違う呼び名 12
「……お前、漫画は人に貸さないんじゃなかったか」
芹沢にそう言われ、俺は頷きながら芹沢の手に本を押しつけた。
「キミならばいいのだ。貸さない理由、覚えているか。キミは本を汚さないし、キモオータとも呼ばないし。もう友達だからな」
「ほー、尊志ちゃんって呼んでもか」
「……できれば、タカちゃんと尊志ちゃん以外にしてくれ」
俺が困り顔でそう言うと、芹沢は靴ひもを結びながら、
「じゃあ……清で」
と呟いた。
「は、キヨ??」
「お前、清っぽいから」
「あ、『坊ちゃん』の清か?! 俺と婆さんのどこに共通点があると言うのだっ」
吾輩は太田尊志である。
あだ名は清。
――どう考えてもおかしいだろう!
「お節介なところとか、しゃべり方が古くさいところとかな。ギャハハ」
俺は正直ムッとした。が、芹沢が楽しそうに笑っているのでそれ以上は何も言わなかった。
「では、キミのことは坊ちゃんと呼ぶことにしようか」
「やめろ。恥ずかしい」
「今、猛烈にキミの脳天を叩き割りたい衝動に駆られたのだが」
「おう、やれるもんならやってみろ。返り討ちにしてやる」
「……やめておこう。命が惜しい」
俺の言葉に笑いながらも、芹沢はプリントと飯の礼を言って帰っていった。
「自分だけの呼び名! 溺愛執着系のフラグね! もう一押しよ、タカちゃん!」
振り向くとドアの影から姉貴がギラギラした目で見守っていた。
おまけにその後、夜遅くに帰ってきた父が俺の自室に入ってきて、
「尊志、恋愛は自由だッ! パパもママもお前たちの味方だぁッ!」
と、涙ながらに抱きついてきた。扉のところでは母がウンウンと頷き、その後ろで姉貴がニヤリと笑っていた。
やばいぞ、芹沢。外堀から確実に埋められているッ?!
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