違うアイツ 8
ある日、俺と同郷の出だという女がしなだれかかってきた。
たまにこんな風に女に言い寄られた。
俺は親父の若い頃にそっくりだと言われていたから、親父もさぞかしモテたのかもしれない。
「言っておくけど、金はねーよ」
それでも構わないという女とは、ホテルで一晩過ごす時もあった。
ぶっちゃけた話、金が浮くからだ。
真面目なアイツに知られたら怒られそうだが。
その女も「あなた、私の好みど真ん中だから今夜は仕事抜きでいいわ」と言って俺の腕に胸を押し当てた。
俺に女の年などわかるはずもなかったけれど、その女は結構年上な気がした。
ホテルでシャワーを浴びた女が、俺を押し倒して唇を舐めながら、ふと尋ねてきた。
「ねぇ、あなたいくつ? もしかして結構若い?」
「今日って何日」
「10日よ。4月10日」
「……一週間前に17になった」
「え、やだ。未成年なの? 一週間前って」
女は俺から身体を離して目をさまよわせた。
「まさかと思うけれど、皆慈、じゃないわよね?」
ほぼ十年ぶりに会う母親だった。
母親は「色男になったわねぇ」とくすくす笑いながら、俺をどこかの事務所に連れて行った。
結婚した男が金融業を営んでいて、人手不足なのだと言った。
母親は十八で俺を生んだから今は三十代半ばのはずだけれど、そんな自分の妻に身体を売らせるような男だから、当然ろくな人間じゃない。
けれど、初めて母親に頼られた俺は、どうしても断り切れなかった。
俺はそれから男に言われるまま、借金の取り立てに回るようになった。
逆上して襲いかかって来るヤツもいたけれど、軽く相手をしてやると大人しく財布を差し出してきた。半分だけ金を取った。
そんな暮らしをしているうちに、さらにふた月ほど経った。
もう誰も傷つけたくなかったのに。
どうしてこんなコトになったんだろう……。
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