違うアイツ 7 次の日、俺は本屋の店員の前でしどろもどろになりつつ説明をしていた。 「確か昔のお札になった人で……猫の話とか書いてて」 「夏目漱石の、吾輩は猫である?」 「それ! で、でも、主人公が先生で」 「坊ちゃん?」 「坊ちゃん!!」 有名人だったらしい。 さすが、お札になるだけのコトはある。 俺は手に入れた文庫本をそっと撫でて、ページを開く。 その瞬間に頭が痛くなった。 文字がぎっしりだ。 とりあえず俺は、目的の人物の名前を探した。 あった。 ――清。 そうだ、清だ! よかった……。 ようやく胸の隙間にはまるピースを見つけて、俺はホッとした。 その晩、俺は本を胸に抱き、毛布にくるまって寝た。 俺はあの日からネカフェを転々とする生活を送っていた。 日替わりでバイトをし、ある程度金がたまると違う町へ……。 知らない町に行くと、どうしようもなく安心した。 俺には誰もわからない。 そして、誰も俺を知らない。 ――これ以上誰も傷つけないで済む。 [*prev][next#] [戻る] |