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GEASS
きみの名をぼくは一万回呼んだ (スザルル)
28歳のスザクが、17歳のルルに会いにゆくよなパラレる。






仮面を外し、マスクを下ろす。
開放感と脱力感で一気に肩の力が抜けていく。
ふらふらとベッドへと向かい、思い切り倒れこむ。

「疲れたぁあ〜〜〜」

誰ともなく呟く。
嘘を吐いて、仮面を被って、生きているのか死んでいるのか分からない状態で……僕は一体いつまでこんなことを続けるんだろう。
……いや、違う。こんな辛いことを彼は、どれだけ苦しみながらやってきたんだろう。
10年前の彼の姿は、未だ脳裏に焼き付いている。
色褪せることなく、瞳を閉じれば―――

「お〜めぇ〜でぇ〜とぉ〜!!!」

「どぅわぁあぁぁぁあ!!!!」

いきなりドアを開け放ち、大声とスキップと共に元上司が現れた。
慣れてはいるが、驚きでベッドから飛び起き転がり落ちた。

「えー何してるの?スザクく〜ん」

「何してるの……ロイドさんこそ何してるんですか」

腰を擦りながらゆっくりと起き上がる。やばいな、もう年かもしれない。
目の前のいかれた科学者は、微塵も年を感じさせないというのに。本当にいくつだ、この人は。

「ロイドさんって、一体今いくつですか?」

「ん〜内緒」

絶対自分でも忘れてるんだ。年齢不詳どころじゃないじゃないか。今度セシルさんに会えたら聞いてみよう。

「……で、何しに来たんですか?」

スーツについた埃を掃う。この衣装も何着目か分からないほど新調した。成長っていうのはある意味恐ろしい。

「ちょっとねぇ〜、新しい発明の試作品を試させてもらおうかと」

相変わらずだ、この人は。ある意味成長してるけど、とても大切なものを何処かに置き忘れてると思う。
僕は大きく肩で息をした。

「どうして僕なんですか?しかも試作品って……」

「だって〜こういうのの実験に使えそうな人って今じゃあんまりいないし。ヴァインベルグ卿とかなら耐えられそうだけど、今中華連邦でしょ?」

そうだ。そういえばジノは中華連邦で、天子様の仮の護衛役を買って出たって話を聞いたな。

「……ちょっと、話聞いてる?スザクくん」

ロイドさんが不機嫌そうに僕の顔を覗き込む。

「聞いてますって。僕を実験台にするんでしょ?」

「うん。そう!……じゃあいってらっしゃい!!」

ロイドさんに一瞬、強く握られた手には、いつの間にか指輪のようなものが嵌められていた。「………えっ!?」

ロイドさんが何かのスイッチを押す。
その気味の悪い笑顔と共にフェードアウト。






「………えっ!?」

ロイドさんがいない。というかココは何処だ……僕の部屋ではないことは確かだけど、何でだか見覚えのある部屋。
無機質な家具類、むしろ生活感の感じられない清潔さ、なのに何でだろう。すごく心があったかい。

「………ッ!!!」

息を呑む音が聞こえた。
急いで振り返ると、背後の扉が開いていて、そこには目を見開きながら立ち尽くしている少年がいた。

「ル、ルルーシュ!!!???」

思わず口をついて出たその名は、この世にいるはずのない人の名。
大好きで、恋しくて、それでも決して会うことの出来ない人の名。

「ルルーシュ、だよね?」

瞳を泳がせながら、未だに部屋の外で立ち尽くす少年にゆっくりと歩み寄る。
嬉しくて僕の胸は高鳴っていたが、ルルーシュは僕が近づくにつれ後ずさって行く。

「僕、だよ……スザっ……」

「な、何なんだお前は!?誰なんだ!!??」

背中が壁に付き、退路を断たれた彼は、僕の言葉を遮りとうとう叫び声をあげた。

「何で俺の名前を知っている!!??どうやってこの部屋に入った!!??」

肩を震わせながらも気丈に叫ぶ彼の姿を見て、いますぐにでも抱きしめたくなった。
何度も廊下の奥を横目で見るのは、ナナリーの心配だろうか。
彼はいつだってそうだった。
警戒心と猜疑心の塊で、心配するのはいつだって妹のことだけ。
思わず笑みが零れる。
だってそれは過去の彼。あの時の彼はそんなことはなかったし。そうしなければ生きてはいけない状態だったから。

「スザクだよ。枢木スザク。多分、今の君よりちょっと大人なんだけど……」

「………、………」

「疑ってるね」

「当たり前だ」

だけど、彼の警戒が少し緩んだのが分かった。

「このくるくる茶髪と緑色の目。君のよく知ってる幼馴染で親友の枢木スザクだと思わない?」

「信じたくはないが、そうかもしれないと思ってしまう自分が嫌だ」

むすりと拗ねる彼の顔を微笑みながら見下ろす。
気付けばこんなにも身長差が開いてしまった。ほんの少し前までは、同じ位置に顔があったのに。

「それにしたって、何だその格好は。随分と偉そうだな。軍のトップにでもなったか?」

ルルーシュの僕を見る視線が、下から上へとゆっくり移動する。

「ま、まぁね……そんなところだよ」

まさか君が着てた服なんだ、とも言えず苦笑する。

「ふーん。かっこいいな、それ」

ふむ。そう呟きながら考え始めるのは彼の癖だ。ただ目と口元が不気味に笑っているのが怖い。

「なっ、なんかさっ!!外、今日は賑やかだね!!」

窓から見える外は、もう夕闇が広がりつつあるというのに、生徒たちと思しき声が絶え間なくクラブハウス内に入ってくる。

「あぁ……学園祭だったんだが……」

彼の顔が少し苦痛に歪む。

「学園祭か……」

「ユフィが、来たんだ」

声が出なかった。驚きと衝撃。
ということは、今日は……彼女が行政特区日本設立を宣言した日。

「つまり今は皇暦……」

「2017年だ」

11年前だ。まだユフィも生きていて、僕らも憎しみ合っていなくて、例え嘘でも幸福に浸ってた頃だ。
ロイドさんの意図なのか、それとも運命の悪戯か。
僕に、やり直せというのか……この狂った歯車を、元に戻せと。

「お兄様ー。何かあったんですか?」

廊下の奥から声が聞こえた。ナナリーだ。

「部屋に入ってろ」

小声で言いながら、彼は僕をドアの向こうへ突き飛ばした。

「あぁ、ココにいるよ。ナナリー」

声のトーンが全然違う。そんなことにやきもきして時もあったっけ。

「お兄様のお声が聞こえた気がして……もしかしてC.C.さんがいらっしゃってたんですか?」

「違うよ。ちょっと机の上の物を落としちゃってね。バタバタしてたんだ」

「あぁ、そうだったんですか。お兄様でもそういうことがあるんですね」

「最近忙しくて、全部ほったらかしにしていたからね。片付け終わったら、お茶を淹れるよ」

「私にも出来ることがあったら良かったんですけど……じゃあ、待ってます」

車椅子の動く音が遠退いていく。
僕は殺していた息を漸く吐き出した。
彼女は意外と勘が鋭い。勘付かれたら厄介だ。

「………そこまで警戒しなくてもいいだろう」

ドアが開き彼が戻って来た。部屋の隅っこで体育座りをしている僕を見るなり、怪訝そうに眉を顰めながら。

「ルルーシュ、女の子が可愛いのなんて今だけだよ」

「何様のつもりだ?偉そうに」

ナナリーに限ってそんなことはないと言いながら、彼は僕の身体を足で軽く蹴った。
今やあのナナリーが毎日世界中を飛び回り、各国代表と肩を並べ、そのうえシュナイゼルを懐柔し、僕を馬車馬の様に扱き使っているだなんて………絶対にこのシスコンは信じない。

「で、お前が未来から来たというのは信じたくないが、納得してやる。何しに来たんだ?何故、何の為に?」

彼は偉そうに踏ん反り返りながら、ベッドに座り足を組んだ。
僕はとりあえず彼の隣に腰を下ろした。

「たまたま。偶然だよ。ロイドさんの発明品の被害者」

「ロイド……?あぁ、お前の上司か」

「そっか。僕話してたんだ」

ルルーシュの顔が一瞬翳る。何か訊こうか訊くまいか考えてる様にも見える。

「どうかした?」

彼の顔を覗き込んで見るも、すぐに視線を逸らされてしまう。
二人の間に少し沈黙が流れ、漸くルルーシュは重い口を開いた。

「………、お前が、あの白兜に乗ってたんだよな?ただの技術部じゃなくて、ナイトメアに……」

「……うん。ごめんね。詳しいことを話すと君に心配かけると思って言えなかった」

でも『特別派遣嚮導技術部』だから強ち嘘ではないんだけど。
ルルーシュはふっと息を吐き、また言葉を紡いだ。
自分よりも幼いことは分かっているが、彼の肩はこんなにも細くか弱かっただろうか。

「今のお前は何処まで知っている?」

「……え?」

声が、膝の上で握りしめられた手が、少し震えている。

「だから……俺のことを何処まで知っている?」

こんなにも彼は弱々しかっただろうか。触れたら折れてしまいそうなほど、儚い存在だったのだろうか。
全然気付けていなかった。
僕はベッドから下りて、彼の前に跪き膝の拳を優しく握った。

「僕は君の秘密を全部知ってる。君が何をしてきたのか。その方法も。そして、何をしようとしているのかも全て」

その結果は―――恐らく言うことはルール違反なのだろう。

「全てを知っていて尚、お前はこうやって俺に接するのか」

訝しがる彼の気持ちも分かる。だけど。

「……僕は僕で。君は君で。色んなことがあったし、時も経ったけど、結局僕の気持ちは変わらず君が好きなんだ」

笑顔で言うと、

「馬鹿ッ!!」

と真っ赤な顔で罵声を浴びせかけられた。
そんな姿も可愛らしくて、立ち上がって頭を数度撫でてやると、拗ねつつも甘んじて受け入れられたので、それが恐らく素直じゃない彼の精一杯の素直さなんだと思う。

「未来のことを聞くのは、やっぱりご法度か?」

「例えば?」

「ナナリーのこととか、これから世界がどうなるのかとか」

自分の妹と世界を同じ天秤で量れる彼に、今更驚いたりはしない。

「うーん。やっぱり言えないかな。言っちゃうと、ほら、楽しみがなくなっちゃうでしょ。色々と」

本当は言ってあげたい。
言って、未来が良くなるものならば。

「近い未来でもダメか?行政特区日本がどうなるかとか?」

『行政特区日本は……どうなりました?』

過去の記憶が蘇る。
不安そうに訊く彼の顔と、期待の篭った彼女の眼差しが重なる。
あぁ、そうだ。あの時僕は―――

「行政特区日本は―――」






思い出せる最後の彼の顔が、困ったような、それでも嬉しいような笑顔であったのは………偶然かな。
あの白い皇帝服を纏った彼の最期の笑顔にそっくりだったんだ。






目を開けると、いつもの自室のベッドの上にいた。

「起きた〜?スザクく〜ん?」

ベッド脇にはコーヒーを啜りながら、新聞を読んでいるロイドさんがいた。

「僕は、どれくらい寝てました?」

「うん?寝てたと言っても、5分くらいだよ」

スザクくんでも気を失っちゃうなら、やっぱり実用化には向かないか〜などと言いながら、彼はキッチンへと歩いていった。

「あの!」

「ん〜?」

「あれは、タイムマシンか何かなんですか!?」

ベッドから下りて、ロイドさんへと駆け寄り尋ねる。
彼は意外と丁寧にコーヒーを入れている最中だった。

「まぁ、そう言っちゃえばそうかな。まだ実験段階だから、もう一度同じ時間を過ごしたって記憶が自分に刻まれるだけだと思うけど………」

「そう、ですか……」

はい、と手渡されたコーヒーを見て、やっぱり未来はそう簡単には変わらないと実感した。

「誰かに会ったの?」

「……ルルーシュに、会いました。まだ高校2年生で。僕もまだユフィの騎士だった頃の」

「懐かしいね」

ロイドさんは本気なのかどうなのか分からない声音でそう言った。

「行政特区日本設立式典の前で、どうなるか訊かれました」

「ふふっ、皮肉だね〜」

ケラケラ笑うロイドさんを嗜める気も起きなかった。

「僕は、また大成功だと嘘を吐いてしまったんです」

『大成功だよ。日本人の皆もすごく喜んでた』

馬鹿なことをした。それが一体彼にどういう影響を与えると思っていたんだろう。

「でもさ、一概に嘘とは言えないんじゃない?」

「……え?」

「それがさ、君とルルーシュ殿下の言うところの《願い》だったんじゃないの?」

『未来を少しでもいいものにしよう。俺たちの力だけではどうにもならないかもしれないけど、たくさんの人の力があるから。誰かが泣いていたら、その涙を拭いてあげる。それでいい。それがいいんだ』

ルルーシュもそう言っていた。

「僕は……彼の言いつけを守れてますかね?」

涙ぐみそうになるのを必死で押さえながら、ロイドさんに問う。

「どうだろね?でも、君がいなかったら出来なかったことってたくさんあると思うよ」

君が君一人で生きれるようになったことが、一番大切なことじゃないかなと、ロイドさんは小さく呟いた。
未来を変えるなんて大仰なことは出来なかったけど、でもやっぱり願いは託したかったんだ。

「君にも届いているかな?ルルーシュ」

青空に向かって、尋ねてみた。
春の始まりを告げる、あたたかい風が吹く午後のことだった。






Title by "ダボスへ"






昔見た本か何かで恋人を交通事故で亡くした彼氏が必死でタイムマシンを作って、恋人が死なないようにするって話を読んだんです。
でも結局何をやってもだめで、何をしても何故か恋人は死んでしまうんです。
それは何故かというと、彼がタイムマシンを作って過去へ行こうとするのは彼女が死んだからであって、彼女が死ななければ彼は過去へ行くこともない訳で、つまり彼がタイムマシンで過去へ来ている時点で彼女の死は決定しているってことなんです。
なんだか切ないですよね。
この話を入れたかったんですけど、そういう話じゃなかったんで止めました。
そもそもこの話が何の話か全く覚えてないんですよね。








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