13 彩と徹の前にあるのは一つの墓石。 「“今生”?」 「俺の育ての親」 ちらりと彩を見るとそれに刻まれた名前を見つめている。 「それは、……御愁傷様」 「慣れない言葉使うからなんか可笑しい。……別に、今生さんと別れてよかったと思ってるから……今生さんがいたら俺の世界は狭いままだっただろうし」 墓石に手をかけ汚れを軽く払う。 「徹は兄弟いる?」 「いない」 「さっき玄治さんと話してただろ?あれって俺の兄弟のことなんだ。……顔も声も特徴も覚えてない兄弟を探してる」 「覚えてない?」 「4年前の今生さんが死んだショックが大きくて記憶が所々飛んじゃって。幸せだったことしか覚えてないんだ」 ずずっと鼻をすする音を鳴らし鼻下を拭う。少し鼻声になりながらも話を続ける。 「こうやって貧民窟のここに来て亡くなった人の中にもしかしているかもって、探してんだ」 まさかと見た顔は潤んだ瞳と赤らんでいる目元。 「……」 「ごめん。泣くつもりはないけど今生さんの前にくるといつもこうなるんだ」 徹は衝動的に腕を伸ばした。小さく伸ばした腕を彩に絡ませ、優しく引き寄せる。涙で肩が濡れるのを感じた。 「可愛い可愛い」 「冗談やめろ」 「んー、ははっ……本当なんだけどな…」 「何か、言った?」 小さく呟いた本音は聞こえていなかったようで平然と笑顔を作る。 「で、こうなることわかっててここに俺誘った?だったらすごく嬉しいんだけど」 「なんでだろ。徹と居ると安心するからかな?わかんない」 「俺、特別?」 「……たぶん」 徹は彩を抱きしめ直した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |