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あの親父は今日、いったいどんな顔で過ごしているのだろう。家族経営の小さなその店にはシャッターが降ろされ、〈芹沢家式場〉と矢印のある、白い札が立てられてあった。
その案内札に従い、店横の狭い小径を辿る。
隣家のブロック塀からはみ出た新緑に傘を小突かれながら、十四、五メートルほど進むと、小さな庭が開け、白黒の鯨幕と花環が掲げられた玄関が見えた。
見るからに古いこの家屋は、喪主、芹沢大輔の実家だ。
「記帳お願いします」
受付の女性が、テーブルの上に開いた帳簿を手のひらで指し示す。
名を書こうとして緑はペンを取ったが、
「いえ、記帳は」
と制した宮北が、ポケットから黒い手帳を出して見せた。一瞬彼女の表情が強張る。刑事など明らかに招かざる客、といった処か。
濡れた靴を脱ぎ、三和土を上がっていった。
弔問客は廊下まで溢れている。
玄関脇のトイレのドアから漏れる、きつい芳香剤の匂いが鼻をついた。この辺りはまだ下水道が整備されていないのだ。
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