違う呼び名 11
「タカちゃん、屋上は不良×平凡には欠かせないラブラブスポットなのよ。是非ともリサーチなさい」
獲物を見つけた姉貴はいつも以上にしつこかった。
「順当に考えたら屋上の鍵なんか開いてないのではないかな」
俺がそう言うと、芹沢が俺の顔をちらりと見た。
「いや、前にちょっと行ってみたら開いてた。ただ、柄の悪いのがわんさといたから近づかない方がいいぞ。間違いなく絡まれる」
「ですって、タカちゃん。んもー、ダーリンの愛を感じちゃうわね!」
……芹沢の親切心からの発言も、姉貴にかかるとこうなるのだ。
「えっ、ダーリンなの? 芹沢君がダーリンなの? キャッ、ど、どうしましょう。パパに相談しなくちゃ!」
「落ち着け、母。姉貴はとりあえず口を閉じてはくれまいか」
「タカちゃん、お風呂上がりにパパとママ用に買っておいたペアのパジャマをお出しした方が良いのかしらっ」
「用意しなくていい。彼はこれから用事があって帰らねばならんのだ」
母の脳内が新婚さん(の姑)モードになりつつある。ペアのパジャマって、この間買ってたカラフルなハートマークが全身に散りばめられているアレか。
俺は何を着せられようと今さらなのでどうでもいいのだが、全身ハートマークの芹沢は……うん、ちょっと想像しただけで面白いじゃないか。
芹沢はうまく現実から逃避する術を見つけたようで、ぼんやりとどこかを見つめながら咀嚼していた。
脇腹を小突いて時計を指し示すと、芹沢は「ヤベェ!」と覚醒して立ち上がった。
「間に合うか」
「あー、本屋にバイク置いてあっから大丈夫。シャワー浴びる時間が微妙だな」
ごっそさんシタ、と礼を言った芹沢は大慌てで身支度を整える。
「これ、よければ持って行きたまえ」
俺は玄関先で靴を履いている芹沢にビニール袋を差し出す。本が2冊入っていた。
「ちょうど今、日本史でやってる辺りが舞台の漫画だ。これ読んおけば、唐草先生の話もわりと暇つぶしになると思われる」
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