GEASS
ロングランライフの憂鬱 (スザルル)
相変わらずのルル→→→←スザクっぷり。
パラレルですね、恐らく。
家に帰るつもりが、足は逆方向を向いていた。
「どうしたの?その顔」
勝手知ったる人の家とはよく言ったものだ。
僕は親友の家に黙って入り込み、ノックもせずに彼の部屋のドアを開けた。
彼はベッドの上に腰掛け、壁を背もたれ代わりにして雑誌を読んでいた。
しかし暗がりでも、夜目が利く僕には彼の左頬に付いている傷がよく見えた。
「お前にはプライバシーを守る気なんてさらさらないようだな」
「だってうるさくするとナナリーが起きちゃうじゃないか」
親友は大きく肩を揺らし、溜息を吐いた。
呆れてものも言えないと、態度で示されているが、僕だって言いたいことは同じだ。
「また誰かと寝てたの?」
聞くと、親友は顔を逸らした。
彼は最近になって不純な異性(もしくは同姓)交遊をし始めるようになった。
何が原因かと言うと、恐らく僕にも一因はあるのだろうが、聞いていない。むしろ聞きたくもないし、知りたくもない。
「男?女?」
「せんぱい。おとこ」
彼は読んでいた雑誌を閉じ、ドアの前で立ち続けてる僕の方へ初めて顔を向けた。
右頬にも傷が付いているのが見えた。
この分だと身体の他の部分にも傷が付いていそうだ。
「きもちよかったぞ?」
扇情的な笑みを浮かべ、わざと舌っ足らずで彼は言葉を発した。
「そういうこと」をした後の彼は、いつも大体こんな感じだ。
あの時間に、というよりもあの時間に溺れていた自分に酔っている。
基本的に相手よりも自分が好きなんだろうな、と僕が勘付いたのはもう随分前の話だ。ご愁傷様。
「いつからそんなマゾっ気溢れる人間になったのさ」
「俺はより強い快感を求めているだけだ」
暴力に快感を見出している辺りで、通常の人間ではないような気もする。
しかし軍務に終われ、日々鍛錬を積み重ねている自分が言えた義理ではないのかもしれない。
「そんなことして、何がしたいの?」
僕はようやく歩を進め、ルルーシュの横に座りそっと頬に触れた。
まだ痛むのか、彼の眉毛がピクリと動いた。
「また説教か?」
紫の鋭い眼光に射抜かれる。
「もうそんなことは止めろ。それはもう聞き飽きた」
頬に触れていた僕の手を払いのけ、彼はまるで僕から逃げるようにベッドから降りた。
「ちょ、ルルーシュ……」
「俺に構うな!!」
慌てて呼び止めた僕に、彼はそう一喝した。
彼を掴もうとした腕は、所在無さ気に宙を舞い、僕はベッドの上で中途半端な体勢のまま固まった。
暫く二人の間を沈黙が包んだ。
「なぁ、スザク」
最初に口火を切ったのは、ルルーシュだった。
何かと顔を上げると、ルルーシュは徐にワイシャツを脱ぎ始めていた。
「えっ、ちょっ、なっ……!!」
たかが男の裸の筈なのに、思いがけず動揺してしまった自分が恨めしかった。
月明かりに照らされ、色白のルルーシュの上半身はとても妖艶に浮かび上がった。
そのあまりの美しさのせいか、散らばる傷跡や痣が非常に生々しかった。
「……気持ちがいいわけないだろう」
ルルーシュが後ろを向いて、そう言った。
背中にも痕はたくさん残っていた。
泣いているのかもしれない。彼の心が。
見せられる涙を、流すことの出来ない人だから。
「止めろと言うのなら、お前が抱いてくれれば良いだけの話だ」
この問答も何度繰り返したことか。
彼は絶対に口に出しては言わないが、彼がこんなことを始めたのは、僕が彼の誘いを断り続けているからだ。
初めて断ったあの日から、彼は僕への見せしめのように他の誰かに抱かれるようになった。
この様子からして、最近暴力的な人をわざと選ぶようになったのも、僕への見せしめの一種だったのかもしれない。
「僕は君を抱いたりしない」
特に僕がセックス嫌いの潔癖症とかいう訳ではない。
彼のことも好きだ。
でもそれは友達として。
例え彼が僕のことを性的な対象として見ていようと、それぐらいは許せるぐらい僕らの友情は深い。
今更縁を切る気もなく、今に至るのだが、それがどうも良くなかったようだ。
「お前が俺を抱いてくれさえすれば、俺はもう誰とも寝ない。暴力的なセックスもしない。お互いの利害も一致するし、ちょうどいいじゃないか」
頭が良いのに、彼は間違っている。
人は損得だけで生きているわけではない。
心が関与するから、思った通りには動かないのに。
「僕が君とセックスすることはないよ。今までもこれからも」
僕は優しく、分からず屋の彼に諭した。
彼は面白くなさそうに唇を突き出し、見るからに拗ねた。
しかし僕にそんな手は通じないと分かっているからか、すぐに床のワイシャツを拾い上げ、肩に羽織った。
「お前不感症なのか?」
「失礼なこと言わないで」
どれだけ自分の身体に自身があるのだろうこの男は。
僕は呆れて大きく溜息を吐いた。
「思うんだが……」
「今度は何?」
「世界に、俺の敵はお前しかいないと思う」
どういう意味だか分からなかった。
少なくとも彼は、「愛する妹以外世界中の人類はみんな敵」みたいな顔をして生きていたのに。
「どうしてさ」
「俺に落ちないのはお前だけだから」
納得出来そうで、出来ない。
それは恐らく彼の自信に満ち溢れた物言いのせいだ。
「なんだかんだ言って、皇帝もシュナイゼルもクロヴィスもユフィも俺のことが好きだ。ユフィを押さえれば、自然とコーネリアも俺の手に落ちる。これで皇族たちは俺が牛耳ったも同じ。貴族にはジノとか、ジェレミアで顔が利く。あと生徒会メンバーだって俺が本気を出せばすぐに落ちるし、それと同様に学校も、引いては日本人だって誑し込めるな、俺なら」
……どうしようか。容易に想像つく自分が嫌だ。
彼ならやりかねない。
全人類を跪かせ、世界を牛耳り、玉座に悠々と座っている彼の姿が。
ある意味一番平和的な世界征服なのかもしれないが、人として色々と間違っている(世界征服をしようとしている時点で人として多少なりとも間違っているような気はするが)
「つまり、俺の敵は世界でお前、唯一人」
彼の右手人差し指がビシリと僕の顔を指差す。
敵と言われて、初めて何かがストンと落ちた。
納得、とはまた違うが、あぁ僕は出会うべくして彼に出会ってしまったのだと確信した。
僕たちは友達で、この関係で、きっとお互い傍にい続けないといけないのだろう。
「いくら敵でもさ……」
僕はそう言って、漸くベッドから降り、彼へと歩み寄った。
「君が誰かに傷付けられるのなんて、見たくない」
もう一度、そっと頬に触れる。
今度は痛がらなかった。
紫の瞳が、訝しげにこちらを見上げる。
「だから、僕が殺すまで死んじゃだめ」
一番言いたかったのは、生きてほしいってことなんだけど、彼が望むのはきっとこっちだから。
本当はもっと自分を大事にしてほしかっただけなんだ。
もっと自分らしく生きてほしいだけなんだ。
でもきっと僕らの距離は、スタンスは、恐らくこれで間違ってはいないから―――
「望むところだ」
最大で最愛の僕の敵が、不敵に微笑んだ。
Title by "F'"
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