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その胸には今、どんな想いが宿るのか。きっと緑には計り知れない。緑も二十代半ばで伴侶を失った。だが悲しみより、解放感の方が強かった。呪いのようだった早婚の夫婦生活は既に干からび、心などとうに擦り切れていた。
突然の終焉を迎えるまで、この若い夫婦はいったい、どんな時を刻んでいたのだろう。付近の住民の話では仲の良いオシドリ夫婦だったという。
彼は悲憤を押し殺した表情で、無言のまま緑達に向かって頭を下げた。
開け放たれた縁側からは、雨音を抱いた青い空気がしっとりと流れ込み、人々の頭上に漂う弔いの香を薄めていった。
三日前。夕方七時をやや過ぎた頃、刑事課に110番の一報が入った。
デスクに残っていた人数は僅かで、緑もそろそろ帰り支度をしようかと考えていた矢先の事だった。
「大池東二丁目、コーポ富士見202号にて変死体の通報がありました。至急向かってください」
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