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02.Kという名の城下町


 曇天から滴る冷たいベールに溶けて、古びたグレーの石橋が見える。

 細々と観光を営む小さな城下町の西外れ。南アルプス南端の山間部から流れ出た倉真川が、街を横切る逆川と合流するこの辺りは、信州、秋葉街道への入り口でもあり、東海道宿場の風情が今も色濃く残る町並みだ。


 五年前、緑は夫の死を機に、一人娘を連れて田舎へ戻ってきた。専業主婦から一念発起して地方公務員特別職試験を受け、警官になった。以来ずっと此処の所轄署に勤務している。隣の市の実家から車で三十分の距離である。

 この一ヶ月、外回りでは必ず運転させられている緑だが、そんな事をしなくとも、交通課に三年間在籍した事実を除いても……この街は、とっくに彼女の庭だった。


 橋の手前に〈芹沢オート〉と書かれた褪せた看板が、雨に打たれ佇んでいる。高ニの夏、炎天の蝉しぐれが降る中、当時付き合っていた男と二人して、壊れたバイクを押して行った思い出の店だ。


 店の親父は汗だくの二人に、冷えた麦茶を出してくれたっけ。

 「ウチのはかぁちゃんの特製ブレンドだ。世界一うめぇぞ」

 そう言って笑った武骨な笑顔が鮮明に蘇ってくる。



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あきゅろす。
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