〜hot chocolate〜
10
教室に入ると、自分の席の周りに嬌声をあげる女子達の輪が出来ていた。一方、男子は隅に固まって怯えている。その男子の塊にいた景一に声を掛けた。
「どうしたんだ、コレ?」
「ああ…、相田が来てるんだよ…」
「相田が?ちょっと行ってくる」
「ちょっ…!危ねぇぞ!」
女子の波を掻き分けると、相田が自分の席に座っていた。相田がこちらに気が付いた。
「あっ!ゆっぴょん!待ってたんだよん」
スッと立ち上がると、周りの女子達に、
「ごめんね、ゆっぴょんと話があるから」
と言って、軽く追い払う素振りを見せると、道を作って、教室の外へ連れ出された。先をゆく相田についていく。廊下へ出、二階から三階までの踊り場で相田が立ち止まった。振り返ると、
「お昼誘おうと思って来たのにいないんだもん。ずっと待ってたんだよ?どこ行ってたの?ゆっぴょん」
と問われた。
「…堂本先輩と屋上にいました」
「もしかして、ちーちゃんと屋上で食べたの?うわー、淋しい…。ちーちゃんに先越されちゃったんだね」
と、ガックリと肩を落としている。
「あ、お弁当美味しかったです!特に、唐揚げ!アレ、オレ、好きです!あと、ポテトサラダも美味しかったです!」
そういうと、
「本当?嬉しいな!また作ってあげるよ!揚げ立てはもっと美味しいんだよっ」
と、本当に嬉しそうに言った。それから、ガラリと真面目な口調で、
「そうだ。今日は一人で帰るのは止めた方がいい」
と言った。
「…あの…今日は、堂本先輩が送ってくれるって…」
「そっか、だったら安心…でもないか…。ちーちゃんには気を付けて」
と心底、心配そうに言うと、またぱっと表情が変わった。
「あ、お弁当箱、ちょうだい」
相田の視線が、手の中の、教室に戻ってから、カバンにしまい忘れた相田の家の弁当箱へ注がれている。
「いえ、洗って返します」
「いいから、いいから」
相田がにこにこと手を差し出した。その笑顔に負けて、弁当箱を手渡した。
「…ごちそうさまでした」
「いいえ、お粗末様でした」
本当に嬉しそうに弁当箱を受け取ると、
「それじゃ!」
と言って、三階へ上がって行こうとする相田を呼び止めた。肝心の自分の話をしていない。
「あの!昨日は、色々とありがとうございました」
ピタリと立ち止まり、くるりと振り返った相田が、不思議そうに言った。
「何のコト?ボク、お礼言われるようなコト、“何も”してないよ?」
「あ……」
(―――あんな醜態を晒したのに…)
相田の気遣いにジン…ときた。
「はい!ありがとうございます!」
深く、お辞儀をする。
「あはははは!何それ!」
相田は優しく笑うと、
「じゃあ、またね!」
と、階段を駆け上がって、行ってしまった。
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