12
いつもの朝、事務課は騒がしく混雑していた。日課のようにここへ訪れるようになった徹は日課のように彩を探す。すると受付ではなく端末機の前にいる彩を見つけた。
「彩?」
「あっ、徹だ」
端末を目の前に、徹から呼ばれ彩は振り返った。
「……外仕事?」
「うん。ちょっとした」
彩の背後に立ち端末を覗き込む。よく見えないのか端末に手をつき彩を挟むようにして近づく。彩はそれを特に気にしていなかったがその光景は事務課の女性たちに軽く悲鳴を上げさせた。
事務課の中では勝手に話が進みふたりは口では言わないが相思相愛と勝手になっている。
「ゴミ拾い?なんでまたこんな残り物仕事すんの?」
「趣味……かな?」
徹は何かと彩と接点を取りたかった。悩む間もなく付き添うことは徹の中で決まっていた。
「じゃあ俺もそれに」
彩のIDより先に徹自身のIDを入れ慣れた手つきで処理する。
「あっ、ちょっと!」
「人気ない割には供給が多いから大丈夫」
「数の心配じゃなくて……あー…まぁいいや…」
うだうだ言いながら彩もIDへ情報を移す。
「あ゛っ!間違えた……二つ入った」
「じゃあ俺も」
「えっ!?なんでそうなる!?」
「どうせキャンセルしないだろ?」
「キャンセル料がかかるからしないけど…」
じゃいいだろ、と美形スマイルで押しきられ情報処理を待つ。
「行こ」
「ああ」
建物を出て歩き出す彩に素直に着いていく徹。その上、徹は幸せオーラを放っている。その光景はすれ違う人達が振り返り二度見をしてしまうほど異様だった。
「んで、どこいくんだっけ」
「貧民窟」
「……まさかゴミ拾いって墓作り?」
「うん。嫌?」
小首を傾げ上目遣いで顔を覗き込んでくる彩に徹の機嫌は更によくなる。
「いや。意外でさ」
「俺、そこの出だから行くの好きなんだ」
貧民窟は、貧しく荒れ果て何かと蔑まれる嫌われる所だ。そこにいたというだけで嫌な目を向けられるのが常だ。彩がそこの出だから徹のこの感情が冷めてしまうわけではなく、逆に彩の情報を手に入れたと喜んでいた。
「おはようございます、玄治さん」
「おおっそろそろ来ると思ってたよ」
貧民窟のとある所。ここは墓石がいくつか置かれたもの寂しい景色が続く。
そこにぽつんと一つある畳二畳分の小さな建物から腰を曲げ煤けたフリースを、中に着た服により膨らませ、手袋、ニット帽をちょこんと被ったおじいさんが出てくる。
「手伝わせてもらいます。今日は知り合いも連れてきたんです」
「初めまして。神庭崎 徹です」
「ほい徹な。玄治だ。よろしくな」
にかっと笑えば所々抜けた歯が唇の隙間から見えた。
それから作業を始めた。ふたりでやったこともあり、昼頃には終わっていた。
「彩、彩」
漸く全てを終えた頃にタイミングよく玄治さんに呼ばれ彩は行ってしまった。しばらくして現れた彩はどこか落ち込んだ様子。
「…おまたせ」
「もういいのか?」
「あぁ、大丈夫。挨拶程度だから。それより徹まだ暇?」
「ん」
徹は幸せそうな表情を浮かべ頷く。
「彩と居たいしいつまでも大丈夫」
ニッコリ美形は淡々と喋る。
「ははっ、そんなの台詞は女に言えよ。男の俺に言ってもなにもなんないけど」
「ん」
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