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。+短編小説+゚
託した背中
 私は信じていた。錬金術は民に幸福をもたらすものであると。
 私は信じていた。マスタングさんになら、夢を、背中を、託せる事を―――――。

 現実は、やっぱり夢のようにはいかないんですね。
 なぜ人に幸福をもたらす筈の錬金術が、殺戮に使われているのですか?

 そうか、等価交換・・・
 これから生まれてくる世代が幸福を享受できるよう、私達がこの道を歩んでいるんですね。
 次の世代が幸せに暮らすためならば、喜んで血の海を渡りましょう。
 もう一度、マスタングさんの夢を信じましょう。



 イシュヴァール殲滅戦の後、私は結局軍人になる道を選んだ。
 マスタングさんからの推薦もあり、東方司令部に配属となった。

 マスタングさんとは、彼が士官学校生からの知り合い。私の父から焔の錬金術を学んでいたから。
 父が亡くなってからは、マスタングさんも軍人になってしまい、もう二度と会えないのかと思っていた。でも、イシュヴァール戦で再会した。
 マスタングさんは、まだ人々が幸福に暮らせる世の中をつくる事を諦めてなんかいなかった。自らが裁かれてしまう道を選んでいた。
 もう一度、背中を託そうと思った。 マスタングさんも、私に背中を託すと言ってくれた。
 マスタングさんにはいつもお世話になってばかりいたから、背中を託すと言われ、本当に嬉しかった。

―どこまでもついていきます。お望みとあらば地獄まで。

 だから私は、引き金を引く。
 私の夢を、背中を託したマスタングさんのために。

 部下として、恋人として。





「‥‥ザ・・・リザ…リザ!」
 何度か名前を呼ばれハッと目が覚めた。どうやら、寝てしまっていたようだ。
「何でうちにいるの?ロイ」
「ノックしても君が出なかったから、合鍵を使わせてもらった!」
 さも当然の如く言ってのけるロイに怒る気力も無くす。
「何の夢を見ていたんだ?あんまり無防備な姿で寝てると襲わない自信がないぞ」
「襲われたら正当防衛で射殺するわ」
「…君が言うと冗談に聞こえないからやめてくれ」
 一瞬の沈黙ののち、ロイが口を開いた。
「悪い夢を見てたんじゃないのか?」
「え?」
「顔が曇ってる」
 普段通りにしていたリザは吃驚した。そんなに暗い顔をしていただろうか?…いや、きっとロイだからこそ分かったのだろう。
「何でもないわ。ただ昔の事を夢に見ただけ」
 ロイはそれ以上聞いてはこなかった。こういうさりげない気遣いをしてくれるところがロイの良いところ。
「こうやって、何気なく平凡に暮らしていることがどれだけ幸せかと思うわ」
 ロイにもたれ掛かりながらリザが言った。
「そうだな」
 にっこり笑うロイに微笑み返し、そっと手を握る。
「では平凡で幸せな夜を共に過ごそうではないか!」
 がばぁ!と抱きつこうとするロイを軽くかわし、リザはこの上ない笑顔で良い放つ。

「せっかく明日久々の休みなんだから、今日はゆっくり寝かせて下さい!」

 しくしくすすり泣くふりをするロイを相手にせず、一人さっさとベッドに入るリザ。
 そこでロイも諦めがついたのか、リザのベッドに入り込み、リザを抱き締めながら眠った。



 …この幸せが、いつまでもいつまでも続きますように―――。

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