。+短編小説+゚
束の間の休息
プルルルル…プルルルル…
遠くから電話の音が聞こえ、はっと目を覚ます。愛犬のブラックハヤテ号が心配そうに自分を見つめていた。
電話に出ようとベッドから出た時に一瞬フラッとしたが、時計を見て慌てて受話器を取った。恐らく、電話の主は―――
「もしもし」
『中尉、何かあったのか?もう勤務時間だが…君が遅刻だなんて珍しい』
やはりそうだ。上官であり恋人でもあるロイ・マスタングであった。
「すみません、私としたことが寝過ごしてしまいました」
『具合が悪いんじゃないのか?いつもと感じが違うぞ』
「大丈夫です。すぐに行きますから」
ハヤテ号のご飯だけを用意して、バタバタと出ていく。
その頃、勤務先の東方司令部では…
「中尉が遅刻だなんて本当に珍しいッスね」
「僕初めて見る気がします」
「大佐、中尉に何したんですか?」
「私のせいか!!!」
「昨日の夜、ちょっと激しくしすぎたんじゃねッスか?」
「どういう意味だ、ハボック…?」
ロイが怒りかけたその時。
―ガチャ。
「中尉!」
「大丈夫ですか?」
心なしか、顔色が悪いように見える。
「本当に大丈夫か?」
「はい。ご心配お掛けしました」
(大丈夫には見えないが…)
リザが職務につくと、他も各自の仕事についた。今日は中尉にあまり負担を掛けないようにしよう。
何事もなく午前は過ぎていき、そして昼食の時間になった。みんな食堂へと向かうが、ただ一人、リザだけが執務室に残ると言った。
「食欲が無いので、私は遠慮します。構わず食べに行って下さい」
「分かった。ああ、私もすぐに行くから先に行っていてくれ」
「へーい」
みんなには先に行ってもらい、二人きりになった執務室でロイはリザに話し掛ける。
「やはり具合が悪いんだろう、リザ。今日は早退した方が良い」
「本当に大丈夫だから…」
「しかし」
「いいからロイも早く行ってらっしゃい」
ここまでかたくなに拒む時は、もう何を言っても無駄である。ロイは渋々食堂へと向かった。
しばらく歩くと、執務室から物音がした。嫌な予感がして慌てて戻ってみると、リザが倒れていた。
「リザ!!!!!」
顔が青白い。恐らく椅子から立ち上がった時に貧血でも起こしたのだろう。
「リザ!しっかりしろ!」
「大丈夫…」
「これのどこが大丈夫なんだ」
そう言ってロイは、隣の仮眠室にリザを運んだ。しばらく安静にさせて、後で家まで送ろう。
仮眠室に連れられたリザは、すぐに眠りについた。徐々に顔色もよくなり、額に手を当ててみるとかなり熱かった。
(こんな熱で、無理して働いていたのか…)
リザの手を握り、いたわるように、そっと唇にキスをする。そして優しく頭を撫でる。
「早く良くなれよ…」
「結局大佐、来なかったな」
「今頃二人で執務室にいるんだろう」
そう言いながらブレタはドアを開けたが、執務室の中には誰もいない。
「仮眠室のドアが少し開いてますよ、もしかしたらそっちにいるかも」
「お取り込み中だったりしてな」
みんなでこっそり覗くと、ベッドで眠っているリザと、ベッドの横に椅子を置き、リザの手を握りしめ座ったまま寝ているロイの姿があった。
「…しばらくそのままにしててやるか」
その後、リザが先に目覚め、状況に気付き赤面するのであった―――。
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