[携帯モード] [URL送信]

GEASS
こんばんは、二度めまして。 (スザルル)
ルルとスザクで他人ごっこ。






世界を相手に大芝居を打つと決めて、そろそろ一ヶ月が経つ。
僕に出来ることは、とりあえず彼の決めたことに従うこと。ゆっくりと息をしながら、生きること。
隠し事をするのも、思索を練るのも結局向いてはいなかったのだ。今になってそう思う。
偉くなると出来ることが増えるようで、その実そうでもなかった。
きっと彼は分かってると思う。
分かっているのだろうけど、彼はあの玉座を奪うのだ。
誰よりも先に、狡猾に。
すでに幕は上がったと、Cの世界で彼は言った。
幕が下りる時は、彼の物語の終わる時。
彼の名は永遠に歴史に刻まれるだろうし、きっと人々も忘れないだろう。
しかし、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという、一人の少年の人生は―――

「すみませーん。ボール取ってくださーい」

横になっていた身体をゆっくりと起こす。
見れば僕の寝ていた丘の麓の草原で、地元の子だろうか幾人かの少年が遊んでいた。
生まれ育った国と、さして変わらない光景を微笑ましく感じる。

「いくよー!!」

転がっていたカラーボールを掴み、彼らに向かって投げる。
一人の少年がそれを受け止めた。

「ナイスキャッチ!!」

感謝の言葉もそこそこに、彼らは遊びへと戻っていった。
平和とは、こういうことをいうのだと思った。
ただなんでもない、あの少年たちが笑っていた。その事実が幸せなことなんだ。

「ね、そう思わない?ルルーシュ」

いつの間に登って来たのか知らないが、背後に佇むルルーシュに声を掛けた。
気配を消しているつもりだろうが、軍人を嘗めてもらっては困る。

「……随分といいお兄さんぶっていたようだな」

「いいお兄さんじゃないか、僕は」

鼻で笑われた。
でも、彼はとても優しい表情をしていた。

「悪巧みの準備は順調?」

「あぁ、だから休憩だ」

そう言って、彼は地面に座り僕の背中に寄りかかった。
少しの体重と、彼の匂いを感じる。
これもきっと平和なこと。

「僕さ、実はあんまり友達と遊んだって記憶無いんだよね」

背中合わせのルルーシュに語りかける。
顔が見えないから表情も覗えないが、逆にその方が都合がいい。
元々腹の探り合いをしていた期間の方が、ずっと長いんだ。
聞こえるのはお互いの心音。充分だ。

「だからさ、実は結構羨ましかったりして。さっきの子たち」

何人もで集まって、騒ぎながら遊ぶ。
普通の子ならそんな当たり前なことが、僕にとってはとても物珍しいことで、僕が始めてそれを体験したのは高校に入ってからだった。

「羨ましいとは思わないが、確かに、あれが優しい世界のことなんだろうなと思う」

それを創るために一旦、今までの世界をぶち壊す。
少し声のトーンを落として、ルルーシュは言った。
もしかしたら、する必要のないことなのかもしれない。
結局のところ、これは僕らの自己満足の充足に過ぎない。
自分たちの罪と罰を、世界を巻き込んで贖う。
つまりただどうしようもなく、僕らに見ないふりが出来なくなった。それだけだ。

「もしさ、僕と君が全く違う出逢い方をしていたら、世界は違っていたと思わない?」

「俺が敵国から送られてきた人質としての皇子ではなく、お前が相手国の首相の息子ではなかったらということか?」

「うん。君がただの偉そうでプライドの高い男の子で、僕がただの何処にでもいるガキ大将だったらってこと」

背中から来る圧力に、少し重みが増した。
うっと呻くと、ふっと鼻で笑われた。

「こんにちは、はじめまして。枢木スザクです」

出来るだけゆっくりと、その名を噛み締める様に言ってみた。

「お前、昔はそんな奴じゃなかったろ?」

「いいから。続けて続けて」

「………こんにちは、はじめまして。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」

納得がいかないのか、僕のペースに嵌るのが嫌なのか、拗ねた様な声で彼は言った。
お互いに、真逆を向いての自己紹介。なんだか僕ららしいじゃないか。

「ご趣味は?」

「お茶とお花を少々」

「嘘吐かないでよ」

「だから嘘吐くのが趣味なんだって」

けらけらと笑う彼の声。
なんだかんだ言って、人を困らせることも好きなんだ。意外と子供っぽいところがある。それが彼という人。

「枢木さんのご趣味は?」

「これといった趣味はないけど、身体を動かすことは好きかな」

「それは残念。気が合いませんねー」

「話を続けようよ………うーん。好きなタイプとか?」

「ふわふわで、くるくるで、可愛い女の子」

「それは奇遇。僕も真っ直ぐな自分の信念を持った可愛い女の子が好きだな」

空を鳥の群れが飛んでいく。
想いを馳せる相手は、誰だろうか。
僕たちは失いすぎた。

「好きなものはプリン!嫌いなものは偉そうに既得権益にしがみ付いている奴!将来の夢は世界を騙す大嘘吐きになること!」

大声でそう言い放ち、ルルーシュは立ち上がった。

「なぁ、スザク。あまり意味がない気がしてきた」

こちらを向くルルーシュの顔を見上げる。
誰の顔でもない「ルルーシュ」の顔をしていた。

「そうだね、僕らはお互いに知りすぎてた」

いいところも、悪いところも、罪も、生き方も。

「今更過去からやり直すなんて、ナンセンスだったな」

「そうだね、僕らはもっと話せばよかったんだ」

こんなことになる前に。
きっと、出会った時から。
だって初めての友達だったんだ。
大事にすることと、嘘を吐いて護るのは、似ているようで違う。歪みは必ず生まれてくる。

「………結局、俺たちの幸せだった時間は、俺たちで作った虚構の空間だったからな」

真実を偽ったからこそ、ぬるま湯の幸福に浸かることができた。
それでも幸せだったのだけれど。

「幸せって、案外簡単に手に入ると思うんだけど」

空を見上げていたルルーシュが、視線を僕に向けた。

「例えば、今、ルルーシュはちょっと幸せじゃなかった?あぁ、空がきれいだなぁなんて」

ルルーシュは、また柔らかく微笑んだ。

「………そうかもな」

幸せなんて、実は無数に転がってるのかもしれない。それに気が付かないだけで。
例えばそれは、空の青さ。花の匂い。風のあたたかさ。食事の香り。誰かの声。ぬくもり。誰かがただ隣にいてくれること。手をつないでくれること。
幸せは手を伸ばせば掴める距離にあるのに、何故かいつも届かない。

「もし君がゼロじゃなかったら、僕は、君に言えたことがあったのに」

ただ一言。
もう言ってはならないその言葉。

「そうだな、俺も、もしお前がユフィの騎士のスザクじゃなかったら、言えたことがあったな」

視線が交差する。
二人の間を、風が吹き抜ける。
物語の終焉に吹く風。

「………戻ろう」

どちらともなく呟き、丘を下り、魔女の元へと帰ることにした。
僕ら二人という暇つぶしを無くし、彼女は一体どう過ごしていたのだろう。
大丈夫。きっと積み重なったダンボール箱を片付けるのは、彼の役目だ。
ちょっと先を歩く彼の背中を、軽く叩く。

「どうも、二度めまして。これからもよろしくしてくれる?」

彼は困ったように、目を細め笑った。
あの魔女に言ったらどんな顔をするだろう。
もしかしたら、彼女だって少しは微笑んでくれるんじゃないかな。






Title by "9円ラフォーレ"

[*前へ][次へ#]

44/55ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!