[携帯モード] [URL送信]

GEASS
黒鍵のとろける訳 (スザルル)
分かりやすくバレンタインネタ。まだ恋人同士じゃないよ。友情以上恋愛未満。
時系列は一期で。






「何見てるの?」

「ふわぁああぁ!!!」

授業には出ずとも、放課後に生徒会室へ顔を出すことはすでに僕の日課となっている。
それは愛しい彼がいるかもという邪な気持ちと、みんなでわいわい騒げる時間が好きという両方から。
それはきっと彼も、恐らく病弱な彼女も一緒で、僕ら三人の生徒会への出席率は、授業出席率より遥かにいい。

「もう、スザクくんかぁ。いるなら先に言ってよ〜」

さりげなく読んでいた雑誌を閉じながら、シャーリーが言った。
手作りチョコレートがどうとか書いてあるのが見えたが、お菓子作りにでも嵌っているのだろうか。

「ごめん、ごめん。で、何見てたの?」

「あ…あぁ……これ?」

すごく言いたくなさそうに、彼女が僕の顔を見るのでそれ以上の追求は止めた。
いい加減空気の読めない男というレッテルをどうにかしなければ。そう思い、さりげなく話題を変える。

「……そういえば、ルルーシュは?」

「あぁ、ルルならさっき帰っちゃった」

「帰った?」

「うん。何か用事があるからって」

僕が非常にがっかりした顔をしたからか、シャーリーがくすりと笑った。

「まぁまぁお二人さんは残念かもしれないけど、こっちとしては好都合!!」

教室のドアが開き、リヴァルと会長が現れた。
いやに機嫌のいい会長と、疲弊し切ったリヴァルの姿が何とも言えない対比となっている。
一体、この時間までどれだけの労働を強いられていたのだろう。

「「……好都合って?」」

思わずシャーリーと言葉がハモってしまった。
会長は僕ら二人の姿を見て、さぞかし嬉しいのだろう、高らかに声を上げた。

「名付けて!!アッシュフォード学園名物、冬だ、2月だ、バレンタインだ!!ドキッ!!チョコレートだらけのルルーシュ争奪戦!!立ち上がれ女子諸君!!キラメけトキメけメモリアル〜!!!どんどんどん、ぱふぱふぱふ〜〜」

テンションの高すぎる自分と、他4人(ニーナもいた)の温度差など微塵も気にもしていない様子だ。それが会長が会長たる所以だろう。

「古き良き伝統を誇るこのアッシュフォード学園において、歴史上彼ほどモテた人物はいただろうか……いや、いたはずがない。だからこそ、私は立ち上がる。か弱い子羊たちの声に耳を傾けずして何が生徒会か。何が生徒会長か。諦めてしまったそこのあなた、長年想い続けているそこのあなた。さぁ、今こそ!!心を込めて作った、真心溢るるチョコレートを片手に、彼への愛をさぁ叫ぼうではないか。求めよ、さらば与えられん!!」

妙に芝居がかった物言いで、会長は一気に捲くし立てた。そして満足いったのか、ふぅと深く息を吐き、声の調子をもとに戻した。

「つまり、好きな人にチョコを直接渡せるタイミングはちゃんと作るから、精一杯楽しもうねって企画」

「あれ?今までの下り……つーかルルーシュは?」

「ただの飾り」

リヴァルの素朴な疑問は一蹴されてしまった。
確かに普段は来ないルルーシュことだ。こういった面倒な企画ごとの時なんて、休まない保証は無い。

「ってことで、スザクくん」

「えっ、僕ですか?」

「そんな嫌そうな顔しないでってば。ただ明日は必ず来るようにってルルちゃんに伝えておいて」

この子のためにも、と会長がシャーリーに視線を移した。
……うん。それは、何となく…理解できるんだけど……

「あの、会長。一ついいですか?」

おずおずと右手を挙げ、会長の顔を覗う。

「ふむ。何だね、スザクくん」

「さっきから気になってたんですけど、明日って何か特別な日なんですか?」

きょとんとした顔で、みんなに見つめられる(パソコンに向かいっきりだったニーナもだ)

「ちょっと、ちょっと、スザクくぅ〜ん。何そのボケ?ジャパニーズジョーク?笑えないなぁ。バレンタインでしょ。バレンタイン!!」

一瞬の沈黙を破り、妙にテンションを上げたリヴァルに言われた。そう言われましても……

「で、バレンタイン………………って何?」

あれ、なんだ。このやってしまった感。
空気が凍ってるのをひしひし感じるんですけど……

「「「え〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」」」

ラジオだったら放送事故になるだろう間の後、漸く正気を取り戻した皆が、一斉に驚きの声を上げた。

「えっ、ちょっ、待て待て。スザク、お前バレンタイン知らないってマジ?」

「どうやったらバレンタインを避けて今まで生きて来れるのかしら……」

逆に心配されてしまった。はっきり言って居た堪れない。
僕はどうにか脳内をフル稼働させて、引き出しを探した。

「あっ、あれかなバレンタインって。チョコをくれないとイタズラするぞとか言われて、でもチョコを渡したって結局イタズラされちゃうっていう……」

「それは何か?嫌がらせのたっぷり篭ったハロウィンか?」

「あっ、ごめん。ほら、僕小さい頃からずっと軍にいたからそういう変なことしか教えてもらってないんだよね」

「俺はその話を聞いて、すごくブリタニア軍の将来が不安になったよ」

お前も苦労してるんだな、とリヴァルに肩を叩かれる。
どうにも上手くいかない。僕は相変わらず空気が読めていないらしい。

「こんにちは」

その時ゆっくりと扉の開く音がして、カレンが現れた。
シャーリーがあからさまに安心したのを見て、会長が微笑んでいた。
きっとカレンとルルーシュの関係がまだ不安なのだろう。

「おはよう、カレン……ってそんな時間でもないか」

「どうしたのこんな時間に?」

「ちょっと忘れ物しちゃって」

そう言って彼女は机の上を探すが、明日の企画の書類を見つけてしまい顔を引き攣らせた。

「……何ですか?コレ」

「あ〜それね。明日の企画の書類」

ふ〜ん…とさして興味も無さそうにカレンはそれを流し読んだ。

「ね、ねぇ!!カレンはさ、明日誰にあげるの!!??」

意を決してシャーリーが訊いた。
バレンタインの何たるかはよく分からないけど、きっと彼女にとってとても大切なことなんだろう。

「へ?何を?」

「チョコよ。誰に渡すの!?もしかしてルルッ!!??」

明らかに暴走しているシャーリーと、不審げな表情のカレン。
あれ、この対比何処かで……

「ねぇ、もしかしてカレンもバレンタインを知らない?」

一応可能性の一つとして尋ねてみた。
するときょとんとしながら彼女は言った。

「何、バレンタインって」

「うわぁあぁあぁ!!!ここにも非常識人!!!!」

「すごいわよこれはある意味大発見。天然記念物ものよ。今日日の高校生でこんなにも清純な輩が残っていたなんて!!」

勝手に盛り上がる会長とリヴァル。
頭にハテナマークを乗せ困惑するカレンと、勝ち誇った笑顔のシャーリー。
何ていうのこういうの……異文化交流を見ているようだ。
まるで僕らが前時代の遺物のようじゃないか。

「まぁ、カレンはお嬢様だし。そういうの知らなくても許せるな」

箱入り娘ってのは色々な意味でお得なものということを学んだ。

「……わ、わかったかもしれないわ。バレンタインってあれでしょ?赤い服着たおじさんが家に勝手に入ってきて、いい子の靴下にだけチョコを置いていってくれるっていう……」

「人外なんてもんじゃないって。むしろ規格外だよ、お前ら」






「………………で、今に至ると」

「さすが、現状把握はお手の物」

板チョコを溶かしながら僕は言った。
後ろから大きな溜息が聞こえる。けど聞こえないふりをする。

「お前がバレンタインを知らなかったのも驚きだが、何故、うちの台所でチョコレート作りに励んでいるんだ。なぁ、スザク?」

材料やら道具が散乱しているテーブルを片付けながらルルーシュが言った。
きっと、じっとしていられない性質なんだな、うん。可哀相な苦労人。

「一、君に明日学校に行くよう伝えろって会長命令が下されたから。二、僕は携帯とか持ってないから君に直接伝えるしかない。だから君をここで待ってなきゃいけなかったから。三、明日のバレンタインに備えて手作りチョコを用意しないといけないけど、作り方が分からなかったからナナリーにご教授願うため。以上」

彼が夜遅くまでふらふら出歩いていることを咎めなかったのが、せめてもの優しさだと思ってほしい。

「ねぇ、ナナリー。いい感じに溶けたよ」

「じゃあ、次はクッキーの上に薄く塗っていきましょうか……あっ、でもまだクッキーは焼き上がっていませんね……」

エプロン姿のナナリーが嬉しそうに話す。
そんな可愛いナナリーの姿を見たからか、ルルーシュはもう僕を責めなかった。

「チョコレートのクッキーを作るのかい?ナナリー」

「えぇ。そのつもりだったんですけど……クッキーがまだ焼けなくて」

オーブンを横目で見るが、まだまだ時間はかかりそうだ。

「……残念だけど、ナナリーはもう寝る時間だよ。後のことは俺がやるから、ナナリーはもう寝なさい」

「で、でも折角スザクさんと、お兄様のためにバレンタインの贈り物を作ろうって言ってたのに……」

ナナリーが俯く。
毎年ルルーシュと一緒にチョコ作りをするのが、伝統だったらしい。でも、そこは微妙な女心が絡む訳で。やっぱり大切な相手には、自分が一生懸命作った贈り物を渡したいのだそうだ。
ルルーシュは全てを察したのか、柔らかく微笑んで言った。

「………分かったよ。じゃあ、俺は極力手は出さない。後はスザクに任せよう。それにお前たちのクッキーを一番最初に貰うって約束する。だから今日はもう寝よう?疲れたろう?」

ナナリーは嬉しそうに笑いながら、頷いた。
僕はキッチンから出て行く兄妹の後姿を、ゆっくりと見送った。






戻ってきたルルーシュは、何故かエプロンを身に纏っていた。

「どうしたの?それ」

「………やっぱり、手作りの方が嬉しいかなって思ってさ」

そう言ったルルーシュは後ろからこっそり、ケーキ屋の紙袋を出した。

「ルルーシュ……君……」

「今年は作る時間がないと思ったんだよ。俺だって、お前たち二人に、ちゃんと……」

高そうな袋だ。
もちろんこちらも美味しいだろうし、ルルーシュがわざわざ僕らのために買ってくれたというのも嬉しい。
でも一番嬉しいのは、僕らの幸せを想ってくれたことだ。

「嬉しいよ、ルルーシュ」

「あぁ、飛びっきり美味しいチョコを食わせてやる」

そう言って、ルルーシュは腕を捲くった。
その瞬間に、壁に掛けられた時計が0時を告げた。
バレンタインだ。

(お兄様は、とてもお優しいんです。毎年毎年すごくたくさんのチョコを頂くんですけど、ちゃんと全部食べてるんですよ。その人が心を込めてくれたものだからって)

ナナリーの言葉を思い出す。
少し、胸がざわついた。
みんなのを食べてあげるのは、やっぱりルルーシュの優しさからだと思う。
だからこそ、大勢いるの中の一人になるのは嫌だと思う。それは傲慢なのだろうけど。

「ねぇ、ルルーシュ」

「なんだ?」

レシピを捲るルルーシュの細く白い指に、上からそっと手を添える。

「へっ?」

「残さずに、ちゃんとみんなのチョコを食べてあげてるって本当?」

「あぁ、本当だよ。元々甘いものは嫌いではないし、頭を使うと糖分が欲しくなるからちょうどいい」

きゅっと、手を握るとルルーシュが漸くこちらを見た。

「どうした、スザク?」

「僕って、我儘かな?」

「は?」

ルルーシュの目が点になる。

「だって、みんなの中の一人になんてなりたくないし、なんかモヤモヤするし、君からチョコ貰えるだけで嬉しいはずなのに……」

溜息を吐き、ルルーシュの肩に頭を乗せる。
馬鹿みたいに、焦ってたのは自覚している。
シャーリーが今晩張り切るだろうことは目に見えていたし、会長もみんなに配るって言ってたし、ニーナはお菓子作りは調合と似てるから好きとか言ってたし(カレンはまるで興味が無さそうだったけど)
言葉や態度に示さないと分かり合えないなんて間柄でもないとは思ってきたけど、やっぱり、あげられるものは全部あげたいって思う。元々行事とか疎いし、そんなに頻繁に会えるわけじゃないから、折角だからって思ったのに。

「相変わらず脳内まで筋肉か?馬鹿が」

くるりと身体を回し、ルルーシュは正面から僕の頭を抱いてくれた。

「お前がみんなの中の一人だったことなんて、一度だってないよ。お前みたいな奴、規格外で何処にも納まりきらない。特別なんだ」

頭をゆっくり撫でてくれるルルーシュの手が、あたたかくてドキリとした。

「ルルーシュ……」

「ところでスザク。何だか焦げ臭くないか?」

「…………えっ?」

振り返ると、オーブンから不穏な臭いが……

「あぁぁあぁぁぁぁぁあ!!!!!!!」

慌てて駆け寄り扉を開けると、少し色が黒くなったクッキーが。

「あぁあぁぁぁ……どうしよう、ルルーシュ」

涙目で振り返ると、ルルーシュは案の定笑っていた。

「大丈夫。ちゃんと食べてやるから。そんな個性溢れるギフトを逃すわけにはいかないだろう?」

何だかその馬鹿にした態度が悔しくて、僕はテーブル脇に立っているルルーシュの元へ歩み寄った。

「へっ?なんだ、スザク?」

必死で笑いを堪えている彼に口付けをした。
唇を離すと、彼は顔を青くしたり赤くしたりして何だか可愛かったから、すこし勝ち誇った笑みを僕は浮かべた。

「ほら、僕をもらってってやつ」

「はぁ!?」

「えっ、会長がバレンタインのお決まりだって言ってたけど………違うの?」

「何処の世界の決まりだ、それは」

頭を抱える彼を見て、無性に嬉しくなった。
例えば来年も再来年も、君とずっと一緒に、こうやって―――






Title by "F'"

[*前へ][次へ#]

46/55ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!