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違うアイツ 9
「……皆慈、あんた強いんだってね」

 事務所のソファで寝泊まりしている俺の元に、母親がやってきてそう言った。

 所員は既に帰宅した後で、街灯の青い明かりが差し込む事務所の中に、やけに露出の多い服で現れた母親はやたら淫靡に見えた。

「強くねぇ。弱ぇよ俺は……」

 そう呟いた。

「謙虚なのねぇ。でも、事務所の子たちがびっくりしてたわよ。私も鼻が高いわ」

 母親はくすくすと笑いながら、俺の寝そべるソファの隙間に腰を下ろした。

「……私のこと、許して……なんて虫が良すぎるわよね。あんたを生んだ時、私、まだ18だった。子供だった……」

 彼女は、ぽつりぽつりと話し始めた。

「私……あんたを生んだ瞬間に後悔したわ。あんたと一緒に死のうと思った。でもね、通りがかった住職が助けてくれたの。その人が、あんたに名前をつけたわ」

「……みんなを、イツクシム」

「そう。私には逆さまになっても出てこない言葉ね」

 母親は自嘲するように笑った。

「その人の言葉を信じて、いつか幸せになれると思った。でも、なれなかった。だから、あんたを捨てて結婚さえできたら幸せになれると思ったの」

 そう言って、ため息をついた。

「でも、まだ幸せになれない。どうして?」

「知るかよ」

「冷たい」

 母親は、俺のあごを細い指でそっとなぞった。

「……ほんとに、嫌になるくらいあいつに似てる。顔が好みだったの」

 そのまま、指が俺の首筋を伝う。

「でも、あいつよりもっと強い男がスキ……」

 襟元から冷たい手が差し入れられた。俺は身体を強ばらせた。

「ねぇ……あの日、私が何も言わなかったら……そのまま私を抱いてくれたのよね?」


 欲を含んだ目で俺を見た母親が唇を重ねた。


 俺は洗面所に駆け込んで吐いた。

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あきゅろす。
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