〜hot chocolate〜
8.
数日の間―――。
良くも悪くも、噂の絶えない二人の話を耳にする度、キリキリと胃が痛んだ。
何かの拍子に、顔を会わせるのではないかとビクビクと過ごした。
それでも、実際に会う事はなく、“日常”に戻った、かに思った頃…。
堂本が現れた―――。
その日、一緒に帰るはずだった景一は、彼女からのメールで、祐輔を置いて教室を飛び出して行った。
「…ったく」
彼女が出来てから、“彼女優先”になってしまった景一。ファストフードでも食べながら、久々にくだらない話でも、と思ったのに。
すっかり寄り道する気でいた胃は、空腹を訴え始めている。
夕食まで持ちそうにない、どこか寄ろうか…と思いながら、階段を降りていった。
下駄箱へ着くと、場の雰囲気がいつもとは違っていた。普段なら、わいわいと騒がしいのだが…。
男子が一様にびくびくとしているのとは対照に、女子達は嬌笑混じりにざわめいている。
皆が、チラチラと盗み見るその視線の先―――。
開放された扉に、寄りかかり、何かを探す視線を人混みに向け、堂本が立っていた。
―――何でココに…?
三年の下駄箱は反対側で、ここに用はないはず。
そうか、彼女が二年生なんだ。そのコでも、迎えにきたに違いない。きっと、そうだ。そうに決まっている。
そうだ、一旦、教室へ戻って時間を潰そう。
などと、考えながらも、目が離せない。
目があった―――。
堂本が、歩き出す。と、生徒で混み合っていたはずの下駄箱が、モーセの海割りのように割れ、真っ直ぐに自分の方へ向かってくる。
「おい」
気付かなかった事にしよう。聞こえなかった事にしよう。
教室へ引き返しかけた。
が、それより早く、堂本に
「おい、お前。シカトしてんじゃねぇよ」
と腕を掴まれてしまった。
「あ、あの…」
「来い」
有無を言わさず、どこかへ連れて行かれる。
三階へ上がり、三年の教室の前を過ぎる。
道すがら、ひそひそと祐輔を憐れむ声が聞こえた。
『可哀想に。ヤキ入れられるんだな』
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