふん…ようやく静かになった様だな、思ったより冷静じゃないか、センセイ?」

その取り澄ました仮面を脱ぎ捨てて、もっとがむしゃらに、突っかかって来ると期待していたのに…
幾重にも降り注ぐ結界と、光のベールの下で、ソレを見上げながら、赤髪は肩を振るわせてそう笑った

「ああ…本当なら、今すぐそうしたい所だよ、でもね、師匠に直々に釘を刺されたからね」

君はまだ僕等の患者だってさ、怒りに任せて医者の本分を忘れるなって、さっき言われちゃったからね
ウチの師匠は、とても厳しい人だからね、僕もこれ以上は怒らせたくは無いんだよ…
治療はするさ完璧に、依頼を受けた責任として…でもその後は話は別だからね…
彼女にした仕打ちの分は、直弟子として、キッチリ返させてもらうからね

なるべく冷静に返したつもりだけど、殺意の籠もる目と、更に大きく変形する角を見れば
僕の怒りや昂ぶりなどは、一目瞭然だったに違い無い、その戦闘能力の限界点の差も

それでも構わないのか?赤髪はさも愉快そうに、ゲラゲラと笑うと、更に挑発的な態度を見せ、指先で僕を呼ぶ
魔力レベルの近い僕と、殺し合いが出来るのが、心底楽しみで仕方が無いといった風体で

狂っているか居ないかなんて、この時点ではどうでも良くなっていた
この空間の中なら、お互い全力で暴れ回っても問題は無いだろう、他者を巻沿いにしてしまう心配もない
魔法具を媒介とした結界が、完全に崩壊してしまうまでの間だけれど、その間にきちんとケリはつけてやる

これはタダの喧嘩じゃないからね、今後の治療行為における立場確認も大切だ
まずは…このいい気になっている患者を、どうやって黙らせるか…それだけが問題だ

魔力レベルの差なんて関係ないよ、どうせ君も、軍属至上主義者の典型だろうけど
基本的には非戦闘要員の内官や、学者も医師も…舐めてかかればどういう事になるか
きっちり教育してあげるよ、今後の為にもね

身体が一気に戦闘モードに変化してゆく、通常あまり使わない、筋肉や骨がミシミシと悲鳴を上げるが
そんな痛みなど感じない程に、昂ぶり興奮していた僕の方も…
頭脳タイプと言っても、結局は僕も、血を好む戦闘種族の鬼族なのだろうね

ここまで来れば…互いの立場が云々と言うより、単純に雄同士の意地の張り合いだね
冷静な判断など、出来ようはずもなかったのだ

だから僕達はまったく気がついていなかった、全員を退避させた筈のこの場に
この結界の内側に、自ら飛び込んできてしまった影が居た事を

緊急時であればある程に、最終確認は自分ですべきだった…後から考えるとそう思うよ




続く

馬鹿ップルに巻き込まれる、愉快な仲間達?状態になりつつありますが
もう少し続きます…う〜ん本物のキャラから、何処まで離れたら気が済むのやら(反省)

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