[携帯モード] [URL送信]

【リクエスト・過去作品サルベージ】
◆『守れない約束』1 X&Z+図書館猫 エロ少なめです(笑)

緊急に入った呼び出しで、慌てて文化局に駆けつけたゾッドは
ゼノンの顔を見た瞬間、開口一番に、素っ頓狂な声を上げてしまった

「あんた…どうしたんだ?その傷は???」

他の悪魔と違い、戦闘以外の流血を好まないゾッドであれば…
まずゼノンを案じる言葉が、先に出てくるハズだ、ソレが普通の傷ならば
しかし今回ばかりは、笑いを堪えるのに必死なのだろう
ぷるぷると肩を震わせてる弟子の様子に
益々不機嫌になったゼノンはギロリと相手を睨み付ける

柔らかな頬には出来たばかり傷が、三本傷の赤い線がくっきりと刻まれている

明かに何者かに引っ掻かれた爪痕だ、人間の女のソレとは違う様だが
魔族の場合…獣に近い爪を持つ者も多い為、嫌でも色っぽい理由を考えてしまうのだろう

「………別に、覚醒した検体が、想像以上に暴れてしまってね」

それだけ低く言うと、ゼノンは踵を返して研究室の中へ戻ってゆく
出てきた時と同じくらい、ゆったりとした所作と歩調で

とは言っても、ゼノンが実験用の生物に傷付けられるなんて珍しい
少なくとも俺が知る限り、その手のヘマをしたなんて話すら聴いた事がない
頭脳タイプの学者であっても、流石は土属性最強の戦闘民族の鬼族だ
俺の全力の攻撃すらも、涼しい顔でひらひらと躱す様なゼノンに
不意打ちとは言え、正面から傷を負わせたモノが何者なのだろうか?
傷と傷の間の間隔と深さを考えれば、相手はそんなに大きな奴とは思えないのだが?

途端にその傷を作った者に、興味が湧いたゾッドは
少々不謹慎だが少しワクワクしながら、ゼノンの後を追った
もしソイツがゼノンのお得意の合成生物なら、ナリの大小など関係ないだろう
優れた戦闘能力を持つ者であれば、一度手合わせを願いたいくらいだ

ところが…研究室の奧の処置室で対面した対象者は
ゼノンと付き合いの長いゾッドでも、想像もしなかった様な姿で
処置室の診察台の上でブルブルと震えていた

薬品の品質保全の為に、照明を落とされた部屋とは裏腹に
手術灯に照らされた診察台の上に、妙に浮き上がって見えるのは巨大な卵?
卵の様なカタチをしたソレは、特殊結界も兼ねた半透明のカプセルの様なモノらしいのだが…その中には

例えはアレだが…まるで陶器人形の様な見た目の小さな幼女が、背中を丸めて蹲っていたブルブルと震えながら

妙に生白い肌に、くるぶしまで届いてしまいそうな亜麻色の髪はゆるくウェーブが掛かり
琥珀色の大きな目が妙に印象的なのだが、その瞳に入る縦の光彩を見ればその正体は何となく推測出来る
解りやすい大きな耳と、フサフサの長毛に覆われた尻尾は威嚇の為か?可哀想な程に膨れ上がっていた

「おいおい…何時の間に幼女趣味になったんだよ…」

サイズの合わない成体用の館内着を羽織っているだけだからか
寸の短い両脚がはみ出し…それはそれで背徳感に溢れる光景だ

確かゼノンの好みは顔馴染みの女先生の様な、成熟したタイプだったと記憶するが
何時までも子供の様な雰囲気の、雷帝の御子息もお気に入りな事を考えれば
その気もあってもおかしくはないか?等と要らない事を考えてしまうと
それも顔に出ていたのだろう、ゼノンは益々不機嫌そうに言った

「強制的に固定したこの姿に、此方も油断しただけだよ
流石はたった一匹で【禁書室】を護ってきた子だよ…500年以上も
光の力も闇の力も両方使いこなすとはね、力のレベルは低くても
その質がコロコロ変わるから、少し慣れないとお前も怪我をするよ」

禁書室?何処かで聴いた様な話だが…
今ひとつピンと来なくてぽかんとしていると、ゼノンは更に付け加える様に説明した

【図書館の猫】って知ってる?まぁ美術館や博物館でも構わないのだけど
収蔵品を護る為に昔は、飼われていたんだよ、ネズミ避けにね
この子はバチカンの【禁書室】に居た子で、有る意味?顔馴染みだよ
時々あの場所に侵入する度に、威嚇してきたからねぇ…まだ生きていた頃も
自分が死んだ事にも気付かずに、その後もずっとその場所に居続けてたんだよ

「すると何か?コイツは図書館に地縛されたゴースト?と言う事か?」
「厳密に言うと地縛と言うより、約束に捕らわれてる感じかもしれないね…」

設立以来500年以上、世界の悪書・魔術書・異端書の全てを集めた【禁書室】にも
近代化の波が押し寄せて来て居てね、機械化が進んでいるらしいよ
資料の永久保全の為導入されたシステムと、クラシカルな幽霊は酷く相性が悪い様でね

先日顔を出したら、この子の存在が消滅しかかって居るのを見つけてね
つい連れて来てしまったのだけれど…弱っているモノと油断してたらこのザマだよ
そう言って、ゼノンは自嘲気味に頬の傷を摩り笑うのだが…

場当たり的事じゃないだろうソレは、計画的だろう?絶対に?

いくら輪廻の輪から外れてしまった魂でも、人間以外の獣のそれでも
自ら望んで妖魔に変化した個体とは違う、その所有権はまだ天界側にある
適切な肉の殻を持たないソレを、剥き出しの魂を地獄に連れ込む事は
協定により禁じられている上に、魂そのモノも消耗してしまうのだ

正式ルートで閻魔王府の監査を通過して、処置を受けなかった魂は
弱いモノであれば…魔界の瘴気にやられて、そのまま消滅してしまう事だってある

この猫がそうならなかったのは、何か特別な容器に入れて魔界に持ち込んだハズだ
そして予め用意しておいた肉体に霊体を入れ、受肉させたのだろう
それも魂と即座に馴染む様に、生前に採取した細胞から新しい肉体を作り
魔界で生存可能な妖魔に改造する…その程度の事はゼノンならやる

それ程までにお気に入りだった…と言う事なのだろうな、この猫の幽霊が

ゼノンの弟子ではなく、閻魔大王としては
悪魔召喚も無しに魂の輪廻を阻害する、この一連の行為には異を唱えるべきなのだが…

500年も転生を拒み続けた、この猫の言い分も聴いてやりたい気持ちにもなる

生有るモノ、魔族が考える以上に、霊体になった魂が地上に長期間留まるのは過酷なのだ
魂を護る肉の殻が無い分、肉体の痛みとは違う苦痛と苦悩に常に悩まされる
そのまま還る場所を忘却してしまった場合は、消滅するしかないのだ

その様な哀れな取り零しが無い様に、閻魔王府の官吏達は定期的に回収には向かうのだが
生前への未練から、此方の説得に応じない連中も多いもまた事実なのだ

おそらくこの猫も、何らかの強い気持ちからソコに留まり続けたのだろう

「肉体とは上手く馴染んだのだけど、使い魔の契約をさせてくれなくてね…
困っていたんだよ、ずっとこの簡易結界に閉じ込めているワケにもいかないでしょう?
だから…こういう子の扱いに慣れたお前を呼んだんだよ…」

そう付け加えられても…俺も立場的には困るのだが、呼ばれた意味も解る
いくら受肉させても、それだけでは駄目なのだ
未だに神の子であるこの猫が、最終的に妖魔に変異するのは当事者の意思だ
天使や他族に対する転魔現象とは違い、こればかりは…幾ら悪魔と言えど強制出来ないのだ

しかも…時間はあまりない、ゼノンの使い魔となって、定期的に魔力供給をうけなければ
今のあやふやな状態が長期間続けば、このまま結界から出られないばかりか、かりそめの肉体と共に魂も滅んでしまう

まぁゼノンが俺を頼ってくるなんて、普通ならあまり無い事だからな

ぽりぽりと頭をかいたゾッドは、仕方が無いと言う感じで何かをボソリと言うと
まだ威嚇を繰り返す、少女の様子を覗き込み、その上に自身の大きな手を翳した
悪魔としての魔力ではなく、閻魔大王としての権限の利用を表す薄紫色の力の波動が
結界ごと少女を包み込んでいった、結果はどうであれマズは当事者の意思を尊重すべきだろう

※※※※※※※※※※※※※

「………アリス、ほら言ってみな?お前の名前だから……」

キョトンとした顔でゾッドを見る少女は、首をかしげるばかりで何も言わない
ただグルグルと喉を鳴らすばかりだった
あぐらをかく膝にちょこんと座っていたのだが、すりすりと彼の胴に擦り寄ってくる

見た目は少女でも、本質的には猫そのものなのだろう
その仕草は、苦手な拷問官に少しばかり似ているのだが
幼く可愛らしい印象の肉体と、その柔らかさのせいか?
懐かれて悪い気はしないのだが…当のゾッドはホトホト困り果ててていた

此方の言う事を、ちゃんと理解しているのか?それさえも解らないからだ

結界から出してやった少女が、ゼノンではなく俺の方に懐いてしまった事もあるのだが
その後帰れなくなってしまったのだ…その選択を見届ける義務が発生したから

少女とゼノンは、まだ使い魔の契約はしていない、転魔が完全では無いのだ
今彼女がこの肉体で活動出来るのは、俺が限定的に与えた【権限】によるものだ

あくまでも当事者の意思を尊重したい、そう考えた俺はゼノンに【提案】を持ちかけた
「仮に使い魔にするとしても、彼女自身にこれからの事を考える時間与える事
それが…本来の【理】から外れる最低限度の条件だ」と

その条件にゼノンは苦虫を潰した様な顔はしたが、結局は飲み込んでくれた
或いはゼノン自身も無理矢理と言う選択肢は無かったのかもしれない…今回に限っては
でなければ…わざわざ俺を呼びつけたりしない、自分で解決してしまったハズだ
お得意の術を使えば…猫一匹くらい墜とすのは簡単なはずだ、ダミアンのチャームと同じくらい

しかしソレでは意味が無かったのだろう
ゼノンは図書館に居た時と同じ状態の【猫】が欲しかったのだろう
その魂と在り方を損傷する事もなく、ありのままの状態で

そう…閻魔大王の地位にある悪魔は、他悪が持たない【権限】を使用する事が出来る
その一つに【地獄流し】と言われるものが有るのだ

まだ死亡していない生者あるいは、闇堕ちをしていない魂を
極短期間ではあるが魔界に留め置く事が出来る
対象者の魂及び肉体に深刻なダメージを負わせないままに

もうソイツの名前すらも忘れてしまったが…
何某とか言う政治屋と詩人を兼任した男を、【地獄流し】にした事がある、天界側からの要請で
地獄をその男に見せつけ、現世に戻した後は、その経験を布教に使わせる…そういった狙いが有った様だが
こちら側にも地獄の存在をアピールするチャンスでもあった為、乗ってはやったものの

まさか同じ術を、人間以外の対象者に使う事になるとは思わなかったぜ…

期間は最大限度の7日間を取った、ゼノンと猫の確執の程度は解らないが
その期間内に落ち着いて話し合ってくれれば…そう考えたのだが甘かった様だ

獣の言葉で話しても、人の言葉で話しても
少女からの反応がまるで無いのだ、猫族限定の言語で話しかけてもだ
このままでは使い魔の契約所か、彼女の置かれている状況の説明すらままならない

何らかのカタチでコンタクトを取り、説得が出来ると考えていた俺達は
予想外の事態に困惑気味なのだが、一度発動してしまった【権限】を取り消す事は出来ない

「ならば…この現状を招いた、お前が責任を取ってくれるよね?」

等と目は全く笑っていない、ドス黒い笑みを師匠から向けられれば
俺も「はい解りました」と答える事しか出来なかった

しかし言葉が通じなくとも、意思疎通が全く出来ないワケでも無さそうだ
要は期間中に魔族になりたいと願ってくれれば…俺もゼノンも御の字なのだ
ゼノンが今、俺に感じている怒りも治まってしまうのだが

魅惑的な餌を与えて騙くらかし、魔族にしてしまう事には、まだ躊躇している自分がいた

どうして500年もあの場所を離れなかったのか?まだその理由も聴いていないのに
此方の都合ばかりを押しつけるのもフェアじゃない
何とか言葉による明確な意思表示を、コイツから聞き出す方法はないのだろうか?
そう思えばこそ、その7日間を最後まで付き合う事にしたのだが
今日でもう5日目だと言うのに、警戒心を露わに威嚇しなくなった以外に進展はない

いくら元は獣でも、裸のままにはしておけなくて
適当な服を見繕ってくれと、文化局のナース達に依頼したところ
大方の予想を裏切らない、可愛らしいドレス姿で帰っては来た
名前もそれらしく「アリスちゃん」と呼ばれながら

それはそれで良いのだが…服を着せてやっても尚残る背徳感は何故だ?
まるで大男の俺が、年端も行かぬ子供を拐かし、連れ回している様な状態に慣れるのに
丸1日はかかってしまった様な感じがするのが、俺も情けない話ではあるが

時間が無いのだもう…何とかコイツの話を聞き、どうしたいか選択させなければならない

『なぁ…お前の気持ちを聞かせてくれよ………』

今度は獣が使う言葉でそう唸ってみた所で、やはり反応は返ってこない
すりすりと頭をこすり付けながらも、毛繕いをする様に俺の肌の露出部分を舐めてくる
コレは猫だから仕方がないと解っていてもだ、コレもこっぱずかしくて仕方がない

俺とゼノンぐらいしか入らない奥まった温室だからこそ、この状況にも耐えられるが
他の連中も顔を出す何時もの場所の方なら………と思うと薄ら寒くなってくる

体毛の少ない場所でのグルーミングが、ツマラナイと感じたのだろうか?
琥珀色の目がじっと見て居る先に気がついた俺は、慌てて尻尾を身体の後ろに隠そうとするのだが
その動き方が悪かったのだろうか?突然キラリと目を光らせた少女は
素早い身のこなしでぴょんと飛び上がると、何か獲物を捕獲するかの様な仕草で俺の尻尾に飛びついてきた
勿論過度に噛みついたり、爪を立てる様な事はしないのだが…嬉々として楽しそうなのだが
相手が猫の姿ならともかく………ああ時間が無いと言うのに俺は何をしているのか

「………失礼しますゾッド様、あっ…お取り込み中でしたか?」

不意に声をかけられた俺の尻尾は、ぶわりと膨らんでいたのだろう、少女の小さな腕に抱え込まれたままで
その様子に流石に相手も耐えられなかったのだろう、小さな含み笑いが聞こえてくる

「………エスカ…入ってくるなら、声をかけてくれよ」
「掛けましたよ、でも彼女にお困りの様で、全然気がついてもらえなかったんです」

馴染みの庭師とは言え気まずい事には替わり無い、一体どの辺りから少年に見られていたのか???
まぁ…それを言い出したらキリがないか………
特に文化局内の植物達は、動ける俺達よりも、遙かに優れた伝達網を持っているからな
新入りに手を焼く俺の噂も様子も、彼等の間には逐一漏れているには違いないのだが
一連の事情も込みで連中に全てを把握されては、俺の沽券が立つ瀬が無いと言う所だ

「デメテルからの伝言です、ゾッド様にコレをお渡しする様にと言われまして」

無理に含み笑いを押し殺しながらも、そう言ってエスカが俺達の前に出したのは
何冊かのノートやスケッチブックと、色とりどりのクレヨンと、色鉛筆だった
おそらくは文化局研究棟から持ち出されたものだろうが
森の守護樹のデメテルが、何でこんなモノを???
怪訝な目で相手を見上げるゾッドに、使いの少年は更に続ける

「言語による意思疎通が難しいなら、絵や図解などでコンタクトが取れないか?と彼女に言われまして…」

どうやら、この温室から比較的離れた場所に彼女にまで、状況は逐一上がっているようだ
それに気恥ずかしさも覚えるのだが、ソレ以上に、最もな提案を繰り出して彼女の対応に舌を巻く
植物体とは言え…流石は年長者の大木であり、沢山のヤドリギを抱え込むグランドマザーだ
難しいタイプの子供の扱いは手慣れたモノなのだろう

確かに…彼女の言う通りに、言葉が通じないのであれば、絵を使うのは有効かもしれない

そう考えた俺は、少年が持ち込んだソレ等を受け取ると
早速、尻尾にじゃれつき、しがみつくく少女に、それを差し出してみる
初めてみるソレに、一応は興味を持ったのか、すんすんと臭いをかいでくるのだが
画材の臭いは、お気に召さなかった様だ、すぐにそっぽを向いてしまうの

慌てたゾッドは、差し出したソレで、サラサラと簡単な絵を描いた
直ぐ目の前に咲いていた小さな花を、簡略化した様な絵だったが
少女はその琥珀色の目をパチクリとさせると、不思議そうに絵を覗き込んでくる
どうやら関心を持った様に見えたので、俺はすかさずその小さな手にクレヨンを握らせる

「おい…お前も何か描いてみろよ………」

等と、おっかなびっくりに少女の機嫌を伺い、促している自分は…
閻魔大王としても、元軍部の暴れ者としてもは締まりがないかもしれないが
今はそんな事にかまっている場合ではない、使えそうな手段は全て試すべきだろう

元が四つ足の獣であるためか?手先の使い方は、未だにたどたどしい
単純に水を飲むその行為ですらそうだ、這いつくばって口を付けるのではなく
コップを両手で掴む程度の事が可能になったのは、今日昨日の様な有様だ

そんな手に、クレヨンを握らせるのには、少々の苦労は要したが

一度描きだしてしまえば、指先に感じる独特の感触が気に入った様だ
ふさふさの尻尾をピンとたて、ふりふりと振ると、色々なモノを描き始めた

まずは…俺の絵の真似だろうか?花かコレは?
ソレにこのもじゃもじゃの固まりは…まさか俺じゃないだろうな?
視界に入るモノを、ある程度順番に書ききってしまうと
次はココには無いモノを描き始める、魚…そしておそらくは猫?自分自身か?

うにゃうにゃと小さく声をあげながら、楽しそうに絵を描く様は
小さな子供の様にしか見えず、とても齢500年越の幽霊には見えなかった

やがて…様々なモノを書き殴っていた彼女は
箱に収まっていたクレヨンと色鉛筆の全てをぶちまけると
その一本一本を全て使って、小さな四角いマスを描き始める
最初はそれが何であるのか?俺にはよく解らなかったが
連続して並ぶ高さの違うマスの羅列が、あるモノを表している俺は事に気がついた

そうだ…これは書架なのだ、永遠とソレが続く巨大な本棚のイメージなのだろう

この世の災悪が集められた、バチカンの禁書室で過ごしていたと言っても
猫の彼女には、その書籍の内容など理解出来るハズもない
ただ…そこに居たかっただけ、居心地の良い自分の縄張りを主張したかっただけなのだ

「………帰りたいのか?あの場所に?」

ボソリと呟いた俺の言葉に、彼女が反応したのかどうかすら解らないが
下を向き一心不乱に色とりどりの本を描いていた少女は
ぴょこんと耳を立ててこちらを見上げると、すりすりと頭を擦りつけてくる
その様子から推測すれば…俺の読みは間違ってはいないのだろうか?

巨大なコンピューターが、その場所に鎮座した為に
電磁波の余波でコイツは消えかけた…とゼノンは言っていた
肉の肉体を持った今、再びその場所に戻ったとしても…害はないだろうが

使い魔の契約をしない事には、現状は維持出来ないのだ
下手をすれば…その肉体と共に、魂も崩れ落ちてしまうかもしれない
ワケも解らないままに、かりそめの身体と滅んでしまえば…輪廻の輪には戻れない

もうまもなく時間切れだ、その旨を少女に伝えねばならない
その舞台として相応しいのは魔界ではなく、きっと【あの場所】なのだろう
何故だかそう思った俺は、擦り寄る少女の身体を抱き上げていた

「出かけてくる…ゼノンにそう伝えておいてくれ」
「解りました…お気を付けて」

馴染みのエスカは話が解る、こういう時は、ゼノンよりも俺の方を優先してくれるから助かる

ズンズンと温室を出たゾッドは、ゼノンの結界を易々と飛び越えると
自らの魔力で人間界へのゲートを開くと、目的の場所は既に深夜の様だ

人間達の目に付かずに、忍び込むのにはうってつけだ………

ニヤリと笑みを零した彼は、片腕の上にちょこんと乗る少女を強く抱き締めると
彼が通り抜けるには、少々手狭なサイズのゲートを屈む様にくぐり抜けてゆく
ゾッドのフサフサの尻尾が空間から消えるのと同時に、ゲートが消えてしまうと
後には何の痕跡も残らない、その魔力波動の残り香さえも


続く

すみません…読み切りにするつもりでしたが、長くなりすぎたので一度切ります
和尚と猫だけの設定の小話として書こうか?と思っていたストックですが
そこに親分も投入した事で、より切なくて、重い感じが出てしまうかも???
まぁ…それもこのサイトの醍醐味と思って、読者の皆様は諦めてください

◆バチカン図書館・禁書室(別名地獄室/アンフェール)

これは架空のモノではなく本当にあります
神学生達が教義を学ぶ為の書籍の他に、悪書・禁書と呼ばれるモノを集めた別室が存在します
魔夜峰央先生の『アスタロト』にも登場するので
このサイトの読者様におきましては、記憶の片隅にある方も多いのではないでしょうか?

教会関係者であっても、入室するには法王様の許可が必要だったそうですが
現在はデジタル化が進み、禁書室の本まで外部からアクセス出来るとか?
2012年には、その膨大なデーターの一部が盗まれる事件も発生してます

まぁ…デジタル化は仕方が無いにしても、何か情緒がなくなった感じですよね

◆図書館猫・博物館猫・教会猫等々

書籍が多数置いて有る場所、美術品が置いてある場所には
昔から猫がツキモノだったそうです、貴重な収蔵品をネズミから護る為に

まぁ…昔の本は羊皮紙が多いですから(絵画も同様かな?)
標本などは虫の被害の方が多いですが、ネズミさんも美味しく頂いてしまったんでしょうね
現在のソレ等の施設の様に、建物の機密性も低かったでしょうから

実は…ウチの最強モブのヨカナーンが、なんで猫のサイボーグ体に乗っているかと言えば
この可愛らしいガーディアン達の事を思いだしたからです
極悪天使は少しも可愛くはありませんがね(苦笑)

バチカン図書館にも禁書室にも、きっと昔は居たんでしょうね図書館猫が…

近年は図書館猫を置いている施設は少なくて
むしろ不幸な猫を飼う為に、強引にその制度を使っている場所の方が多いですが

伝統的にガーディアンの猫を護っている例としては…
ロシアのエルミタージュ美術館が世界的に有名ですね
後は…トルコのアヤソフィア博物館にも沢山の博物館猫が居ます
特により目のグリさんは、猫好きの間では有名なのではないでしょうか?

どちらも一度は行ってみたいですね(^_^;)(^_^;)(^_^;)

◆図書館猫 仮名:アリス

外見的イメージは、大島弓子先生の『綿の国星』のちびねこ
あるいは、ルイスキャロルの『不思議の国のアリス』に猫耳・尻尾付きでも可
どちらにしろ?そんな姿の子供にグルーミングされたら、犯罪ですよね
親分じゃなくても、微妙な気持ちになりますわな(汗)

正体はバチカン図書館が出来た頃から、その場所に居る図書館猫の幽霊
500年越しで転生を拒み続けた、筋金入りの頑固ものです

猫の時の姿は…キジ猫の長毛種をイメージしてます
モフモフ・フクロウ猫の典型?と思ってください→尻尾と耳は猫のままで

バチカンの禁書室にも、余裕で出入りしてしまう和尚とは
生前から顔馴染み?みたいですが、仲はあまり宜しくな無い感じ?
にも関わらず何故、和尚が彼女を気に入っているのか?どうして彼女が転生を拒んだか?
その理由は次回にしっかり書きますので、お付き合い頂けると嬉しいです


[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!