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香奈が教団に着いた。
明後日には出発しなければならないので、準備が忙しい。

久し振りに会ったリナリーと話をしたり、鍛練をしていたら、あっという間に期日が来た。

明朝に出発、という夜。
すっかり目が覚めてしまった香奈が夜食を食べようとして食堂へ向かったが、道に迷って室長室へ来てしまった。

「………ま、ここからの道は分かるもんね」

その場を去ろうとすると、中から声が聞こえてきて、好奇心を掻き立てられた。
扉に耳を当て、声がもっとよく聞こえるようにする。

(こんな真夜中にまだ起きてる人がいるの?
あ、室長と話してるのはティエドール元帥だ。
…私についての話?)

「香奈は近頃すっかり元気になったね。
それでも、まだ言わない方が良いかな?」

「そうですね、もう少し様子を見るべきだと思います」

「はぁ…。
この事を知ったら、香奈はどう思うんだろうね」

(何?
2人は私の何を知ってるっていうの?)

「しかし、元帥。
本当の事なんですか?」

「ああ、5年前から言っているとおりだよ」

「はぁ、未だ信じがたくて…。
あんなに明るくて優しい香奈が、家族を殺すだなんて…」

…………え?

「私も信じがたかった。
しかし、香奈を見つけた村で生き残っていたのは、香奈だけだった…。
血だらけの蒼剣を持って立ち尽くしていたのだし」

(…う、そ……)

「声を掛けるのも悩んだが、私が声を掛けるとすぐに正気に戻ってね。
その時には既に記憶喪失になっていたんだよ」

もう元帥の声は私の耳に届いていなかった。
ゆっくりと歩き、自室へと戻る。
そのままベッドに突っ伏し、目からは涙が溢れる。

「そう…思い出した。
あの日…記憶を無くした日の事…」

あの惨劇が目の前に広がる前には…。
私の誕生日パーティーをやっていた。
私は1月生まれだっけ。

外では雪がしんしんと降る中、家族で騒いでいた時、私は急に何かに“目覚めた”。
どこからか声が聞こえて来て、声の主の方へと引き寄せられるように歩いていった。
すると行き着いた所は倉の中で、私を呼んでいたのは……蒼剣だった。

蒼剣の言われるがままに動いてて、元帥が私を呼ぶ声で正気に戻ると―――。



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