闇夜の国 11 「天国結社では現在、来世の幸せを優先的に取りつけておりまして」 彼は妙に営業めいた口調で言った。 「来世での出会いをお約束致します」 「そんなの嘘だよ」 僕は即答した。 「もちろん、これにはそれなりの見返りがあるわけでして……」 彼は絵に描いたような笑みを浮かべた。 「何故、魂が彷徨うかといいますと、魂が来世を受け入れようとしないからです。ですから、明るい来世を提供することで、魂の絶対数を維持することが可能なのです」 「絶対数?」 「はい。これが足らなくなると、世の中のバランスが崩れます」 僕は少し考えて、 「でも、来世で本当に会えるかなんて、分からないじゃないか」 と、もっともであろう反論をした。 「そうですか? 来世での出会いを誓って共に命を絶つ、なんてことは、この国でも以前から行われていたようですが……」 彼は僕の視線に気がつくと、ごほん、と咳払いをした。 「とりあえずは、信じることが大切ですよ」 そう言って、彼はにこやかに微笑んだ。 ――生まれ変わっても巡り会いたい人。 「シイナさんですね?」 彼は言った。 「了解致しました」 クリップボードの紙に、彼は何かを書きつけ、ボールペンを胸元のポケットにしまった。僕は固まっていた。 「どうして……」 シイナの名前を知っている? 僕の問いには答えず、彼はボードを小脇に抱えた。 「ご安心下さい。我々はこの道のエキスパート、いわゆる――」 そして、乾いた笑みを浮かべた。 「死神ですから」 [*prev][next#] [戻る] |