目覚めると天井が見えた。見慣れた古い木目模様と懐かしい雨漏り染み。 ホウッと大きく息を吐く。ああウチだ。そうだ、帰ってきたんだった。 呼吸はまだ荒く、胸が激しく上下している。久々に見た、あの夢。 ゾクゾクして、さくらは布団の中で両腕をさする。肌が粟立っていた。 邦瀬はもう起き出したようで、雨戸が開け放たれてある。瑞々しい気配が徐々に部屋を満たし、旧家屋の隅に潜む陰鬱が散らされていく。 昨夜散々泣き散らした目に、朝の光が眩しかった。片腕でまぶたを覆うと、目尻に留まっていた涙が一粒、転がり落ちた。 邦瀬の実家は目と鼻の先だが、帰省が重なると彼はいつも、さくらの家に入り浸る。東京の同じ大学に通うようになってからもう五年ほど、半同棲のような関係が続いていた。 密に依存していた小さな輪から、物理的に飛び出してしまった二人だ。身を寄せ合うのは、さくらにとって至極自然な成り行きだった。 さらりとした空気のように、気付くと邦瀬はいつも隣にいた。 と言っても最近は不規則な彼の仕事の関係で、すれ違いの日々が続いていたが。 +back+ +next+ |