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さくらは走っていた。闇の中を。
体中にねっとりとした密度の濃い空気が纏わりつく。水中でもがいているような抵抗感がもどかしい。
幾重にも行く手を遮る蜘蛛の巣だらけの枝葉を払いながら、さくらは走り続けた。突き出た小枝が、野生の茨が、腕を、胸を、顔を刺す。
木の根に躓いて何度も転んだ。
ズズッ……ズズッ。ズズッ……ズズッ。
背後から音が聞こえる。重い物を引き摺ってくるような音が……。転ぶ度に、アレとの距離が縮むようだ。
早く逃げなければ。
ズズッ……ズズッ。ズズッ……ズズッ。
アレがだんだん近付いてくる。もの凄いスピードで。
逃げなければ!
ズズッズズッ……ズズッズズッ。
暗闇なのに、判る。振り返らなくても、見える。頭から血を流し、這ってくるソイツが。
ズズッズズッ。ズズッズズッ。
脚がもつれた。
「ひっ」
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