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「一応この部屋入る時の規則だから」
靴を履き替え、二重マスクとゴム手袋、ご丁寧にヘアカバーまで付けて宮北と共にそっと部屋へ入る。
「解剖はないんでしょう?」
小声で訊いてみた。
「うん。検案だからね、腹は裂かない。余程な事がない限り司法解剖まで行く事はめったにないですよ」
彼はそう言った後、少しほっとした緑の表情を読んだのか、
「遅かれ早かれ、いつか立ち会わされるけどね」
と続けた。
「やだ覚悟してますよ、それくらい」
弱気を見透かされたのが悔しくて緑は思わず言い返し、先ほど遺体を前に戻してしまった自分を思い出して赤くなる。
「解剖はエグいから最初は結構みんなゲロるよ」
「死臭が特にね。腐乱死体とかもだけど、慣れるまで胃薬は手放せないから」
そう言って宮北は笑った。
検案はまず着衣の上から始められた。瞳孔の確認、鼻腔、口腔、首、手足、頭骸骨の触診の後、硬直し始めた体から衣服が切り取られる。
水で血が洗い流されると青白い肌が露わになった。
左肩に小さな細長いハートのタトゥーがあり、ハートの下に〈BLOODY〉と彫ってある。
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