。+短編小説+゚ 特別な日 東方司令部執務室。 勤務時間は既に終わり、二人の男女が居残っているだけであった。 嫌そうに書類を片付ける若い男が、見張り番のように目を光らせている女性に声をかける。 「リザ」 「何ですか、大佐」 リザはわざと「大佐」を強調して返す。 普段なら、二人きりの時は互いにファーストネームで呼び合うが、そういう時に「大佐」と呼ぶのは、決まって不機嫌な時である。 (参ったな…) それもそのはず、今日はリザの誕生日なのだ。 本当は勤務後に誕生日を祝う予定だった。しかし、夜中まで掛かりそうな位書類がたまっている。 ロイは普段から書類になかなか手をつけない。だが、リザの誕生日を祝うために、前日に全て片付けてしまおうと考えていた。 その考えは甘かった。前日に小さなテロがあり、結局その日はテロの事後処理しかする事が出来なかった。 普段怠けていたことを後悔しても既に遅い。 「すまないが、コーヒーをいれてくれないか?」 「それくらいご自分でなさってはいかがです?私は忙しいんです」 (完全に怒ってる…) とりあえず、出来る限り早く終えてしまおう。 二人の間に重い空気が流れる。 時計の秒針の音がやけに気になる。 ロイは仕事に集中した。 20:37。 ようやく書類が片付いた。 自分もやれば出来るな、とロイが自惚れかけた時、リザが声を掛けた。 「意外と早く終わったのね、マスタングさん」 呼び方がマスタングさんに変わった。少し機嫌が良くなったらしい。 「なぁ、リザ」 「何です?」 「これから食事にでもどうだ?」 「喜んで、…ロイ」 今夜は一段と素敵な夜になる―――――気がした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |